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2012年4月21日 (土)

ありがとう、宮崎!

012

私は、4月20日という日付は忘れることができません。一般の方にはなじみが薄いでしょうが、一昨年に発生した宮崎口蹄疫事件の最初の日でした。

犠牲になった牛、豚などの家畜は約21万頭、日本家畜史上空前の、そして絶後であらねばならない災厄でした。

宮崎県畜産は未だ復興の途上にあります。それは、完全に家畜がいなくなった空白地帯が多く生じたからでした。

口蹄疫の初発をみた県東部・東児湯地域の5地区では、感染拡大を食い止めるために、ワクチン接種で遅らせながら、家畜をすべて殺処分にしていくという防疫方法がとられました。

このワクチン接種-殺処分という手段について、私は現地の畜産家や獣医師などと激論を交わした覚えがあります。

当時私は、マーカーワクチン(*)を使っているのだから、感染が確認できた個体だけ殺処分にすべきで、無人の荒野を作るが如き殺処分は非人道的であり、犠牲が甚大な上に、再建が困難になると主張しました。

そして山田正彦農水大臣の指揮した宮崎東部地域家畜ゼロ方針に大いに批判的でした。

今でも私はこれが原則としては正論だと思っています。ただし、当時は使えなかった「正論」でした。

当時の私はいくつかのことを見落としていました。まず最大の見落としは、牛豚共通感染症のリアルな実態を知らなかったことです。

牛は感染するのは早いのですが、拡大するテンポは比較的ゆっくりとしています。それに対して、豚は感染が遅れてくるにかかわらず、いったん感染が始まればその速度は牛の比ではありません。

つまりこういうことです。口蹄疫ウイルスは、牛から侵入し、豚で拡大していく特性があるのです。いったん侵入を許せば、防疫の重点は豚による感染拡大防止に重点が移るわけです。

そして2点目に、牛と豚の農家は一括りに「畜産家」としてくくれないほど異質なことです。それは牛と豚の生育スピードの大きな違いにより、家畜価格がまったく違うことです。

牛農家は、一頭一頭を家族のごとく育てますが、豚は群飼と言って一群ずつの管理になります。

愛情が違うということではなく、飼育方法の差による家畜への視点が異なるのです。そのために、畜産農家の体質すら異なっています。

このことが、宮崎口蹄疫の感染拡大防止という待ったなしの非常時に一気に噴出しました。

養豚家グループは全殺処分を主張して譲りませんでした。感染拡大をここで止めるためには、宮崎東部地域にいる牛、豚のすべてを殺さねばならない、とする血を吐くような方針でした。

これで養豚家は団結して、国をすら動かしていきます。そしてそれを理解したかつて五島の牛飼いであった山田大臣は、断腸の思いで全殺処分を命じました。

今思えば、この時、この場所に山田正彦氏という男が居てくれた偶然に感謝せねばなりません。彼が宮崎県畜産を救い、全国への拡大を阻止したのです。

この可愛い家畜に殺処分を命じる痛みを知る男がとった非常の手段が、全殺処分命令でした。この命令は泥を被る覚悟なしにできないことです。

しかしこれに戸惑ったのが牛農家と宮崎県でした。宮崎県は、初動制圧に失敗したにもかかわらず、家畜伝染予防法の権限者が知事であることを楯にして、補償問題で粘りに粘りました。

この県の条件闘争で、5月初旬から中旬にかけての感染爆発突入初期の制圧に失敗します。この認識を今なお東国原前知事はしていません。

さて、このような防疫の遅滞に危機感をもった全国養豚協会と獣医師たちは、ボランティアで宮崎現地入りし、地元家保と協力して防疫に当たりました。

防疫とは、すなわち殺処分です。もはやこの非常の方法しか手段はなかったのです。しかし、当時の私をも含めてですが、その認識が共有されませんでした。

それが先ほど述べた、牛農家と養豚家の体質の差からくる、現状認識に対する温度差でした。

もし、この地域が牛だけの産地だったのならば、あるいはまた、北海道のように農家と農家が離れていたのならば、マーカーワクチンで感染個体をあぶり出してそれだけ淘汰する方法も可能だったかもしれません。

しかし、宮崎東部は牛と豚が混在して、しかも狭い地域に密集している特徴がありました。

このような地域では豚を媒介にして、ウイルスはたちまちに増幅されて牛をも巻き込んで感染を拡げていきます。

宮崎県の畜産農家は、部に大きな亀裂をはらみながらも、ワクチンで食い止め、時間を稼ぎながら殺処分を進めていきました。その数、実に21万頭。

私はこの犠牲を払った宮崎県畜産農家に頭を下げます。彼らの自己犠牲により、宮崎県東部地域で感染は食い止められ、他地域に感染を移しませんでした。

これは宮崎口蹄疫事件の直後に起きた韓国口蹄疫が、瞬く間に全国に拡がり100万頭にも登る被害を出したことと対照的です。

まさに、宮崎県畜産農家が私たちを守ってくれたのです。

あれから2年。震災と放射能という出来事が同時に襲いました。先が見えないトンネルに入ってしまった気分の時、今でもあのときの宮崎県の人々を思い出すように努めています。

あの時、宮崎県の人々が、ここで口蹄疫を止めると誓ったように、私たち「被曝」地農業もここで放射能に克ちます。

ありがとう、宮崎!

■*マーカーワクチンとは、NSP抗体が陰性であることが確認できる特性を持ち、摂取した後に自然感染であるかどうかで感染したか否かが識別が出来る。全殺処分にする理由は、自然感染か、ワクチン由来の感染なのか区別できないことだが、マーカーワクチンだと可能である。宮崎県で接種された英国メリアル社のAftoporワクチンは、マーカーワクチンであった。
私のブログ関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-0ed3.html

■ 関心がおありの方は、カテゴリーの「口蹄疫問題」に大量に記事がありますのでお読みください。

■写真 散った椿の花です。椿は散り際も見事。

           ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

■宮崎県畜産農家の再建状況は下の記事をお読みください。ガンバレ、宮崎!

             日本農業新聞4月20日

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コメント

2年前、私も山田大臣非情すぎるだろ!と、反感を持ちました。
が、前任の無能極まりない赤松大臣や舟山政務官の外遊とか、もう無能どころか馬鹿馬鹿しくなり、山田さんは悪役になることを甘んじて受け入れたのだと…これを知って納得しました。
未だに発生原因や経路が明らかになっていませんね。政治的にいろいろあるとか言われてはいますが…。
是非とも解明・公表が求められす。

こちらもブランド牛や豚の産地ですがほとんど無防備なままで、現在口蹄疫蔓延中の台湾からの観光客誘致回復に躍起になってます。
県には散々警告や意見のメールをしてますが、まったく改善(空港の消毒マットなどすら)されていません。
私は農家でも酪農家でもない一般市民ですが、大変恐ろしいです。
「宮崎県の惨事に見習え!」と、散々訴えてはいるのですが…。

豚舎の衛生管理は、オールイン、オールアウトが原則ですから、伝染病が出た、グループ単位で、全処分する考えは、ごく普通の考えでしょうが、敷地は、たくさん必要ですが、広い放牧場で、育てて、豚舎は、寝るだけ。

出産は、専用産室で、と言う、放牧豚飼育法も、牛同様、あるようですね。鹿児島では、黒豚に限らず、放牧豚方式経営が、続いているようですね。

やはり、放牧すると、脂肪層が薄くなり、筋繊維が、しっかりして、油の融点が下がり、それより豚さんが、気性が優しくなって、PRRSのような、呼吸器感染症は、一気に減ることが、いいですね。

ただ、野生のいのししの侵入を防がないといけないようですが、耕作放棄地の2mくらいのぼさぼさの草だらけの畑も、きれいに、根っこごと、掘り返してくれると言うメリットは、あるようです。
鼻で、土を掘るので、雑草の根っこを食べてくれるようで、ヤギより、良いかもしれません。

電気柵で、エリアを作って、放牧すれば、耕作放棄地の再生には、良いようです。

我が家の猫の額ほどの庭でさえ、雑草が生えないくらい、きれいにしてくれてます。残念なことに、さつきなど、食べてほしくない物まで、完全に、食べちゃうのは、困ってますし、大きな木も、樹皮から齧ってしまうため、木の地上1.5mくらいは、プラスティックの網で、幹を囲ってますが。。

韓国の口蹄疫による埋却頭数(2010。11.28~2011.4.20)は、計3,479,962頭です。
(2011.7.19公表による数字/韓国聯合ニュース)

家畜別の埋却処分数は、牛:150,864頭(農家3,750戸)、豚:3,318,298頭(2,106戸)、山羊:7,559頭(229戸)、鹿:3,241頭(156戸)

2年前の終息宣言が出された後で、都城市役所を訪問し、市長にもお会いし色々話を聞かせていただきました。また、担当の方から具体的な防疫体制やその後の対応など教えていただきました。
渦中の方たちの大変さをひしひしと感じて帰ってきました。マニュアルも大事ですが、作戦本部の司令塔(リーダー)の能力が、感染拡大阻止のキーであると思っています。

感染が県内の一部地域で阻止できたことは、偉業ですし、本当に感謝します。その決断と行動は称賛に価すると思っています。

先週、都城市場から19頭導入しました。普通に訪れ普通に牛を見て、普通に購買してこれる・・・・
これって良いですね!!

コメントしてよいものか悩みました。
以前、管理人さんの怒りを買ってしまった気がして。
まぁ、あの式が、こちらで論ずるほど重要でないことは承知していましたが、「あぁいった冷厳な話もありますよ」くらいの気持ちで投稿した次第です。ご容赦下さい。

ちょうど2年前ですね。こちらでも、訓練が実戦さながらのように行われたようです。現在では、発生疑いの時点で、農家名か電話番号などを入力すると、農場の情報(座標、家畜種、規模、埋却場所の座標、近隣の状況)が瞬時に表示され、初動体制が手早く可能なシステムを導入しているそうです。まぁ、できればそういったシステムが活躍しないことが望ましいですが。
ただ、初動の失態が、拡大を助長していることは明らかですから、これは、強い味方となることでしょう。
侵入させない体制も必要ですが、人は何をするか分かりませんから、性悪説に立った初動体制の確立の方が実際は、功を奏する気がします。
こちらでも、未だに、観光(海外からの)と地場産業である畜産とを両立させることを目指す向きがあります。そうなると、より強力な初動体制にお金を掛けた方がよさそうです。

消毒はとても大事ですが、完全ではありません。
県の畜産試験場や家畜改良事業団、農業大学校、農業高校といった県内最高レベルの防疫の館に易々と侵入したわけですから、あの悪魔は。

cowboyさん。おひさしぶりです。怒ってなんかぜんぜんいないですよ!来て頂いてうれしかった!またせひお越し下さい。

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