今日はやはりこのことに触れないわけにはいかないでしょう。
本日5日、北海道泊原発3号機が定期検査に入り、これでわが国の全原発50基がすべて停止しました。(欄外資料1参照)
平凡な感慨ですが、時代の流れの轟音が聞こえるようです。去年の正月には誰しも想像だにしなかったことです。
またほぼ同時に、資源エネルギー庁・全国地方経済産業局では、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」についての制度説明会を5月24日から全国各地で開催します。
資源エネルギー庁http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/meeting.html
現在、わが国は原発に重きを置いて、再生可能エネルギーを軽視していたツケとして1945kWh以下ていどの発電量しか持っていません。(欄外資料2参照)
今回資源エネルギー庁が公表した固定価格買い取り制(フィードインタリフ、以下FIT)は、太陽光発電協会ものけぞったような高価格での初年度となりました。
事前の憶測では40円以下、いや30円半ばだろうという見方が強かったのですが、実に太陽光発電は42円/kWhということになりました。(*エネルギー源で異なります)いや、大盤振る舞いをしましたね。
そして太陽光は補助金として、12年度から1kWhあたり3.5万円加算されますから,、実質48円kWhという驚きの価格となります。これで世界でもドイツに肩を並べるような優遇の仕組みとなりました。
買い取り価格は、毎年見直しとなりますから来年度もこのような価格になるとは限りませんが、少なくとも巨大打ち上げブースターであることは間違いありません。
ただ手放しで喜んでいいのか、やや疑問が残るところです。
実はこの42円というFIT価格そのものが、太陽光発電協会が経済産業省に申し入れた言い値でした。この価格は、国産太陽光パネルの価格設定を根拠にしています。
国際的に太陽光パネルの値崩れは凄まじく、ドイツ大手の太陽光発電パネル製造会社ゾロンやソーラーミレニアムが相次いで倒産し、世界最大手のQセルズは企業再建まで追い詰められています。
原因は、中国のダンピング的な投げ売りによる太陽光パネル価格相場の崩壊です。ドイツ政府が補助金を出し、高額固定買い取りをしても、税金は国内に還流せず、電気料金は上がり続け、潤うのは中国企業だけだったのです。
(欄外資料3参照)
ドイツのみならず米国でも同様な事態が進行しています。
オバマ大統領が、信用危機・気候変動・原油価格高騰の3大危機を解決するために打ち出したグリーン・ニューディール政策の中心であった再生可能エネルギー政策もまた危機に立たされています。
太陽光発電パネルの大手ソリンドラを始め、続々と太陽光関連の会社が破綻し、米国パネル業界は総潰れの様相を呈しています。
つまり、FIT制も、再生可能エネルギー(Renewable energy)という呼称を生み出した米国とEUが実は大きく揺らいでいるのです。
このような理由です。まずFIT制を導入し、買い取り価格を高くつり上げたために、EU全域で太陽光発電バブルが生じました。結果、われもわれもと太陽光発電業界に参入を開始しはじめました。
スペイン、イタリアなどの太陽光に恵まれた国を中心としてメガメーラー発電所が多く建設されました。今、ソフトバンクの孫正義社長が群馬県榛東村に268万kWhのメガソーラー発電所を作っていますが、あのような規模のものが雨後の筍のように出来たと思えばいいでしょう。
結果、買い取り価格が膨らみすぎて、FIT制そのものが維持できなくなりました。スペインなどは、国全体の財政危機とも連動して多額の債務を背負い込んでしまい、経済危機に拍車をかけてしまいました。
原発廃止を選択したイタリアでも同様で、電気料金の上乗せ額が上昇しすぎた上に、負債の膨張で、遂に買い取り額の引き下げと、買い取りの上限枠を設定することになってしまいました。
イギリスも買い取り価格を大幅に引き下げています。日本が導入を決めたFIT制は欧米では崩壊の危機にあるのです。マスコミはEU、特にドイツの脱原発政策を礼賛しますが、このことにも触れないと公平ではありません。
EUはこのような経過を辿りました。
➊初期参入を促すために高くつり上げた高額固定買い取りにより、太陽光発電パブルが生まれる。
❷ついで、このバブル市場に中国製の半値以下のパネルが雪崩的に参入し、パネル市場相場が崩壊し、国内自然エネルギー産業は育たず、国内製造会社が続々と倒産する。
❸一方、FIT制と補助金は、太陽光バブルのために瞬く間に負債が膨らんで維持が困難になり、買い取り枠の助言設定や、買い取り価格の切り下げが行われる。
ドイツの場合、過去2年で買い取り価格が40%引き下げられました。そして今年は更に家庭用で20%、事業用で30%の引き下げとなります。
さて、経済産業省のFIT制は、太陽光パネルの製造国の限定はありません。どこの国のものでもかまわないのです。
となると、この制度の未来は読めてしまいます。間違いなく太陽光発電バブルがわが国でも発生します。メガソーラー発電所が続々と建設されます。
それも太陽光に集中します。それはバイオマス発電の買い取り価格が17.85円と安く、地熱発電は近隣温泉組合との話し合いが難航を予想されるからです。
風力は立地を選ぶ上に、設備投資が高額です。海上風力発電所は有力なアイデアですが、陸地までの送電が困難です。
したがって、再生可能エネルギー市場への投資は、場所を選ばず、設備投資が安価で、買い取り価格がもっとも高い太陽光に絞られるでしょう。
これで一時的に、シャープや京セラの国内自然エネルギー産業は潤うでしょうが、残念ですが長続きしません。
たちまち、中国の世界最大のパネル会社であるサンテックパワーなどが参入を開始します。それも呆れるような安値で。そして発電業者の多くは中国製に走るでしょう。
同時に一挙に膨張した買い取り価格と、発電量の増大にFIT制度が揺らぎ始めます。またFIT制の煽りを受けて電気料金は相当な値上がりをします。
私は再生エネルギーに可能性を感じていますし、またFIT制そのものにも必ずしも反対ではありません。
しかし、、日本がFIT制を導入するにあたって、もう少し欧米の現実を分析し、議論してからでもよかったのではないかと危惧します。
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■資料1 国内の原発50基すべて停止へ
NHK 5月5日 4時44分
国内で唯一運転を続けている北海道にある泊原子力発電所3号機について、北海道電力は5日、発電を止めて定期検査に入り、国内にある原発は50基すべてが停止します。
国内で原発の運転がすべて止まるのは、昭和45年以来、42年ぶりです。
北海道泊村にある泊原発3号機は、国内で唯一運転を続けている原発で、北海道電力は、5日の午後5時ごろから原子炉の出力を下げる作業を始め、午後11時ごろに発電を止めて定期検査に入る予定です。
また原子炉が止まるのは6日午前2時ごろの見通しです。
国内の原発は、東京電力福島第一原発の1号機から4号機が、法律上、廃止されたことから50基となっていて、泊原発3号機が停止すると50基すべてが停止することになります。
国内で原発の運転がすべて止まるのは、原発のれい明期でまだ2基しかなかった昭和45年以来、42年ぶりになります。
一方、運転再開を巡って、電力各社は全国の原発19基について再開の判断の前提となっている「ストレステスト」を国の原子力安全・保安院に提出しています。
しかし、政府が、原発の安全性と運転再開の必要性を確認したとして、地元福井県などに理解を求めている関西電力大飯原発の2基を含めて再開の見通しが立っている原発はありません。
また電力需給を巡って、関西電力と九州電力、それに北海道電力は、おととし並みの猛暑になれば、電力が不足するとしていますが、「供給力が少なく見積もられている」といった疑問の声も少なくないことから、国が第三者委員会を設け検証を続けています。
■資料2 再生可能エネルギーの発電量と予測
(単位:キロワット)
2011年度
(既存設備分) 12年度の導入
見込み(新設分)
太陽光 480万 200万
風 力 250万 38万
中小水力 955万 6.5万
バイオマス 210万 6万
地 熱 50万 0万
合 計 1945万 250万
(注)経産省資料から作成、出力ベース、概算
■資料3 太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤り?
ドイツの雑誌シュピーゲルは、冬のドイツではよくあることながら、ここ数週間、国内の太陽光発電設備がまったくといっていいほど発電していないこと、太陽光発電設備のオーナーたちが80億ユーロ(8240億円)を超える補助金を受け取ったにもかかわらず、全体の3%程度の、しかもいつどれくらいの量かが予見不能な電力を生み出すに過ぎないと断じ、再生可能エネルギーに対する補助金制度を見直す動きが活発化していると伝えている。「補助金が引き下げになる前に」と、2011年に駆けこみで設置されたパネルの発電量買い上げだけでも、今後20年間で180億ユーロ(1兆8500億円)にもなるとの試算もあり、消費者が負担するサーチャージは間もなく1kW時あたり4.7ユーロセント(4.8円)、平均的な家庭で年間200ユーロ(2万600円)もの負担増となる見込みだという。
これだけ補助金を出しても、国内に還流され、産業が育つのであれば国民の理解も得られるだろう。しかし、現実はそうはなっていない。ドイツに本拠を置く世界最大手の太陽光発電メーカーQセルズ社の2011年売上高は、前年比で31%減少し(1~9月、3四半期間累計)、3億6600万ユーロ(377億円)もの損失を計上している。2007年末には100ユーロ(1万300円)近かった株価も、現在0.35ユーロ(36円)まで落ち込んでおり、早急な経営再建が求められている。
さらに言えば、ドイツ商工会議所(German Chamber of Industry and Commerce)がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによると、エネルギーコストと供給不安を理由に、5分の1の会社が、国外に出て行ったか、出て行くことを考えているという。
ドイツでは、太陽光発電をどう位置づけるかが政権の基盤を揺るがしかねない問題になっている。野党だけでなく与党からも連携して、環境大臣に対し、今後の補助金制度に対する見解を問う質問書を出したほか、連立を組む自由民主党(FDP)のレスラー党首は、これまで太陽光補助金に反対してきたことを「売り」にするなど大きな争点となっている。
電力インフラの整備には非常に長い時間を要するうえ、経済活動に与える影響が大きいことから、高速道路の無料化のような社会実験はできない。それだけに、諸外国の先行事例はその結果をよくよく分析すべきだろう。「欧米で導入している」で突き進むと、同じ轍を踏む。「欧米で導入した結果どうなったか」が重要である。
「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤りになる可能性がある」というシュピーゲル誌の見解は、少なくとも日本でも広く共有されるべき認識であろう。
出典
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,809439,00.html
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