「原発ゼロ」にした後にどうするのかが大事だ
現時点で原子力発電について危険だと思う人は、この私も含めて国民の過半数に達すると思われます。
これは単なる理念ではなく、生活の中に放射能が存在するという日常的な脅威に裏付けられているので強力でした。
だが、放射能問題とは原発問題であり、原発問題とはエネルギーシフトをどうするのか、という問題なのです。
エネルギーシフトとは、国の経済-社会を直撃する重大な問題です。この問題は大きいので別途論じたいのですが、原発の再稼働を認めなくとも、私はこの夏を乗り越えられると思っています。
国と電力会社は、「原発ゼロ」で夏を乗り切れてしまった後の不都合を考えているのでしょう。原発ゼロが現実の課題となってしまいますからね。
確かに問題は、国や電力会社が考えるように、「原発ゼロ乗り切てしまった後どうするのか」なのです。
「原発ゼロ」を叫ぶのはたやすいですが、簡単に考えただけで問題は山積しています。ざっと思いつくまま書き出してみましょう。
までは短期的なことからですが
➊夏以降も再稼働を認めず原発をゼロにするのか、それとも段階的にか。
❷一律に沸騰水型(BWR)も加圧水型(PWR)も同じとして扱うのか。
❸内海に面し、地盤も安定している伊方なども一律に扱うのか。
➍安全対策が完了する3年から5年の間の期間の代替電力はどうするのか。
➎緊急稼働した老朽火力発電所の安全性は確保されているのか。
❻原油高騰による電力料金の大幅値上げを受け止められるか。
そして、中期的には
❼なにを基盤電力とするのか。
❽代替エネルギー源はなにか。
❾自然エネルギーをどこまで位置づけるのか。
とりあえず福島第1原発事故の補償、除染、東電処理、廃炉問題などは考えずに、これだけあります。たぶんもっともっとあるでしょう。
これらに対して、政府は一貫した政策を持ち合わせていません。というかモグラ叩き的な対応に終始しています。
ここまで問題が膨れ上がり、複雑に利害が絡んでくると、この絡まった糸玉をほぐすのはたいへんな力業だと思われます。
政権がエネルギーシフト問題だけに集中しても相当な力量が要求される難問です。
それを、消費税増税をやりながら、福祉制度を改革し、TPP交渉し、かつ普天間問題の解決をめざす、というのですから、考えるだけ野暮というものです。あ、ひとつ忘れていました。政権党が事実上分裂状態でしたね。
どれひとつとっても政権が命懸けでやるべき課題です。民主党政権がこれらをなにひとつ解決できずにかえってこじらせたあげく、放り捨てることは目に見えています。
このような時期に、自然エネルギーの本格的な時代の幕開けが始まったのは悲劇でした。
「脱原発」という言い方の中にも、即時廃棄から中長期離脱までさまざまな考え方があります。まだ原発ゼロによるブラックアウト(大停電)がないから、なんとなく「脱原発」で世論がまとまっていられるのです。
今年の夏に、どこかの大都市でブラックアウトが発生したら、この空気は一変してしまうでしょう。なんら議論の積み上げがないから、冷めるのも早いはずです。
こんな同床異夢の「脱原発」の空気と、一挙に自然エネルギーシフトを目指す勢力の独走のドタバタの中でエネルギーシフト問題という国家的課題が、なし崩し的に始まってしまいました。
もう少し頭を冷やして、どのような方法で原発を減少させ、なにに替えていくのか、その過渡期の時期は何年程度なのか、その中で自然エネルギーはどのていどの比率が適当なのかなどを、ヨーロッパの先行事例を検証しながら国民的議論を積み上げるべきではないのでしょうか。
まだ自然エネルギーを受け入れる社会的基盤がなにもない段階で、太陽光に過度に傾斜したFITだけ作ってもなんにもならないのです。
というわけで、次回はドイツと並んで成功と礼賛されているスペインのケーススタディをしてみましょう。
■写真 残照の中のレンコン田んぼです。湖水のよゔちみえますが、プカプカ浮いているのはレンコン。あ、ロマンチックじゃないですね(笑)。
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コメント
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私も現在の原発の在り方には基本反対。
しかしそれはフクシマ・ショックによるものではなく、敦賀や志賀で明らかになってきた断層の問題や、個別の検証を厳しくした上で稼働できるものは動かしてから漸減作戦で行くべきと考えています。
今回の集団ヒステリーを利用するような、拙速で極端な太陽光発電シフトは、まさに火事場泥棒的な政策だと思います。
もちろん太陽光その他の自然エネルギー発電を否定はしません。むしろ技術開発にこそ資本を集中投入して加速させるべきだと考えております。
なぜ、木質バイオマスや廃棄物バイオマスは太陽光の半分以下の買い取り価格なのでしょうね?
投稿: 山形 | 2012年5月13日 (日) 07時02分
バイナリー発電なり、混合発電&給湯なり、設備投下に対して、電気エネルギーだけ取り出すと言う発電力オンリー
の政策は、もったいないと思います。エネルギーは、電力に変わらない部分は、発熱など、別な形状のエネルギーに変換されているはずです。
特に、温泉でも、冷泉でなく、高温温泉だとすると、新たに、電力タービン用に、井戸を掘らなくても、温泉用に、50度程度まで、冷却する段階で、日本のエアコン製造技術など、活用すれば、熱交換物質、例えば、昔は、フロンを多用していたが、オゾン層に影響を与えにくい低温気化物質は、ありますから、現状の高温温泉の井戸を使って、発電や給湯もできるはずですし、海上風力発電と波浪発電や漁礁など、同じ場所で、いくつかのエネルギーや成果を得ることは、可能でしょうから、日本人の得意とする複合エネルギーシステムを開発することは、技術的には、可能だと思えます。
本来、政治や行政は、新エネルギー開発特区ではないですが、実証実験が出来る場面を、開発関係者に提供すべきだと思います。
技術者が、漁業権問題とか、騒音問題とか、研究や実験に、対応できる環境を、自ら交渉して、作り出すのは、複雑な漁業権交渉とか、都市計画法、利用目的変更承認などを、自分で行うのは、非効率であると言わざるを得ません。
新エネルギーの開発に、研究者は、100%の力を注ぎたいのに、現行法令は、規制が多すぎです。
申請して、実験成功し、発電できても、現行法では、仮説建築物扱いが多いので、実験が終われば、解体して、現況復帰しないと駄目です。
せっかく成功して、発電できても、2年程度で、解体しないといけないと言うようなルールでは、ベンチャー企業も、進出できないでしょうね。責めて、システムが成功したなら、きちんと、長期的に、売電できたり、その構築物の減価償却が終わるまで、使っても良いという風に特例を認めないと、誰も参入できませんし、研究が進みません。
まずは、発電ベストミックスの長期ポートフォリオを、政府も行政も、示さないと、先に進まないと思います。
投稿: りぼん。 | 2012年5月13日 (日) 11時26分