これが米国のTPP対日要求書の原形だ!
米国通商代表部(USTR)が4月2日に発表した「外国貿易障壁報告書」の対日要求部分一覧です。(欄外資料参照)
これは未だに明らかになっていないTPPの対日要求書そのものではありませんが、その原形とでもいうべきものです。
米国下院レビン課員最終筆頭理事(通商政策)は、このUSTRの年次報告書の公表と同時にオバマ大統領に書簡を送り、「報告書にある日本市場の防疫障壁を取り除くように)くTPP交渉参加の事前協議を首尾よくする」ことを求めました。
現在、「参加の事前交渉」をめぐって日米当局者間で交渉が行われていますが、内容はまったくブラクボックスです。
しかし、TPP交渉内容が、このUSTRの年次報告書に沿った内容であることは明白であり、農産物、郵政を含む保険、自動車、医薬品、医療器械などが「貿易外障壁」を設けているとしてくると思われます。
特に前回の年次報告書と較べて、米国が重視している分野が医療分野です。
技術革新に向けた投資への報酬、先端医療の製品開発を促す措置としての薬価の値上げ要求などがずらっと並んでいます。
日本側の反発が強かったために去年の年次報告にあった日本の国民皆保険制度の見直し要求は姿を消していますが、もちろんあきらめたわけではないでしょう。
米国医療分野は、高額の医療保険を払える金持ち階級のみが受けられる先端医療と、通常の医療すらままならない貧困層に画然と分かれています。
ですから、先端医療分野は世界最高水準であり、それを医療保険ぐるみで高齢化が進む日本市場に参入出攻勢をかけたいと考えています。
郵政改革の見直し法案が通った時に、米国政府は不快感を隠しませんでした。
郵政民営化とは、郵便事業そのものよりも、郵政が抱えていた巨額な共済や保険、年金などの金融分野を解体することが目的だったからです。
米国は、USTR年次報告書にもあるように、共済制度の優遇措置を廃止し、「私企業との対等競争を確保」するという名目で、現在大量に参入している米国保険会社の参入をもくろんでいました。
共済制度は、地方の農家や零細自営業者たちが安い掛け金で保障をもらえるという日本独自の福祉更生政策でした。
これを廃止させて、アメリカン・ホームダイレクトやアフラックなどに仕切らせようという腹積もりだったわけです。
そもそも余計なお世話もいいところです。わが国が地方で保障を受けにくい社会的弱者にどのような福祉政策をとろうと、米国にとやかくいわれる筋ではありません。
とやかく言われたくないといえば、牛肉の項には「20カ月齢以下に限って輸入する月齢制限の撤廃」を行っています。これは厳しいBSE対策を日本がとっていることに対する要求です。
なにを言っているんだか。そんな対日要求を出したとたん、米国でまたBSEが発生してしまいました。米国は世界に冠たる飼育管理と食肉管理がルーズな国です。
米国の食肉市場のズサンさは、オーストラリアからも厳しく指摘を受けており、NAFTA(北米自由貿易協定)で流入したメキシコ人未熟練労働者がいいかげんなカットをして特定部位を出荷してしまうからだとも言われています。
こういう実態を踏まえて日本は、自国民の健康保護のために月齢制限をかけているのであって、自分たちの飼育管理・食肉管理を改善することなく、これをお前の国が貿易障壁を作っているからだ、と逆ギレする図々しさには呆れます。
農産物では、米国産米でMA枠で輸出しているコメを一般市場にも「米国産米」と名乗って出せと言っています。
やってますって。中国米をセイユーが「吉林米」としてとうに店舗に並べています。そのうち「加州米」も出ることでしょう。
これも中国や米国の安全基準が甘いのがネックになっているのです。使用農薬はわが国と違って緩い、おまけに検査は大甘です。
農水省は、「吉林米」は、現地検査することで内国検査に替えるとしていますが、正気とは思えません。かの国の検査など、あってなきが如しの実情を知らないのでしょうか。
それは後段にある「衛生植物検疫」(SPS)の項の「ポストハーベスト」、「農薬)許容残留」の項をみれば分かります。
要するに「オレの国の安全基準はダルにやっているから、厳しくやっているお前はけしからん」ということです。このような米国の言いぐさを「下方への協調」と呼びます。恥ずかしくないのでしょうか。
小麦の国家貿易や豚肉の関税システムは、米国の言うとおり矛盾に満ちています。だからといって、それが消費の障害になっているということはあり得ません。
自動車に至っては失笑ものです。今どき、デザインはださい、燃費は最低、部品交換すらたいへん、だいたい右ハンドル車がない、新車投入がない、代理店すらない、そのくせゼロ関税でも安くはない、というないないづくしで、なにを寝ぼけているのでしょうか。
このようなゴリ押し、逆ギレのオレ様キャラ全開の米国に、わが国の内政干渉まがいのことを許してはなりません。
■写真 たんぽぽとハチ。
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
日本農業新聞4月7日
« TPP推進派マスコミによる農業悪玉論の再燃 | トップページ | TPP、野田首相は「参加は無理だ」と言ってくるべきだった »
「TPP」カテゴリの記事
- マーボウさんにお答えして TPPに「絶対賛成」も「絶対反対」もない(2016.11.12)
- TPP交渉大筋合意 新冷戦の視野で見ないとTPPは分からない(2015.10.06)
- 豚の差額関税制度は国内畜産を守っていない(2014.04.28)
- 鮨と晩餐会の裏での攻防事情(2014.04.29)
- 農業関税は世界最低クラスだ(2014.04.02)
コメント
« TPP推進派マスコミによる農業悪玉論の再燃 | トップページ | TPP、野田首相は「参加は無理だ」と言ってくるべきだった »
昨日、野田総理が訪米して首脳会談に臨みましたが、
TPPについては触れずとの報道。水面下ではどうなっているのか気になります。
入院保険や自動車保険ではアフラックやアメリカンホームダイレクト等がすでに参入して、安さでシェアを伸ばしていますが(実際に宣伝の「条件と価格」を見れば魅力的です)、あとは何が不満なんだか…。
国策の皆保険制度まで食い散らかすというなら、それこそ余計なお世話というか迷惑な話です。
民間保険会社が倒産したら…アメリカ政府が公的に補償をしてくれるわけでもないだろうし。
もちろん選択肢が拡がるのは良いことですが、残念ながら今の日本の消費者は見極められる状況にはありません。
「こんなにお得ですよ」と言う外資系のCMガンガン攻勢に対して、国内保険会社は「顔が見えるお付き合い。とか、誠実な対応。」なんていう当たり前のことばかり。
日本の保険会社もしっかりしなさい!とは思いますが、今は外資に押されてお互い食い合いと合従連衡の最中ですね…。
投稿: 山形 | 2012年5月 1日 (火) 11時18分
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp03_02.pdf?bd9f6f00
まあ、上記のように、毎年、米国から、安保と引き換えに、日本が、米国の経済植民地になるべきだ。と、命令してますから、外交力ゼロの日本では、太刀打ちできないでしょうね。
オーストラリアの方が、かなりマジメで、日本消費者向け、小麦とか、牛肉とか、かなり研究していて、日本人の嗜好研究もしているようですが、米国は、米国流が、世界スタンダードとして、むりやり貿易する姿勢は、変わらないみたいですね。
投稿: りぼん。 | 2012年5月 1日 (火) 16時44分