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2012年5月10日 (木)

脱原発は漸進的に慎重にせねばならない

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英国の19世紀の経済学者アルフレッド・マーシャルがこんなことを書いていたのを思い出しました。

進歩は思想と実践で加速するかもしれない。しかし、どんなに加速しても、それは漸進的で、比較的ゆっくりとしたものでなくてはならない。」

「というのも、制度は急激に変化するかもしれないが、しかし制度が確かなものとなるためには、人間にとって適度なものでなくてはならない。
制度は、もし人間の変化以上に早く変化させられたら安定しない。(略)大規模で急激な変革の企ては、これまで同様に失敗するか、反動を引き起こす可能性がある。」

この言葉は、そのまま現在の脱原発の動きに当てはまります。

原発問題をエネルギーとして考えるなら、それは万国共通ではありません。というのは、エネルギー問題が、経済構造の要であり、深くその国それぞれのシステムに埋め込まれているからです。

他の国で成功したからと言って、異質な制度を簡単に移殖できません。それを無理にしようとすると、必ずその国の経済・社会システムが不安定になり、社会そのものが破綻する可能性すらあるからです

私は脱原発、すなわちエネルギーシフトを、EUのグリーン革命の軌跡を見ながら考えています。

わが国ではいま、福島第1原発事故を背景にした原発への恐怖心を背景として、一挙に原発の即時停止、自然エネルギーへの全面転換を叫ぶ主張が花盛りです。

いま、この時を逃したら脱原発の扉は開かれないかのような焦りの色すら感じます。ドイツやスペインの失敗を、成功だといいくるめる人たちまで現れました。

それが、一市民ならいいのですが、調達価格算定委員だとなると話は違ってきます。

再生可能エネルギーの買取条件を決める調達価格等算定委員でも、ドイツやスペインが全量・固定価格買い取り制度(FIT)の補助金を削減し、上限をもうけ、事実上のFIT制からの離脱宣言したことをまったく無視するわけにもいかず、渋々議題に取り上げたことがありました。

その記録はなかなかスゴイものがあります。
経済産業省調達価格算定委員会第1回・議事録要旨
http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/001_giji.html

「委員  ドイツが全量買取制度を廃止したという報道があったが誤りである。太陽光のみを対象とした部分的な修正というべきもの。」

この委員とは、日本環境学会会長の和田武氏ですが、無茶言うなぁ。太陽光にもっとも高い42円という廃棄物系バイオマス17.85円の2倍以上の買い取り価格を設定し、太陽光への露骨な政策誘導しようとしたのはいったい誰だったのですか。

また調達委員会第3回ではこんなこともおっしゃっています。

「委員  制度として、負担をしながら利益を生じる仕組みにする必要性がある。コストカットは色々なやり方がある。コスト低減の取組を産業界でも行っていただきたい。ドイツの例は失敗ではない。むしろ成功して予想外に導入が進んだので、価格を下げただけである。」

この和田氏は古いタイプの環境主義者のようですね。経済と環境、エコノミーとエコロジーを対立概念で考えています。

新しいエコロジストたちは、エコロジーはエコノミーの裏付けなくして持続不可能だと考え始めています。この私もそう思っています。

古いエコロジストは、ドイツやスペインは、経済的にグリーンエネルギー政策がうまくいかなかったからFIT制から離脱したのだ、と思いたくないのです。

この和田氏にかかると、この両国のFIT制離脱も、「成功して予想外に導入が進んだ」結果だとしています。

その「成功」とは、FIT制により、初期参入を狙った太陽光バブルが生じて、政府の想定を軽々と超えた買い取り量になったからです。

買い取り量が青天井などという馬鹿な話が世の中にありますか?それをドイツはやってしまったのです。買い取り量が定まらないのですから、財政的裏付けを与えることすらほんとうは無理なはずです。

結果、予定した財源がショートして、全量買い取りが不可能になった、ただそれだけです。これを「成功」と言いくるめるのはいかがなものでしょうか。

脱原発宣言以降、ドイツ社会には昨日触れたようにさまざまな障害がでました。

電力供給は不安定となり、電力輸入国への転落し(*)、電力料金の高騰には歯止めがかからず、「成功」した導入にもかかわらず国内グリーンエネルギー産業は相次いで倒産に追い込まれました。
*ドイツがグリーン革命以後電力輸出国になったというのは、諸条件が偶然に揃ったわずか数週間にすぎません。すぐに輸入過超国に転落しました。

つまり、買い取り量と供給量というFITの二大支柱が共に不安定なために、FIT制は崩壊したのです。

結局とどのつまり、ドイツ国民は原発の恐怖から逃れられたものの、社会・経済の大きな不安定を味わいました。

いやその安心すら、国境のすぐ隣には世界一の原発大国フランスがあるのですから、原発事故が起きればドイツも一蓮托生であって、狭いヨーロッパには逃げ場はありません。

本来なら、EUレベルで共通認識を持つべきだったのにもかかわらず、ドイツのみが突出したためにこのようなことになってしまいました。

メルケル首相の次期はないといわれるのは、EU危機を救うための巨額な財政負担だけではなく、この性急すぎた脱原発政策の失敗もあると言われています。

この数年同時にドイツで起きたことを真摯に総括しないで、それを「成功」と呼ぶ、この姿勢からはしゃにむに現在の日本の脱原発の空気を利用しようとして、みずからの主張を実現しようとする野心すら感じられます。

電力輸入が容易にできる地域であるヨーロッパの「成功例」を、それが不可能な上に、東西の電力融通すらできないわが国に模倣的移殖をする発想自体が間違っているのです。

過激な脱原発は短期間で終わり、その後に来るのはマーシャルの言う「反動」です。

■写真 霞ヶ浦です。遠くに筑波山が見えます。

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