そして、電力自由化と原発ゼロ社会への過渡期がこの夏に始まる
おととい、全国の夏の電力不足予想が、先月23日に発表した16.3%から5%に大幅に下方修正されました。特に関西電力の出していた-14.9%の見直しが大きいと言えます。
この需給予想は定期的に地元行政と関西電力がやっているようで、打てば響く法華のタイコよろしくやるたびに需給ギャップ見積もりが下がっていきます。めでたいことです。
大阪市の特別顧問になってこの会議に参加している飯田哲也氏が、「来週の見積もりではプラスに転じます」と自信たっぷりに言っていましたから、きっとそうなるのでしょう。
この手品の種明かしは、需要を下げて、供給見直しをした、ただそれだけです。以下、足し算引き算になりますので、電力需給に関心のない方は、下半分からお読みください。
まず、今まで関西電力は-14.9%の根拠を、-445万kWの需給ギャップにあるとしていたわけですが、これを太陽光、水力発電などを最大48万kWに見直し、他社からの電力融通を162万kWにしました。
これで電力供給サイドは、210万kWに積み上がります。
一方需要サイドも、なかなかユニークな方法をとって下げようと努力しています。一般家庭には、目標達成するとプレゼントが送られるそうで、これで-4万から-7万kW異常を削減します。
次に、電力不足、電力不足といっても、要はピーク時の午後1時からの2時間、3時間を節電すればいいわけで、そこを高めに設定する料金プランを作り、これで-0.2から-0.3万kW異常を削減できるとしています。
そして計画調整契約といって、緊急の不足時に調整役を果たす大口の事業者がいたのですが、これは通常は割引料金で電力を使える代わりに、イザという時に真っ先に削られます。
これの加入条件を緩和し、割引単価も安くしたそうです。これで更に、-3万から-7万kW以上の需要が下げられるしています。
しめてこれで-73万kW以上を下げ、しめて需給ギャップは-147万kW、-5%に縮小されました。やりゃできるじゃないですか。
後は電力融通ですが、これは去年の3.11以後と較べて火力などの発電施設の被害が回復したことがプラス、原発が当時はかなり稼働していたのが一挙にゼロとなったのがマイナスの条件となります。
これを供給予備率3%以上の電力会社である東電、中部、北陸、中国から頭を下げて借りて回り、これが計162万kWとなりました。
この融通余地についてはまだ揉みようがあるようで、東電から100万kWの融通が効くのではないかと言われています。
これは今月の東京都環境局見積もりでは、最大103.5万kW融通しても大丈夫だという見積もりが出ていたからですが、政府の受給検討委員会では2ケタ少ない1万kWにすぎないとしています。
東京都が言う試算が正しければ、一気に電力需給はプラスに転化してしまいます。
まぁ、どっちでもいいですよ。とまれ、なんのことはない麗々しく発表される電力需給などというものは、こんなていどにコロコロ変わるていどのものだったということが分かりました。
これは、関西電力や経済産業省の基本姿勢に変化のきざしが現れたからです。
従来は、大飯原発の再稼働をめぐってなんとか中央突破が可能だろうと、電力会社と政府は甘い見通しを立てていました。しかしご承知のように、見事に周辺各自治体の総スッカンを食いました。
というのは、従来では、ということは3.11前までということですが、ともかく立地自治体がウンといえば通ったのです。当該自治体と県の了解です。
しかし、今はそうはいきません。いったん事故があれば、福島第1の事故でそうであったように、風下の広範囲な地域が汚染されることが分かりました。
もはや、近隣自治体の承認なくして稼働できない時代に入ったのです。
となれば、電源立地予算の恩恵もない周辺自治体にとって、原発はただひたすら被害だけを受ける危険な存在にすぎないわけですから、ウンと言う道理がありません。
つまり、政府の電源三法により立地自治体補償で済んでいた旧来の構造が、もはや通用しない、ということになります。
今後、新たな建設はおろか、再稼働においても周辺県の合意なくしては一切進まないことになってしまったのです。ということは、再稼働はラクダを針の穴に通すより困難ということになります。
となると、経済産業省が電力会社に独占の特権を与えていたのは、「電力の安定供給」が大義名分としてあったわけですから、安定供給するためには原発ゼロでも電気を供給できる態勢を作れということになったのです。
先月まで、全国の電力会社は大飯原発の再稼働をわがことのように注目していました。それはここが突破できなければ、全国の再稼働はなきに等しいからです。
しかし、それがないと分かりました。仮に将来あったとしても、この夏などは100%無理です。となれば、電気事業法の精神である「安定供給」を原発ゼロで真面目に考える必要が生れたのです。これが一転して、この夏の電力需給が-16.3%から-5%に一桁下がった理由です。
電力という大きなジグゾーパズルの中で、原発という大きなピースを抜いてしまうと、まったく違った絵が出現します。それは多種多様の電源の登場であり、それを供給可能とする自由な送電網であり、競争のある電力社会です。
競争なき超独占構造の中で、今までジャブジャブ使ってきたコストを少し下げただけで電気料金は下がっていきます。
送電網を国が買い上げ適正な開放を行えば、自然エネルキーや新たな代替エネルギーが続々と現実化していくことでしょう。
東電や関電は、その発電会社の有力な一部となればいいのであって、発電から送電まで一切合切をわがものとして帝王の如く君臨する時代は終わりました。
霞が関は、今や問題児と化した原発から足抜きし、欧米タイプの電力自由化を射程に入れています。
その意味で、ややフライング気味でいえばですが、電力自由化と原発ゼロ社会は、事実上この夏をもって「開始」されたと考えていいでしょう。
もちろん法的な発送電分離が完成するのは、数年先になるでしょうし、いくつかの原発も、(賛成ではありませんが)暫定的にであっても再稼働せざるをえないかもしれません。(*)
つまり、過渡期が始まるのです。
今、私たちに必要なことは、先行事例を真摯に分析し、その失敗に学ぶことです。原発賛成、反対を問わず、わが国がかつてのような原発大国に戻ることは不可能なのですから。
ならば、どのような道を進むべきか考えつづけなくてはなりません。政治スローガンであった「脱原発」を現実にせねばならないとしたら、どうしたらいいのかを真剣に考えねばなりません。
*追記 今年、橋下大阪市長が首相になった場合、信じられないような速度で過渡期が終了し、本格的な開始になる可能性はありますが、なにぶん政局は分かりません。
■写真 翠様、コメントありがとうございます。初夏の柿の葉です。お日様に透かしてみると葉脈がキレイ。
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濱田 様
今日も素敵な写真に癒されていました。
ありがとうございます。
今度の金環日食では
木漏れ日も
違って見えるのかもしれませんね。
投稿: 翠 | 2012年5月18日 (金) 22時56分