風車の国オランダの現実 風力を増やすと、火力が不可欠になるという皮肉な構造
日本にはどのような自然エネルギーがふさわしいでしょうか。
太陽光、地熱、風力、水力、バイオマス、まぁいろいろありますが、ひとつ条件があります。
それは、わが国の国土の特色を生かした電源だということです。たとえば、風の少ないつくば市に風力発電機をつけてもまわりませんでした。訴訟沙汰にもなり、今や市政失敗のモニュメントと化しています。
しかし筑波から10キロ先の神栖の海岸地域では、巨大なプロペラがブンブン回っている姿を見られます。「エコが好き」ていどの気分で風車を作っても、金食い虫を作るだけなのです。
各国ともにFIT制は失敗していますので(*)、額面だけで受け取れない数字ですが、ドイツの電力総量に占める風力の割合は6.5%です。デンマークはケタがひとつ上で2割近い供給率をもっています。
*関連過去ログhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-e850.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-922a.html
一方日本は東北、北海道、九州、本州の海岸部などには、風力発電にうってつけの地形が多くありますが、230.4万キロワト時と低調な数字です。
これは、安定風力を確保しやすい地域でしか系統連結ができないでいるからです。
日本の陸上風力発電の潜在量は、飯田哲也氏の試算によると、平均風速6.5m/秒の地域で、1億6890万キロワット時、洋上で最大6億1332万キロワット時という膨大なものだそうです。
ただし、現実の世界最大の風力発電国のスペインですら1万9149万キロワト時にすぎませんから、飯田氏の数字はあくまでも理論数値にすぎませんが。
だとしても、飯田氏の運動家的バイアスを差し引いても、ポテンシャルの99%以上利用されていないことは事実なようです。
ではその原因は氏が主張するように、自然エネルギーの系統連結を少なくしたい電力会社の「陰謀」なのか、かねてから指摘されていたバードストライクや低周波公害などだけにあるのでしょうか。
おそらく違います。最大のボトルネックはなにか、風力先進国のオランダの例を見てみましょう。
オランダの風力発電は、歴史記伝統があり風車揚水によってオランダ人は国を作ったといわれているほどです。しかし、これがつまづいています。(欄外資料1参照)
オランダは国が狭隘なために、洋上発電にシフトして普及をはかました。洋上は、人間の生活スペースから離れており、低周波公害の影響もなく、風が安定しているなどの期待が寄せられていました。
しかしそれから5年、風力発電の箱を開けて見ると、難点ばかりが続出しています。まず洋上にあるために日常的なメンテナンスに陸上よりはるかに手間がかかり困難であることです。
少し荒れた北海の風が吹くと、プロペラが破損したりする事故が頻発しましたが、それを修理しようにも、簡単にハシゴをかけてというわけにいかず、船で沖まででていかねばなりません。
設置工事も、陸上と違って海底掘削をせねばならず、陸上より多くの資金が必要でした。
そのための工事やンテンスにコストがかさみ、想定していたよりはるかに発電量は下がり、逆にメンテナンス費用は上がるといった苦しい経営となりました。
一方オランダ政府は、他のヨーロッパ諸国と同様に、自然エネルギー普及のための補助金をそうとうに出していました。
「キロワット時当たり0.18ユーロ(19円)の補助金を続けられないとしている。昨年1年間の補助金は約45億ユーロ(4650億円)に上った。」(資料1参照)
これはオランダのGDPや人口を日本と比較するために一桁増やすと、10倍の4兆円近い補助金となります。ひとつの自然エネルギーの補助金としては莫大なものです。
そのために政府支出だけではなく、民間の投資を呼び込もうとしているようですが、思うに任せない状況のようです。
これにより、一般家庭の電気料金の値上がりがされて、いっそうオランダ人の風力発電に向ける目は厳しさを増したようです。
また、思わざる事態も起きました。皮肉にも、風力発電がなんと火力発電の負荷を増してしまうということがわかったのです。
5年前の導入当初は、CO2削減の期待をかけての風力発電でした。火力は、自然エネルギーの拡大と共に減少しつづけるだろうと見られていました。
しかしそうはなりませんでした。むしろ真逆に、常に安定した発電量を確保できない風力のバックアップのために、火力発電はいつも稼働可能な状態になければならないことがわかったのです。
オランダでも火力発電所は原発が多くなるにしたがって、おもに経費面から徐々に稼働休止される方向にあったのですが、自然エネルギーの普及につれて、それらが一斉に稼働せねばならない事態になってしまいました。
風力の発電量のブレを、火力が補完する構造がしっかりと出来上がってしまったのです。原発は減少したが、化石燃料は以前よりいっそう不可欠なものとなってしまったわけです。
これは現在のわが国の状況と一緒です。
(関連過去ログhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-7e2a.html)
これはオランダの発電会社にとっても大きな悩みの種を作ってしまいました。風力を作りすぎれば火力の稼働を止め、少ないとなると稼働を上げるというバカみたいな役割になったからです。
これでは火力発電所はたまったものではありません。常に指令センターの指令どおりに上げ下げするが、風車のほうはただのんきに風任せということになるからです。
火力発電はこの負荷のために悲鳴を上げ、コストが急増しました。そして、ドイツなどではっきりと現れているのが、発電会社の火力離れです。(資料2参照)
火力にとって、損な役割を引き受けて、もうけは自然エネルギーよりはるかに少なく、コストばかりかかって、しかもCO2を出すからといって「地球の敵」扱いされていつも反対運動をされるようなものを誰もやりたがらなくなったのです。
わが国においても、必ず火力発電と自然エネルギーの関係が問い直される時期がきます。自然エネルギーが増加すれば、化石電源が減るという単純な構図ではないことを考えておくべきでしょう。
わが国は、現在原発ゼロ国家です。このまま再稼働を許さずにゼロのままつっ走るとなると、化石燃料が全電源の7割近く占めたまま相当期間固定化される可能性があります。
だからといって、自然エネルギーを拡大させてもまた、今見てきたようにヨーロッパと同じように化石電源は必須です。この解けない糸玉のような難問を、今後われわれは解いていかねばなりません。
■写真 梅がポツポツなり始めました。今年は梅の開花がおそかったので、数週間遅れです。
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■資料1 オランダの洋上風力発電、コスト高で陰り
時事
2011/11/17
エグモントアーンゼー(オランダ)16日ロイター時事】オランダが2006年に当地に同国初の洋上風力発電設備を設置したとき、この設備はグリーンな将来のシンボルと見られていた。北海の洋上にそびえる設備は巨人の武器のようで、タービンは二酸化炭素(CO2)排出を減らす一方で、増加する電力需要を満たす最大の希望でもあった。30階建てのビルの高さがある36機のタービンは、年に10万世帯以上の需要を満たすに十分な発電をしている。
しかし、それから5年たった現在、グリーンな将来は先のことのように見える。財政赤字削減を迫られたオランダ政府は、洋上風力発電は費用がかかりすぎるとし、キロワット時当たり0.18ユーロ(19円)の補助金を続けられないとしている。昨年1年間の補助金は約45億ユーロ(4650億円)に上った。
同政府は、この財政負担を一般家庭と産業界の需要家に転嫁し、一方で魅力的な民間部門の投資を呼び込もうとしている。消費者と企業への負担転嫁は13年1月に実施され、同時に、民間投資家は再生可能エネルギー・プロジェクトへの参加申請ができるようになる。
ただ、民間への負担転嫁で得られるのは推定15億ユーロで、これまでの補助金支出の3分の1にすぎない。また、投資に関心のある団体なども風力発電よりも費用のかからない技術を選ぶと見られている。
オランダの風力発電プロジェクトの将来は暗い。
同国では何世紀にもわたり、低地から耕作地への水のくみ上げなどで風力が利用されてきた。しかし、風力への国民の熱い思いは冷めつつある。洋上設備の設置、維持費用が高く、また、その格好の無様さが住民の不評を買っていることなどで、洋上風力発電は行き詰まり状態となった。
洋上設備は陸上のものよりも発電効率がいいものの、資材や海底掘削の費用は高く、しかも保守は陸上設備より面倒だ。
陸上風力発電にも障害がある。陸上でのプロジェクトのほぼ半分が住民とのトラブルを抱えている。背の高い設備が景観を壊すという主張の他、安全性や騒音への懸念も指摘されている。
オランダのエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率は4%にすぎない。同国は20年までにこれを14%に拡大することを目標としているが、極めて難しい情勢だ。
■資料2 ドイツ国内で石炭火力発電所の中止が相次ぐ
2010年2月4日付けドイツ紙の報道によれば、ドイツでは石炭火力の建設プロジェクトが相
次いで中止に追い込まれている。2010年2月1日には、フランスの大手エネルギー企業であるGDFスエズが、ドイツ北西部地方Stadeで計画していた80万kWの石炭火力発電所の建設計画の中止を発表した。
これまでにも、ドイツのE.ONやEnBW、スウェーデンのバッテンフォール、デンマークのDong Energy等が相次いで建設計画を断念している。GDFスエズ計画断念の理由として、騒音対策が困難であることや冷却水の利用制約等、設備対策上の問題を挙げているが、近年相次ぐ計画中止の主な理由には、地元住民や環境団体の反対運動が挙げられる。
加えて、出力変動が激しい再エネ電源の急増により、石炭火力電源をフル稼働させることが難しくなり、それによって石炭火力の経済性が低下するリスクが出てきたのも計画断念の要因と考えられる。同紙によれば、至近12ヶ月で計画中止となったプロジェクトは、GDFスエズの計画中止を含め7件に達し、現在建設中、あるいは建設がほぼ確実な計画プロジェクトは5件しかないという。政府系のエネルギー研究機関であるDENAの試算によれば、現状のペースでは、2020年までに約1,500万kW(石炭火力発電所約15基相当)の発電容量が不足することになるといわれている。
(太字いずれも引用者)
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やはり自然エネルギーは、立地条件とともに「メンテナンス性」が問題になりますね。
岩手県葛巻村では比較的安定して風力供給できると進めていますが、やはり各種規制やら、地元の反対にあってます。
山形でも海岸線に風車を増やしてますが…。あくまでも「比較的安定」ですから、全く回らない日もあります。
相馬沖合いでは、国の実験事業で3基の海底固定型洋上風力発電をテストするそうです。
また、街全体に張り巡らせるスマートグリッド…効率は上がってきめ細かい対応が可能とはいいますが…EMP攻撃や巨大オーロラの影響には、とても耐えられないのではと懐疑的。
風力でいえば、福岡大学チームの「レンズ風車」には興味津々です。
あとは、日本の優秀な電気メーカーが、メンテナンスフリーとは言わないまでも、用意に安く管理できれば可能性は広がると思います。
ただ、そうまでやれても、風力は補助的役割まででしょうねぇ。
3年前のサロベツ(苫前)で、機器は輸入に頼っていたとはいえ、無惨に壊れたものが寂しく放置されていました。
投稿: 山形 | 2012年5月25日 (金) 09時57分
山形さん。
メンテコストもさることながら、化石燃料の電源との関係を注目してください。
火力依存が高止まりした上で、火力発電会社が撤収の傾向にあるというのがオランダの実例です。
投稿: 管理人 | 2012年5月26日 (土) 05時58分