スマートグリッドを夏の節電グッズに矮小化するな
スマートグリッドが、今変に注目されています。それは「賢い節電」ができる道具としてです(笑)。
これはスマートグリッドを、狭い一地方都市のそのまた一部に設置して、電力供給に合わせて使用電力をコントロールしたり、現在使用している電気器具をコントロールボードにあるパネルでワンタッチで切ったりできるというスグレモノだそうです。
またスマートシティ構想と称して、日立や東芝が既に中国・大連や柏市、米国・アルバカーキや仏国・リヨンの実証実験にも日本企業が多数参加しています。蓄電池技術の技術研究もNEDOでなれれているようです。(資料1・3参照)
でもなんか笑っちゃいますね。これじゃあ牛刀を持ってなんとやらです。あんな巨大な送電インフラを、庭先に打ち水ていどの夏の節電ツールにしてしまうとは、バッカじゃないかと私は思います。
電気会社としては、海外などで実証研究をして、本格的な全国規模のスマートグリッド建設に備えようということだと思いますが、肝心の全国展開がまったく霧の中です。
これにはふたつのネックがあります。ひとつは前にも触れたことがある発送電分離問題ですが、経済産業省は「電力自由化」としてかねてからその構想を持っています。(ソース「エコノミスト5月22日)
*関連過去ログhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-fda2.html
経産省は電力市場自由化による競争原理の導入自体には肯定的であり、そのためには発送電分離もやむなしと考えています。
ただし現状では、東電処分との兼ね合いも含めて、電力会社側の抵抗が強いために踏み切れないといった現状のようです。
ただ、やるのなら電力会社側が圧倒的に不利な今しかないでしょうね。平時には無理です。
そしてもうひとつの難点は、その膨大なコストです。
自然エネルギーはFIT(全量・固定価格買い取り制度)により、非常に高額な長期間(20年間)全量買い取り制度が開始されました。
そのことにより、5種類の再生可能エネルギーの上乗せコストを加重平均した12円から13円が電気料金に加算(サーチャージ)されます。
風力やバイオマスなどは買い取り価格が安いのですが、例の太陽光42円という世界一の高額価格が響いて平均電気料金サーチャージを押し上げてしまっています。
更に、これには自然エネルギー(太陽光と風力)の宿命的欠陥である発電量の振幅の大きさを是正する系統安定のための建設費用は含まれていません。
現状のようなミニサイズの参入ならば、電力会社は入札制度などして新規参入をカットできますが、FITによる大量参入が開始された場合、そのような壁を作るのは不可能となるでしょう。(北海道電力は風力の新規買い上げはしないと言っていますが。)
そもそもFITは自然エネルギーの大量参入のための制度なのですから、入札制度にしたりすればFITそのものが無意味になります。
となると政府は、電力料金への転化を買い取り額が1キロワットあたり0.5円を超えないようにするとしていますが、たぶん早々に崩壊することが予想されます。
その場合、例外規定を使っての買い取り制限をするとしていますが、間違いなくこれを使うはめになると思われます。(資料2参照)
しかし、いつもいつも系統連結から切り離してばかりいることが頻発すれば、再生エネ法を作った意味がなくなります。スマートグリッドは絶対条件でインフラ整備する必要があるのです。
スマートグリッドはミニミニサイズのスマートシティなどをやるためのチャチな技術体系ではなく、全国的なスマートグリッド網を建設せねば意味のない技術なのです。
細野環境相が言う、「30年に原発比率15%」を実現するには、自然エネルギー比率を最低でも15%から20%に飛躍的に拡大せねばならず、原発ゼロの場合はその比率は30%とされています。(資料4参照)
この政府案(?)実現のためには、スマートグリッドはいるいらない以前の絶対的必要条件だと思われます。
韓国もスマートグリッド構想を持っており、全土で1兆円予算規模だと言われています。これから考えると、わが国は10兆円超規模となると思われます。
これがどのように予算化されるのか、自然エネルギーの命運はここにかかっていると思われます。
■写真 藤の花です。花が咲かなければ、ややグロな樹に絡まる蔦ですが、花は美しいですね。
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■資料1 復興計画でも注目のスマートシティ゛
2012年1月13日 読売新聞
IT(2012年1月13日 読売新聞情報技術)を活用した環境負荷の少ない街「スマートシティ」事業に、日立製作所や東芝など電機大手が力を入れている。国内では震災を機に省エネルギー政策の切り札と位置づけられ、海外でも新興国を中心に都市開発が相次ぐ。 米ゼネラル・エレクトリック(GE)など海外メーカーも参入しており、受注競争も激化している。
日立は、中国・大連市や千葉県柏市の計画に参加する。事業部門が売り上げや収益に責任を持つ「社内カンパニー」の設立を検討し、体制強化を図る。事業部門の2015年度の売上高目標は約3500億円と、10年度比で5割増を計画する。
東芝は、仏・リヨンの実証事業など20件に参加する。受注増を目指し、関連ITサービスを企画する社長直轄の部署を今月1日付で設立した。関連事業の15年度の売上高目標は9000億円と、11年度より約2・3倍にする目標だ。
被災地の復興計画でも注目され、日立は仙台市に、東芝は宮城県石巻市に整備を提案している。
■資料2 東京新聞2011年8月24日
買い取り法案は、風力発電など再生エネ事業者が発電した電力の買い取りを電力大手に義務付ける。事業者が安心して設備投資を行い、精製エネルギーの普及に弾みをつけることがねらいだ。
買い取り費用は電気料金に天下されるため、買い取り価格が高いほど電気料金ははね上がり、家庭や企業の負担は増す。海江田万里経済産業相は「転化額を1キロワット当たり0.15円を超えないように制度を運用する」と、買い取り価格に事実上の上限を設定する考えを示唆。標準家庭の場合、10年後の負担額は月150円程度に収まる計算だ。
(略)
また、風力や太陽光を利用する再生エネルギーは出力が不安定なのも普及のネックになっている。法案では、電力の低供給に支障が生じる場合には全量買い取りを免除する例外規定が設けられた。実際に、風力発電の適地が多い北海道電力は、風力の新たな買い取りをすぐには行わない方針を示している。
安定供給を理由に買い取り拒否が続出すれば、再生エネの普及の足かせとなる。不安定さを補うにはIT(情報技術)を活用して電力供給を調整する次世代送電網(スマートグリッド)の技術開発や送電網の整備も必要だ。ただ、実現するには開発やインフラ整備のコストはちいさくなく、官民の役割分担などの議論を加速させる必要がある。
(後略)
太字引用者
■資料3 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
研究内容は以下です
■要素技術開発(地域レベル実証)
1 需要側蓄電システムの統合化技術開発
2 自動車用リチウムイオン電池技術を応用した定置用大型蓄電システムの研究開発
3 車両からの放電技術を用いた EV、ソーラ電力充電システム、EV 予約/配車システムを利用したエネルギーマネージメントシステムの研究開発
4 集合住宅における燃料電池、蓄電池を組み合わせたエネルギーマネジメント実証 及び 蓄電池付電気自動車用急速充電器および複数蓄電池の共同利用の研究開発
5 ①創エネ・省エネ機器と蓄電池付き HEMSの連携及び V2Hシステムの研究開発と実証検証
6 商用施設用蓄電池付きBEMSと商用車、EV/PHVの連携システム研究開発と実証検証
7 施設ナノグリッドを対象とするビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)の開発
8 戸建住宅における太陽光発電の効果的活用のための蓄電池利用技術と上位システムとの結合化技術の開発と実証
9 EV向け充電インフラ及び車載装置の研究開発
10 地域節電所を核とした地域エネルギーマネジメントシステムの開発
11 リチウムイオン二次電池を用いた住宅用およびコミュニティ用の電力貯蔵システムの開発とエネルギーマネージメントに関する実証研究
■要素技術開発
1 CEMS 系統協調デマンドサイド蓄電池システムの研究開発 蓄電集配信システム開発 及び ガバナフリー機能付蓄電池システム
2 BEMS 複合電力貯蔵対応 Advanced BEMSの研究開発 ビルPV用蓄電システムの研究開発
コンパクト&スマートシティの核となる大型商用施設向けの蓄電池システムの EMS 開発
3 FEMS 産業用デマンド型 蓄電池・太陽電池複合システムの研究開発
4 HEMS 高安全な10kWh級住宅用蓄電システムの研究開発
5 EV関連 次世代サービスステーションにおける蓄電・充電統合システムの研究開発 電気自動車に搭載した蓄電池を他用途に利活用するための要素技術の研究開発
6 標準化 リチウムイオン電池システムインターフェース標準化・海外展開の研究開発
■共通基盤技術開発
1 蓄電池を用いたエネルギーマネジメントシステム性能評価モデルの開発
2 需要家設置の既設大容量蓄電池による系統対策への活用可能性評価・システム標準化の研究開発
3 車載蓄電池の性能評価手法の技術開発
■資料4 原発の割合「30年に15%が有力」環境相
日本テレビ5月25日
細野環境相は25日、エネルギー全体に占める原子力発電の割合について、30年の段階で「15%」とする案が有力だとの考えを示した。
政府の有識者会議は、福島第一原発事故の前まで26%だった原子力発電の割合について、30年時点で「0%」「15%」「20~25%」「35%」の4通りの数値を示して、国民に議論を促すことを検討している。
細野環境相は25日の会見で、「いずれの選択肢も排除するものではない」としながらも、「40年を(原子炉の)運転期限と設定することを、政府として方針を出している。(15%は)その方針に沿ったもの」と述べ、「15%」とする案が最も有力だとの考えを示した。
「15%」とする案を含めた選択肢は、今後、政府の「エネルギー環境会議」での議論を経て、国民に示されることになる。
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