3.11から1年3か月たった今、私がやろうとしていることについて
りぼん様。そういう趣旨ですか。なるほど分かりました。3.11から1年3か月たち、私自身は「やるべきこと」にはまったく迷いがなくなっています。
去年のような、出口のないトンネルに入ったような気分もありません。私が今、自分が生きる地域でやるべきことは、リアルに放射能汚染と向き合うことです。
去年のような風評被害に対抗するために計測する緊急対応的なものではなく、霞ヶ浦流域でいかなる放射能汚染があり、それがどこでどのような推移をしていくのかを、5年、10年といった中長期的スパンで実測し、データバンク化することです。
農地だけではなく、湖沼、山林、海まで拡げて、3.11とはなんであったのか、いかなる汚染がもたらされて、それがどのように年を経るに従って変化したのかを記録します。
年を経るごとに、放射線量が下がる場合もあるでしょう、一定の線量のままかもしれません、あるいは増えていく場合すらあるでしょう。
それらを一切の先入観と思惑なしに記録しようと思います。それが3.11という歴史的事件にはからずも渦中で遭遇してしまった私のけじめのつけ方です。
神奈川以西の人々や低線量被曝を脅威だとする人たちのことは、申し訳ないのですが、あまり気にしないようになりました。去年は、ゼロベクレル信奉者の言説にいちいち目くじらをたてていたものですが、今は気にならなくなりました。
別世界に住む人たちの騒ぎだと冷静に見るように努めています。というのは、ゼロベクレルを叫ぶ人とは、討論が成立しないのです。
勘違いしていただきたくないのですが、私は彼らの論争の作法を言っているのではなく、お互いに立証しえないことを言い合っていても仕方がないではないか、ということです。
簡単に説明しましょう。
100mSv以上の放射線量が発ガンリスクなどの被害をもたらすことは、いかなる立場であれ万人が認める定説です。
問題はこからです。では100mSv以下の低線量被曝についてはどうなのでしょうか。ここで主張が3ツに分かれます。(下図参照)
➊閾値なし直線型(LNT)モデル
❷ECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)モデル
❸閾値ありモデル
そもそもこのLNTモデルを公認したICRP(国際放射線防護委員会)自身が、100mSv以下の低線量域で必ず発ガンするとはひとことも言っていないにもかかわらず、あたかも一直線でゼロまで伸びるリスク直線を描いてしまったことが誤解の始まりでした。
だって、分からないのですから本来は点線くらいにしておくか、?マークでもつけておけばよかったのです。
しかし、ICRPというところは「政治的」に物事を考えるところで、リスクがあるかないか分からないのならば、とりあえず「あるかもしれないから注意してね」にしておこうと考えたようです。
そしてこのLNTモデルの低線量域を極端に危険視したのが、去年にわが国で猛威をふるったECRRモデルです。彼らは低線量域こそが100mSv以上より危険であるとさえ言っています。
放射能の被害をことさら大きく考えたい人たちは、このモデルに依拠していますが、学説としては認められていません。なぜなら、具体的な科学的データに乏しいからです。
そして三番目が、閾値はあるとする説です。この説は、100mSv以下は出るかでないかは確率論的な世界であって、発ガンリスクは複雑な因果関係の中に隠れてしまうと考えています。
この「閾値あるモデル」は、ガンの臨床医や放射線防護学者にアンケートするなら、多くはこれを支持するでしょう。
彼らはガンの実態を知っていますから、低線量被曝だけで発ガンを説明することが不可能であると考えています。
ただし、いずれの学説も決定打がありません。100mSv以下の低線量こそが発ガンリスクを高めるとするECRRモデルはいうまでもなく、閾値ありモデルすらもデータがないのですから、本来は科学論争になりようがありません。
仮に3年か4年後、福島県でECRRが言うような数十万人規模でガン患者が増えたのなら、彼らの説が正しいということになりますが、まずありえないでしょう。
現時点では、科学的なデータがないのですから、「分からない」と答えるのがもっとも誠実なのです。
だから、私は低線量被曝を恐怖するあまりにゼロベクレル信奉者になった人たちに、「論争しても無駄です。科学的データがないことを議論しても神学論争になります」、とだけ言うことにしています。
ゼロベクレル信奉者は、東日本全体が「チェルノブイリ以上に」汚染されていると考えており、農産物、海産物、一切合切に発ガンリスクがあると考えています。
現在の日本では昨年と違い、ありとあらゆる流通や行政、生産団体が、各種の農産物や環境のデータをネットで出しています。あえて私が出す必要もないほど大量に採取することができます。
しかし北九州市の瓦礫事件でも明らかなように、彼らは自分にとって都合の悪い情報は「信用できない」と切って捨てるのですから、いた仕方ありません。
ですから、いくら正しい情報があろうとなかろうと、悪質な煽動家である武田邦彦氏などは、「日本全国住めなくなる」とまで言う始末です。こうなると、もはや論評する値打ちもありません。カルトそのものです。
このように考える人たちになにを言っても無駄です。いかなるデータを出そうと、ゼロベクレルでなければだめだとするならば、基準値もなにもあったものではありません。
基準値すら認めないならば、議論が入り込む余地はありません。
たとえば私が、農産物は2bqでしたから安全ですと言っても、「もともとゼロだったのだから倍になった、いや無限倍に脅威が膨らんだ」と言い返された時には、正直仰天しました。
それ以降私は、彼らを説得することを放棄しました。これが私が3.11から続く放射能の長いシリーズにいったん終止符を打った理由です。
私は南半球の食品しか食べないという人には、「そうですか。それはあなたの選択の自由です。ただし、寂しい食卓となりますね」と言うことにしています。
モンスターペアレント的な人に育てられた子供は大変気の毒だと思いますが、私には個人の家庭事情にはなすすべがありません。
学校給食などで具体的にそのような人たちが現れたら、地域の食の問題として対応しますが、それ以上なにもなしようがありません。
瓦礫問題は、あまりに目に余る非人間的行為でしたので取り上げざるをえませんでした。
初めに戻りますが、私が今始めているのは地域での定点観測のようなことです。さきほど述べた放射能汚染の科学的データを採取・蓄積することです。
これはいわば議論のベースを作ることで、もし、ECRRのいうように低線量被曝こそが発ガンリスクを高めるというならば、わが地域は低線量被曝地そのものですから、2014年から15年にかけて子供を中心とするガンの有意な増加が見られるはずです。
測定・分析にあたっては公正を期するために、精密機器をもちいて国立大学の研究者の助言をもらい大学施設で行います。
価値判断を抜いた実測と分析作業です。ですから、自分の価値判断しか信じないような方々とはお話しても無駄だと思います。
私は3.11から1年3か月たった今、冷静な落ち着きを取り戻そうとする大多数の人間と、いっそう凝り固まってファナティクになっていく少数の人たちに分かれていくのかもしれないと思っています。
この両者には養老先生の言う「バカの壁」が立ちはだかっており、混じり合うことはありません。
そして私が、大事に思っていることは観念的議論をすることではなく、客観的データの集積という実践なのです。
■関連過去ログhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-e738.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-943f.html
■写真 北浦湖岸の水神様の鳥居。3.11で倒壊してしまって、今はありません。手
前はハス田です。
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コメント
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昨日のやり取りを見て、どうなるかと思いましたが、管理人さんの明確な主張が分かって良かったです。
りぼん。さんも、消費者さんに対する「ND」の説明に苦悩されていることは理解できましたが、それこそ現場でリアルに測定と対策で走り回っているのは濱田さん達です。
ありえないゼロベクレル主張の方々との閾値問題に関しては、全くどうにもなりません。
昨年にはバナナ健康法なんてのが流行って品薄になる騒ぎでしたが…カリウム40大量摂取だと指摘すると、人工放射能と自然由来放射能の違いも分からん馬鹿がいる(笑)などと、根拠の欠片も無い罵倒を受けます。それが現実です。
まるでお話になりません。
本当に苦しんでいるのは東北から北関東の農業従事者です。
より安全(と思われる)地方の食品にシフトする消費者心理は理解できます。
が、何でもかんでも東日本のはダメなどというのは「無知の罪」そのものだと思います。もう議論にすらならないです。
私はストレスや残留農薬や重金属の方がよっぽど有害だと思いますがねえ。
「放射能」という単語だと過剰というか異常な反応をなさる方々がいますから…。
ちなみに、柏市のべくみるは今年に入ってからは閑古鳥だそうですよ。
現実を見ながら、極力被爆を下げつつも、過敏に成りすぎないことがキモでしょう。
「風評被害」という言葉だけでも酷く叩かれるネット社会の現状ですが…現実に風評被害と観光客激減で、宮城や福島の内陸部の直売所やレストランなどはほとんど壊滅の危機です。
先日実際に自分の目で見て来ました。
作物や瓦礫の放射能で騒ぐ方々、テレビタレント等も含めて誰も死んでませんね。
どう説明なさるのでしょう?
まだ期間が少ないから?
いやいや、1年前に騒いでいた時点で何十万人も死ぬとか言っていたはずですが…チェルノブイリ以上だとか。
不思議ですねえ。
もちろん今後も追跡調査する必要はあるでしょうが、大都市や遠隔地で騒いでいる方々よりもあくまで相双地域の方が優先ですよね?
まともな人間なら異論は無いと思いますが…。
投稿: 山形 | 2012年6月 4日 (月) 08時34分
初期の段階での、愛知、中部大学の武田教授の発言は、事実を過少評価して、国民を騙そうという輩の、対抗意見としての価値は、あったのですが、TVで、余りにも、実測測定値によらない、「放射線は、ゼロが良い」発言が、続いていて、大飯原発再稼動問題もあり(もし、大飯が、福島第1のようになれば、名古屋は、飯館村のようになりえる地形です)過剰な反応が、消費者に出ています。
イOンさんなどが、CMで、安全確認は、簡単に出来るようなPRをし続けていますので、イOンが出来るのに、なぜ、学校給食は、しないのか?などですね。
1ヶ月前に献立発表をする学校給食で、新鮮なものを安く仕入れることと、献立を変えないようにして、不安を持たせないことの両立は、かなり難しい注文です。
出来れば、言いたいことを、ツイートする方々に、農家さん、流通業さん、調理師さんなど、各分野で、出来ることを、要望してほしいのですが、イOンですら、サンプル測定が、精一杯なのに、それ以上、何をすれば、良いのやら???
学校は、うちの子が、20年後、白血病になったら、どう責任をとるおつもりですか?などと、迫られても、正直、何とお答えしたら良いのやら。。
もともと、年間1ミリシーベルトと言う、政府目標値だって、本当に正しいのかさえ、私には、理解できていませんので。。
もう、地球を何周かしてしまった、福島第1の放射性物質を、体内に取り込むことを、ゼロにすることは、不可能と、私は、思うのですが、そんな発言をすれば、あなたは、こどもの命を、なんと思っているのか!と、非難をあびる状況に、あります。
福島から避難している人と比べて、はるかに、環境の良い生活をおくっている人ほど、無理難題の要求が多いこと。
それで、その方だけ、弁当とペットボトルの持ち込みを許しただけで、終われば良いのですが、状況は、その弁当持込許可をベースにますます、集団エスカレートしかねないことです。頭をよぎるのが、松本サリン事件の河本さん?的な話になると、怖いのです。
風評被害ってなんだろうと思います。北九州市で、トラックの下で、寝て、トラックの進行を止める行為自体、自分には、理解できません。つまり、信用のない政府の元では、何を言っても、信用されないのだな。と、思った次第です。大体、テスト焼却しないで、危険とか安全とか、判断できないのに、テストすら、拒否されたら、先に全く進まないのに。。安全地帯に住んでいる人ほど、原発避難者以上に、苦情を言うと言う自体が、理解できずに居ます。
私たちは、安全地域に居るのですから、避難している人を、先に、救済してくださいと言う人が、1年と言う時間の経過とともに、減っていったように思えるのです。
投稿: りぼん。 | 2012年6月 4日 (月) 12時10分
りぼん。さん。
悩み深そうですね。
こちらでは普通に生活してますし。東京都心の友人も地震直後から何事も無く生活が営まれているそうです。
そちらよりよほど深刻な学校給食ですが、ようやくこの春から1週間分を保存→ミキサー→測定という体制が整いました。
まあ、基準を越えていても既に食った後ですが。
「給食が怖い」と、わざわざ弁当を持たせる親が増えているとの報道は見ていましたが、正しい追跡すら困難な食材での家庭調理では危険はハネ上がるだけだということが分からない方も都市部には多いようですね。
毎晩夜なべをして家が1件買えるようなゲルマニウム測定器で測っても、いわゆるNDの扱いではどうにもならんでしょうね。自己満足にはなるかもしれませんが。
はっきり言ってしまえばゼロベクレルなどという有り得ないことを並べる連中は、相手にしないことです。
閾値云々でまさに神学論争になりますし、「ND(ミニマム20)」とか言っても「隠してやがる!」てな調子ですから。
全く時間の無駄。
投稿: 山形 | 2012年6月 4日 (月) 14時10分