TPP、最大の懸念は6月18・19日のG20
本日は、一貫してTPPに対して反対の立場をとっている衆議院議員・ 山田としお氏のメールマガジンを転載いたします。
山田議員は、鹿野前農相からJA出身の郡司大臣への人事の裏側を分析しています。
TPP交渉の煮詰まりについても一読に値します。
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山田としお メールマガジン No.263
TPP、最大の懸念は6月18・19日のG20
【農水大臣交代の裏にあるもの】
内閣改造がなされました。野党が一致して問責を決議した田中・前
田両大臣が交代するのは当然ですが、鹿野大臣は、スパイ問題が
出て退任を余儀なくされたのは意外でした。
スパイ問題は、中国大使館の書記官の行為は問題ですが、
鹿野大臣にまで及ぶことだったの
かどうか。中国にコメ等を輸出拡大したいとして、民主党の国会議員
の秘書を輸出協議会の代表に据えて、農水省の顧問にまでしてしま
い、その代表が、某健康食品会社とのかかわりがあり、その資金と、
書記官のよくある儲け話に乗っかり、中国へのコメ輸出ルート(これま
での輸出窓口とは異なる農業部系の国営企業である中農集団)を
使った食品展示場への出品と販売を考えた。
そして、輸出品の検疫検査免除といううまい話をうのみにし、従来
から輸出業務を行ってきた商業部系の検疫検査は当然必要との利
益争奪ともからんだ暴露合戦に巻き込まれ頓挫してしまいました。
日中首脳会談時に野田総理をまだ完成していない問題の展示場を
視察させ、総理も巻き込んでしまった。農産物の輸出を何とか拡大し
たいとの意欲はともかく、内容は極めて詰めの甘いものでした。20
万トン輸出できるなどという話には、最初から疑問がありました。
もっともこの話は、鹿野大臣が党の代表選挙に立候補し相当の票を
集めましたが、その代表選の時の事務所が輸出協議会の事務所と同
じだったり、その協議会の代表になった秘書を雇っていた議員も鹿野
グループだったり、代表選にはその健康食品会社からの応援もあっ
たのではないのかと言われたりして、これは単に輸出拡大の大義
だけではなかったのではないのかとの疑惑を呼んでしまいました。私
は、自民党時代からの長いおつきあいがあった鹿野大臣には好感を
持っていただけに、この事態は残念です。周囲が悪かったとしか言い
ようがありません。
【TPP交渉参加への重しがとれた野田総理】
ところで、私が懸念するのは、この鹿野大臣の更迭で、TPP交渉参
加に向かう閣内での歯止めが失われたことです。鹿野大臣は一貫し
てTPPの内容に疑問を持ち、「今の段階は、情報を得るために協議
しているだけであり、その情報も国民的な議論も不十分だ」との姿勢
を維持していました。だから、4月30日の日米首脳会談直後にカトラー
USTR代表補が来日し、秘密裏に自動車問題に関する10項目につい
て関係方面と協議していることについて、情報が明らかにされていな
いと玄葉外務大臣に対して注文をつけていました。私の予算委員会
での質問に対しても、鹿野大臣は、今まだ情報を得て国民的な議論
を行っている段階であり、結論を得る状態ではなく、当然局面が変わ
る時は、関係閣僚会議は必要だと明言していました。
ところが、野田総理とすれば、代表選の決選投票で、上着を脱い
で合図し、野田支持をグループ内の議員に意思表示し、野田総理誕
生の生みの親となった鹿野大臣を軽々に扱えないし、TPPでも鹿野
大臣は無視できない存在でした。とすると今回の更迭は、いいきっか
けだったはずです。こう考えると、今回の鹿野大臣追い落とし戦略
は、もしかして、TPPを何としても進めたい経済産業省や外務省等
のリークや謀略があったのかもしれません。
野田総理は、18日にはメキシコにおけるG20サミットでオバマ大統領
に会うはずです。先週のTPP参加即時撤回を求める会での私の追求
に対して、外務省は、首脳会談はセットされておらず、ましてTPPが
議論になるとは言えない、としていました。しかし、首脳会談が無い
なんてことはないのであって、その場合、懸念されるのは次のことです。
【4月30日の首脳会談では自動車についてかなりの意見交換】
一つは、4月30日の日米首脳会談では、オバマ大統領から自動車、
保険、牛肉について言及があったものの、野田総理からは、高い水
準の経済連携を進めると従来通りの方針を述べただけという報道に
なっていましたが、実は自動車について相当の主張がオバマ大統領
からなされていたようなのです。その点は、衆議院の社会保障と税
の一体改革特別委員会で、自民党の橘議員の質問に、野田総理は、
会談ではオバマ大統領から「いろいろなアイデアが出された」ことと、
帰国後に関係者による非公式な意見交換がなされていることを認め
ています。やはり突っ込んだ話があったのです。
二つは、6月1日のTPP参加即時撤回を求める会での、役所サイド
の情報隠しに各議員から激しい憤りの発言が続き、結局、内閣官房
は、自動車についての米国側の関心事項を出すことを約束させら
れ、会議終了後、「透明性」「流通」「技術基準」「認証手続き」
「新/グリーン・テクノロジー」「税」の6項目が論議になっていること
を明らかにしました。当然、これらのことをもっと具体的に国内の
自動車業界等と協議しているのは確実です。日本車の米国向けの
輸出は150万台、北米での現地生産は350万台、一方、米国からの
輸入はわずか9000台というのはあまりにも少ない。米国は、日本に
は米国車を売らない規制があると批判しますが、米国は日本に米
国車を得る努力をしているのかと言いたい。
この自動車の膨大な輸出の見合いで、日本は米国から膨大な飼料
穀物等農産物を輸入してバランスを取っているわけで、経団連等が、
もっと輸出したいのに、それが出来ないのは農業サイドが関税撤廃
を拒んで入れないようにしているからだというのは、いわれのない
攻撃です。もう十分入れているのであって、入れないようにしている
のは日本の国土での生産を維持しなければならないごくわずかの
品目だけなんだ、ということを経済界はきちんと理解すべきです。
制約された国土の条件を踏まえて、少なくともそれぞれの産業の多
様な発展のあり方を考えるべきだ、ということを言いたい。
三つは、このままでは、オバマ大統領の申し入れに対して、野田
総理が、自動車で妥協をしかねないという懸念があります。例えば、
米韓FTAで韓国が押し込まれたように、米国の各自動車メーカーご
とに2万5000台分を米国の安全基準等に合格しておれば無条件で韓
国が受け入れるというような妥協です。ミニマムアクセス米ならぬ
ミニマムアクセスカーという妥協です。
【怖いのは、日本の判断なしでの米国の議会通知】
四つは、これらのことで、オバマ大統領の要請に答えたというこ
とで、日本側が、TPP交渉に参加するとわざわざ言わなくても、米
国側が日本は入場料を払ってくれたと受け止め、ともかく議会に日
本との交渉の是非について伺うべく通知するという作業に入るとい
うことです。
この通知がなされた後は、まさに議会関係者からの様々な注文を
3カ月にわたって聞くことになります。それら注文を聞いたうえで、
議会から、日本との交渉に入っていいとの了承を得ることになりま
す。その時期である9月は、オバマ大統領の選挙がまさに佳境に入
っている頃で、輸出の促進と雇用の確保が争点になっているでしょ
うから、わが国はさらなる攻撃と妥協が求められることになります。
五つは、怖いのは、日本の閣僚会議での態度決定なしで米国の判
断によりなし崩しで交渉参加してしまうことです。これは米国側のペ
テンでも何でもなくて、要は、昨年11月の時点で、すでに日本は米国
に対して参加したいと表明し、米国はそれなら条件が必要ですよと
言い、それが自動車と保険と牛肉だったということです。
保険は、日本郵政の社長が、米国の保険会社が危惧する「がん保
険には当分の間参入しない」と言明することで終わっており、牛肉は、
米国でBSEの4頭目の発生があったため、米国は強く要請できな
いとしながら、しかし、しかるべき時期に食品安全委員会の答申を
得られるものとの日米の暗黙の合意があるのでしょう。
【郡司大臣への期待】
この図式は、余りにもうがちすぎかもしれません。
また、社会保障と税の一体改革の扱いが焦点になっている時に、
野田総理にはTPPを判断する余裕がないはずだという見方もありま
すが、この混乱の中でこそ、外務省や経済産業省のシナリオがその
まま通ってしまう危険があることを私は恐れます。
郡司農水大臣は、この渦中で就任されました。郡司さんなら、黙
って見のがしてくれるのでないかとタカをくくっている輩がいるという
ことです。郡司大臣、想像力をたくましくして、早く気付いて、この危
惧をなかったものにしてください。期待して、祈る気持ちです。
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コメント
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僕が、びっくりしたのは、経団連やトヨタなど、現状、輸出好調の大手企業が、TPP参加に、特別に意欲的で、国内のその手の産業からの要請で、農業者も巻き込まれているのでは?と、思っていたのが、トヨタ自動車のトヨタ彰夫会長自身が、米国の求める関税、非関税障壁とは、何か?少なくとも、関税に対しては、現状公平だし、日本の道路事情に合わせた道路運送車両法は、非関税障壁ではない。と、米国の要求するTPPの自動車部門会議の内容について、激しく非難している点です。
軽四規格にせよ、方向指示器のランプが、黄色だとか、右ハンドルとかは、日本の国情であって、日本車だって、米国内の法令に合致する自動車をわざわざ製造(当然、左ハンドル車を製造している)して、米国で販売しているのに、GMが、日本向けの右ハンドル車を製造して、売り込んでこない以上、TPPで、米国基準に合うように、日本の道路運送車両法を変更せよというのは、間違っていると、発言している点でした。
米国は、TPP加盟相手国の国情に合わせた貿易をすべきであり、韓国、中国だって、一応、日本に売りたければ、日本の法律に合った製品を、輸出してくるし、西ドイツだって、ちゃんと、右ハンドルのベンツを、日本に売り込んできていて、成功している。
米国は、非常に横柄な国としか、思えない。日本に軽四規格を無くせとか、左ハンドルの米国仕様をそのまま、購入せよとの言い分は、いかにも、ほしければ、売ってやると言う態度で、本末転倒もはなはだしい。
動植物の検疫、食品の検疫、軽四と言う日本独自の規格など、非関税障壁との名のもとに、廃止すれば、日本国民の生活が、成り立たないです。
関税撤廃という金銭問題でなく、これらは、生命、財産など、自由主義国の文化そのものですから、それを、放棄せよと言う米国議会は、中国の人権問題を非難できない立場だと、自分は、思います。
なぜ、輸出したければ、相手国の国情を理解しようとせず、米国規格=グローバル規格=正しいこと。と言う理解になるのか、全く論理的ではないですね。
このまま行けば、米国ライフル協会あたりが、日本も1家に1丁、銃を購入せよ。なんてことになりかねないほど、恐ろしい要求に思えます。米国議会が、これほど、横柄な人間の集まりなのかと思うと、米国民主主義とは、何か?と、疑問を抱かざるを得ませんね。
投稿: りぼん。 | 2012年6月 6日 (水) 09時09分