米国農業は輸出補助金なくしては延命できない体質だ
米国農業は一風変わったスタイルをしています。それはハナから輸出シフトだからです。
もちろん、伝統的な家族農業を基礎とするこまやかな野菜作りは弱体化しながらも残っていますが、主流はなんといっても自由貿易を前提とする飼料作物の大規模生産です。
米国農業の目玉商品は、願いましては、トウモロコシ、大豆、小麦、米、綿花、ピーナッツ、ソルダム、乳製品、キャノーラ(菜種)などです。
どれもこれもわが国になじみ深いもので、トウモロコシ、小麦は日本畜産の要であり、米国産大豆がなけりゃ国民食たる醤油、味噌、豆腐、納豆などことごとくアウトです。キッコーマンなんぞ、かなり前に産地に近いところに工場を移転してしまったほどです。
なんでこんなに米国農産物に依存するんでしょう。ひとつは安いからです。もうひとつは近いからです。
「近い」ほうから説明しましょうか。米国が熱波で打撃を受けると、各商社は分散調達を開始します。
三菱商事は大豆をブラジルから輸入するためにかの地の大手穀物集荷会社に出資しました。双日はアルゼンチンでの開発輸入を始めています。
豊田通商は今春に、豪州の穀物集荷会社と合弁し、小麦の調達に乗り出しました。三井商事はロシアの穀物会社と提携しています。全農はアルゼンチンからの輸入を開始しています。
と、まぁこのように一斉にアッチコッチに当たりをつけているのですが、なにがネックかというと船賃なのです。船賃はもともと安さを要求される原料用飼料では絶対的条件です。
ところが、昨日も書いたように飼料用穀物が価格上昇すると、連動して原油相場も上昇していく傾向がありますから、同時に船賃も上昇している場合が多いのですね。
ここで、世界最大の貿易ルートである太平航路とマイナーな南米、豪州航路との差がついてしいます。なんせ便数とトン数と船会社の数が桁違いです。圧倒的なボリュームの太平洋航路はなんといっても強い。
というわけで、米国依存は日本の商社にとって「わかっちゃいるけど止められない」というわけなのです。
ところで、もうひとつの「安さ」ですが、これは米国政府が輸出農産品にゲタを履かせているからです。
ゲタとは米国が得意とする輸出補助金制度なのです。本来これは、農作物特有の天候異変による市場価格上下を平均化するセーフティネットだったのですが、だんだんと輸出商品のゲタに変化していきました。
何かというと補助金漬けと揶揄されているわが日本の農業補助金など可愛らしいものです。おそらくTPP交渉では間違いなく日本が言わずともオーストラリアやNZあたりからの猛攻撃にさらされているでしょう。
これには5種類の補助金枠がありますので欄外をご覧ください。 (資料1参照)
まさに至れり尽くせりですな。補助金漬けと揶揄されている日本の農業補助金など可愛らしいものです。おそらくTPP交渉では間違いなく日本が言わずともオーストラリアやNZあたりからの猛攻撃に合うことは避けられないでしょうね。
特に②のCCPはひどい。もしこれが日本のコメならば、天候不順で収量が低下したり、品質が悪いために市場価格が下がったら、その差損を政府が埋めてくれるということになります。
ひと頃、民主党が言っていた農家戸別所得補償によく似た発想で、政府の所得移転で農業を底上げしようという考え方です。
しかも米国の場合日本と違って、基幹作物のコメを守るというのではなく、トウモロコシ、大豆、小麦、米、綿花に7割が投入されて、それを輸出攻勢の武器にしろやということですからタチが悪い。(資料2参照)
実は米国の穀物生産は、今年に限らず熱波や洪水で年がら年中作柄が変化しています。こうまでよくやられるのを見ていると、米国農地や治水は相当にダメになっているなぁ、というのが私の感想です。
化学肥料と農薬一本で突っ走ってきた「世界の穀倉」は、間違いなくかんじんの地味が疲弊しきっているように見えます。これによる作柄変動に税金をぶっ込んでやっとのことで安定した輸出を続けているというのが米国農業ではないでしょうか。
ですから今や、外すに外せないゲタと化してしまっているのが輸出補助金制度なのです。
しかも受給者が大規模アグリビジネスに偏っていることが、米国内部でも問題となっています。
たとえば受給者第3位のDnrc Trust Land Managemenだけで、09年に政府から受け取った補助金がな~んと290万ドル(約2億3千万円)。おそらく日本の農家でこれだけ一年で税金をもらってしまっては国会喚問ものです。もはやギネス級といえましょう。
ここまで巨額な米国農業補助金はもはや農家支援という次元ではなく、市場価格の86%までもが補助金という凄まじさです。私たち日本人は、米国の納税者の金を食卓に乗せていたわげです。
よく自由貿易論者の人たちは、米国農業がグローバリズムになるのは、輸出を前提にしているためではなく生産過剰にあるといいますが皮相な見方です。
そうではなく、過剰な生産を前提としたグローバリズムなくしては、米国のアグリビジネスは生きていけない特殊な体質があるだけの話です。
ちなみに、米国の自給率が高いのはこのような輸出依存体質があって余計に作ってしまうからで、逆に日本が低いのは国内市場が中心だからにすぎません。
これをして国際競争力がウンヌンという工業製品と同じ尺度で農業を測るのはいかがなものでしょうか。
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■資料1 米国の各種農業輸出補助金制度
①直接支払制度(Direct Payments)・・・土地の価値を評価に対して農業者に直接支払らわれるタイプの補助金。年間約50億ドル。
②CCP(Counter Cyclical Payments) ・・・うまい訳語が見当たりませんが、市場価格の低下による差損を補填するタイプの支払い。差損を補填することで、安価な農産物を輸出し続けることができるために、WTOで禁止されている輸出補助金に相当するとして国外からの強い批判を浴び続けている。
③マーケティング・ローンの提供・・・農産物の販売のための農業ローンを提供しLDP(ローン不足払い)になった場合に差額を政府が補てんする仕組み。
④ACRE(Average Crop Revenue Election Program) ・・・08年に登場した補助金枠で、価格、低収量収入の最低保証をする補助金。トウモロコシ、大豆生産者の全部が加盟していると言われる。
⑤作物保険 作物保険加入にあたっての政府補助金 ・・・農業共済加入に対して与えられる補助金枠。
■資料2 米国連邦政府の農業補助金支出内訳
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