さようなら、私の好きなジジィ
村のジジィが亡くなった。享年88。末広がりの歳で大往生だ。合掌。むしろ祝ってやりたい。
ジジィは、おっと、年長者に対して無礼な言い方だと思われるかもしれないが、おじぃさんというようなヤワなキャラではない。
彼は今でこそ大人しい老人ヅラをしているが、終戦直後の若い頃はハッパをしかけて魚を獲ったというのが自慢だった。もちろんいい子はやってはいけません。当時だっていけません。手が後ろに回ります。
もうひとつの自慢は密造酒作りだ。これも自慢することかと思うが、芋焼酎に関しては「夏子の酒」(←愛読書です)の杜氏のじっちゃんのようだ。
今でこそ、作るより買ったほうが安いので、大五郎の2リットルペットボトルを愛飲しているが、ほんとうは今でも芋焼酎のほうが好きなようだ。
ジジィに言わせると、主原料たる芋は今どきの紅高系などはダメだそうである。金時などもってのほか。
あんなクソ甘い芋だと、ベタベタに甘くて飲めたもんじゃない、と言いながら2リットル1980円の焼酎をお飲みになるのはやめていただきたいものである。
ついでに渋茶で割るのはともかく、オロナミンCで割るだけはゼッタイに止めてほしい。味もさることながら、色がシュールだ。マカ茶で割っていたのも知っているが、ジィさんなにを考えていたのか。
この芋焼酎用の芋はクールでハード(てなもんか)に甘くない農林100号のような、いまでは見向きもされない品種のほうがいいそうである。
ジジィはドブロクにも手を出していて、私がかつて新米で挑戦した時に、沸かないのでイーストを入れた話をした時には、歯がない口で5分間ガハガハと笑われてしまった。まったくかわいくない。
ドブロクは古米、古古米で作るべきだそうだ。考えてみればとうぜんで、新米を売って現金にして、子供を学校に通わせて、親爺はおもむろに残った古米でドブロクを作るのである。新米でドブロクなどは瑞穂の神様にバチが当たる、というわけだ。
ジジィに「夏子の酒」で仕入れた吟醸酒精米率6割などという知識をひけらかしたら、バッカじゃないかという目で見られた。なんという無駄なことを。これまたバチあたりで、百姓はそのようなことをしてはならないのである。
かつて「富乃宝山」を手土産に持っていったことがあるが、かけた茶碗でグビグビ飲みながら(ちっとは遠慮しろよな)、「なんだこの水みたいな芋焼酎は」とぬかしおった。
あの芋焼酎の革命児と言われた宝山さまを、水と抜かす。ムッとなる私にジジィは楽しげにウンチクを披露する。しまった、このウンチクモードに入るとともかく長いのである。
ジジィに言わせると、芋焼酎は栓を開けるとガツンとくる毒ガスを発生させねばならないのだそうである。あの独特のイモの悪臭、もとい香りが室内に立ち込めて、女房子供は屋外退避する、これがいいのだそうだ。
つまみはいらない。せいぜいが畑で採れたきゅうりかなすの漬け物。それも古漬け。ほとんどピックルス一歩手前の漬け物でグビグビやる。
漬け物がなければ、味噌をつけただけで充分。野菜すらなければ、味噌だけで充分。味噌がなければ、塩だけでも。
前にハムを持って行ったが、ひと口も食べなかった。若い村の連中のようにすぐにから揚げに走るということをしないのは立派である。というか、空酒タイプなのだ。体にいいはずがない。
しかし88まで生きて、最後まで飲み続けたのだから天晴れである。ジジィは棺桶に入れるより、大きな酒樽にでも入れて、上から酒を入れてやるのが幸せだったのではないか。
晩年は震災と放射能禍で、家業が壊滅状態になってしょぼくれていた。もう百姓ができねぇ時代になっちまった、というのがジジィの最後の声だった。
考えて見れば、震災と放射能が殺したようなものだ。
おとなしく極楽往生するとも思えないが、極楽の蓮池で酒を飲んでいるだろう。
私はこんなジジィになりたい。無理かな。
■蛇足 最近堅い記事ばかりで、データとグラフばかりですね、と昔からの読者に言われてしまいました。4年前に始まった時は、こんなエッセイ調だったんですが、たまに戻ってみると、書くのが楽しいですね。これからもたまに書きます。
■写真 菜の花です。春から初夏にかけての田園は翠一色です。私の中まで翠一色に染まっています。
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コメント
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88才怪人の最期…。
心より哀悼の意を。
私もそんな最期を迎えたいと思うような大往生ですね。なんというか、変な表現ですが笑って明るく送り出したい気持ちです(自分だったらそうしてほしい)。
私も今月は身内の法事が続くので、大変憂鬱です。
投稿: 山形 | 2012年7月 2日 (月) 07時44分
今は亡き父親を思い出させて頂きました。
心より哀悼の意を表します。。。。。
投稿: 北海道 | 2012年7月 2日 (月) 12時04分
豪放磊落な方だったんですね。
いや、独自のこだわりがおありになったのかもしれませんが。
88歳、大往生ですね。
ご冥福をお祈りします。
私は、1滴も酒を飲まないのですが、父はウワバミでした、祖父も。思い出します。
投稿: Cowboy@ebino | 2012年7月 2日 (月) 12時54分
北海道さん。
この数日の猛暑は大変だったでしょう。十勝で連日真夏日とか…。
乳量が減ったり、乳脂肪がおちて規格満たすの大変だったり。
酪農家にはこれは悪夢ですよね。
ああ、なんだか悲鳴が聞こえて来そうで。
牛さんだけではなく、北海道さんも、体調にくれぐれもお気をつけて下さい。
電力に関してはなるべく節電に務めるしかありませんが、北海道では人口が極端に集中している札幌とその周辺が、ほんのちょっと意識して貰って頑張ればクリアできるとおもいます。
投稿: 山形 | 2012年7月 2日 (月) 13時33分
Cowboyさん、こんにちは!
今でもあなたの大ファンです。
毎晩芋焼酎やってるイメージでしたが…まさかのゲコでしたか。(ズコッ)
しかし人間、特に日本人は肝臓の強さに差異が大きいですから、仕方ありませんよね。私もハタチの頃から「飲めない」ヤツにはウーロン茶かオレンジジュースで最初の『カンパーイ!』だけ、形だけ付き合えやってスタンスです。
自分も無理強いは大嫌いですからね。
お元気で何よりです。
大雨には気をつけて下さいね!
遠い東北から、心配しております。
投稿: 山形 | 2012年7月 2日 (月) 13時49分
掲示板では無い事は承知しております。
管理人様ご容赦を!!
山形さま
今日の十勝は所によって、霧雨状態ですが、昨日までは、真夏を感じさせる快晴と気温でした。
私の町は太平洋に近いので、十勝の中心地「帯広市」と、3~4℃気温差があり、比較的涼しい地域です。
春先の天候不順(低温)で作物が若干遅れ気味でしたが、このところの気温と天気で少し元気になってきたようです。
気になっていた「一番草」の収穫(グラスサイレージ調整)も終了しました。チョット一安心です。
ただ、牛にとっては大変厳しい暑さですが、今は牛舎に大型の扇風機が何台も設置されていますので、一昔前から考えれば、少しは過ごしやすくなっていると思います。
都府県の酪農は、暑さで脂肪分が下がると極端に生乳単価も変わると聞いていますので、暑熱対策は重要ですね。
もう少しで「梅雨」明けとなると思われますが、管理人様はじめ、皆様お身体ご自愛ください。
投稿: 北海道 | 2012年7月 2日 (月) 15時44分
済みません、管理人さん、この1通まで、ご容赦下さい。
山形さん
元気ですよ。何とか、頑張っています。
嫌になるほどの降雨・落雷で、警報が出ても、あまり慌てなくなってしまいました。
早く、明けて欲しいものです。
こちらも、九電の計画停電の実施計画はありますが、未だ、実施には至っていません。
無論、これからあるんでしょうが。
そのために、屋根に散水する設備(大したものではありませんが)を強化しようと考えています。水道は、停電でも、タンクに余裕があり、大丈夫のようですから。
奄美以南は梅雨明けしており、こちらも、カウントダウンです。
もう、セミの鳴き声が聞こえた地域もあるようですから、やや、早い梅雨明けかも知れません。
投稿: Cowboy@ebino | 2012年7月 3日 (火) 11時07分