政府事故調は事故情報の隠匿を厳しく指摘した
3.11から1年5か月たった今でも、歯ぎしりしたいような思いにかられることがあります。
それは当時の政府の許しがたい欺瞞です。あるものをないと言い、起きていることを起きていないとシラを切る、そして国民を騙しおおせられると思う、それが許せません。
まず、政府が放射性物質の拡散を予測するシステムであるSPEEDI情報を隠匿し、福島県のみならず周辺県に一切の警告を与えませんでした。
次に、政府が原子炉の炉心融解について偽りの情報を流し続け、炉心融解を承知しておきながら保安院に口止めを命じたことです。
このふたつのの罪だけで、当時の政府責任者は訴追されねばなりません。事故対応の失敗などという「高度」な課題以前の政府の国民に対する姿勢そのものの根性が腐り切っています。
さて、チェルノブイリ事故の後にスウエーデンの一部は福島県40キロ圏内と同レベルの汚染にさらされました。そしてそこで起きたことは、3.11で私たちが経験したことと驚くほど似ています。
そのことを後にスウエーデン政府は、「スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか」という本にまとめて公表しています。
報告書冒頭でスウエーデン当局は、このようにみずからを省みています。
「チェルノブイリ原発事故によって被災した直後のスウェーデンにおける行政当局の対応は、『情報をめぐる大混乱』として後々まで揶揄されるものでした。」
「行政当局は、ときに、国民に不安をあたえることを危惧して、情報発信を躊躇する場合があります。」
まさに、3.11で政府がやった二大罪・SPEEDIと炉心融解情報の隠匿そのものではありませんか。
菅総理が決めたとされる同心円的避難は、放射計物質の拡散とはまったく関係ない地域の人々を避難させたかと思うと、逆にいち早く避難すべき人々が逃げ後れるという事態を招きました。
ある地域の避難民たちは、本来は危険の少ない地域から飯館、南相馬へ逃げ込みそこで被曝しました。
また、放射能雲(プルーム)の移動をまったく警告しなかったために、茨城、千葉、栃木、群馬、東京東葛の隣県の多くの人々までもがしなくともよい被曝をしました。
特に、放射能雲が通過する時点で降雨があることを知りながら、千葉県柏、松戸、東京東葛地域になんの警告も発せず、放射性物質を含んだ雨に子供たちをさらしました。
このような本来しなくともよい被曝を予知していたにかかわらず、政治的に情報を秘匿する、これを犯罪と呼ばずしてなにが犯罪ですか。
枝野氏などの当時官邸で指揮をとっていた人たちはこのことに対して、「正しい情報は原子炉脇の排気塔付近で計測されたもので、それが爆発で得られなかったために正確な情報ではないとして出さなかった」(大意)と言っています。
こういうことをぬけぬけと言うから枝野氏は自己弁護士と呼ばれるのです。この人がかわいいのは自分だけです。
このような醜悪な言い逃れに対して政府事故調はこう判断しています。
「(SPEEDIは)避難の方向などを判断するために有効なものだった。」
「(仮定の放出量のデータであってもSPEEDIが)提供されていれば適切に避難のタイミングや方向を選択できた可能性があった」。
これは今までの国会事故調報告書から一歩踏み出した見解です。国会事故調においては、「(SPEEDI情報は)避難区域の設定の根拠にできる正確性がなく避難指示には活用することは困難」という表現にとどまっていました。
そして国会事故調は、「放射能の拡散状況を把握するのにもっとも効果的なのはモニタリングだ」としていました。
私はこれを読んだ時に、あのときの現場の状況を知らない人が書いたものだなと思ったことを思い出します。
事故直後、福島県、茨城県では長期の停電に見舞われていたのです。そして通信インフラもズタズタでした。
モニタリングするにもモニタリングポストを動かす電源がなくて、集計するにも電話すら遮断されている、これでどうして各地の放射能拡散状況が分かりますか。空論をいわないで頂きたい。
多少の誤差があろうとなかろうと、現地住民にとってこれから放射性物質の拡散が始まるぞという時に一番欲しいのは、おおざっぱでもいいから拡散情報です。
数値なんぞ多少狂おうが、大まかにどちらに放射性物質の拡散が向かっているという情報が喉から手が出るほど欲しいのです。
それと、その時点での天気予報です。どちらの風が吹いており、どこの時点で降雨がある、これだけでも欲しかったのです。
しかし、政府は一切の必要とされる情報を出さなかったばかりか、「炉心融解はない」、「直ちに健康への被害はない」などというすぐにバレる嘘を国民に広報し続けました。まさに死ね、と言いたい。
政府事故調はこう記しています。
「関係者や住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向に導く極めて不適切なものだ」。
当時官邸にいた要人たちは、スウエーデン政府報告書が今から12年も前にこのように記していることを肝に命じるべきでしょう。
「各種の研究報告によれば、通常、情報発信によってパニックの発生を恐れる根拠は無く、むしろ、多くの場合、十分に情報が得られないことが大きな不安を呼び起こすのです。とりわけ、情報の意図的な隠蔽は、行政当局に対する信頼を致命的に低下させかねません。」
このようにスウェーデン政府は、情報の隠蔽と二転三転する説明こそが国民に混乱を与える最大の原因としています。
3.11の事故における政府中枢は、やってはいけないことをすべてやり、やるべきことをなにひとつしなかった存在として歴史に残ることでしょう。
■関連過去記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/1-6a51.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-7f9f.html
■写真 ゆずの花が咲きました。花弁の蜜に蟻が酔っています。やがて秋にはたわわに柚子をつけます。翠の中の白い服の少女ように可憐な花です。
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コメント
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国民に必要な情報は、流さないと言う、官僚、政府の態度は、今後も、ずっと、続くでしょう。
大飯原発、再稼動時において、もし、大飯が福島同等の水素爆発が起きたら、四季ごとの気象条件で、どのような汚染図になるのか、SPPIDIで、計算したものを示してほしいと要望すれば、原発立地市町村の大飯町だけに、概略説明するが、他の地域には、説明しない。また、仮定の話なので、大飯町長は、住民に公開してはならない。
と言う事だそうです。飯館村もそうですが、長崎の原爆、広島の原爆など、直接、ピカドンの光を浴びず、黒い雨に当った人が、死亡したり、後遺症を残していることから、原発事故時の気象状態は、住民にとって、非常に大事な、ファクターです。
アメダスや気象衛星などと連携して、モニタリングポストの耐震化や、独立電源の設置などは、とても、重要で、スマホのために、民間は、地上局を増やしている流れの中で、容易に、モニタリングポストのデーターを確実に集められる状況は、作れるのに、作ろうとしないばかりか、福島第1から、20km圏内の一部データーが、生きていたのに、それすら正式発表しない政府は、悪代官と同じで、税金は搾り取るけど、国民のことは、考えない状況は、戦争を知らずに時代が流れた、江戸時代そのもののような気がします。
危機管理をしなくてはならない原発は、福島第1の4基と限定していることが、科学的には、理由にならないことは、原子力学者でなくても、みんな解っているはず。
本来は、再稼動したいなら、安全設備の発注を地元に出してもらい、当面、原発からの経済で、生きている人の生活を支えるべきではないのか?と、思います。原発が発電してなくても、燃料棒の適正管理と、シビアアクシデント対策は、やらなければならない仕事だからですが。。
投稿: りぼん。 | 2012年7月27日 (金) 09時40分
全くなんのためのSPEEDIなんだか…。
飯舘村が緊急時避難区域とか指定されて全村避難指示が出されたのは4月も末になってからでしたね。
おそらく法的根拠と責任問題が…とか、パニックが起こるとか侃々諤々やってたのでは。
より穿った見方をすれば、しばらくすればヨウ素は減るので線量も下がるだろうと鷹をくくっていたのではなかろうか…とも。
SPEEDIやスウェーデンの事例は、議員さんは知らなくても、少なくとも安全委員会の学者が知らなかったわけがなかろうと思います。
それにしてもチェルノブイリの事故規模の凄まじさが分かりますね。
逆に言えばまだ福島のレベルは、言葉は悪いけれども遥かにマシだったことの証明でもあります。
民間事故調や国会事故調よりも政府事故調のほうが、責任問題により踏み込んでいるというのが興味深いです。
投稿: 山形 | 2012年7月27日 (金) 09時52分
福島のレベルは、言葉は悪いけれども遥かにマシだったことの証明でもあります。
>>>これは、黒鉛炉という、格納容器を持たない原発より、格納容器がある原発の方がましと言う事で、その格納容器のヘッドを飛ばさないために、電源に因らない、ICとか、緊急サプレッションプールへの圧力逃がしなど、何種類かの、電源に頼らない、冷却装置を、手動で、止めてしまったことなどを、もっと、100:0のような、止めるか動かすかでなく、活用できていたなら、なんとか、今より、原子炉建屋から漏れる放射性物質の量が減らせたし、水素爆発も、防げたはずだと思えます、炉心が、水蒸気でなく、液体の水の中にあるうちは、高圧容器内であれば、100度以上の高温で、ようやく、沸騰する水ですので、スリーマイルのように、最悪の事態を回避できたのかもしれないのです。
これら、炉心冷却装置は、国内50基の原発で、実態は、バラバラなシステムプラントなので、各号機ごとに、メルトダウン防止マニュアルを作ることこそ、コンピューター上の机上予測(ストレステスト)より、優先されるはずなのに、保安院も政府も、何もしないのが、狂気としか言えないと思えるのですが。。
格納容器の隙間から、漏れたのは、ある意味偶然であり、その偶然に、他の原発50基が、頼りきって、再稼動というのは、科学的では、ないと思えます。再稼動したいなら、それらの対策を、具体的に国民に示せば、将来はともかく、燃料保存プールが燃料棒で、満杯になる、あと3年間について、いくつかの原発を、政治的に期限付き再稼動するのも、やむを得ないのかもしれませんが、銀行に借金するときに、担保を取るように、再稼動に値する担保を求めない、政府には、あきれます。
今は、地震、津波対策に、偏ってますが、何が原因であれ、メルトダウンさせないことが、再重要だと思っているし、地上5階部分のコンクリートプールに、MOX燃料も含めて、膨大な量の燃料棒を、持っている原子炉は、このプールの周りは、格納容器の外ですから、ある意味、チェルノブイリと同じ状況になりやすいと思われますが、なんら、対策をしないのは、なぜなのか?理解不能ですね。
投稿: りぼん。 | 2012年7月27日 (金) 11時59分