国会事故調報告書その1 福島第1原発事故は人災 1~3号に地震による損傷も
福島第1原発事故を総括する文書が出されました。
今まで民間事故調の形で中間的に私たちは事故の実態を知りましたが、より強い権限をもち、多方面の関係者を聴取した国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、政府報告書に等しいもので極めて重大な意味を持ちます。
(*正確には内閣の事故調とは法的根拠が異なっていますので、国会事故調=政府見解ではありません。)
http://www.naiic.jp/
http://naiic.go.jp/pdf/naiic_digest.pdf
国会事故調は、この春に発表された民間事故調より一歩踏み込んだものになっています。それは民間事故調が、東京電力や政府関係者に対しての強制的聴取が可能だったことによります。
民間事故調は、立場上任意団体にすぎませんから、東京電力に聴取を逃げられてしまったり、政府責任者に対しての聴取についてもやや手ぬるさを指摘されていました。
今回の国会事故調は、明解に3点を言い切ったことを私は高く評価します。
まず第1に、この事故を明解に「人災」と結論づけました。「結論の要旨」で国会事故調はこう述べます。(太字引用者)
事故の根源的な原因は、東北地方太平洋沖地震が発生
した平成23(2011)年3 月11 日(以下「3.11」という)
以前に求められる。当委員会の調査によれば、3.11 時点
において、福島第一原発は、地震にも津波にも耐えられ
る保証がない、脆弱な状態であったと推定される。地震・
津波による被災の可能性、自然現象を起因とするシビア
アクシデント(過酷事故)への対策、大量の放射能の放
出が考えられる場合の住民の安全保護など、事業者であ
る東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である
内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)、
経済産業省原子力安全・保安院(以下「保安院」という)、
また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経
産省」という)が、それまでに当然備えておくべきこと、
実施すべきことをしていなかった。
報告書には、東電と規制当局は、福島第1が「地震にも津波にも耐えられない、脆弱な状態」であることを事前に知りながら、重大事故対策、周辺住民の安全保護を実施してこなかった、としています。
したがって、この事故は人為的災害、すなわち人災であって、「天災」であることを理由に未だ責任逃れを続ける東電の主張を完璧に退けることになりました。
東電は、2009年6月とした耐震バックチェックの最終報告期限を、恣意的に社内で17年もの先の2018年1月までへと先送りし、耐震補強工事をまったく実施していませんでした。
まさに意図的、かつ、悪質な不作為です。
東電は、最終報告の期限を平成 21(2009) 年 6 月
と届けていたが、耐震バックチェックは進められず、いつ
しか社内では平成28(2016)年 1 月へと先送りされた。
東電 及び保安院は、新指針に適合するためには耐震補
強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず、
1 ~ 3 号機については、全く工事を実施していなかった。
第2に、東電事業者を監査・規制すべき監督官庁の保安院もまた東電と一体となった「黙認」を決め込んだことを告発しました。
規制する立場と規制される立場が逆転し、原子力行政に
ついての監視機能の崩壊が起きた。
規制当局の防災対策への怠慢と、官邸の危機管理意識の低さが
住民避難の混乱の根底にある。
このように規制される側=東電の社内的都合に、規制する側=保安院が合わせてしまい、本来なすべき監査を怠り事故に至らしめたのです。
この責任は重大であり、単なる原子力規制庁への再編でお茶を濁すのではなく、関係官僚の厳罰を要求するべきでしょう。
第3に、報告書は今まで震災には耐えたとされていた原子炉についても、「1 ~ 3 号機に地震動による損傷がなかったとは言えない」と断じています。
保安院は、あくまでも事業者の自主的取り組みであるとし、
大幅な遅れを黙認していた。事故後、東電は、5 号機に
ついては目視調査で有意な損傷はなかったとしているが、
それをもって 1 ~ 3 号機に地震動による損傷がなかった
とは言えない。
この歯に衣を着せぬ明確な国会の名における結論が出たことを歓迎します。次に政府の事故対応をみます。(続く)
■明日は都合により休載いたします。
■写真 霞ヶ浦の夕暮れ。真っ赤に燃える夕日が霞ヶ浦の向こうに消えていくのを見ていると、ガラにもななく、運命とか永遠などをボーッと考えてしまいました。
■関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-3e3b.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-635e.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-5a99.html
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
■国会事故調 “明らかに人災”
NHK 7月5日 14時16分
東京電力福島第一原子力発電所の事故原因などの解明に取り組んできた国会の原発事故調査委員会は、5日、報告書をまとめ、衆参両院の議長に提出しました。
報告書は、歴代の規制当局と東京電力の経営陣の安全への取り組みを批判し、何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなく、明らかに「人災」であるとしています。国会の原発事故調査委員会は、5日、国会内で20回目の委員会を開いて、641ページにおよぶ報告書を取りまとめ、黒川委員長が横路衆議院議長と平田参議院議長に提出しました。
報告書では、今回の事故について、歴代の規制当局と東京電力の経営陣がそれぞれ意図的な先送り、不作為、または自己の組織に都合の良い判断を行うことによって、安全対策が取られないまま3月11日を迎えたことで発生した。
何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の事故は「自然災害」ではなく明らかに「人災」であるとしています。
また、事故当時の総理大臣官邸の対応について、発電所の現場への直接的な介入が現場対応の重要な時間をむだにするだけでなく、指揮命令系統の混乱を拡大する結果となったなどと指摘しています。そして、国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で、国会に原子力の問題に関する常設の委員会を設置すべきだと提言しています。
一方、事故の直接的な原因について、報告書では、「安全上重要な機器への地震による損傷がないとは確定的に言えない」として、津波だけに限定すべきではないと指摘するとともに、特に1号機については、小規模な配管破断などが起きて原子炉の水が失われる事故が起きるなど地震による損傷があった可能性は否定できないと指摘しています。
そのうえで、未解明の部分が残っており、引き続き第三者による検証が行われることを期待するとしています。
黒川委員長“提言着実に実行を”
国会の原発事故調査委員会の黒川委員長は、記者会見で、「提言を一歩一歩、着実に実行し、不断の改革の努力を尽くすことこそ、国民から未来を託された国会議員や国会、国民1人1人の使命だと確信している。
原発事故はまだ終わっておらず、提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことこそ、事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し、国に対する国民の信頼を回復するための必要条件だと確信している」と述べました。
« 原理主義的な二項対立で原発問題を語る時期は終わった | トップページ | 国会事故調報告書その2 緊急対応の遅れは、事業者と政府の責任の所在と境界が明確ではなかったことにあった »
「原子力事故」カテゴリの記事
- 福島にはもう住めない、行くなと言った人々は自然の浄化力を知らなかった(2019.03.11)
- トリチウムは国際条約に沿って海洋放出するべきです(2018.09.04)
- 広島高裁判決に従えばすべての科学文明は全否定されてしまう(2017.12.15)
- 日本学術会議 「9.1報告」の画期的意義(2017.09.23)
- 福島事故後1年目 大震災に耐えた東日本の社会は崩壊しかかっていた(2017.03.16)
コメント
« 原理主義的な二項対立で原発問題を語る時期は終わった | トップページ | 国会事故調報告書その2 緊急対応の遅れは、事業者と政府の責任の所在と境界が明確ではなかったことにあった »
特定建築物は、耐震化促進法で、今年3月末までに、具体的耐震工事日程を公表しないといけないはず。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07HO123.html
1~3号機が、耐震補強が行われていなかったことは、信じられないですね。
基本、40年前の鉄筋コンクリート基準では、今のIs値(一般公共建築物で、1.25ですが、原発は、当然それ以上の安全係数を掛けているはずです)を、守れていないのに、耐震補強をしなかったのは、人災と言われても、仕方ないと思えます。
私たちは、耐震化促進法にあるように、充分使える建物であっても、Is1.1以上の建物にしないと、市町村のHPで、危険建物として、公開されてしまいます。
私の建物も、すでに、公開されており、来年度に、解体、新築を目指して、頑張っているところです。
基準値を下回った建物には、一般市民などの入場は出来ないというのが、現行法令なんですが、1~3号機は、新耐震基準に原発の安全係数を掛けた、耐震能力が、あったとは、思えませんが。。
投稿: りぼん。 | 2012年7月 6日 (金) 19時29分