短期的対応から、中長期的放射能トレサビリティに
茨城のある街の直販所に入ったところ、「放射能安全合格証」といった趣のラベルがペタペタと貼ってある農産物に出くわしました。
う~ん、気持ちは分からないではないんですがね・・・。「元茨城人」さんのような消費者からやんのやんの問いつめられれば、ならば測定して合格証の一枚も貼ろうかというのが始まりだったのでしょう。
去年段階まではやむをえない産地対応だったと思います。そうでもしなければ、産地の良心はないって空気でしたからね。
でも1年6か月だった今、まだそんなシールを貼る意味がどこまであるんでしょうか。私はなくなりつつある、というかむしろないと思いますよ。
というのは、「放射能安全合格証」というのを独自で産地が作るためには一定の基準を作らねばなりません。とうぜん、国の食品安全基準値100bq/㎏以下にしなければ競争になりませんから、ドカッ下げるのが流通業界の流行です。
その直販所では20bq以下でした。これは測定器の検出限界値でとったんでしょうが、20bqの科学的根拠はなんなのでしょうか?
たぶんないはずです。理論的根拠があって20bqにしたのではなく、ドカっと低くすれば安全だと思ってもらえるだろう」という切ない生産サイドの思い込みがあったにすぎません。
しかし、気の毒なことには、福島、茨城の農産物は食べないと言いと募る消費者にとって20bqなど、「今までゼロであったのだから20倍、いや無限倍に危険が増大したんだ」ということになって相手にもされません。残念!
むしろ「20bq以下」と謳えば、まんま「この野菜は20bqある」と考えるでしょうね(苦笑)。非常に残念!
そもそも、現実に人間は農産物以外いろいろなものを食べているわけですから、本当にリアルな内部被曝量を知りたいと思えば、食べている食事を一回ごとに全部ミキサーにぶっ込んですり潰してゲルマニウム半導体計測器にかけてみなければわかりません。
けっこう大変な作業ですが、生協連が全国的にやった数値がありますので、欄外資料をご覧ください。(日本生協連「家庭の食事からの放射性物質摂取調査結果」)
福島以外は検出せずです。検出限界は5bqです。生協連はこの報告書の中でこう述べています。
「放射性セシウムを検出した11サンプルの中央値は1.40bq/㎏でこの食事で求めた1年間の内部被曝線量は0.023mSv、年間許容線量1mSvに対して2.3%でした。」
考えるまでもありません。年間許容線量の1.9~13.6%、中央値において2.3%の内部被曝線量でガンを発症することは絶対にありえません。
つまり、現実の食卓では食品による内部被曝で健康被害が出ると考えるほうが非科学的なのです。
ありえない脅威に怯える消費者が作る「空気」に迎合するのが、このような生産サイドの自主基準値なのだと私は思っています。
本来なら、堂々と「食品由来の内部被曝はありえない」と説明すべきです。
20bqに独自設定するのは勝手ですが、ならば、国家基準が定めた年間許容線量1mSの5分の1にした合理的理由を説明する責任があります。
もしできなければ、それは消費者の一部の「空気」への迎合であり、付加価値生産のための道具でしかないことになります。
今やらなければならないのは、去年のような短期対応ではありません。今後まだありえるだろう5年後、10年後を見通した中長期的対応です。
そのためにまず、畑や田んぼをしっかりと一枚一枚測って「ほ場線量台帳」のようなデータベースを作り、それに基づいて、いかなる放射能対策をしたのかの記録を取り、そして収穫した農産物の線量がどれだけあったのかを記録して保管し、開示できるように積み上げていくことが大事です。
これが放射能トレサビリティであって、この方向に切り換える必要があります。今後「被曝地」産地がやるべきは、このような長い目で見た対策であって、商品にペタペタ「安全シール」を貼ることではないはずです。
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