原発は過渡期的エネルギーにすぎない。脱原発の「先」が大事だ
私がうんざりする気分になるのは、原子力問題がイデオロギー対立と化していることです。
必ず「脱原発」といわなければらない、あるいは逆に原子力を護持せねばならない、その二項対立の構図の中でしか議論が進んでいきません。そしてその固着した構図の中でお互いにネガティブ・キャンペーンを張っています。
脱原発派は、再生可能エネルギーを礼賛しないと怒りだしますし、原子力護持派はなにを子供じみたことをと言わんばかりに原子力に固執します。まことに不毛なことです。
「脱原発」などあたりまえではないですか。なぜなら、原子力はわが国において未来はないからです。日本における新規の増設は絶対にありえません。3.11以降、それを認める自治体があるはずがない。
また使用済み核燃料や廃炉した後に出る放射性廃棄物などの最終処分問題が、わが国の狭い国土て解決される見込みはありません。
政府はようやく核燃料のリサイクルという迷妄から覚めたようですが、一回だけのワンスルー方式にしたところで、このバックエンド問題はどこまでも原発につきまといます。
いままで稼働から30年間、40年間という常識を逸した長期間にわたって古ぼけた原子炉をなだめすかして使用してきたのは、単に電力会社経営がいぎたないだけではなく、廃炉した後の処分場のめどがたたなかったからでもあるのです。
バックエンド問題という最終末端を解決できない以上、原子力は過渡的なエネルギー源でしかなく、一刻も早くその過渡期は終了させるべきなのです。
もうこれ以上使用済み核燃料を増やすことはできない。したがって「脱原発」などあたりまえであり、問題はそれを言うことではなく、その「先」を考えることなのです。
今ある原発をいかに迅速に畳んでいくのかというリアルなテーマこそが大事であり、同時に原子力なき後のエネルギー供給を安定的に供給するという大テーマも真剣に考えていかねばなりません。
私は飯田哲也氏が言うほど再生可能エネルギーがスムーズに原子力と置き換わっていくとはとうてい思っていません。
それはかのドイツでさえ国策的な努力と膨大なコストを10年間かけていまだ16%の域にとどまっているのを見ればわかります。
ドイツは原発ゼロの代償として、石炭火力が46%をも占めるようになりました。(下図参照)
それにつれて二酸化炭酸ガスはもとより、硫黄酸化物や窒素酸化物の増大という古典的公害が復活しました。 (下図参照)
またFIT(フィード・イン・タリフ・固定価格全量買い取り制度)の失敗によって、ドイツやスペインは国家財政が傾き、年々買い取り量を減らして、額も下げていかざるをえませんでした。 (下図参照)
一方、日本はこの石炭ゼロエミッション(環境低負荷)の技術は保有しています。これをさらにIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素回収・貯留)技術の本格実用化へとつなげていく必要があります。
太陽光の転換率は国際的に最も高い効率をもつ技術も保有していますし、再生可能エネルギーの核心技術であるはずの蓄電池の研究もおそまきながら進んでいると聞きます。
つまり、技術的には原子力が減衰するのを置き換える石炭・石油火力発電の環境技術的な解決はドイツよりは進んでいるとはいえます。
ただし、コスト面では長期に渡って非常に高価なエネルギー源となることを覚悟せねばな りません。電気料金の高騰は当然のことです。
しかし、わが国特有の「技術は一流、政治は三流以下」という体質のために、こともあろうに失敗を宣告されているドイツ型FITを導入してしまいました。
これにより先行投資者のみが利益を上げるえげつない修羅場に誕生まもない再生可能エネルギーは投げ込まれてしまったことになります。
そのうち詳述しますが、おそらくはFITの性質からして技術革新は進まず、安価な中国製品にパネル市場は独占を許すことになるはずです。 (下図参照・見にくいですが赤線の中国製が急上昇しています。)
原子力をゼロにしていくためには、技術的なブレークスルー(突破)と、それを保証する制度的裏付けがなければなりません。
この両者があって初めて「原発ゼロ」になるのです。選挙目当てに専門家会議ひとつせずに決められた政府の「原発ゼロ」路線などは、かえって問題をこじらせるだけのものでしかありません。
■関連記事 本日アップしたデータの詳細な解説は以下の過去記事をご覧ください。
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放射性廃棄物の処分問題は、1972年のロンドン条約を契機に(日本は1980年加盟)廃棄物の海洋投棄が原則禁じられ、1993年に正式に放射性廃棄物の海洋投棄が禁止されたことで発生しました。それまでは高レベル放射性廃棄物も海洋投棄を基本としてきました。日本でも1955~1958年にかけて計15回、伊豆諸島や御前崎近海等に合計で15テラベクレルの放射性物質を投棄しています。
1993年のロンドン条約改定によって、世界各国で放射性廃棄物の処分場問題が起こっており、この問題を完全に解決している国は共産主義国家ぐらいです。
この問題のポイントは放射能レベルが低レベルであれ、高レベルであれ、放射性廃棄物は海洋投棄が出来なくなった以上、陸上で保管する義務が生じた訳です。
そして、放射性廃棄物は原発だけでなく、医療機関や研究機関からも大量に発生します。
つまり、原発が存在しない国であっても、医療や研究の分野で放射性物質を取り扱っている国では、処分問題は発生しているのです。
その点で言えば、原発が無くなれば放射性廃棄物問題が解決できるような話は詭弁もいいところだと言えます。
原発問題だけで放射性廃棄物の最終処分場問題を語るのは、「木を見て森を見ず」と言うのが真実でしょう。
原発から出る高レベル放射性廃棄物も問題ですが、放射性廃棄物全体から見ればその一部でしかありません。
悪いのはすべて原発、と決めつけて、処分場問題に全国の医療機関がその片棒を担いでいる事実を看過するのは恣意的な捏造とさえ言えるような気がします。
震災瓦礫の受け入れに反対し、基準値以下の食品に対して0ベクレルを要求するような人間が医療機関で治療や検査を受けた結果発生した放射性廃棄物は、どこで処分されるべきなのか、本人に聞いてみたい気がします。
「福島のゴミは福島で処分するべきだ」と言う理屈が通じるなら、全国の医療機関や研究機関で発生した放射性廃棄物は、同じように発生した地元で処分するのが筋です。
そうやって、全国都道府県でそれぞれ最終処分場を作ると決まれば、今度は市町村単位でNIMBY問題が勃発し、今度は全国市町村単位で最終処分場を作ることになるんですかね。
ホント、バカバカしい話です。
投稿: ぱっく | 2012年9月 6日 (木) 16時41分
日本の放射性廃棄物の海洋投棄は1955~1969年でした。
訂正してお詫びいたします。
投稿: ぱっく | 2012年9月 6日 (木) 16時55分
ぱっくさんに同意と補足。
エリツィン時代の経済ドン底のロシアでは、日本海に原潜用原子炉をポイ捨てしてましたし(今もそのまま)、
冷戦時代の空中アラート任務の米軍B-52爆撃機の墜落や誤投下で、スペインやアイスランド沖合いの深海には未だに未発見の核弾頭が沈んでいます。
また原潜事故を起こした大西洋でも同様です。
医療用放射性物質では極端な例ですが、ブラジル・ゴイアニア市セシウム被曝事故(事件)が有名ですね。
あれは、それこそ治安の悪さと無知と無責任によるものですが、今でも世界の何処かであり得る笑えない話です。
また、教材用の放射性物質のサンプル(もちろん鉛のケースで遮蔽されていますが)なんか、ロッカーの鍵をこじ開けるなりガラスを破るなりすればいくらでも盗みだせますよ。全国の高校で。
ぱっくさんの仰るように、福島のは福島県でなんて全くバカバカしい。
それこそ自分の自治体で処理して下さいな。
遥かに安全な三陸の瓦礫の受け入れに反対して、狂気の表情で騒いでいる方々、よろしくお願いしますね。
また、昨年激しく大騒ぎしていた京都の送り火反対運動ってなんだったんでしょう?
少しは頭冷やしましょう。
投稿: 山形 | 2012年9月 7日 (金) 07時49分