「安全・安定・安価」なエネルギー源で賢く「節電」しよう
こず様からこのようなコメントを頂戴しております。ありがとうございました。
「(前略)私が今一番大事と思うのは、使わないという選択。
IH、食洗機、電気ポット、ドライヤー、掃除機etc
熱エネルギーに、動力エネルギーに係る電気ってすごく無駄に思えてなりません。」
このこず様に対して、あるコメントには「原発がそれでやめられる」というようなものもありました。 さて、そうなんでしょうか。
私はこず様の意見にはちょっと違うものを持っています。
お気持ちはよく分かるし、私自身、すべての電灯をLEDに交換したり、電熱関係の家電はかなり前から使っていません。今は電気炊飯器の保温すら使用していないほどです。
この「電気を愛おしく思う」という感情は、私が15年前に太陽光発電を取り入れた時からでした。あれ以来、我が家には「電気の無駄遣いはドロボーの始まり」という標語があるほどです。 (笑)
しかし、それも3.11では無力でした。実に4日間電気なしの生活を味わいました。暗いのは平気ですか、特に参ったのは水です。電気がなければ、水も汲めません。うちは井戸だからです。モーターが動かなければ、水一滴でないのです。私たち人間はともかく、家畜が死んでしまいます。
風呂の水を使い、近所の風呂水まで分けてもらい、もうテがなくなって川で水汲みをするはめに。バケツを持っての急斜面の上り下り、腰に効きましたね(笑)。
そして大停電に続いて待っていたのは、あの節電の長い「暗くて暑い夏」でした。これを今年もやってしまい、とうとう2年目の「長い夏」となりました。
だから、はっきり言えます。もう消費サイドの節電には先が見えている、と。
さて、現代文明は高度に工業化され、都市部への人口集中がなされています。農業すらその例外ではありません。農業は今や機械化が行き届いています。
世界人口約70億人のうち半分の51%は都市に居住し、先進国ではその比率が高まり日78%が都市生活をしているといいます。
エネルギー問題は、とかく「原発稼働か、脱原発か」というひとつの判断軸で語られがちですが、この世界人口の半分が都市に生活していて、エネルギーの一方的消費者であるという厳然たる事実から始めなければ空論ではないでしょうか。
たとえば、都市生活を支えるためには「動脈系」、「静脈系」、「循環器系」が必要てす。都市に食料や水を供給するには自動車や鉄道が必要ですし、そのための交通、通信インフラも必要です。
健康な都市生活を営むためには、上下水道がなければなりません。大量に排出されるゴミの処理施設も動かさなければなりません。
一方、都市生活を支えているのは、私たち農業部門です。農業は毎日膨大な野菜、肉、魚を都市に送り届けています。
これには、先に述べた道路インフラが必須ですし、生産自体にも大量の化石燃料を用いています。ハウス栽培は重油を焚きッ放しですし、水をくみ上げたり、田畑に水をやる水利・灌漑にはたくさんの燃料が必要です。
第一、田畑を人力で起こす農家は皆無でしょう。トラクターや収穫のためのコンバイン、選別作業の器械などには大量のエネルギーが必要です。私自身は使いませんが、化学農薬や化学肥料はそもそも石油化学の副産物です。
つまり、現代世界の工業化と都市への集中という二大条件を支えている基盤は、ほかならぬエネルギーなのです。ですから、「電気」という命綱を切られれば、一瞬にしてその場で停止し、そしてたちまち腐り始めます。
それが好むと好まざるとに関わらず、エネルギー依存、いやエネルギー中毒患者となってしまった現代文明の姿なのです。これはいい悪いの価値判断ではありません。現実なのです。
これは3.11以降、ゆっくりと転換していくことでしょう。こず様のおっしゃるようにエネルギー低消費型生活、あるいは自らもエネルギーの一部を「耕作」していくライフスタイルも生まれてきつつあります。
製造部門も、消費部門よりいっそう困難でしょうが徐々に低負荷、低エネ消費型に向かいつつあります。ただし、時間はかなりかかると思いますが。
しかし残念ですが、これらの需要サイドの節電によるエネルギー消費低減には自ずと限界があります。なぜなら、需要サイドよりも、エネルギー供給サイドのほうがエネルギーロスが多いからです。
たとえば、総発電量の5%もの送電ロスが出て、それだけで実に1年間約4587億~580億kWkの損失となるとのことです。100万kW級大規模原発の実に6基分~10基分にあたります。これを直流超伝導送電網に替えていけば巨大な「節電」となります。
送電ロスと超伝導送電網については明日記事で詳述します。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-bcef.html
またもうひとつ見逃されやすい要因は、エネルギー源の発電コストです。これを下げるだけで、投入したエネルギーのロスは激減していきます。
それを知るにはエネルギー源ごとの産出/投入比率(EROEI)が評価方法として世界的に使われています。
これは産出されるエネルギー量を、そのために投入されるエネルギー量で割って求められます。ですから、この比率が高いほどエネルギーロスが少なく、低コストで価値が高いということになります。
誤解されそうなのであらかじめお断りしますが、これは太陽光発電でよく言われる転換効率のことではありません。 転換効率は太陽光の発電効率にすぎず、産出/投入比率は、機器の製造コスト、輸送・設置コスト、排出・環境負荷まで含んでいる概念です。
これを提唱しているマサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・チルツァキアン教授はこう述べています。
「エネルギー源の価値を決定するすべての要因の中で、最も重要なのはそのエネルギー源が獲得するのに必要なエネルギー量と、そのエネルギー源が持っていくエネルギー量との比率、すなわち産出/供給比率である。」
●エネルギー源ごとの産出/投入比率(EROEI)
・石油・天然ガス・・・20倍(米国)~100倍(中東湾岸)
・石炭 ・・・30倍前後
・原子力 ・・・20倍(注・ただし廃炉・賠償コストなどを含むと大きく下がって10分の1以下になるのではないかと思われます。筆者)
・風力 ・・・10~20倍
・太陽光 ・・・5~10倍
(エネルギー・環境問題研究所 石井彰氏による)
この数値は、石井氏が断っているようにあくまでも推定値であり、どこに立場を置くかで偏りがでます。しかし、大きな目安になります。
石油や天然ガスの倍率が高いのは、自噴するからです。掘ってしまえば、あとは自分の内圧で湧き出してくるからです。だから、石油は政情不安な中東に強く依存しつつもエネルギー界のチャンピオンの位置はなかなか揺らぎません。
この比率をみれば、1のエネルギーを産出ために、再生可能エネルギーは石油の5倍から10倍のエネルギーを投入せねばならないことがわかります。
私は、今後のエネルギー問題はこの産出効率とコストを視野にいれなければ空論だろうと思います。ただひたすら消費者にプレッシャーをかけて、節電漬けにするのが良策だとは思えません。
賢い「節電」は、家庭や街を暗くすることでも不便にすることでもなく、「安全、安定、安価」なエネルギー源を選択することなのではないでしょうか。
■写真 真夏の湖岸を走るランナー
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コメント
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モーターポンプ井戸でしたか。今時そうですよね。
私もあの日、緊急地震速報見てた途端にストンと停電。明るいうちに一通り家の被害状況を確認したあと、送水ストップにそなえて風呂に水を貯めました。
両隣は農家さんで、上水道と井戸を併用しているのですが、停電で汲み上げ不能になりました。
ウチの辺りは幸い水道は無事で、火力もキッチンはプロパンガスだったので幸い調理に必要なお湯は確保。しかし石油ボイラーは電子制御なのでダウン。
蝋燭を用意したりバタバタしましたが、凍える寒さに震え余震の恐怖に耐えながら明るいうちに飯を済ませ早々に蒲団に潜りこんで、電池を節約しながら時々ケータイで情報を取得。
東北全域停電という前代未聞の事態に晴れ渡る美しい星空。全く非現実的な世界でした。
外を見渡しても、灯りが見えるのは山形新聞・放送のワンフロアのみ(ラジオと編集は出来たけど、輪転機を回す電力は無かった)。
他の最新ビルは、夜10時には自家発電もダウン。暗闇に。
巨大地震に対してあまりにインフラの脆弱なことか…。
幸いだったのは、翌日の夕暮れまでには県内は大方の電力が復旧したこと。
そして寒かったおかげで冷蔵庫の中身がほとんど無事だったこと。
とりあえず日持ちのしない肉類や前年からの残りの処理に困っていた素麺の残りから、適当な料理を作って凌いでました。
現実問題として、企業や家庭での節電やバックアップ強化なんて限界があります。
安定した電力網の構築と、家庭用や企業用の狭い範囲での電力供給構築(かなりの金銭的負担が生じますが)しか、今すぐにできる対策はありません。
また、停電解消した途端に皆が一斉に水を使ったので、下水処理場がパンク寸前になり、ラジオで慌てて節水を呼び掛けるという異例の事態が起こりました。
インフラってのは上流から下流まで総合的に考える必要があります。
1年半も経ちましたが、まるで昨日のことのようです。
山形市ですらそんな状態でしたから、太平洋側や津波に襲われた沿岸部の被害は想像を絶します!
改めてお見舞いを…。
投稿: 山形 | 2012年9月24日 (月) 08時00分
色々な節電があるんですね。
投稿: 吉野@電気医療 | 2012年9月26日 (水) 02時01分