こず様のご質問にお答えして 再生可能エネルギーの限界について
こず様からいいご質問を頂戴しましたので、これに答えさせていただく中で話を進めていきたいと思っています。
「東電の言いなりに電気料金を払うのもシャクなのですが、再生可能エネルギーって生産エネルギー以上に発電できるのですか?
特に太陽光発電は金儲けの道具になっている気がしてなりません。廃棄も含めて、原発以外の今の電力会社の発電方法より地球の為にいいのでしょうか?」
再生可能エネルギーと人間とのつきあいは非常に長く、ある意味化石燃料より長いとすらいえます。
しかし、その「長いつきあい」の割にエネルギー源に占める割合は、再生可能エネルギーを国策としたドイツでさえ最大で16%ていどにすぎません。
その内訳はというと、風力発電が4割、バイオマスが3割、水力が2割、太陽光が1割未満です。
太陽光は再生可能エネルギーの代表選手のように思われているものの、実は全エネルギー源の0.2~0.4%(2010年現在)にすぎません。
そう聞いて驚かされるのは、太陽光発電があまりにしょぼいことです。わずか0.2~0.4%ではそう言われてもしかたがありませんよね。
ご質問の生産コストと産出電力量との比率に関しては私は資料を持ち合わせませんが、太陽光のていどの効率では低いといえると思います。ただし、再生可能エネルギーは多種多様ですので一般的な断言はできません。
むしろ私が問題だと思うのは、再生可能エネルギーが増えることによって、ドイツは環境負荷の大きい石炭火力発電に49%、すなわち約半分のエネルギー源を依存してしまったことです。
好むと好まざるとにかかわらず、脱原発によって化石燃料シフトが起きてしまったのです。
これは再生可能エネルギーを法律で強制的に導入させられた産業界が電力コストを低く抑えるために窒素酸化物や硫黄酸化物が大量に出ることを知りながら石炭を使用しているからです。
そのために、ドイツの大気汚染は脱原発政策によって確実に悪化したと言えます。特に2008年からの2年間の二酸化炭素の排出量の増加は危険視されています。
これを見ると、ドイツ型脱原発政策は単に電力価格が高騰するだけではなく、環境悪化につながりかねないことがわかるでしょう。
さて、世界で最大のメガソーラー発電所はどこか知っていますか?それは米国のモハベ砂漠で計画されている40万キロワットなのですが、この稼働率は砂漠なのにもかかわらず2割ていどなので実質10万キロワット程度の発電能力しかありません。
これは通常サイズの天然ガス・コンバインドサイクル火力発電所1系列の4分の1ていどでしかありません。原発と比較するのは気が進まないのですが、あえてしておけば1基の10分の1ていどのものでしかありません。
これではジャンボジェットのエンジン1基分も出力できません。しかもそれは瞬間最大出力時であり、朝や夕方、曇りや雨ではほとんど発電しません。
そして太陽光は既に発電転換率の理論的限界値まで達してしまっているため、今後の伸び白がありません。
つまり、太陽光発電はいかに脆弱な電源かと言うことです。私は太陽光は原発の代替ネルギーとしてはもっとも不適格だと思っています。
今脱原発運動の中で、過剰な太陽光発電への期待が作られていますが、私はほどほどにしておいたほうがいいと老婆心ながら思っています。(ちなみに私は初期の太陽光発電の導入者で、もうかれこれ15年間も使っています。)
ですから、私は太陽光発電に42円もの飛び抜けて高い固定全量買い取り制度(FIT)を導入することには反対でした。
もっとも期待薄な電源に最も高い買い取り価格を設定するなどあまりに酔狂にすぎます。FITは政府の税金を使っての政策誘導なのですから、もう少し賢明てなければればなりません。
この制度は初期に先行した投資家のみが得をする仕組みですから、(来年から買い取り価格は下がります)、儲けるなら今のうちとばかりに外国のファンドが日本にメガソーラーを作る計画も進行しているようです。
その連中は中国製の安いパネルしか使いませんから、国富をジャブジャブ外国に流出させているようなものです。
北欧の農業国のエネルギー転換ではなく、世界最大級の工業国のそれなのですからもう少しバランスよく考えたほうがいいと思います。
さて、こず様のもうひとつ質問ですが、
「廃棄も含めて、原発以外の今の電力会社の発電方法より地球の為にいいのでしょうか」
太陽光パネルは有害な化学物質が一部含まれていて、パネルのシーリングが粗雑だと漏れだす可能性があります。事実、米国製の製品にそのようなものがありました。
パネルの寿命はメンテナンスさえよければ50年くらいはもつでしょうからまだ大量廃棄の時代は迎えていません。そうなった場合はパネル廃棄問題が浮上することでしょうね。といっても、原発の廃炉よりは比較にならないくらいましですが。
太陽光発電の環境問題はむしろ先に述べたように、太陽光などの再生可能エネルギーが増えると、ドイツのように化石燃料発電が増えて大気を汚すことです。
再生可能エネルギー自体はクリーンなエネルギー源ですが、バックアップに化石燃料発電を必須とするために、結局、原発より環境負荷が多くなってしまっています。
日本は石炭火力ではなく、天然ガスなどの環境負荷の少ない代替エネルギーを選択すべきではないでしょうか。
3番目の質問としてとして
「地域で発電のネットワークが出来たとして、その電気は出来た地域で使えるのですか」
う~ん、現状ではかなり困難です、と言っておいたほうが正直かな。
釜石のような風力発電や電力会社所有ではない火力発電所は一括してPPS(新電源)と呼ばれているのですか、これは原則は事業所向けであり大口消費者しか利用できない仕組みがあります。
ですから、PPSは残念ですが消費者個人では利用が難しいのが現状です。ただし、行政が中に入って市民をグループ化して共同購入するなどの方法で利用が可能になります。
この方法を使って、東京都でも東都生協やパルシステムなどが再生可能エネルギーのPPSからグリーンエネルギーの共同購入を開始しようとしています。
この系統電力という壁は発送電分離の問題とからまっていますので、当分は抜け道を作るか、代替エネルギー特区を作るかして乗り切っていかねばなりません。
いずれにせよ、現在は原発という過渡期的エネルギーから別のスタイルへの転換期です。その工程もろくすっぽ論じないうちから2030年までに原発ゼロとか言うほうがおかしいのです。
しっかりと議論しましょう。それが最良の「脱原発」の道です。大変鋭い質問をありがとうございました。私も勉強になりました。
■写真 霞ヶ浦の真夏。灯台のようなものは標識です。
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コメント
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失敗しつつあることが分かっていながら、そのドイツの真似をした制度設計で突進する日本。ヤバいだろう…。利権の臭いがプンプンですね。当時の首相はパネル設置1千万戸とか、国際会議で勝手に発言してたり。
ちなみに先程ヤフーで見たニュースでは、欧州の需要減で、ディスカウント価格で各国メーカーを駆逐してしまった中国のパネルメーカーが、軒並み過剰在庫で赤字転落だそうです。
巨額投資して傾いたSHARPなんか、たまったもんじゃないですな。
太陽光や太陽熱発電を否定はしませんが、あくまで補助的なものでしょう。
モハーベですら最大40万キロワット…なんじゃそりゃ。
地熱や小水力にバイオマス、はたまた藻を利用したエタノールの方が将来有望でしょうね。
他に波力や海流なんてのもありますし、先程入ったニュースでは、パナソニックが温熱発電パイプなるもの(ペルチェ素子と違うのかよくわかりません)の実用化に目処とも。策は色々ありますね。
どれが早く充分な成果を出すかの勝負ですが…。
いずれにしても、地産地消するには、制度上の問題のクリアと、高性能で安全なバッテリーとキャパシタの組み合わせを実現するか、結局はバックアップの火力発電の維持が必要ですね。
私個人としては、福岡大学の「レンズ風車」に注目しています。
空力的には実に単純で、目から鱗でした。ダイソンの扇風機と風車を合わせたような物というか…。
長文失礼しました。
静かな湖面に夏雲。きれいな写真です!
今年はまだまだ暑いですね…もうバテバテ。
投稿: 山形 | 2012年9月12日 (水) 07時55分
太陽光発電をした電力を電力会社の電気料金よりも高い価格で電力会社に売電することができる。
その差額は電力会社が電気料金に上乗せする。
従って、太陽光発電をしていない人々が負担しなければならない。
その結果、普及すればするほど貧しい人々はますます貧しくなる。
その上、国や自治体が税金を使って太陽光発電設備の設置に補助金を出している。
太陽光発電をしない人々はその税負担もしなければならない。
このような、貧乏人にしわ寄せがいくような制度は速やかに廃止してもらいたい。
この制度はメガソーラーで一儲けしたいソフトバンクの孫正義社長が当時の菅直人首相と結託して制定したもの。
投稿: 太陽 | 2012年9月12日 (水) 13時31分
太陽光発電システムを販売する知人(同級生)が、言ってました。
「10Kw/hの発電量を堺に、電気の買取単価が違うから、今は、一般家庭より、屋根の広い畜舎をターゲットにしている。」と。
当然、いつまで、買取単価が保障されるか分かりませんが、とても、胡散臭い話です。
この手の話には、必ず金融機関が加わってきます。(青空さん、大意はありません)
今現在、その金融機関を巻き込んで、結構な契約数らしいです。
何か、嫌な予感がします。
投稿: Cowboy@ebino | 2012年9月12日 (水) 14時07分
管理人様
タイトルの「こび様」は「こず様」が正しいので、訂正をお願いします。
小さい事で申し訳ありません。
投稿: 北海道 | 2012年9月13日 (木) 08時28分
すいません。直しました。
投稿: 管理人 | 2012年9月13日 (木) 09時45分
青空です。
Cowboy様がおっしゃると通り大規模太陽光システムの導入には金融機関が暗躍しています。私はあまり好みませんが
本部はご執心のようですね。
太陽光発電はその不安定さ故にベース電力としての期待はもてず、管理人様ご指摘の通り其れと同出力の発電機能を要求する仕組みです。渇水や故障も加味すれば日本全国単位であと500万キロワットの発電余力は必要でしょう。
しかし、太陽光にせよ風力にせよ発電量がゼロではない。
私としての注目事象は原発を失った今、
国内の安定電力供給をどう設計し仕組みを作っていくか
そして毎年3~4兆円以上国外に流出する燃料代と
世界全体のエネルギー資源の急激な消耗をどう防ぐかです。
安定供給源にならずとも太陽光活用は
エネルギーの節約には寄与します。
管理人様はここ10年以上太陽光を利用した先駆者です。
その成果はどの程度の節電に役立ったのかは興味があります。
お時間有る際に触れていただければと思ったりします。
投稿: 青空 | 2012年9月14日 (金) 15時15分