ドイツのFIT離脱方法とは、消費者負担増による「ボーナス制度」だった
電力自由化は脱原発の切り札と言われています。しかしその一方で、電力を英国のように本気で自由化するとまだまだ幼児段階の再生可能エネルギーが大苦戦することもわかってきました。
理由は、元々再生可能エネルギーのコストが高い上に、天気任せの気ままな電力なので送電網に組み入れるのが難しいからです。
電力自由化と は電気料金の自由化でもありますから、高コスト電源である再生可能エネルギーはたちまち吹き飛ばされてしまいます。
ドイツは再生可能エネルギーが20%近くにまで増えてきました。これは膨大な助成金と電気料への賦課金の上乗せがあったからです。
これが悪名高いFIT(固定全量買い取り制・ドイツ名EEG)によるベタベタに甘ったるい保護政策でした。
この過保護政策が仇となってドイツの再生可能エネルギーは、保護なしでは生きられないプー的体質になってしまいました。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-cb78.html
これでは計画どおり将来80%(!)まで再生可能エネルギーを増やした暁には天文学的補助金を支出せねばなりません。早くこの脛ッかじりを自立させないと「親方ドイツ」は大変なことになります。
そこで徐々にFITの買い取り価格を2016年までに半分にしていく大鉈をふるいました。(下図参照)この時、太陽光パネル工場の労働者がパネルをぶっ壊すデモような反対デモをしましたが、連邦政府はFITからの段階的撤退の道を進んでいます。
一方、ドイツ政府は2011年1月にFITに代わる新たな再生可能エネルギーの買い取り方式を打ち出しました。「市場ボーナス制度」といいます。
これは再生可能エネルギーの発電業者が電力市場に売る場合、電気の市場価格とFIT価格との差額を「市場ボーナス」として需要者側に補填してもらえる制度です。
つまり、電力市場では通常価格で売っても、需要者から差額を支払ってもらえるというわけです。再生可能エネルギー価格が高い分を国ではなく需要者が払うというものです。
つまりは金の出所が、政府から一般需要家の企業や消費者になっただけと言っていいでしょう。
またもうひとつの「改革」は、再生可能エネルギーが今まで電力市場に対しておこなってきた供給量予測と供給時期がズレた場合、市場規則に従って発電業者は罰則を受けねばならなかったのですが、これを変えました。
罰則はそのままですが、発電業者に対して「管理ボーナス」を1キロワットあたり1.2ユーロセント(約.2円)を与えることにしました。
この「管理ボーナス」制度を使えば、仮に1.5メガワットの風車やメガソーラーを持つ発電業者が2500時間運転すると約6800万円のボーナスを受け取ることができます。
この発電業者側に圧倒的に有利な制度のおかげで2011年1月には前月比で6倍に売り上げが伸びたそうですから笑いが止まりません。
この「市場ボーナス」と「管理ボーナス」制度によって、FITを止めてこちらの制度を使う業者が増えると見られています。
このような「ボーナス制度」を市場メカニズム導入と言えるのかはなはだ怪しいもので、事実このボーナス制度によって需要側は年間約2億ユーロ(約200億円)もの負担増になったそうです。
このFITはいったん始めると一種の麻薬のようなもので、メルケル政権の経済相のレスラー氏は「甘い毒」とまで呼んでいます。
切るに切れないズブズブの補助金漬け体質になってしまうからで、止めようとしても止められなくなるのが分かります。
結局のところ最後には、企業や消費者が泣く泣く肩代わりしていくことになります。日本は自らの進退をFITの導入条件とするという首相の奇策でなんの国民的議論もないままに開始されてしまいました。
マスコミには「ドイツを手本にしろ」と叫ぶ人が大勢いますが、まさにそのとおりです。日本はドイツのこの苦い経験を大いに「手本」にすべき時です。
日本でも、再生可能エネルギーはなんらかの政府補助金を支出すべきだと私は考えています。初期補助金のブースターなくては再生可能エネルギーは離陸できないからです。
しかし、それをドイツのように電気料金に賦課金のように上乗せしていつまでも消費者の肩に背負わせるべきではありません。
むしろ徹底した電力自由化により配電まで分離し、再生可能エネルギーを消費者が自由に選択できる仕組みを作るべきです。
だまって作れば全量高く売れるなどという「甘い毒」のFITではなく、経営努力をして電気料金引き下げに努め、技術革新で発電の効率化と平準化を図り、エコ電力の価値を啓蒙していくことで消費拡大していくという普通の企業ならどこでもやっている自助努力が必要です。
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