EUはドイツを「電力自由化の後進国」と名指しした
ドイツは2002年に第1次脱原発政策を開始します。去年のメルケル首相の第2次脱原発政策に遡ること10年前です。
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にもかかわらず、第1次脱原発政策の評価は高いとは言えませんでした。それは「稼働30年間」とした原発規制が実は抜け穴だらけだったということもありますが、もうひとつ大きな失敗の原因があります。
それが昨日見た「電力自由化」の失敗です。電力会社の地域独占は、この中途半端な「改革」によりかえって強化されてしまいました。
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新規参入した発電会社が1998年の「改革」開始から7年間で100社からわずか6社にまで減ってしまったことがそれを裏付けています。託送料のつり上げのために新エネルギーの会社はたった6%しか生き残らなかったのです!
シュレイダー政権は2000年に再生可能エネルギーの優先権を与えるFIT(固定全量買い上げ制)や、電気料金にエコ電源に対して12.7%もの助成金を与えるなどのテコ入れを始めていますが、新規参入電力会社が枕を並べて討ち死にしては仕方がありません。
競争メカニズムが健全に働いているかどうかのもうひとつの目安に、大口需要者(企業向け)の電気購入の切り換えがありますが、英国、ノルウエイなどの諸国の平均は50%以上なのに対して、ドイツはわずか6%にすぎません。
またもうひとつの競争指標である電力料金は、大口需要者料金が2004年調べでEU平均がメガワット当たり58ユーロなのに対して、ドイツは69ユーロ(6900円)で、ヨーロッパ一高い料金です。
ドイツの電力の戦時独占体制はいささかも揺らいでおらず、再生可能エネルギーは拡大せず、大手電力会社はあいも変わらずコスト安のために既存電力源に依存し続けたことが分かります。
これでは緑の党までが加わった政府がいかに口酸っぱく脱原発を叫んでもかんじんの電力会社が馬耳東風では、原発からの脱却など進むはずがありません。
脱原発ウンヌンというより、電力事業という経済の根幹の独占状態を少しも改善しようとしないドイツに対して、「ブリュセル官僚」こと欧州委員会が本気で怒り出しました。
欧州委員会はドイツに対して、「自由化後進国国」という恥ずかしいレッテルまで貼り、EUの要のドイツがそのていたらくでは示しがつかないだろうと攻撃したのです。
欧州委員会は全ヨーロッパの統合送電網を目指しており、そのためには発電と送電を分離させねば、ヨーロッパのエネルギー市場の活性化はありえない」(バローゾ欧州委員)と考えていました。
そして発電会社に完全に送電網の所有権を切り離すように要請してきました。これは持ち株子会社への所有移転も許さないという徹底した内容でした。
欧州委員会は電力会社の裏技であった託送料つり上げをできなくするためにドイツに対して規制官庁を作ることを命じました。これを受けて出来たのが連邦ネットワーク庁(BNA)です。
次いで、とうとう2004年にはドイツが発送電分離をこれ以上遅れさせるならば 欧州委員会は命令してでも実行させるという強い申し入れをしました。
しかし、ドイツが本気で発電と送電分離を開始したのは2011年のメルケル政権による第2次脱原発政策まで待たねばなりませんでした。いかに業界の抵抗が強かったかお分かりになるだろうと思います。
電力業界は、ドイツ最大手の電力会社であるE・ON社長ベルノタート氏が言うように、「送電網は株主の所有物送電部門の切り離しは、所有権の剥奪に等しい。EUの介入は電気料金の引き下げにつながらず、電力の不安定化を招く」と反論しました。
冗談しゃねぇ、ゼッタイに送電網を売るもんか、というわけです。この強硬な電力業界の反対にメルケル政権もたじろいだのですが、なんとさっきまで息巻いていたE・ON社は2008年2月にあっさりと送電網をオランダの送電会社に売り飛ばしてしまいます。
これには裏話がありました。実は「ブリュセル官僚」は、ドイツ連邦カルテル防止庁と共同でE・ON社が他の大手電力会社とカルテル行為をしていると見て捜査を行っていたのです。
カルテル行為だと認定されれば(たぶんそうだったのでしょうが)電力会社は売り上げの10%もの罰金を課せられます。E・ON社だけで数億ユーロの罰金を支払うはめになったでしょう。
それがわかった瞬間E・ON社は豹変して、捜査の打ち切りを条件に送電網を売却します。もちろんそんな裏取引があったことなど双方は認めませんが、ドイツ人は皆そう信じているようです。
そしてこの後に福島事故が起きて、それが決定打となります。ドイツで最も長い送電線を誇っていた業界2位のRWE社は銀行と保険会社の共同出資体に13億ユーロ(1300億円)で売却するなど発送電分離が急激に進みました。
このようなドイツの例をみると、いったん強固な電力会社の地域独占を認めてしまうと簡単にそれは修正が効かないと分かります。
またドイツの電力会社だけが悪者のようにみえますが、必ずしもそうではありません。
実際にその後ドイツ電力会社が予言した電力の不安定は起き続けましたし、外国に送電網を握られるのはエネルギーの安全保障上気持ちがいいものではありません。送電網のメンテナンス面も不安です。
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第一、送電網を大枚の金を出して作った所有者は発電会社なのですから、その所有権を時の政権が売れと命令するのは自由主義経済の建前の上からは筋違いであることも事実です。
ドイツの場合、なんと言っても国家主権を超越するEUが存在していましたからなんとかなったわけですが、それが期待できないわが国では相当な難航が予想されます。
東電のような巨額の借金で首が回らなくなっている所ならなんとかなるかもしれませんが、他の電力会社が簡単に同意するとは思えません。
脱原発政策を進めるためには、原発の国有化とワッセットで送電網買い上げをすることになると思われますが、ドイツ以上の困難が待ち受けていると覚悟したほうがいいでしょう。
それにしてもこういう具体的な道のりを考えないで、何年後には何%削減だなどとどうして言えるのか不思議でなりません。
■写真 霞ヶ浦の朝です。曇天の空が重く垂れ込め、遠くに朝日がかすかに見えます。
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