ドイツ・電力自由化の逆走 電力自由化が独占強化に結びついてしまった
どうしてこうドイツにこだわるのかと言えば、たしかにひとつは何かにつけてわが国と比較されるので少々辟易としているという私の気分もあるのですが、やはりドイツの脱原発問題、つまりはエネルギー問題が日本と似ている部分が多いからでしょう。
まず、歴史が似ています。ドイツでは戦前の地域ごとに別れて多数あった電力会社が、ナチス政権による1939年の「エネルギー経済法」によって地域独占に統合されました。
そしてこれはどこの国も似たようなものですが、第2次大戦前夜に総力戦に備えていっそう電力会社の独占が保護されました。軍需工場をフル生産させるためには、電力の安定供給が必須だからです。
戦争中はいたしかたがないとして、問題は平和になった戦後も自由体制に戻らずにそのまま電力の戦時独占体制が続いてしまったことです。
ドイツの場合、戦後の西ドイツにも受け継がれて、片や東ドイツは共産体制ですから自由化など話の外です。ちなみに現首相のメルケルさんは旧東ドイツの出身です。
西ドイツは1957年に電力会社の地域独占とカルテルを守るために「競争制限禁止法」という法律を作って、以後39年間も護持し続けてきました。
このあたりまでは日本の戦前自由市場-戦時電力会社統合-戦後9電力会社支配という流れとそっくりです。
特に戦時中にそれまでの自由な電力市場が解体されて、地域独占ができたまま戦後になだれ込み現在に至る、という歴史はまるでわが国の歴史をみるようです。
このドイツの地域独占が壊れたのが1996年12月の「ブリュセル官僚からの命令」といわれるEU指令96/92号「電力単一市場に関する共通規則」でした。
このEU指令でドイツはそれまでの巨大電力会社10社による地域独占体制を廃止せざるをえなくなりました。
これは価格カルテルや地域棲み分けをなくすだけではなく、「よそ者」に自分の会社の送電網を使わせねばならないという電力会社からすれば「屈辱的」な内容を含んでいました。
そして2年後の1998年に早くもライプチヒで電力自由市場が生まれています。これにより電力取引は自由化されるはずですが、そうは問屋が卸しませんでした。
というのは、大手電力会社9社は、それまでの地域独占を取り消されたことを逆手に取って買収と合併に走ったからです。理由のひとつは国際競争力をつけるということです。
ここで決定的にわが国と異なる条件がひとつ出てきました。ヨーロッパは電力網が国境を超えて統合されているのです。
これはわが国が友好的とは言い難い近隣諸国に包囲されているために、燐国との電力統合をすることが出来ず、国内だけの電力網だということと対象的です。
まぁ、もしわが国が中国や韓国あるいはロシアと送電網を共有していたら、竹島や尖閣、はたまた北方領土問題が熱くなるたびに送電網を遮断されてしまいますけどね(苦笑)。
さてドイツは電力市場解禁をしたとたん、外国の電気会社との競争にさらされることになりました。
バッテンフォール・ヨーロッパのように北欧の電力大国スウェーデンの電力会社に買収される会社まで現れたりとすったもんだの挙げ句、10電力会社体制が4社体制に整理統合されてしまいました。
結局、2011年段階で国内発電量の83%がこの4社の寡占というていたらくで、これでは電力自由化だか電力の独占強化だか分からないということになってしまいました。
このドイツのように電力自由化がかえって電力会社の危機感を募らせて買収・統合に走らせ、かえって独占か強化されてしまう逆走事例もあることを私たちは頭に置いておいたほうがいいと思います。
というのは、わが国では大いにこのケースは想定できるからです。現在わが国の9電力会社は、半分国営化されたも同然の東電を別格にしてどこも原発の維持費がのしかかって青息吐息です。
この経営状況の中で安易に電力市場の開放をすると、今まで禁じられてきたブロック管区を乗り越えて送電することが可能になります。
経営体力がある電力会社はこの際とばかりに、弱小電力会社のシェアを奪いにかかります。これは現実に1996年以後のドイツで頻繁に起きたことです。
電力自由化に伴って、とうぜん雨後の竹の子のように再生可能エネルギーを中心としたエコ発電会社や、企業の剰余電力の売電も盛んに行われるようになるでしょうが、それは総発電量の一部でしかありません。
おそらくはドイツのように2割を超えるのは難しいはずです。すると結局は、ドイツと同じように電力の自由化が9社体制から4、5社体制に独占強化されてお終いとなってしまうかもしれません。
なぜ、そうなるのでしょうか。それは送電網を握ってさえいれば、そこに自由にかけられる託送料で有象無象のミニ発電会社の首根っこを押えられるからです。
ドイツはまさにこの託送料を使って、4社に独占強化した巨大電力会社が国を巻き込んで最後の抵抗を試みます。
それについては次回に。
■写真 彼岸花が散る前に咲き誇っています。
« ドイツのFIT離脱方法とは、消費者負担増による「ボーナス制度」だった | トップページ | 大手電力会社が新規参入をさせない裏技、「託送料」つり上げ »
「原発を真面目に終りにする方法」カテゴリの記事
- 北電薄氷の電力供給 電力なき地方創生はありえない(2018.09.18)
- ブラックアウトとステーション・ブラックアウトの本質的違いについて(2018.09.10)
- 今回の北海道大停電は北電の特殊事情だ(2018.09.08)
- 北海道全域停電はどうして起きたのか(2018.09.07)
- 鳥越氏 知事になったら250㎞範囲の原発は止める(2016.07.26)
« ドイツのFIT離脱方法とは、消費者負担増による「ボーナス制度」だった | トップページ | 大手電力会社が新規参入をさせない裏技、「託送料」つり上げ »
コメント