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原子力危機管理 言霊信仰の日本・リアリズムのフランス 日本にも原子力危機管理機関を作れ!

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どうして日本は世界屈指の優秀な原子力技術を持ちながら、事故予防対策がどうしてかくも不備だったのか、フランスとの比較の中でたびたびそう感じました。

その象徴的な事例は、安定ヨウ素剤を原発周辺住民に備蓄がありながら配布しなかったこと、そして避難計画がまったく存在していていなかったことに象徴されています。

安定ヨウ素剤の配布は、チェルノブイリの教訓から世界で一般化している被曝対策です。事故初期に大量に排出される放射性ヨウ素131が人体の甲状腺に溜まりやすいために(※)、あらかじめヨウ素剤を飲んでおいて新たな侵入を防ぐという方法です。※http://legacy.kek.jp/quake/radmonitor/GeMonitor2.html

チェルノブイリではこれを当局が大量に配布して、最悪の事態を免れることが出来ました。これを知らない原子力関係者は世界でいないはずです。というか、いてはならないはずです。

ところがわが国では安定ヨウ素剤は一粒も避難民に配布されませんでした。なぜでしょうか。それはほとんどの場合、かんじん地元自治体になく、県の倉庫に備蓄されていたために忘れ去られた存在になっていたからです。

つまり、ヨウ素剤は準備していたが、いつどのような状況で使うのかという手順書も事前の打ち合わせも、まして訓練などまったくなかったのです。このようなことを死蔵といいます。いや、あるというだけを官僚の言い訳にしているだけ始末が悪い。

まして広域の避難訓練や、避難経路などは初めから考えられてはいませんでした。だからSPEEDI情報の隠匿もあって、いったん避難した地域のほうが線量が高いというありえないことが起きてしまったのです。

見直し始まったのは、福島事故1年半後のことです。このようなことを行政の恥ずべき不作為と呼びます。

ところで、実はフランスもちょくちょく事故を起こしています。おおよそはレベル1ですが、年間100件近く起きているそうです。

80年代、フランスはこの多発する事故を受けて原子力安全院(ASN・当時はその前身)傘下に危機技術センター(CTC)を創設しました。

ここは周辺住民や国民に事故対処の方法を教える住民防御システムとマニュアルを作る機関です。マニュアルは毎年改定されています。安定ヨウ素剤の配布もこの一環です。

また、避難訓練に関しても自治体-警察-軍まで含んだ一体化されたものが定期的に行われ、住民の参加も多いようです。

ひるがえってわが国において、福島事故はいうに及ばず、それ以前の大事故だった1999年9月30日の茨城県東海村JOCの臨界事故においてはどうだったでしょうか。

このJOC事故は死亡者2名、重症者1名を出す大事故であり、工場が住宅地の中にあったにもかかわらず安定ヨウ素剤の配布は行われませんでした。

後に来日したフランスの原子力関係者が、わが国の関係者にこのことを問うと、このように答えたそうです。

「とんでもない。日本で(事故の可能性を少しでも示すような)そんなことをしたら原発は一基もできません。事故ゼロと言って周辺住民を説得し、納得してもらっているのだから」。(ソース・産経新聞山口昌子パリ支局局長)

このフランス人原子力技術者がのけぞったのは言うまでもありません。これで分るのは、わが国には原子力の危機管理そのものが完全に意識もろともなかったという衝撃的事実です。たぶん「キキカンリ」と書かれたペーパーが後生大事に経済産業省の金庫に眠っているだけなのでしょう。

日本原子力技術協会の前最高顧問石川迪夫氏がこんな話を述べています。

1992年、IAEA(国際原子力機関)で原子力事故に備えて指針を改定し避難経路を策定すべきという提案があった時、それを持ち帰った石川氏に対して日本の原子力関係者の反応はこうでした。

そんな弱気でどうする。原子力屋なら絶対に放射能が出ない原子炉を作れ。」

とりようによっては強い安全への決意と取れないではありませんが、石川氏自身も認めるようにここには「安全」という言葉の影に隠れて「万が一に備える」という視点がすっぽりと抜け落ちています。(ソース「産経新聞10月8日)

これが日本の原子力村の「空気」でした。これは「事故を想定するだけでも事故になる」というある種の言霊(ことだま)信仰につながっていきます。庶民ならともかく、原子力を預かる科学者がこれでは困ります。

コメントで山形さんも仰せのように、確かに反対派に対して弱みを見せられない、避難訓練をすれば、それみたことかと言われる、というのも事実です。

実際、やればやったでそのような反対運動が起きる可能性を考えねばならないのが昨今の風潮です。

しかし、反対運動があろうとなかろうとなかろうと、いったん事故があれば地元自治体がマニュアルに従って一定圏内の住民には安定ヨウ素剤を配布し、所定の場所に避難させるするような仕組みが要ります。

それを想定した避難訓練を繰り返す中から、現実に福島事故レベルが起きたらどうするのかを実地に各方面に叩き込んでおかねばなりません。現実にやってみれば、この避難ルートは使えないとか、老人や障害者はどうするのかなど問題は山積しているはずです。

このようなしんどいことを素通りして、「原発事故はありえない」はないでしょう。それは逆です。原子力事故が起きたらどうするか綿密に積み重ねて初めてその先に「安全」があるのです。

このような避難計画には大変な金がかかるでしょう。そのための電源立地対策交付金なはずです。原子力の危険を与えた地域に与えるのは、無駄な大型体育館ではなく、ほんとうの意味の「安全」なはずです

事故が起きるなどという縁起でもないことを言うから悪しきことが起きる、では「福島以後」は通用しません。必要なのは原子力災害に対するリアリズムです。

そして福島事故のような原子力災害に対しては、避難を指示する住民防護のためのフランスの危機技術センターのような国家機関の創設が必要でしょう。

これは原子力規制庁を環境省から独立させた上で、その傘下に独立した危機管理機関として作る必要があります。

これと合わせて事故対処の緊急対応部隊も必要ですが、それはまた明日ということに。

■写真 湖畔の豊穣の田に立つ水神様の鳥居。湖周辺でも大分震災で倒れましたが、復旧が始まっています。

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コメント

SPEEDIデータの隠蔽(あえてそう言います)と、安定ヨウ素剤を配布しなかったこと…今でも思い出しただけで怒りに震えます。

飯舘村や浪江町で5月まで無駄に被爆してしまった人が沢山います。
実際に甲状腺癌の発症は数年先になり、放射性ヨウ素はとっくに消え去っていますから「因果関係は確認できない」と、国は強弁するのではないかと。

私は以前、それを見越して国はあえて不作為をおこなったのではないか?とも書きました。考えたくもたいことですが、発病者が極力少ないことを祈るのみです。


先回りしてしまって申し訳ありませんが、アメリカの場合は、原子力事故が発生した場合には民間の防護部隊が契約に基づき必要な装備を持って自動的に出動します。州兵のようなものです。
訓練も行われています。
スリーマイル事故のインパクトの大きさと、冷戦時代にすわ核戦争か!という危機感を長く体感してきた国民性の違いもあるかもしれませんね。

JCOは規模はともかく杜撰極まりない酷い事故でした。
かつては原子力船むつが事故で漂流しました。

それでも効果のある防護体制が敷かれず、安全神話ばかりが語られ続けました。

ものすごく意地悪な表現で、あちこちからお怒りを買うかとも思いますが、70~80年代に「スリーマイル事故」クラスのインパクトが国内で発生していたほうが、むしろ我が国にとって良かったのではないか?
と、思うこともあります。

JCOでも酷い目にあった管理人様、すいませんm(__)m

投稿: 山形 | 2012年10月25日 (木) 07時49分

山形 様

仮にスリーマイル事故クラスの事故が70~80年代に発生していたとしても、我が国の隠蔽体質や事なかれ主義では時と共に風化し、「あ~そんなこと有ったっけ?」程度になってしまいます。
原子力村の人々は必死になって、事象を小さく見せようとなると思うし、マスコミも当てには出来ませんので、一般国民に全てをあからさまにするとは到底思えません。
本当に事故を教訓とするか否か?疑問ですね。

管理人様の様な「自営業」の方も我々民間勤務者も「結果責任」が問われます。
自営業者には、直接経営に係る事になりますし、我々勤務者も、減給や降格・昇給停止等々直接間接の処分が科せられます。
公務員だけが何故結果責任が問われないのか?常々疑問に感じています。
(ヨウ素剤非配布や放射線拡散データー隠蔽)
公務員や自治体首長、国会議員の不作為のつけは、結果として一般国民に回されてきます。
選挙権持っている国民の責任なのでしょうか???

投稿: 北海道 | 2012年10月25日 (木) 16時28分

公務員だけが何故結果責任が問われないのか?>>>>
検事や裁判官も含め、結果責任は、免除されるような法体制になってしまっていて、それを、良しとしている一般有権者が、存在している。

まあ、自分で、自分向けの法律を作るのですから、他人に厳しく、自分に甘い法体制は、当然でしょうね。

CIEもFBIも、日本には、存在しませんし、不景気になっても、本質的に、ボーナスカットすることさえ、出来ない法令にしてあるのです。

一般株式会社は、ボーナスも退職金も、評価や社への功労度合いで、給付額が、増減します。つまり、就業規則の給与とは、別章で、ボーナスや退職金を規定しているのが、一般会社員の給与体系ですが、公務員は、給与の体系の一部に、ボーナスや退職金が、設定されています。
つまり、いくら悪事をして、社会的に批判されようが、後払い賃金と言う定義で、賞与や退職金が決められていますから、省側から、支給停止が出来ない法令ですね。
公務員は、法令を守らないといけませんから、悪事をして、逮捕されても、公務員自ら、自主的に退職金をお返しします。と言わないと、返還できない仕組みになっているのです。つまり、後払い給与ですので、刑法犯罪者であれ、退職金を受け取るのが、あたり前であり、受け取らないことは、法令違反になります。

だから、貰った者勝ちですので、悪事を働いたキャリヤ公務員は、自分の公務員の職権を乱用して、国民に、事実を知られる前に、給与担当公務員に、パワハラして、すばやく退職金を振り込ませてから、警察の任意事情徴収に応じるのです。

結果責任を問われるような公務員が不利になるような法令を、自分達で作る訳がないじゃないですか。

投稿: りぼん。 | 2012年10月25日 (木) 23時24分

リボン様
そうですよね。。。自分に都合の悪い法律や規則を作る事はないですよね。

・・・と言う事は、管理人様が仰る通り、原子力規制庁やそれに関連した委員会を作ろうが、手前みその組織となりますから、最終的には誰も責任を取らず、「つけ」は国民に回される事が、今からハッキリして居るって事ですね。

独立した組織なんて作れるのかな??

投稿: 北海道 | 2012年10月26日 (金) 12時19分

おそくは、なってしまったのですが、復興庁や地元JA各委員会協議で、出た意見を、販売ルートも自己開発して、何とか、塩分除去もしますが、塩分に強い風に強いハウスの建築によって、作物栽培をして、そこへいくのに、具体的にどんな、ハードルがあるのかを、金銭や、設備損料、塩害に強い品種を、もうそらそろ、収穫してうただき、出荷できないものでしょうか?

特に、霞が関には、首相グッツなど、専門に扱うショップもあり、少なくとも、3.11以降、現地に足を派遣できていない国会議員にたいして、塩分量測定器や、田んぼ土の地盤沈下、仮の堤防の普及や、湾内の運行するところの山から侵入してきた土砂などを、国費で、最低、ひとまず現況までの、壊れた防波堤の復旧くらい、実施に、復興事業を、行ってほしいものです。

また、学者さん建は、塩害の田んぼを、かさ上げする土木工事を、支給初めて戴けるように、塩害除去装置は、すでに、都市部で、砂の塩分を取って、生コンにする技術は、開発済みなので、仙台平野の一部を実験場として、田んぼ土の上表面の塩分を、擦りとるような事業など、国が一部の農家の土地、1ヘクタールほど、借りてみて、実験栽倍して」、現実、に、売り物になる製品に、復興支援義援金納付シールを貼って、後日、ネット上か地域工法誌で、どんどん作持を、都市部で、販売できるように、そろそろ、皆さんの協力を得て、青空市場のように、自前で、販売できるように、成られることだち思います。

原発の国内メーカーや大手ゼネコンは、塩害の多い地区で、塩害除去システムを実施作業に入ってますので、タッグを組んで、行うべきだと思います。今、避難所から、海岸近くの田んぼで、頑張って、稲を栽培している人、塩害で、飛ばされた、ビニルハウスを使っての、イチゴ栽培も一部、製造しているおのこと。

灌漑設備が壊れた町なので、軽トラックにタンクいっぱいに、水遣りする、努力家をみていると、復旧できることから、優先順位をつけて、少しでも、東北産が、愛知以西に出荷されることを、期待しています。

未だ、どこの地区の復興、復旧計画書を見たことが、ありません、。ある人が、予算要求事業内であれば、多少の目的外使用も認めるとのことですので、農業法人、頑張って、生活費にはならないのでしょうが、そろそろ、東北の生産物を、出荷されることを、希望します。

国の堤防復旧計画や、土地計画法上の宅地プランなど、肝心のところが、報道されないままの1年でした。

東北の有名生産物を、都会のデパ地区で行えば、売り上げは」おいておいて東北の農業は、復旧に向かっていると言うメセージがほしいところです。

投稿: りぼん。 | 2012年10月29日 (月) 03時42分

りぼん様。もう少し記事内容のテーマとかみ合った議論をしていただけませんでしょうか。

今日、心苦しいのですがひとつコメントを削除いたしました。
記事のテーマとかけ離れた信条とも心情ともつかぬことを縷々投稿されても困惑します。
またなんどか申し上げていますが、投稿においての言論の自由は保証していますが、あまりにテーマとは違うことを長文投稿されるとやや迷惑です。
うるさいようですが、管理人の立場からのお願いです。

投稿: 管理人  | 2012年10月30日 (火) 02時35分

”原子力危機管理ーフランスとの比較”として、とても参考になりました。わたしは今年の8月に、去年の3.11直後にヨウ化カリウムをネットのサプリメントショップで販売したことで警察の捜査員7名に踏み込まれ、現在起訴されるところです。ました。そのことを以下のブログで詳細に公表しました。

「ヨウ化カリウム/ KI, Forbidden Drug in Japan?」

http://blog.goo.ne.jp/zaurus2012

こちらの記事が非常に重要だと思い、リンクを貼り、さらに1ページ割いて掲載させていただきました。事後承諾を求めるようなかたちでたいへん恐縮ですが、なにとぞご承諾くださいますようお願いいたします。

WHOは1999年の「原子力災害時のヨウ素剤使用のための指針」で以下のよう勧告しています。

「危険性と有益性のバランスについての最新の情報もまた、安定ヨウ素剤のいかなる配布や備蓄の計画においても適切に考慮される必要があろう。この情報は、可能であるならば非常災害計画の対象地域として範囲に通常含まれているよりもさらにずっと広範囲にわたって安定ヨウ素剤を備蓄することが妥当であることを、そして国民に自主的購入の機会を与えることを国家的政策の一部とすることが望ましいことを示唆している。」

つまり、「原発を抱えている国は、国民が自由にヨウ化カリウムを買えるようにしておけよ!」ということです。日本政府は逆にヨウ化カリウムを”劇薬指定の医薬品”にして、一般の人々の手に渡りにくくしていました。これは、日本の原子力政策の一環であるとわたしは考えています。原子力事故の発生を前提にした放射線防護剤がドラッグストアや薬局の棚で人目にさらされては”原発の安全神話”が崩れてしまうからです。ヨウ化カリウムはビタミンCやカルシウムと同じサプリメントです。日本の薬事法がヨウ化カリウムを”劇薬”扱いにして、国民の目からも、手からも遠ざけていることを問題にしている指摘がネット上でもほとんどいないのでがっかりです。もし、そういうサイトがあればご紹介ください。

投稿: ザウルス | 2012年10月31日 (水) 19時03分

ザウルス様。ありがたいコメントをありがとうございます。
お役に立てましたら望外の喜びです。どうぞご利用ください。

投稿: 管理人 | 2012年10月31日 (水) 20時21分

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