英国に見る電力自由化
原発をゼロにすることだけなら、そんなに難しいことではありません。現に今、動いているのは大飯原発3、4号機のみです。
これでなんとか夏を乗り切ったのですからこのままなんとか、と思わないわけではありませんが、ドイツの先行事例を知るにつけ、もっと長い眼で考えなければならないと思うようになりました。
特に長期にわたって、原子力なき後の化石燃料に過度に頼らないエネルギー態勢を作り出すのは簡単なことではありません。
というのは、ただ供給源としての代替エネルギーだけあってもだめで、それをどのように供給していくのかという「制度」が不可欠だからです。
そこで3.11移行、東電処分問題と絡めて電力自由化が叫ばれ始めました。しかし議論が進んでいるとは到底言えない状況です。
しかし、それは東電処分と一緒にするからかえって解りにくくなるのです。巨額の負債や、原子炉の扱い、国からの支援で成り立っている原賠法、除染問題まで絡んでまるでもつれた糸球のようです。
ですからいったんは東電処分問題と電力自由化問題を切り離して考えないと、本筋の電力改革が見えなくなります。電力改革の大筋は思いのほかシンプルです。
第1に、地域独占型の9電力会社体制を解体して、市場メカニズムを導入することです。そのために発電会社と送電会社、そして配電会社までに3分割します。
第2に、地域ごとにもっと市場メカニズムが働くように47都道府県単位にまで細分化します。
この二つが誰しもが納得する電力自由化の共通原則ではないでしょうか。それを考えるためにヨーロッパの英国とドイツの事例を見てみたいと思います。この両国は対照的な電力自由化の道を辿りました。
ドイツ、英国の発電-配電網の歴史は日本とかなり異なっています。それは各国それぞれの歴史の中で発電-送電をしてきたために一概に「電力の自由化」と言ってもお家の事情はそうとうに違います。
簡単に電力自由化以前の送電網のタイプを整理するとこんなかんじです。
・英国 ・・・第2次大戦後一貫して国営管理
・ドイツ ・・・市町村電力会社(シュタットヴェルケ)+電力会社
・日本 ・・・戦後から9電力会社の地域独占
まず英国ですが、英国はサッチャー改革で肥大化した国営企業を解体する一環として発送電を民営化することを考えました。
発電所は国営だったものを、7割をナショナル・パワー社に、3割をパワージェン社に民営移管しましたが、お気の毒なことに原発だけは引き取り手がいませんでした(苦笑)。
産業界は原発のようなものを丸投げされてはたまったものではない、原発は国策ではないと算盤に合わないと判断したのです。当然ですな。
苦肉の策で国が100%出資で前2社以外に原発専用のブリティシュ・エナジー社を作ってそこが原発を所有し、逐次民営化をしようと思っていたのですが、奮闘努力のかいもなく見事失敗。
1995年2月に新規原発建設を断念し、現在稼働中の2基も停止する予定となっています。かくて英国の原発は事実上の終焉を迎えたわけです。
これを見ると洋の東西を問わず、いかに原子力というシロモノが国策なくしては出来ないものかとしみじみ思います。はっきり言って、米英仏露中の原発は原爆作りの副産物のようなものでしたからね。
日本の場合、これを国策民営といういかにも日本的な方法で解決しました。官僚が民間会社に地域独占の御朱印状を与える代わりに、因果を含ませて原発を作らせたのです。
福島事故後は、英国流の原子力を他の電源から切り離して一元的に国営化してゼロ化していくというのは現実的な方法で、日本でも使えると思います。
さて英国の送電網もナショナル・グリッド社に民営化された上で、地域別に12のブロックに分割して地域独占を与える代わりに供給義務を負う方式にしました。
そして興味深いのは「電力プール制」を作ったことです。これは卸売り電力市場のことです。これは一見日本の1996年1月の改正電気事業法の卸供給事業者(PPS)も認めるのと似ているように見えます。
ところがよく見るとかなり違います。英国版「電力プール制」は、先ほど述べた全国の送電網の卸元のナショナル・グリッド社が勧進元になって開く卸電力市場なのです。
ここに一定の基準を満たす発電会社がすべてが参加して、入札により電力価格を決定します。
大は国営発電業を引き継いだナショナル・パワー社から、小は再生可能エネルギーのミニ発電会社まで同じ入札に参加せねばなりません。
この「電力プール制」は、その日の午前10時までに翌日正午までの希望売電価格を入れておきます。
これは1日を48の時間帯に分けられていて、発電会社は30分ごとに自分の発電能力と発電所を入札提示していくわけです。一方、買い手の配電会社もまったく同様に午前10時から翌日の正午までの希望落札価格を提示します。
再生可能エネルギーだとこのあたりがかなり大変で、明日の天気予報とにらめっこしながらの入札額提示となるのでよくハズすそうです。
胴元の「電気プール」は、それぞれ0分間のタイムゾーンでもっとも安いものから落札していき、必要量に達すれば入札終了となります。逆に買い入れ価格は、落札された発電所の提示額でもっとも高い価格に統一されます。
折り合えばハンマープライスというわけですが、いかにもサザビーズなどのような入札が大好きなイギリス人らしい制度ではあります。
ここで気をつけて頂きたいのは、あくまでも売り買いの単位は「発電所単位」なのことです。決して「発電会社単位」ではありません。ですから、落札されるのはもっとも安い売電をした発電所であり、もっとも高く買う配電会社だということです。
これは発電-送電-買電の三つがそれぞれに独立していなければ成り立たないことですが、非常に合理的なシステムです。電力自由化の極北と言ってもいいんじゃないでしょうか。
現在この英国型「電気プール制」は試行錯誤の過程にあるようで、いくつか不備も見つかっているようです。なんといっても国営を引き継いだナショナル・パワー社のような巨大会社と、再生可能エネルギー中心のミニ会社がコスト面で競争するのは難しいことが分かりました。
それなら、再生可能エネルギーなど止めりゃいいんじゃないか、というと次世代の新エネルギーは現在の段階では量産が効かないので絶対的に不利です。これではイノベーションが進まずに未来の芽が摘まれてしまうことになります。
このようにヨーロッパには、一方でドイツ型FIT(固定全量買い取り制度)のように再生可能エネルギーを甘やかして世間の荒波に当てなかった結果、税金と高い電気料金のぬるま湯から出られなくなったような国がある一方、逆に英国のように「皆んな平場で競争だぁ、負けたら潰れろぉ」というスパルタ型の国もあるということです。
いずれにせよ、現在は真摯に外国の事例、知見に学ぶ時期で、拙速な政治判断は厳に慎まねばなりません。
しかし拙速に成立したわが国の再生可能エネルギー法などは、このような電力自由化、発送電分離、原子力の国営化などの電力改革のごく一部にすぎない「部品」から開始してしまいました。
先行事例に学ばず、全体的構想を持たずに自らの目先の利害に飛びついた結果です。まったく醜悪そのものです。
このようなやり方ではかえって電力改革を遅らせ、その結果原発ゼロの道をさらに遠くしてしまうことでしょう。
わが国も遠からず電力の自由化の道を歩むことになります。いかなる形であれ、それは不可避です。その場合ドイツ型を取るか、イギリス型を取るか、はたまた日本独自の型にしていくのかが問われています。
今は広い知見を蓄積すること、そして議論する時期です!
■写真 今にも降り出しそうな空の湖畔。まるで日本海のようですが、水深7mです(笑)。
■明日明後日は定休日です。月曜のお越しをお待ちしております。
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コメント
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ヨーロッパでもドイツとは全く違うやり方もあるんですね。
いわゆる英国病~サッチャー政権時代の改革期に、北海油田が開発されたという幸運も改革の手助けになったかと思います(もう枯渇気味ですが)。
島国である日本は、こちらのほうが参考になるのではないかと思いますが…。
投稿: 山形 | 2012年10月 5日 (金) 08時07分
私も国の成り立ちの歴史から見ても、英国を手本にしてその改良版のほうが日本に向いているかなと思っています。
投稿: 管理人 | 2012年10月 5日 (金) 09時24分