自民党安倍新総裁TPPに慎重姿勢鮮明に
ひさしぶりにドイツから帰って参りました。あ~我ながら長かった(笑)。
さて、「日本農業新聞」(10月10日)によれば、安倍自民党新総裁と経団連会長の米倉氏、JA全中の萬歳会長がそれぞれ会談を持ったそうです。(欄外切り抜き参照)
米倉氏は例によってTPPの早期参加要請です。この人、国民の生活に降りかかってくる電気料金の値上げなどはすぐに容認するくせに、経済界の一部の儲けにならないTPPにはひたすらご執心のようです。
※関連過去記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/youtu-1.html
原発再稼働問題でも、安全性についての配慮より目先の利害ばかりの発言を繰り返していました。まったく困った人です。
この席で米倉氏は、「TPP交渉は早く参加しないとルール作りが進んでしまう。自民党も充分に考えてほしい」などと言っています。
この人、なにをとぼけたことを言っているのでしょうか。もうとっくに「交渉」とやらは始まっていますよ。
昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)前に、野田佳彦総理が「(交渉参加のための)関係各国との協議を開始する」と言っていましたが、これは国内の風当たりから我が身を守る方便だというのは誰もが知っています。
既に外務省を主管とする「事前交渉」を事実上米国との間で始めて1年以上立ちます。
外務省はTPPを外交案件として処理しているために、相手国との関係に配慮して一切の情報を外に出さないという姿勢をとっているために、政府部内でも極めて限られた人間しか交渉内容が分からない状況です。
しかもこれにはご丁寧にも、4年間の守秘義務までついている徹底ぶりです。
※関連過去記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-cd51.html
日本の農業が壊滅する可能性がある交渉経過が、国民はおろか与党のTPPワーキングチームにも一切伝えられないのですからあきれたものです。
これでは国民は、なにを決められても結論だけを伝えられることになってしまいます。このような馬鹿げた交渉など聞いたことがありません。
年内に予想されていた米議会での承認は見送られましたが、それは米国内の(特に自動車産業)の反対が予想以上に強く、日本がもっと貢ぎ物を積み上げないと進展しない状況だからです。
ですから、この段階で「交渉参加を早くしろ」ということは、米国の要求を丸呑みしろと言っているに等しいのです。
アジア太平洋地域における経済連携については、さまざまなオプションがあります。例えば、ASEANプラス3、あるいはプラス6などは自民党政権時代から長い時間かけて交渉が進められてきた経緯があり、内容も透明化されています。
多国間協議にもっとも遅れて参加するという不利なTPPから始めねばならない理由はないはずです。
私は日米FTAにも反対ですが、しかしTPPに較べればはるかに個別交渉の余地が多く残っていました。TPPでは既に発効している先行議定国の決定内容に支配され、丸呑みするか否かしか選択肢がないのです。
そもそもTPP交渉「参加協議」の開始のやり方から異常でした。あの憲政史上最も愚かな男が、独断で始めてしまう神経が私の理解を超えます。
安倍新総裁は別の席でこう述べています。
「民主党はTPPについての交渉力も経験もなく、通常は、相手の要求に対して当方の考えを多様な形できちんとぶつけて、そのうえで交渉になるのかどうかを見極めてかかるが、民主党には全くそれが無くて、交渉参加を約束してしまうことになっている。」
(山田としおメールマガジン)
まったくそのとおりです。このような多くの国内法や制度、関税を改変することになる外交交渉は、始めるにあたって交渉に入ることが利益になるのか、ならないのか、なるとしたらなにを原則にして交渉に臨むのかをあらかじめ明確にしておく必要がありました。
そのような事前の知見の積み上げによる交渉原則を確立しないでいきなり「平成の開国」というムード的スローガンだけで始めてしまうのですから、なんとも勇ましい。
安倍総裁は、JA全中萬歳会長が、「聖域なき関税撤廃がある限り反対する」と申し入れたことに対してこう答えています。
「日米は同盟関係を結んでいるにも関わらず、聖域なき関税撤廃を提示される状況に問題がある。国益が守れない交渉参加は話にならない。」
(日本農業新聞」)
同席した高村副総裁も、「(TPP交渉は)複雑な問題をはらんでおり、ただ交渉を進めれば日本にとってよいと言いきれない面が多々ある」と述べました。(同)
この新自民党執行部の見解は、農業新聞は「慎重姿勢」と表現していますが、明確に反対を意味しています。
自民党はかねてからTPP交渉原則を掲げています。これはTPP絶対反対の私ですらこれでやってくれるのならいいじゃないかと思うような事柄が列記されています。
自民党TPP交渉原則は以下です。
(1)政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車などの工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうような投資家・国家訴訟(ISD)条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービスなどは、わが国の特性を踏まえる。
もはやTPPになにひとつ国民の利益がないことがわかっています。一刻も早く「参加交渉」から離脱すべきです。
もっとも困るのは、野田政権か選挙をやれば負けるというただそれだけの理由で来年7月の任期いっぱいまで政権にしがみつく場合です。
するとそれまでにはTPPは国民がなにひとつ知らない場で決まってしまう可能性があります。TPPにおいても民主党政権を一刻も早く退場させねば大変なことになります。
■TPPについてはカテゴリーTPPに沢山過去ログがありますので、お暇ならご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/cat22955329/index.html
■写真 早朝の霞ヶ浦。昔使った渡し場が浪に洗われています。今はこの脇を大橋が架かって便利になりました。
■明日あさっては定休日です。月曜日にまたお会いしましょう。
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■日本農業新聞10月10日
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個人的には、農業とか関税とかだけの交渉ではない、TPPについて、全く情報を出さない、外務省に、腹が立ちます。24項目とか26項目とか、漏れては来ますが、蓋を開けたら、もっと、ややこやしく、不利な条件になっている可能性も多く、自分達の業種には、影響ないだろうと思っていた部門に、大打撃を与える可能性のある国際条約について、官僚が、隠し続けることは、どんな権利があって、そういう行動をするのか、意味が解りません。
自民党族議員が、力があったりしたころは、与党として、責任を取るから、総理に情報を出せと言えば、特例公債法案だって、国会が、賛成しない限り、財務省も困る訳で、お互い、もちつもたれつだったから、いままでは、ある外交筋の情報とか、政府関係者の情報とか、あいまいながらも、アセアン+3、+6との違いとか、ロシアも含めた、エフターフの未来像とか、温暖化で、開発しやすくなった極東ロシア経済戦略など、外務省が、すでに握っていることを、自民党与党時代は、国民に漏らしてくれました。
与党民主党は、次期与党になり得ないし、外交音痴の鳩氏が、なにを言うか解らないので、結局、国民は、騙され続けるのでしょうか?
各国の在対外高官が、何も知らないってことはないはずなので、(天皇陛下のご名代に知らせないことはありえない)
結局、情報収集とその発表方法を知らない民主党与党が、抜けているとしか、言いようがないと思ってます。
関税撤廃は、貿易収支で、カバーできる可能性がありますが、非関税障壁は、日本が日本として、必要最低限の国家としての貿易条件がありますから、一般論で行けば、アセアン+3+6とTPPとの内容比較と、日米同盟との関係バランスなんだと思います。
中国経済は、国際通貨ではないので、どう国際的に評価するのか、また、製品の安全面などの問題など、成熟していない現状で、普通は、両方の事情や狙いを、国民に、すばやく明示して、国民が、どういう方向に将来進むべきか、選ばせる形式になるのが、本来の代議員型国会制度であると、おもうのですが。。。
4年後。実は、こうでした。という結果を押し付けられるなら、各国駐留大使は、天皇陛下の代理であるが、人形のように、動かないのが、仕事と言う意味なんでしょうか?
中国は、TPPに呼ばれていないのに、米国は、呼びました。世界第2位の経済大国というGDP上の数値は、理解できますが、もちろん、日本の高度成長期と同様に、いつまでも、安定した経済構造を持つことは、当面、不可能と思えます。
何を捨てて、何を手に入れるのが、良いのかが、もっとも、自分にとって、理解できないことです。
米国や欧米のように、移民者を受け入れて、国内産業を育てるのか、あくまで、海外工場での生産をメインにするのかが、私には、解りません。
少なくとも、GDPトップ3の米国、日本、中国とEUの思惑が、見えて来ない限り、コメントは、難しいですよね。
ある意味、強行な米国と2国間FTAを、韓国とは違った、日本が納得が行く交渉を、並行して続けながら、その過程で、情報収集して、最終結論(試案)を作り、各業界が、理解してから、批准行為に移って行くことは、できないのでしょうか?
まあ、日米FTAは、かなり、米国が条件を厳しく言ってくると思いますが、締結前までは、情報が得られるというメリットは、ありますよね。
批准するのは、何年か、遅れても良い訳ですし。。
投稿: りぼん。 | 2012年10月12日 (金) 20時38分