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「原発の番人」・日仏の本質的違い 独立性が保障されねば安全監視機関とは言えない

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フランスには「原子力の番人」と呼ばれる組織があります。それがフランス原子力安全院(別訳/原子力安全機関/原子力安全局・Autorité de sûreté nucléaire・ASN)です。
Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%B1%80

日本にも似たような役割の「原子力規制庁」がありますが、私はこのふたつは本質的に異なった組織だと考えています。

今日は日仏の原子力安全監視組織を比較する中から、国による原子力の安全監視とはどのような性格の組織によるべきなのかを考えてみたいと思います。

わが国のスタートを切ったばかりの原子力規制庁がいかなる組織なのかは、スタッフ官僚たちがどこの省庁から来ているのかをみれば一目でわかります。

原子力規制庁の官僚出身内訳
・経済産業省・・・312名
・文科省   ・・・ 84
・警察庁   ・・・ 16
・環境省   ・・・ 10

7割を超える圧倒的人数を送り込んで来た経済産業省からの出向組は、原子力安全・保安院、資源エネルギー庁出身者です。なんのことはない資源エネルギー庁とは、政-財-官-学にまたがる「原子力村」の司令塔のような所ではないですか。

他は、文科省、環境省、内閣府原子力安全委員会の出身ですが、とくに環境省は原子力規制庁を組織系列下にした上で、ナンバー2の次長ポストに森本氏を押し込んでいます。

これらの原子力規制庁官僚たちは完全移籍ではなく、数年間の出向で来ていますから、背中には出身省の紐がしっかり付いているとみるべきでしょう。

出向者数こそ地味ですが、原子力規制庁を組織系列化においた環境省はCO2削減を旗印にして、「地球にやさしいクリーン電源・原子力」(笑)をエネルギー比率50%まで増やすという今思えばトンデモの政策を作った役所です。

また環境省は、放射性物質を環境基本法や土壌汚染防止法で「特定有害物質」に指定しなかったために、福島事故で大量に排出された放射性物質を除染する根拠法がなくなってしまいました。

福島事故に際してもその動きは鈍く、空間線量や土壌放射線量などの測定も文科省に遅れをとり続けてきました。当時私は、環境省に悪意のサボタージュを感じたほどです。経済産業省が「原子力村」の村長なら、環境省は助役です。

そして原子力規制庁の初代長官には前警視総監の池田克彦氏、原子力地域安全総括官には元警視庁警備部長の黒木慶英氏が任命されました。

この2トップは揃って警備・公安畑出身で、治安のプロであっても、原子力に対してはズブの素人にすぎず、警察官僚が得意な上意下達の組織統制力を見込まれて就任したといわれています。

つまり原子力規制庁は、原子力安全対策を風当たりが強い経済産業省から、環境省という裏の司令塔の下に系統をすげ替えただけの問題を多く含んだ組織だといえるでしょう。

どうして完全にすべての省庁から独立させなかったのでしょうか。私は会計検査院のような政府から独立した地位を保障されている原子力監視機関を作るのだと思っていました。

ちなみに会計検査院は、このような独立機関です。
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。(日本国憲法第90条)。また、内閣に対し独立の地位を有する。(会計検査院法1条)」。Wikipediaによる

この「国の収入収支」の部分を原子力発電に読み替えて下さい。原子力の規制・監視もこの「内閣からの独立の地位」こそが肝だったはずです。

しかし多くの脱原発派の人たちは、規制委員会の委員長が原子力村出身であるかどうかとか、国会承認があったかどうかなどに目を奪われて、肝心の原子力規制庁の「独立性」の部分が骨抜きになったことを見逃してしまいました。

一方、日本の原子力規制庁とあらゆる意味で対照的なのがフランスです。

フランスの原子力安全院(ASN)は、どの省庁の下にも属さない完全に独立した国家機関で、院長以下4名のコレージュ(委員)による官房があります。いわばこれ自体一種の内閣のような組織構造になっています。

政府にはASN長官と委員の任命権すらなく、唯一それを持つのは元首の大統領のみです。ASNは国会への報告義務を負う完全に独立した国家機関です。

ASNは外部に「放射線防護原子力安全研究所」(IRSN)という専門家による補佐機関をもっています。 

ASNの職員数の77%、IRSNで85%が博士号を持つ専門家集団で、どこぞの国のようにボス警官がその部下の警官たちを引き連れてやって来ましたというようなことはありません。

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                    (BSフジ「プライムニュース」より)

フランス原子力委員院長(別訳・総裁)はラコスト氏ですが、彼は「フランスでもっとも怖い男」と言われているそうです。首相に対してもまったく物おじせずに正論を吐くので、脱原発派からも一目置かれている人物です。

ラコスト氏はフランスの理系の最高学府である国立理工科学院(ポリテクニック)を卒業後一貫して原子力畑を歩み、原子力安全施設(DSIN)や独立機関になる前のASNの責任者を努めました。

ラコスト氏は原子力の専門家としてフランス原子力庁や、原発所有者のフランス電力公社からの独立を訴え続け、2006年に法令によって独立を勝ち得た後は初代院長に就任しました。

ASNは福島事故直後の3月12日に仏政府より早く声明を出し、同月23日には早くも「仏全土の全原発の安全性に対する監査」を実施しています。

同時期に日本の原子力安全委員会の斑目春樹委員長が、菅首相から連日子供のように叱り飛ばされてうろたえていたのとは対照的です。

おそらくフランスで福島事故と同様の事故が起きた場合、ASNは政府とはまったく独立した判断をしたうえで、即時に事故対策を「命令」したことでしょう。

もちろん政府にです。ASNは政府からあごで使われる組織ではなく、政府に命令できる権限を持つ独立機関だからです。

ですから、菅首相のように外部者からの意見に左右されて、事故現場の指揮に直接介入するなどということは、フランスでは考えられもしません。

もし首相がそのようなまねをしたら、ラコスト院長から「閣下、素人は引っ込んでいて下さい。誰か閣下を部屋の外にお連れ申せ」と一喝されるに決まっています。というか、そもそも首相には原発事故の指揮権などありません。

わが国の福島事故の悲劇は、ASNのような独立した原子力規制機関がなかったこともさることながら、ひとりのラコスト院長もいなかったことでしょうか。

このように「監視機関の独立性」ということをキイワードにしてフランスと日本の原子力規制行政を比較すると、わが国はまったく福島事故を学んでおらず、おざなりの改革でお茶を濁したことがはっきりと分かります。

わが国は脱原発の検討の前に、抜本的な原子力安全行政の見直しに着手すべきでした。

福島事故の直後の1年間しか「原子力村」の徹底解体と、新たな原子力安全行政の再構築のチャンスはなかったはずです。この時期を逃しては、また強固な原子力村のもたれ合い構造が復活してしまいます。

この時期にこそ、あらゆる政府機関から独立した規制・監視機関を作り、そのスタッフも資源エネルギー庁や環境省からの出向を仰ぐのでははなく、民間の有為な人材も含めて大胆な人材の起用をすべきでした。

その場合、むしろドイツよりもフランスの厳しい原子力安全行政のあり方の方がより参考になったはずだと私は思います。

私たち日本人がフランスに原子力で学ぶことはただひとつ、原子力安全機関の「独立」です。

■※関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-add7.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-4.html

■写真 彼岸花が野辺に咲き誇っています。

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コメント

原子力の規制・監視もこの「内閣からの独立の地位」こそが肝だったはずです。

>>>>>これは、そうのとおりですね。現状では、管総理と同じ行動は、可能ですし、公務員は、それに、従わなければならないルールですので、管理人さまの危惧は、大きく世論に、PRすべきと思います。
個人的に、原子力発電が悪いというより、安全性が検証されないまま、プラントが動いていることや、所詮、人間が予想できる安全対策や設計思想は、不備や瑕疵がつき物で、改善やメンテナンスを充分しない限り、リスクやハザーのレベルをある程度、下げるのは、無理なのは、すべての文明にあって、経験済みですので、原子力だけ特別扱いは、ありえないでしょうね。

投稿: りぼん。 | 2012年10月22日 (月) 18時39分

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