脱原発・スローガンの夏は終わり、現実化の秋が始まった
何度か書いてきていますが、現時点ですら原発をゼロにすることは可能です。問題は唯一夏場の冷房によるピーク時電力だけであり、それが現実問題としてクリアされた以上、もはや「次」の問題に移るべきです。
スローガンの夏は終わり、現実化の秋が始まったのです。言い換えれば、原子力をできるだけ速やかにゼロにし、原子力なきベストミックスを展望する時期に入ったのです。
この夏、8月9日のピーク時電力需給の実態はこうです。(大阪府市エネルギー戦略会議資料による)
・8月6日現在のピーク時供給電力・・・3000万kW(大飯原発分含む)
・同 ピーク時電力需要・・・2600万kW
・同 剰余電力・・・400万kW
このように大飯原発3、4号機を停止したままでも今年は乗り切れました。ただし、これは別な危惧を生みます。それは火力発電が原子力に替わって増加することです。
現に、ドイツを例に取ると原発を削減していくに従って、その代替としての火力発電が占める率が急激に増えていったのがわかります。
上図は各国のエネルギー源の割合を見たものですが、脱原発政策以後のドイツは飛び抜けて火力、なかでも石炭火力の割合が49%、すなわち半分にも登ったことが分かります。
それに伴いドイツは大気中のCO2、チッソ酸化物、硫黄酸化物による汚染が増えてしまいました。今やドイツは日本の3倍以上の大気汚染物質排出量となっています。(下図参照)
これでは放射能の危険を別の危険で置き換えただけになってしまいます。脱原発はかつてのエネルギー構造への逆流であってはならないのです。
発想を変えていかねばなりません。代替エネルギー問題がイコール脱原発ではありません。
この議論に引き込まれると、原子力護持派がよく言う、「ほら見ろ、原子力に替わる代替エネルギーなんかないじゃないか」という話になって先に進みません。
しかし、現実には脱原発派の論調は、「ドイツのように原子力を止めて太陽光発電に」といった非現実的な所で止まっている場合が多いようです。
そしてその文脈で、メガソーラーが突出して再生可能エネルギーのシンボルのようにもてはやされています。そして太陽光発電のみに偏ったFIT(固定全量買い取り制度)までできました。
私はこれは脱原発にとって明らかなミスリードだと考えています。
残念ながら、このレベルにいる限り脱原発は机上の空論に終わるでしょう。私はその危惧から脱原発の先行例であるドイツの現実をかなり丹念に見てきました。
問題は、新エネルギーの技術論ではなく(それも不要ではありませんが)、社会の新しいエネルギーのあり方の問題なのです。
さて、脱原発を長年に渡って唱えてきた藤田佑幸氏はこう述べています。
「脱原発はむしろたやすい選択肢であるが、更に脱石油へ向かう道は、いくつもの困難を伴う。放射能による環境汚染を避けると同時に、石油大量消費による環境破壊を避ける道をわれわれは目指さねばならない。」
(藤田佑幸「脱原発のエネルギー計画」)
私は脱原発をリアルに考えるためには、代替エネルギーの問題だけ考えていれば済むということではないと思っています。
放射能が怖いということから始まるのは当然のことです。しかし、それで止まらないでいただきたいのです。
わが国が脱原発の道を歩むことになったとしても、中国では数百基の原発を作る計画が着々と進んでいます。そして13億もの人間が欧米や日本のようなエネルギーを湯水のように使うような生活に向けて一斉に走り出しています。
そのような時、この世界は間違いなく環境破壊とエネルギー枯渇に直面します。
福島第1原発の事故を知った私たち日本人が、どのような新しいエネルギー文明を創っていけるのか、どのような新しい社会のイメージを描けるのかを世界が問うているのです。
「福島以後」のエネルギー社会モデルを描けることができるのは、ドイツ人ではなく私たち日本人なのです。日本が何を「福島以後」に創造するのかを世界は見ているのです。
私は、食べ物や飲み水、下水処理と同じようにエネルギーを考えたらいいのではないかと思っています。食べ物は地場のものを食べるのが一番です。そして旬のものを食卓に並べるのが一番の幸福です。
それと同じように、エネルギーもまた地元で消費できるだけのものを地場で作って作っていく仕組みができないだろうかと思います。
自分の地域の中で、風土を活かしたエネルギー源は必ずあるはずです。
林業が盛んな地域には木材チップが豊富にあります。今は焼却されるか、家畜の敷料にしか使われていないかもしれません。あるいは、温泉が豊富な日本の山間部には地熱がたくさん眠っています。
海岸の風が強い地域には風力発電に適しています。潮の満ち引きからも電気を作ることが実験されています。
畜産の盛んな地域は家畜糞尿のメタンガスがあります。これを使えば困りもののの糞尿が大化けしてエネルギー源の一角になるかもしれません。
川が豊富にある農村もすごい可能性があります。小型水力タービンはぶんぶんと気持ちよく回って電気を作ってくれるでしょう。
工業が盛んな地域では、工場の自家発電機で発電し終わった熱を活かしたコジェネレーション発電が盛んになるでしょう。コジェネはおそらく21世紀日本の主要電源のひとつに大きく成長するはずです。
このような地域に適した再生可能エネルギーの組み合わせ、すなわちベストミックスで地場エネルギーを作り出し、それで足りないものは他の地域から融通してもらえばどうでしょうか。
私は福島事故の教訓を次の新しい社会のエネルギー・スタイルに成長させていきたいと願っています。
■関連記事 本日アップしたデータの詳細な解説は以下の過去記事をご覧ください。
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