タイ・TPPに参加表明 RECEPと二股か その真意は?
タイが米国に対して正式にTPPに参加の意志を示したそうです。
「米国のオバマ大統領とタイのインラック首相は18日、タイ・バンコクで会談した。インラック氏は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する意思を表明。オバマ氏もこれを歓迎した。」
(朝日新聞11月18日 資料1参照)
まずいですね。もしタイがTPP加盟を認められたとしたら、タイは東南アジア諸国でもっとも工業化がすすんでおり、日系企業の輸出拠点です。
となると、メイドイン・タイランドの日本製品が米国市場で無関税になるわけです。この魅力は大きいと思います。 これで既にタイに進出している日本企業は大いにTPPに前のめりになるでしょう。
特にタイの自動車産業の9割までは日本車ですから、当然のこととして米国輸出を狙うでしょう。タイ製の日本車なら、米国内製造の日本車より数割安いはずです。
しかも、世界最大のコメ輸出国でもあります。タイでどの程度までジャポニカ米を生産できるか、それが日本市場でどれだけ受け入れられるのか、正直に言ってわかりません。
既に日本商社は優良品種の種をもって行ってますから(←よけいなことをするな、バカヤロー)、時間の問題だとは思います。
特に、タイ現地でパックご飯にまで加工してしまえば、3パック100円くらいでコンビニで売れるのではないでしょうか。これはかなり脅威です。ちなみにパックご飯は「米加工品」ですから、コメ自体を関税ブロックしてもすり抜けてきます。
さてタイは行ってみるとわかりますが、相当にインフラが整備されています。工業団地だけで50を超えて、しかもカンボジアやベトナムと違って停電が゙ほとんどありません。
数年前にベトナムに行った時に、ベトナム貿易をやっている日本商社の人から、「タイはベトナムの10年先を行ってますよ」、とため息まじりに言われたことを思い出します。
確かに洪水や賃金上昇などのカントリーリスクはありますが、当分東南アジア首位の地位は揺るがないでしょう。反日暴動リスクの中国から多くの日本企業が、東南アジアにシフトを開始しているとも聞きます。
「東南アジア随一の「ものづくり立国」であるタイ。同国の自動車関連産業の集積ぶりは「アジアのデトロイト」と評されるほどだが、タイでの全生産台数の9割以上は日系メーカーが占めるなど、日本が主導的役割を果たしてきた。日本人が親近感を覚える国民性も“追い風”になっており、しばらくその優位性は揺るがなさそうだ。」
(産経新聞2012年7月18日)
タイは工業化を柱にし、海外企業を誘致する一方、同時にASEANやインド、中東、中国、オーストラリアとの貿易ハブの位置を占めていました。(資料4参照)
さすがにかつての帝国主義時代から大戦期にかけて、東南アジアで唯一独立を維持し続けた、したたかな外交的上手の国だけのことはあります。
その一方でこれだけ自由貿易を戦略化しているタイでありながら、意外にも世界最大の消費市場である米国とはだけは自由貿易協定(FTA)を締結できないままでした。
実は2004年から米国との交渉していたのですが、特許切れ医薬品の扱いなどの知的所有権がネックになってしこっていたところに、06年のクーデター騒ぎのどさくさで中断を余儀なくされていました。
当然、タイは現在進んでいるRECEP(レーセップ・東アジア包括的経済連携)における中心的生産拠点の位置を約束されています。
にもかかわらず、米国が中心となるTPPへの参加も表明したとなると、タイはRECEPとTPPをリンクする国となることを目指していると思われます。
つまりタイはRECEPのイニシャチブを握ることを熱望している中国と、TPPの盟主である米国との間に二股をかけたことになります。さすがは、タイ!(笑)
太平洋戦争中は、日本が侵攻すれば親日国になり、日本が負けそうになると連合国にさっさとなびきました。見事な寝業師!
それはさておき、このタイの提案はオバマ大統領にとって魅力的な提案であることは間違いないでしょう。なぜなら、米国はタイをパイプにして、米国はRECEP諸国の貿易圏に介入できるからです。
すると、RECEP域内でイニシャチブを握りかねない中国に対して一定の圧力をかけることが可能です。いわば勝手に大中華共栄圏を夢想している中国に対して、米国が冷や水をかけることができるチャンネルができたわけです。
さてそこで我が祖国です。我が国の野田首相もまたタイに学んだのか、RECEPとTPPの二股を名乗り出ています。なんという見事な戦略眼でしょうか。
わけないだろうなぁ。でも、そのくらいしたたかでないと、広域自由貿易協定なんか結べないんだけどな。「バカ正直」で支持率が上がるのは日本国内だけですぜ、野田さん。
もっとも、野田さんが「TPPに参加します」とまで言わなかったのは素直に褒めます。
きっと年内に替わるはずの後継政権を外交的に束縛してはならないという原則に忠実だったのでしょう。あの菅前首相だったらきっと平気で言ってた気がします。
なにせ誰にも相談せずにAPEC横浜会議の席上でいきなり、「平成の開国」しちゃう人だったからな。思えば消費税も、TPPもみんなあの人の単なる思いつきから始まったんでした。
一体あの人はなんだったんだろう。おまけにそんな人が人類史上に刻まれる原発事故の責任者だったなんて。オーマイガッドです!
別に菅さんを逆偉人伝に刻むことがこの稿の目的ではないのでこれにて。
■写真 もう枯れてしまいましたが真夏のハスの花です。今はもっぱら収穫のシーズンです。そういえば、タイの人も土浦のハスを見ては手を合わせているそうです。
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
■資料1 TPP交渉へ参加意思表明 タイ首相、米との首脳会談
朝日新聞11月18日
【バンコク=大島隆、ニューデリー=庄司将晃】米国のオバマ大統領とタイのインラック首相は18日、タイ・バンコクで会談した。インラック氏は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する意思を表明。オバマ氏もこれを歓迎した。
インラック氏は会見で、TPP交渉参加に向けて「必要な国内手続きに着手する」と話した。ただ、会談後に出した共同文書には「オバマ大統領は、タイのTPP交渉への関心を歓迎した」とだけ明記。商務省も最終的な参加決定ではないとした。
オバマ氏の訪問に合わせ、TPP交渉参加に向けて前進する一方で、国内の反対論にも一定の配慮をした形だ。知的財産や農業など様々な分野での調整のほか、議会承認など複数の国内手続きを経る必要があるため、参加まで少なくとも1~2年はかかるというのが一般的な見方だ。
タイには多くの日本メーカーが自動車や電機の生産拠点を構えており、参加が実現すれば、米国への輸出に追い風となる可能性がある。タイの日系企業の間では「タイから輸出する利点が大きくなれば、各社の世界戦略に影響を与えるだろう」(幹部)という見方が出ている。
■資料2 <タイ>TPP正式参加を表明…インラック首相
毎日新聞11月18日
【バンコク白戸圭一】タイのインラック首相は18日、同国を訪問したオバマ米大統領との首脳会談で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉に正式参加する意向を表明した。TPP交渉の参加国は12カ国となる。
両首脳は会談後に発表した共同声明に、タイの交渉参加を明記した。タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の枠組みでの経済連携を優先させており、これまでTPPへの参加には慎重だった。ただ、ベトナムなどASEAN加盟の4カ国がすでにTPP交渉に加わっていることから、国際競争力を維持するには、参加が望ましいと判断した。
オバマ大統領はアジア太平洋地域の経済活性化の柱にTPPを位置付けており、20日に東アジアサミットが開かれるカンボジアの首都プノンペンで野田佳彦首相と会談し、日本の交渉参加について意見交換する見通しだ。
■資料3 タクシン政権の積極的な輸出市場獲得政策
日本総研03年10月
日米欧以外の地域への輸出拡大は、政府の施策により今後さらに強化される見通しである。
タクシン首相は、AFTA(ASEAN自由貿易地域)のほかにも、多くの国と自由貿易協定(FTA)を締結すべき、就任当初から積極的に取り組んできた。そのなかには日本、米国、中国、オーストラリア、ペルー、メキシコ、ニュージーランド、バングラデシュ、カタール、オマーン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、バハレーンなどが含まれる。すでに、2002年12月にバハレーンと自由貿易協定を締結した。
中国とは、ASEANとの経済協力の枠組みを利用し、2003年10月から野菜・果物の関税を撤廃し、2005年からは工業製品の関税を引き下げることが決まっている。また、オーストラリア、インドとの協議は大詰めを迎えており、10月にも自由貿易協定が締結させる予定である。日本、米国とは、農産物の関税引き下げやタイの投資環境改善(外資参入の規制緩和)など、まだ調整が必要な事項が残っているが、タクシン首相は粘り強い交渉を継続する構えである。商業省はこのような貿易自由化促進をてこに、3~4年以内に輸出を1,000億ドルに引き上げたいとしている。
« 過激な新自由主義者・橋下「維新の会」 | トップページ | 自民党はTPPに「前向き」転換していない! 日本農業新聞・小林吉弥記事の悪質な情報操作 »
「TPP」カテゴリの記事
- マーボウさんにお答えして TPPに「絶対賛成」も「絶対反対」もない(2016.11.12)
- TPP交渉大筋合意 新冷戦の視野で見ないとTPPは分からない(2015.10.06)
- 豚の差額関税制度は国内畜産を守っていない(2014.04.28)
- 鮨と晩餐会の裏での攻防事情(2014.04.29)
- 農業関税は世界最低クラスだ(2014.04.02)
コメント
« 過激な新自由主義者・橋下「維新の会」 | トップページ | 自民党はTPPに「前向き」転換していない! 日本農業新聞・小林吉弥記事の悪質な情報操作 »
視点を変えたら、これによって輸出産業にとっても、無理してTPPに日本が参加する必要性が逆に減るのではないでしょうか?
タイを経由してTPP参加国に無関税で輸出できます。国内の中小企業からのタイへの輸出を強化する。
その上でアメリカの体面を保ちつつ日本が参加しなければ、守るべき権益も守れます。
どうでしょうか?
投稿: 南の島 | 2012年11月22日 (木) 10時04分
日本ピンチ!
かと思いきや、南の島さんのような視点もありますね。
しかし、国内基幹産業はどうなってしまうのかと?
今こそタイ(旧シャム王国以来の)のようなしたたかな外交を期待したいところですが…残念ながらアメリカの縛りにがんじがらめの中で、外務省に期待して良いのかと実に不安です。
そうか、コシヒカリのパックご飯が入ってきても「米加工品」なんですね。
超格安でサトウやS&Bやカトキチを駆逐しそうだ。
価格では勝負にならんでしょう。
それどころか、スーパーの現在の店内炊飯やコンビニの弁当にも採用されるんじゃないかと…
私、パック飯は元祖のサトウのバリエーションのきらら397が好きです。
あと、委託生産で「県民ショー」でお馴染みのスーパーヤマザワ限定の、はえぬき。
暗い未来しか見えないなあ。
安いのは正直助かるんですが…。
投稿: 山形 | 2012年11月22日 (木) 11時25分
立候補を見送り政界引退を決めた、民主党政権初代の首相も酷かったですが、続く2代目首相も輪をかけて酷かったです。揃いも揃って・・・と言うところでしょうか?
初代は辞めますが、2代目の話題がマスコミでも出てきませんが、雲がくれ??
さて3代目も税と社会保障の一体改革を謳い、消費税増税を決め、今度はTPP前のめりと言うより参加本気モード・・でも一ヶ月後には???と風前の灯的政権となりました。
何とかの最後っ屁ではありませんが、近頃の政治家はどうなっちゃったんだろう???とつくづく考えさせられます。
風に期待して失敗した3年間を想い、真剣に一票投じましょうよ!!
投稿: 北海道 | 2012年11月22日 (木) 16時31分
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 株の資金 | 2013年1月16日 (水) 15時23分