自民党はTPPに「前向き」転換していない! 日本農業新聞・小林吉弥記事の悪質な情報操作
田中真紀子文科相や小平国家公安委員長は、「私の解釈としては(誓約書と)TPPは関係ない。TPPはまだ決まっていない。党議拘束はない」と、誓約書にはサインするがTPPには反対だそうです。
わ、はは、そりゃそうですな。まだ民主党はTPP推進に党議決定したわけじゃないですもんね。「国民的議論が不足」どころか党内議論すら決着していないんでしたね。
じゃあ、鳩さん焦って辞めることはなかったのか(笑)。もはや喜劇です。
さてこんな民主党の恒例ドタバタ内紛を尻目に、自民党は政権公約を出しました。(資料1参照)こちらもTPPをめぐってマスコミがお定まりのミスリードをしています。
産経新聞は見出しで、「自民・安倍総裁、TPP参加に前向き」と書いています。(資料2-1参照)
他のマスコミ各社もあたかも自民党がTPPで方針転換したような書きっぷりをしています。(資料2-2、2-3参照)
このようなマスコミの「前向き」報道の最悪の例は、われらが日本農業新聞です。TPP反対が社是であるはずの日本農業新聞は、11月18日の「ズバリ核心」という政治欄で、小林吉弥氏という政治評論家にこう書かせています。
「(自民党は)TPPも党内、世間の顔色を伺って交渉参加には慎重姿勢を表明していたハズが、政権奪還が現実味を帯びたいま、安倍総裁などは早くも『前向き』へ軌道を修正した具合で、いかにも旧態依然たる党利党略発想からでていないことになる。」
厭味たっぷりなこの小林記事を読む限り、自民党は政権奪取が目前となった今、これまでの慎重・反対姿勢を投げ捨てて、TPPに「前向き」になってしまった、ということになります。
では、ほんとうに自民党が「前向き」に転じたのか検証してみましょう。
ちなみに、このマスコミ各社のTPP「前向き」報道が出た11月15日は、21日向けての自民党政権公約を最終的に発表する前夜であり、デリケートな最終段階でした。
この時期に誤った報道をすれば、後に発表されることになる政権公約までもが色眼鏡で見られることになるからです。
そしてTPP推進で足並みを揃えたマスコミ各社は、自民党公約を都合いいように解釈します。
その手段は例によって、全体の文脈から、都合のいいフレーズのみを切り取って印象操作することです。
安倍総裁はこの11月15日のマスコミ各社の「前向き」報道を受けて、記者会見でこのように言っています。(資料3参照)
http://www.jimin.jp/activity/press/president/119200.html
「全体のコンテキストではなくて一部の発言に対して、いわばミスリードしたのではないのかなぁ、と思います。その私の挨拶の中でも述べたように、例外、聖域なき関税撤廃、これを交渉の条件とする限り、交渉参加については私は反対する姿勢は全く変わってはいません。」
また11月13日の自民党役員会で、安倍総裁はこうも述べています。(資料4参照)
http://blog.goo.ne.jp/newseko/e/cfc3e974d50e9bfbda71288aa62d868d
「TPP は経済交渉であり、交渉の結果何が守れたかが重要である。交渉自体に問題があるわけではない。」(資料4参照)
やや分かりにくいので整理してみます。「交渉」がふたつあります。報道各社はあえてそれを混同してミスリードしていますから注意して下さい。
ひとつは、いわば「予備交渉」で、現在米国と水面下で進んでいる参加をめぐっての下交渉のことです。
今ひとつは、米国との折り合いがついてTPPに参加することに米国が合意した後に、すべてのTPP参加国とのテーブルでする「交渉本番」です。
したがって、ここで安倍総裁が言う「交渉参加」とは、直接的には前者の現在日本政府と米国政府とでやっている予備的交渉を指すのは明白です。
もし後者の「本番交渉」だったならば、既に自民党は関税ゼロと自動車関連の米国要求を呑んでしまった、ということになってしまいます。
そうであるなら、後者の「交渉本番」に参加するということですが、「聖域なき関税撤廃反対」を政権公約で掲げている以上、短絡的にそれはありえません。
それを無理矢理に「TPP参加前向き」と報じてしまったわけで、このような報道を情報操作と言います。
おそらく米国のTPP推進派は、鳩山-菅首相のマヌケぶりにつけ込んで、一気に「聖域なき関税撤廃」要求を呑ませようとしたのだと思います。
経済産業省に多数巣くう新自由主義一派は、その米国要求に乗って彼らが考える「自由貿易」を拡大する目論見だったのでしょう。
危険極まるTPP交渉の真相を知った自民党は、党内部に賛成反対の濃淡がありながらも、「聖域なき関税撤廃反対」の一点でまとまることになります。
思えば、これが小泉政権時であったなら、案外すんなりとTPPに参加してしまっていたかもしれません。
しかし、あまりにも唐突な菅首相のぶち上げと、その後の稚拙な交渉ぶりに自民党がかえって危機感を募らせて慎重・反対派に回ってしまったわけです。これはTPP推進派にとっても誤算でした。
その結果出来たのが自民党のTPP交渉判断基準です。(資料5参照)TPPの問題点が網羅されており、よくできた内容だと思います。
http://www.jimin.jp/activity/colum/116025.html
自民党は、政権についた暁にはこのTPP交渉判断基準に照らして米国との交渉に臨み、それが不調ならばこの段階で交渉打ち切りになるということです。それ以外に解釈しようがありません。
現実にこの自民党交渉基準がそのまま米国に了承されるのならば、TPPの毒素が抜かれて無害化されたことになります。
また、仮に米国が了解しても既にTPPは既存条約として多国間で発効していますから、いずれにしても「関税の聖域なき撤廃」がネックになって参加は見送られるでしょう。
つまり、これまでどおり米国との交渉に参加したとしても、交渉はここでジ・エンドです。
そして現在、総裁会見や自民党役員会で確認されているとおり、この自民党「TPP交渉判断基準」は一カ所たりとも修正されておらず、安倍総裁が「前向き」に転換すると発言した事実はないのです
もし「前向き」が事実なら、自民党は偽の政権公約を出したことになり、重大な国民に対する詐欺行為です。しかし、繰り返しますが、そのような事実は一切ない、ただそれだけです。
この日本農業新聞・小林記事が許しがたいのは、掲載日が11月19日なことです。その4日も前の15日「前向き」報道に対して、安倍総裁は直ちに真正面からそれをミスリードだとして否定しています。
つまり、小林氏は既に「前向き」かどうか検証可能だったにもかかわらず、それをあえて無視して「前向き」だと言い募った記事を書いたわけです。
知らなかったのならばジャーナリストとしてあまりにも能力不足、知っていて書いたのならば悪意の情報操作です。
また、これの裏をとることなく、政権公約発表前日に掲載してしまったTPP反対の重鎮・日本農業新聞も強く批判されるべきです。
このようなマスコミのミスリードは、あえて事実を歪めてTPP反対派の文脈から都合のいい一部の言葉をピックアップして、それを膨らませ既成事実化してTPP反対派を分断していこうとするものです。
あるいは、現在JAを中心とする農業界が自民党支持を明瞭に打ち出して、TPP反対を貫こうとしていることに対して、この両者を離反しようとする企みにすら思えます。
このような反対派分断に日本農業新聞は加担したのです。責任は重大です。
念のために書きますが、小林吉弥氏が自民党に対して批判的なことは自由です。小林氏の政治批評は常に自民党を斜め高みから見るようなシニカルなトーンでしたが、彼は社説を書いているわけではないので、それは政治評論家として勝手です。
しかし、TPPはそのような斜め高みからの視線で接してはならない日本農業の生死を懸けた命題だったはずです。
私も一貫して自民党農政に対して批判的でしたが、「TPPを葬る」の一点で自民党を今回の選挙において支持しています。共産党でもいいのですが、死票になるのが、今回は痛い。
私のような「今までは自民党支持ではなかったが、今回に限っては」という農民も全国に多いはずです。
このような層に対して、小林吉弥氏と日本農業新聞は誤った「自民党転向」情報を発信したことになります。その罪は重いでしょう。
おそらく、小林吉弥氏はいつもの習慣で、安易な自民党叩きをしてしまったのでしょうが、それはこのTPP決戦最終局面でするべきことではなかった。
まして、場所もあろうに農民にもっとも強い影響力を持つ日本農業新聞にそれを書くべきではなく、日本農業新聞も掲載を拒否するべきでした。
■明日明後日は定休日です。月曜日にお目にかかりましょう。
■写真 年末恒例のつくば市の光の森が始まりました。
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■資料1 自民党政権公約 11月21日
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121121/stt12112122520013-n1.htm
■資料2-1 自民・安倍総裁、TPP参加に前向き 日商との会談で、大型補正にも言及
産経新聞11月15日
自民党の安倍晋三総裁は15日、東京都内のホテルで日本商工会議所の岡村正会頭らと会談し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉について「大事なことは“すべての関税ゼロ”を突破していく交渉力だ」と強調し、日本が交渉に参加した場合はTPPがめざしている聖域なき関税撤廃の例外を設けるために全力を挙げる方針を示した。
■資料2-2 時事通信11月15日
「TPPも、党内の意見対立を踏まえて「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」とどっち付かずとなった。」(時事通信)
■資料2-3 読売新聞11月15日
「自民党は、『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、交渉参加に反対」という基本方針を定めているが、安倍総裁は会談後、記者団に対し、「守るべきものは守っていくという交渉はできる」と述べた。米国との事前協議で、農産物などを関税撤廃の例外品目とする日本側の主張を認めさせれば、交渉入りもできるとの考えを示したものとみられる。」
■資料3 『安倍晋三総裁 ぶら下がり会見 平成24年11月15日(木)15:05~15:15
http://www.jimin.jp/activity/press/president/119200.html
記者:総裁すいません。朝の日本商工会議所との会合の総裁の発言から波及して、一部報道の中では総裁がTPP交渉参加に前向きな姿勢を示したという報道がされますけど、(これは)今までの総裁の姿勢とは違うかと思いますが、この点についてもう一度改めてお伺いしたいのですが。
安倍総裁:朝の日本商工会議所との懇談の中の挨拶、まあ(ここに居る記者の)皆さんはTPPについて私の言いぶりを何回も聞いておられるでしょうから、それと全く変わらなかったと、基本的な姿勢がですね、ということでおそらく受け止められたんではないのかなぁ、と思いますが、交渉参加に前向きというのはあくまでミスリードだと思います。
あとで伺ったところによりますと、あそこには経済部の方々もおられて、経済部の方々にとっては私のTPPについての発言というのはあまり今まで聞いてこられなかった。また、バックグラウンド、ブリーフィング的なことも聞いてこられなかったので、全体のコンテキストではなくて一部の発言に対して、いわばミスリードしたのではないのかなぁ、と思います。
その私の挨拶の中でも述べたように、例外、聖域なき関税撤廃、これを交渉の条件とする限り、交渉参加については私は反対する姿勢は全く変わってはいません。
■資料4 自民党役員会11月13日
http://blog.goo.ne.jp/newseko/e/cfc3e974d50e9bfbda71288aa62d868d
我が党は自由貿易を堅持する立場である。
TPP は経済交渉であり、交渉の結果何が守れたかが重要である。交渉自体に問題があるわけではない。
野田総理は選挙向けの思いつきでTPPを俎上に上げている。そもそも野田総理は今年はじめに「TPPに関する情報公開を行い、国民的議論を喚起する」と言っていたはずだ。しかし未だに何もしていない。
われわれは民主党政権の交渉能力欠如を懸念している。
菅首相は、普天間問題で滅茶苦茶になった日米関係を何とかする必要に迫られて、すがる思いでTPPに飛びついた。
しかも菅首相は「日本を『開国』する」と言ってしまった。たとえ開国されていなかったとしても「わが国は十分開かれている」と強弁して交渉をスタートするのが、経済交渉の基本である。しかもわが国は既に十分開かれていて、関税も米国よりも低い水準である。にもかかわらず菅首相は最初に「開国する」と言ってしまった。
このような誤った交渉戦略と、普天間が原因の対日不信感が、米国をして同盟国である日本に対していきなり「聖域なき関税撤廃」ということを言わしめてしまったのである。
通常同盟国に対してそのようなことはしない。自民党時代ならば、必ず事前の連絡、折衝があった。
今、米国はペリーの浦賀来航以来の傲慢な姿勢になってしまっている。このような状況を招いたのは、ひとえに民主党政権の交渉能力の欠如であり、このような政権にTPP交渉を進めさせることは認められない。
我が党は経済交渉としてきちんと折衝し、守るべきものは守っていく。守るべき聖域とは何かについて党内の議論を詰める必要があるが、この姿勢を堅持していきたい。
■資料5 自民党TPP交渉判断基準
http://www.jimin.jp/activity/colum/116025.html
(1)政府が「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車などの工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうような投資家・国家訴訟(ISD)条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービスなどは、わが国の特性を踏まえる。
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コメント
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http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/
外務省版
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/tpp.html
経済産業省版
http://www.meti.go.jp/press/2012/08/20120821003/20120821003.html
日中韓FTA、経済産業省版
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/asean/activity/asean63.html
ASEAN+6経済産業省版
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_aso/asean05/
ASEAN+3外務省版
マスコミ偏向報道は、農業=TPP(関税フリーの農産物は、多く存在している現在、日本米の関税だけで、農業全体を把握することは、TPPの実態を見失う可能性が高い)
TPPは、反対だが、ASEAN+6は、賛成と言う論理は、わたしには、理解できない。
私の感覚では、EPA、FTA、TPP、ASEAN+3、ASEAN+6も、冠名称は、どうでも良くて、国際契約上、何が、国益で、何が国益を損するかと言う中味が大事であり、TPP反対とか、農業作物の関税ゼロは、反対というのは、農業者団体のデモでのスローガンには、良いのかもしれませんが、仮に、最悪TPPの予備交渉に参加した場合、条約内容のこの部分が、農家としては、反対と言う具体的発言が、ない限り、国内の多くを占める農業未経験者において、何が、TPP参加に反対するのか、全く不明です。
自分は、TPPもFTA、ASEAN+3、+6も、内容が、農業だけでなく、すべての国内産業に、メリットがあれば、参加し、批准すべきだし、デメリットがあるなら、マスコミ報道による、農業=TPPと言う、作為的とも思われる偏向報道に対して、具体的に、関税という金銭問題以外も含め、より具体的に、デメリットを、発信してほしいと思ってます。
ウルグアイラウンド、ドーハラウンドなど、含めて、内容を議論してほしいのですが、ほとんど、米農家や自動車産業にだけ、スポットを当てて、偏向報道されているのに、農業者からは、「TPP反対」のスローガン以外には、聞こえてこないですね。
特に、都市部で、TPP参加の問題点を、報道したり、PRしたり、することが、ほとんどありません。
農業者も、都市部には、JAバンクと言う、組織や店舗を持っていながら、JAバンクのロビーでさえ、TPP反対の農業者の具体的な説得力のある声が書かれたポスター掲示すら、未だに無いのは、なぜなんでしょうか?
JAグループも、日本の農業が衰退すれば、自分の取引先が減る訳ですから、農業者以外の国民に、問題点をアピールすべきと考えます。
JAバンクの利用者は、現実は、非農業者の方が、特に、都市部では、多いのですから。。
土地バブルのときに、農業者以外の顧客に、不動産担保融資を積極展開したのは、JAバンクであり、また、それを利用した都市部の人間は、都市銀行に比べて、融資審査が緩い、JAを、わざわざターゲットにしてきた事実があるのですから。。
投稿: りぼん。 | 2012年11月23日 (金) 10時18分
よりによって日本農業新聞がこんな記事を載せるとは呆れた話です。
反TPP派分断?
結集すべき時に何の意味があるのやら、理解に苦しみます。
りぼん。さん
ありましたねえ、バブル期の農地の宅地並み課税問題とか。農協や農家は大反対しましたが、今回は意外におとなしい。それだけ農協の組織力が低下しているということか…?
ネットでは「拡散希望」とか言って、どのみち牛肉・オレンジの自由化から日本の畜産は死滅への道に向かっているんだから、さっさとTPP参加して潰してしまえ!
消費者の利益だ!
などという、全くもって近視眼で聞きづてならない書き込みが、「山形大学卒業生」なる悪意あるHNで書きこまれています。
よほど大学でいやな思いしたのかなぁ?
投稿: 山形 | 2012年11月23日 (金) 10時54分