第2、第3の笹子トンネル崩落事故を起こさないために
笹子トンネル天井崩落事件について。いくつか新たな情報が入ってきています。
事故当初から、崩落の原因は天井を支えていた吊り金具を留めるボルトが脱落したことだと推測されていました。
このアンカーボルト(留めボルト)がなぜ抜け落ちたかについて中日本高速道路は、いち早く「36年目に起きたことから老朽化だと思う」と発表しました。
同時に、「打音検査をしなかったことを反省している」とも述べています。
昨日書きましたように当然老朽化もしていたでしょうし、目視検査で済まして打音検査もしなかったのでしょう。ことによると業務上過失致死に問われるかもしれませんから、後に大いに問題としてください。
技術的な問題で私が問題としたいのは、この吊り天井とアンカーボルトの接着剤による接合というケミカル・アンカー方式です。要するに、接着剤でアンカーボルトを留めていたようです。
もちろん私は専門外ですが、老朽化に加えて手抜き工事の疑いを感じています。(欄外参照)
いずれにせよ、このアンカーボルトの接合方式、点検の怠り、そして他の会社のトンネルでは同じ吊り下げ式天井でもボルト自体を適時交換整備していることなどから見ても、中日本高速道路会社の問題点はゆくゆく明らかにされていかねばなりません。
さてそれはいったん横に置いて、このような問題とは別次元に「政治」の問題があります。
通行する市民を殺してうれしい会社はありません。なぜ中日本高速道路が点検を怠ってきたのか、なぜ危険を察知できなかったのでしょうか。
その理由は予算の配分にあります。我が国は、公共インフラの検査や営繕、補修に予算配分してきませんでした。
関係者はそれを「メンテはすずめの涙」と自嘲します。作る時は華々しくブチ上げても、作ってしまえばただのインフラの裏方、というわけです。
大阪大学・谷本親伯名誉教授(土木施工学)によれば、ドイツではトンネルを百年間メンテナンス・フリー仕様で作るために、工事費用をわが国の数倍かけるそうです。そのコンクリート壁の厚さはわが国の3倍だそうです。
わが国はそれをケチって急ぎました。それには時代的背景がありました。高度成長期から安定期に向かうわが国には経済成長のために多種多様なインフラ整備が急いで必要だったからです。
当時のぐんぐん伸びていく経済を支えるための高速道路網、新幹線網、それに伴う多くのトンネル、橋梁、港湾、堤防、広がる都市のための道路、上下水道、公共施設、そして増える子供のための教育施設など、星の数ほどの公共インフラが必要だったのです。
そしてもうひとつ忘れてはならない、エネルギー源としての原子力の本格導入が始まったのも、この前後の時期です。
このように我が国が今から40年前から60年前にかけて、徹底的に様々なインフラを整備しました。
しかし急速に拡大した公共インフラを、政治は予算で支えませんでした。作った後は「すずめの涙」ほどのメンテナンス予算しか出さなかったのです。
それは「財政再建」を唱える新自由主義者が政権の舵を握った自民党政権時からその傾向は特にひどくなり、民主党政権において完成しました。
それが「コンクリートから人へ」という、公共インフラ保全放棄宣言です。
公共インフラ営繕などは票にならない、票のためには票田に金をバラまく、なんでも無料化、それに限る、そう考えた政治屋があまりにも多かったのです。
こうして、我が国の公共インフラは30年から40年目の今をひと区切りとしてボロボロになり、現在わが国の公共インフラは骨粗鬆症状態にあります。
今日本は、即刻建て替えるか、点検・補修する予算を出すか、という分岐点の時期に立っています。
その判断を間違えば、人の命が多く奪われる第2、第3の笹子トンネル事故のような公共インフラ重大事故がまた起きるでしょう。
■写真 ひさしぶりに我が村の湖に行ってきました。小雨の中でそれは美しかった。
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■[私のアンカーボルト接合方法への疑問]
新聞報道によると、天井部分のトンネル本体にドリルで穴を開けて、そこに接着剤を流し込みと留めたとしてます。アンカーボルトの長さは23センチで、うち13センチが埋め込まれていたと、中日本高速道路は説明しています。
なぜこのような接着剤によって1トンもある天井板を吊り下げようとしたのか分かりません。このような接合工法は確かにあり、ケミカル・アンカー方式というそうです。
このケミカル・アンカー方式は、工事が簡単である反面大きな欠陥をもっています。
なによりも接着力が弱いことです。下図を見ていただくとお分かりになると思いますが、このアンカーボルトは実は6メートルの鋼材を貫通し、鋼材ごとコンクリートに埋め込まれています。
常識的に考えて、鋼材の裏でアンカーボルトをナットで留めるのが普通ではないでしょうか。
ナットで固定してしまえば、私も学生時代にビルの天井張りのバイトをしたので経験がありますが、脱落することは考えにくいのです。
仮にアンカー・ボルトが漏水によって腐食することがあったとしても、錆によってむしろボルトとナット、鋼材が一体化してしまい、そうそう簡単に全体が脱落するはずがありません。
鋼材があるならなぜナット留めしなかったのでしょう。それを安直なボンドでつける工法をとったのか、私には納得がいきません。
仮によく使われるエポキシ系接着剤を使った場合、水に弱くとうてい数十年も持つはずがありません。
特にこの笹子トンネルは工事中から大変な湧水で困難を極めていた場所であり、おそらくは完成後もコンクリートの経年劣化から浸透してくる水がかなりあったと思われます。
すると劣化した接着剤がスポッと抜けて脱落し、近くのアンカーボルトもそれを支えきらずに将棋倒し的に脱落した可能性があります。もしそうだとすると、これは人災側面が強くなります。
以上、素人考えです。
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笹子トンネルだけ、同じ工法の中でも唯一ボルト長が5メートルもあり、目視点検に留めていた。
てことは、他のトンネルでは実施している打音検査は何のためにやっているのか?
という、大変な矛盾がありますね。NEXCO中日本は管理責任を問われることでしょう。
しかし、既に事業仕分けで昨年廃止された国土交通省管轄の財団法人の天下り役員は、のうのうと他の独法に渡っていたり…。
山形でも内陸と庄内を繋ぐ動脈の国道112号月山第1・第2トンネル、米沢から福島への唯一の大動脈である国道13号西栗子トンネルが同じ工法で、
昨日から順次緊急打音検査が始まっています。
現場の人ばかり大変だ…。
投稿: 山形 | 2012年12月 5日 (水) 07時03分
これらのインフラ事故や老朽化と無理矢理結びつけようとはおもいませんが…、
日本の原子力発電所、特に現実に事故を起こした福島第一ですがね、
「手の届かないIC」や「人力操作の極めて困難なレイアウトのベントバルブ」
など、スリーマイルの教訓から学べることは多かったのではないかと…やはり考えてしまいます。
米NRCのような、独立組織があったら…高い改修費用を払っても改善されていたのではと。
まあ、これまで分かっていた知見から、福島にあんな高い津波が来るとは考えなかったというのは理解できるんですが、結果は残念なことになりました。
リアス地形の女川のようにあと3メートル高かったらと。
投稿: 山形 | 2012年12月 5日 (水) 11時47分
http://report.jbaudit.go.jp/org/s50/1975-s50-0159-0.htm
もともと、昭和50年、51年の会計検査院の施工検査報告では、トンネル本体部分(今回のアンカー打ち部分)のコンクリートの厚みが、設計上の厚みより不足していて、施工しなおすように、当時の道路公団に対して、指摘をしています。
結果は、止水剤ではなく、ノロと呼ばれるモルタル注入で、隙間を埋めただけで、トンネル自体の強度不足もありえる状態です。
一般的に、生コンの強度は、セメント、じゃり、砂、水のベストミックスで、強度を出すのですが、生コンは、固まるまでに、時間が必要ですので、下部に、砕石がたまり、上部に、水が溜まる状態になってしまいますし、固まるまでに、容積が少なくなり、収縮が起きます。
つまり、設計上、トンネルの中心部、真上は、設計強度が出ないのが、施工上の常識でしょう。
また、2部に分かれた天井部材を、1箇所で、吊り下げるのも、設計上、認めること自体が、不思議ですね。
明らかに、監理ミスでしょう。
つまり、文化系の行政役人に、設計段階で、民間コンサルに対して、設計ミスを指摘できないシステムが問題だと思います。
図面が、読めない人が、発注する現状では、この問題は、解決しないと思われます。
トンネルで、どういう実地検査方法を採るのが、ベストかは、わかりませんが、普通のビルであれば、コア抜きして、強度試験機でテストして、どれくらいの強度があるか、サンプル破壊テストをするのが、普通ですが、トンネルと言う、地下水、さわ水を、対策する場合、どうするのが、ベストかは、私には、解らないのですが、少なくとも、1番、強度が出ない部分に、接着アンカー止めするのは、大問題だと思います。
また、各省庁の予算付けも、メンテナンス、修理等には、未だ、予算が認められず、まだ、使えるものも、壊して新設する場合以外、予算が付かない現状も、大いに問題があるということは、管理人さまのご指摘どおりですね。
投稿: りぼん。 | 2012年12月 5日 (水) 12時05分