脱原発のための6のパラメータその3・原子力安全規制機関は経済と政治を超越する
今日は私が考える脱原発の6つのパラメータのうち❻の「原子力規制機関のあり方」を考えてみます。 (※1)
発足当初はミスを連続した避難マップの丸投げで大いにミソを付けましたが、あれで事務局である規制庁のレベルが分かりました。予想に違わずまったくの原子力の素人集団です。
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もっとも規制委員会のほうは、東通り原発の活断層判定などで東北電力としっかりと学的判断を対置してやりあっており、意外にも(失礼)ちゃんとした仕事をしている印象です。このままがんばって欲しいものです。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-397c.html
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私は当初規制委員会が出来た時の問題点は、田中委員長が「原子力村」出身であることや、国会同意人事を経なかったことではなく、規制委員会自体の「独立性の確保とその担保」がなされていないことだと考えていました。
なぜかそのことを指摘する人がほとんどいないので、逆に不思議に思ったほどです。
規制委員会のキモは、推進部門と完全に分離された自立した「規制」機関でなければならないはずです。
今までのように、推進機関の経済産業省の外局に規制機関の安全・保安院があると、よく言えば推進部署と意志疎通がうまくいく、はっきり言って癒着と馴れ合いの温床になっていました。
さて、この規制機関の「独立性確保」というのはなかなか難しいと見えて、完全にそれを確立しているのは世界でもフランス原子力安全院(※ASN)と、米国原子力規制委員会( NRC)が代表として挙げられるくらいです。
我が国の原子力規制委員会は、環境省の外局として作られています。それは、規制委員会の事務局の原子力規制庁の性格をみれば分かります。
役所が新たに作られる場合、要はいろいろな役所の寄せ集めになるわけですから、どこか何人送り込んだのかをみれば役所間の力関係が推測できます。
今回の規制庁は完全移籍ではなく、数年間の出向で来ていますから、背中には出身省の紐がしっかり付いているとみるべきでしょう。
出身母体に帰って冷や飯を喰わされたくはないので、お役人さんたちは有形無形で出身官庁の意向に沿って動くようになります。
原子力規制庁の官僚出身内訳
・経済産業省・・・312名
・文科省 ・・・ 84
・警察庁 ・・・ 16
・環境省 ・・・ 10
大変に分かりやすい構成ですね。この規制庁は、ズバリ経済産業省の縄張りです。
7割を超える圧倒的人数を送り込んで来た経済産業省からの出向組は、原子力安全・保安院、資源エネルギー庁出身者です。
なんのことはない資源エネルギー庁とは、政-財-官-学にまたがる「原子力村」の司令塔のような所ではないですか。
2番目は文科省ですが、これは技官が多いのではないでしょうか。文科省は旧科学技術庁系の技官を大勢擁しています。福島事故の時も地道な放射線量測定に活躍しました。
3番目に環境省ですが、環境省は原子力規制庁を外局として組織系列下にした上で、ナンバー2の次長ポストに森本氏を押し込んでいます。
つまりボスはコワモテの警察官僚、現場ボスが環境省、デスクワークは経済産業省、技官は文科省というのが、規制庁という内訳の官庁です。
この環境省はなかなかクセモノ役所で、CO2削減を旗印にして、「地球にやさしいクリーン電源・原子力」(爆笑)をエネルギー比率50%まで増やすという、今思えばトンデモの政策を作った当の官庁で、バリバリの原子力推進官庁です。
ある意味、環境省は経済産業省のように、電力会社に配慮したベスト ミックスなどを考える必要がないだけ、「純粋に」原子力推進派だったといえるくらいです。
「環境省」という美しいネーミングに騙されてはいけません。私も大いに期待して裏切られました。
福島事故の折に、私たち「被曝地」の住民が困ったのは、どのようにプルーム(放射能雲)が通過したのか発表がないために、自分の住む地域の汚染度が分からなかったことでした。
私たちが最も期待した環境省の動きは猛烈に鈍く、空間線量や土壌放射線量などの測定も文科省に遅れをとり続けてきました。当時私は、環境省に悪意のサボタージュを感じたほどです。
環境省が原発事故において有効な動きをしなかった理由は、環境省が定める環境基本法や土壌汚染防止法には、放射性物質が「特定有害物質」に指定されていなかったためにです。
私たち住民にすれば、放射性物質以上の汚染物質はないわけですが、環境省に言わせれば、放射性物質は法的には「汚染物質ではない」ということになります。
ですから、福島事故で大量に排出された放射性物質を除染する根拠法がなくなってしまったというわけです。
東電はこれを楯にして、二本松ゴルフ場裁判で降下した放射性物質は「無主」のものであり、除去せねばならない法律はないという弁護論理を編み出したほどです。やれやれ。
福島事故以後、経済産業省は批判の矢面に立たされましたが、「原子力村」の助役格の環境省はぬくぬくと批判を免れたままです。
つまり規制庁は、原子力安全対策を風当たりが強い経済産業省から、環境省という裏の司令塔の下に系統をすげ替えただけの組織なのです。
どうして完全にすべての省庁から独立させなかったのでしょうか?私は会計検査院のような政府から独立した地位を保障されている原子力監視機関を作るのだと思っていました。
ちなみに会計検査院は、このような独立機関です。
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。(日本国憲法第90条)。また、内閣に対し独立の地位を有する。(会計検査院法1条)」。Wikipediaによる
この「国の収入収支」の部分を原子力発電に読み替えて下さい。原子力の規制・監視もこの「内閣からの独立の地位」こそが肝心だったはずです。
「内閣」、つまり政府から完全に独立して、いかなる政治的横槍からも自由である組織が原子力安全・監視機関であるべきなのです。
民主党政権時に、原発の再稼働は政府が決定するのか、それとも規制委員会が判断するのかという議論が、政府と規制委員会の間でありましたが、当然筋としては規制委員会です。
こんなことを出来上がった後に議論すること自体がアホです。
規制委員会が、「うちは専門的な判断をするだけだ」みたいなことを言ったのは、民主党政府が責任だけを規制委員会に被せて、いざとなると「脱原発」を言いかねないのを恐れたからです。
もし、政府がほんとうに規制委員会の判断で再稼働か否かを決定できるのならば、それの根拠法と権限が必要です。
現在、再稼働停止を命じられるのは「不正急迫」の場合、つまり核テロが迫っているとか、大地震が原発直下で起きそうだとかいう場合に限られています。この改正は来年7月にならないとできません。
しかし、どうやらこの間の島本委員長代理の動きを見ていると、規制委員会も地層調査してみてあまりの原発直下の活断層の多さに腹を括ったようですね。
東通原発における東北電力との議論では、法的権限があろうがなかろうが、言うことは言うという姿勢が見て取られます。
専門家として実に背筋が伸びた姿勢です。後は、政府が環境省から切り離し、独立した権限を与え、その根拠法も整備せねばなりません。
原発を失くすまでは、長い時間がかかります。来年再来年というわけにはいかないでしょう。
もちろん直下に活断層があるような、危険極まりない原発は即座に廃炉にされるべきです。今後くるであろう震災時に危険地帯にある原発も同様です。30年から40年たつ老朽炉は自動的に廃炉にすべきです。
問題は、それ以外の「安全な」原発をどう判断していくかです。原発だからすべて廃炉ならそもそも規制委員会などは要りません。初めからすべて廃炉なのですから。
現実には是々非々となるでしょう。その判断をするのが規制委員会です。規制委員会は、政治にも、経済にも影響されず、ただひたすら原子炉の安全性のみを判断する存在だからです。
すべての原子炉を廃炉にするか否かの判断は、規制委員会の仕事ではありません。それは国民の代表による議会と、政府が判断することです。
しかし、こと稼働に関する限り規制委員会は、圧倒的権限を持たねばならない機関なのです。
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■※関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-add7.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-4.html
■※1 私が考える脱原発の6つのパラメータ
➊環境問題
❷原発をなくした場合のエネルギーの安定供給源
❸代替エネルギーの普及・経済効果とその財源
❹使用済み核燃料の処分
❺国民生活・国民経済への影響
❻原子力規制機関のあり方
■※2 フランス原子力安全院の別訳/原子力安全機関/原子力安全局
■東通原発 “活断層の可能性”最終判断
NHK 12月27日 5時13分
国の原子力規制委員会の専門家会議は、青森県の東通原子力発電所の断層を評価する会合を、26日開き、「活断層の可能性がある」という最終的な判断を示しました。
福井県の敦賀原発に次いで2例目で、専門家会議は、年明けに、科学的な根拠を盛り込んだ報告書をまとめることにしています。
原子力規制委員会の島崎邦彦委員と専門家の合わせて5人は、今月20日の会合で、東通原発の敷地を断層を評価した結果、「活断層の可能性がある」という見解をまとめています。
26日の会合で、東北電力は、「断層は、新しい時代にずれた痕が見つからず、活断層ではない」と主張したのに対し、専門家から、「東北電力の説明は、裏付けが弱く、活断層ではないとは言い切れない」といった指摘が相次ぎました。
そして島崎委員が、「活断層を否定できる根拠は無かった」と述べて、「活断層の可能性がある」という最終的な判断を示し、専門家会議は、年明けに、科学的な根拠を盛り込んだ報告書をまとめることになりました。
「活断層の可能性がある」という判断は、敦賀原発に次いで2例目で、東通原発は、今後、敷地の活断層を想定し、耐震対策の見直しを迫られることになり、当面、運転が再開できなくなる可能性があります。
規制委員会の島崎委員は、「東北電力の説明には、われわれの、『敷地内の断層が、全体として活断層としての活動をしている』という認識を否定できる根拠は、無かった」と述べました。
これに対し東北電力の梅田健夫副社長は、「活断層かどうかの議論を、いつまでやっても切りがないので、どれほど影響があるか調べたい」と述べ、施設への影響を調査する考えを示しました。
■明日明後日は定休日です。月曜日にお会いしましょう。今年も数日ですね。
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コメント
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それでも日本人は、原発の再稼働を選んだ。
一億総ざんげへの道。動き出したら止まらない。
この道は、いつか来た道。ああ、そうだよ、民族の歴史は繰り返す。
意思のあるところに方法はある。(Where there’s a will, there’s a way).
意思のないところに解決法はない。
意思は未来時制の内容であり、日本語には時制がない。
それで、日本人には意思がなく、解決法が見つけられない。
自然鎮火を待つのみか。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、もって万世のために太平を開かんと欲す。
不自由を常と思えば不足なし。
座して死を待つか、それとも腹切りするか。
私の父は、玉砕した。何のお役に立てたのかしら。
安らかに眠ってください。過ちは繰り返しますから、、、、
わかっている、わかっている。皆、わかっている。
ああしてこうすりゃこうなると、わかっていながらこうなった、、、、、
十二歳のメンタリィティには、知恵の深さが見られない。教養がない。
わかっちゃいるけど やめられない。ア、ホレ、スイスイ、、、、
白く塗られた黒いオオカミの足を見破ることは難しい。
だます人は悪い人。だまされる人は善良な人。おとり捜査は難しい。
この調子では、人の命はいくつあっても足りるものではない。
我々は、自らは望むことなく危機に陥る民族なのか。
http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://3379tera.blog.ocn.ne.jp/blog/
投稿: noga | 2012年12月28日 (金) 17時48分
管理人さんの危惧することは、今の内閣府内の構造と良く似ていて、国民に対して、「まじめにやってるよ」とのポーズは、採れるが、実質、何もできない。
会合のための、会議をする機関であり、独自主張も出来ないし、予算請求も出来ないと言う組織ですから、そういう組織にありながら、現在の規制委員会の個々のメンバーは、納得はいかないが、制約の多い中で、活断層に対する対応としては、まずまず、頑張っているのでしょうね。
しかし、今の委員メンバーの個人の努力に頼っているだけで、組織としては、全く役には、立たないでしょう。
これは、内閣府に所属する、例えば、少子化担当とか、消費者庁、内閣官房なんかをみても、内閣府が出来てから、府独自のポリシーを持って、法改正やら予算配分に、コメントしたりとか、実務上、何も出来ていないことからも、解るでしょう。
各省庁案件なら、大臣、政務官が、やる気になれば、出来ることが、一切何もできない構造になっている組織ですから、レンホウ先生にまず、事業仕分けしてもらい、無くしてしまうのが、もっとも、日本にとって、プラスになる省庁でしょう。
内閣府は、多数の大臣、副大臣、政務官などで、どれだけ、予算を食いつぶし、実効性のある仕事をせず、言い訳のための会議議事録を積み上げるだけの省庁ですが、原子力規制委員会や環境省も、同じ道を歩んでいることが、個人的には、無駄と思うし、出切れば、無くなってほしい組織でもあります。
出向者の寄せ集め省庁で、かつ、他の省庁の作った現行法令に、越権行為だと非難され、修正すら言うことができない組織ですから、まだ、保安院のように、経済産業省配下であっても、国民が、直接、政治家を通じて、意見が伝えられる今までの方が、良いかもしれませんね。
少子化担当大臣が、何人目の大臣で、マジメに、この問題に取り組んで来たかと言えば、すでに、30年以上、月2回から1回の審議会議事録があるだけで、内容は、30年前と全く同じであり、何も実行できないと言うことは、すでに、組織としては、死んでいるとしか、言い様がありません。
過去、審議会委員代行として、会議に出てきたものとして、このような、事務局のシナリオどうりに、運営する前提の会議や組織は、ナンセンスとしか、言い様がありません。
そういう制約のなかでは、今のメンバーは、努力していると思いますが、放射線と言う命にかかわる組織としては、もっと、独立性を持たせられる組織、せめて、直接、財務省に、予算要求できる組織にしてもらいたいと思ってます。
投稿: りぼん。 | 2012年12月29日 (土) 14時25分
気になっていることが、ありますので、管理人さま、教えてくださいませんか?
現在、日本の山林は、戦争のためや戦後復興住宅を建てるため、山の木を切り出し、丸坊主になった山に、針葉樹として、ヒノキ、松、杉、あすなろなど、たくさん植林しました。戦後67年経ち、それらの木は、枝落とし、間切りなど、伐採して、手入れをいれないと、木材の価値がなくなり、自然に立ち枯れする運命にあります。
トラックや重機での、木材降ろしは、索道では、間に合わず、昔のように、馬を使い、山の集積場に集め、1本レールのケーブルカーや、谷超えによるワイヤーを使った、切り出しや何かで、密集した針葉樹を間引きしないと、草や蔓が、はびこって、薪にすらならない現状ですが、自分のこどものころは、ヒノキの葉っぱで、ご飯を炊いたりして、少なくとも、中山間の料理や暖房の燃料として、使ってました。
現実に、ヒノキの枝で、食事を作ったり、風呂を沸かすのは、燃える音は、うるさいが、お湯の芯まで暖まっていて、今のシャワーのお湯より、熱効率が良かったと思いますが、外国より、針葉樹林が増えた今、木炭火力や材木による熱エネルギーの利用は、かなり日本の技術革新により、CO2の排出量も減りましたし、枝きりや、間引きした丸太は、きちんと、工業製品のように、きれいに、チップ化しなくても、有用な燃料にもなり、伐採、間引き、索道の整備等で、新しい熱エネルギーや電器エネルギーに変換しながら、土砂崩れも防ぐような樹種を混合林として植えれば、理想的な山林になり、日本の工業技術、ロボット技術なら、馬引きによる間伐も、新しい機械を開発することで、対応できると、思ってますが、山林は、高値の付く、官材を採ること以外に、かなりの、利用価値を、感じますが、木材、薪で、冷暖房や調理したり、風呂を沸かすことは、そんなに、難しいことなんでしょうか?
国内森林資源は、かなり使い物になるほど、成熟しているのに、なぜ、材木市では、人件費も出ないような卸価格しかつかないのでしょうか?
小奇麗な木材チップでなくとも、自然の枝や、薪で、充分、生活上のエネルギーが得られるのに、そういう面での実務的機械の発展が遅くて、製品化されないのは、なぜでしょうか?
少なくとも、静岡の佐久間ダム周辺での生活では、熱源は、ヒノキの枝と、間伐材の薪で、充分だったのですが、今から、そういうことをするのは、無理であり、無駄なことなんでしょうか?
これだけの針葉樹が、距離的にも、都市部に近いところにあるのだから、何とか、利用できないものかと、思っているのですが。。。
投稿: りぼん。 | 2012年12月29日 (土) 20時01分