今、立ち止まって考えよう、「脱原発」
今、立ち止まって「脱原発」を正面から考えてみませんか。
「脱原発」という言葉は一種のマジックワードです。マジックワード、不思議な言葉。言っただけで、あ~これで解決したぁ、という錯覚を与えてしまう言葉です。
「脱原発」と言っただけで、原発はおろか社会に対するスタンスまで表明できるというマルチな言葉です。
「脱原発」・・・、それは私にとっては自分の農地に突如降ってきた放射性物質との1年間に及ぶ戦いなくしては語れないし、福島の人々にとっては故郷に還れない哀しさを込めて吐く言葉です。
「人類は原子力とは共存できない」、と。
しかし、現実世界においては、残念ですが言っただけでは何も変わりません。
それは、「脱原発」という目的そのものが無意味だからではなく、言っただけでは社会は何も変わらないからです。
頂戴したコメントに、「使用済み燃料の処分はそれを作った人たちが考えるべきなのではないでしょうか。なぜ私たちが考えねばならないのですか」という意味のものがありました。
気持ちは分かります。作ったのはいわゆる「原子力村」なのに、なぜ私たちがその尻拭いを考えねばならないのかという不条理は理解できます。
しかし、逆に考えてほしいのです。そういうことを考えてこなかったから、私たちは「原子力村」にいいようにされてきたのではないか、と。
もし、ここで「それはあいつらが考えろ。オレは知らない」、としてしまえば思うツボです。
使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは、ワンスルーと言ってそのまま埋却してしまえばどうなりますか。
2万4千年と言われる半減期のプルトニウムを地層処分(※)することを考えなくてはだめです。
活断層だらけのわが国で、いかに強固なキャスク(※)に入れようが、それが2万4千年持つという自信がある技術者がいたらお目にかかりたいものです。
地層処分は、おそらくわが国では相当に難しいでしょう。
では、青森県六ヶ所村に2900トン、全国各地の原発には1万4000トン、計1万6900トンの使用済み燃料の行き場はどうするのでしょうか?
こんなヤバイもの、超微量が福島第1原発周辺に飛散しただけで一部の人がパニックになったようなプルトニウムを今のままにしておくのでしょうか。
青森六ヶ所村は、そのうち規制委員会の調査で分かるでしょうが、相当の確率で活断層の上、ないしは周辺にあります。
ですから、六ヶ所村は稼働することにかぎりなく暗雲が立ち込めています。これは、決定的に日本の原子力発電にとって土台から崩れるような事態です。
それは使用済み燃料の再処理が不可能になるからです。ここで「シンプル脱原発派」は喝采を叫ぶでしょうが、私のような「ディープ脱原発派」は頭を抱えます。
なぜなら、これで核燃料サイクルの再処理が不可能になる結果、使用済み核燃料は各地で積み上がったままという事態を迎えるからです。
つまり、青森六ヶ所村は閉鎖され、そこに積み上がった使用済み核燃料2900トンは各地の原発に返還されます。
しかし、各地の原発には収容するプールが一杯だから六ヶ所村に搬送したのであって、返してもらったらとんでもないことになります。
受け入れ場所がない。その上、その返却された原発が地震が30年確率6割などという場所にあれば、絶望的に返還不能だからです。下図で赤い部分が6割以上の地域です。
つまり、プルトニウムが入った使用済み核燃料は、埋めるに埋められない、元の原発に返すに返せない、という行き場がない恐ろしくやっかいなものなのです。
さて、とりあえずエイヤーで原発を止めてみます。ちょうど現在の審査待ちの状況そのまま続くと思えばいいでしょう。
「再稼働反対」というスローガンは、そういう状況がずっと続くことを意味します。もちろんそれは廃炉要求なわけですが、先ほどから述べているように使用済み核燃料問題を解決しない限り廃炉はありえません。
すると、各地の原発でプルトニウム入り使用済み核燃料が積み上ったままになります。その上に六ヶ所村から返還されてきます。
ダメージこそ受けていないが、福島第1原発4号機の使用済み燃料プールが各地にあって溢れている状況と思って下さい。
この先どうしますか?このまま30年確率6割の地域の原発に入れておきますか?それはものすごく危険なことじゃないでしょうか。
いったん震災があれば、使用済み燃料プールは倒壊し、大量のプルトニウムを放出します。
このようなことに対して、「脱原発派」が黙ったままただ反対を言っているのはものすごく無責任なのではないでしょうか。
コメントにあったように、「それは原子力村が考えろ」と突き放すことは簡単です。それをすれば、きっと当の「原子力村」は大喜びで、「そうさせてもらいます」と答えることでしょう。
そして、六ヶ所村の再処理工場をなんとか稼働させて、MOX燃料による原子力発電を続けるしかないと結論づけるでしょう。そしてそれを、半永久的に繰り返し、繰り返し続けると考えるはずです。そして原発はしぶとく生き残ります。
実は私にも決定的な解答はありません。だから、原発はいらない、と思っている人たちが知恵を集めて考えようと私は呼びかけています。
小出さん考えてくれ、飯田さん教えてくれではなく、自分で考えましょう。
■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-ebe9.html
■※地層処分・原子力発電所から発生する使用済み燃料の再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物の最終処分方法の一つである。放射性物質の濃度が高く、半減期の長い放射性物質を含むため、人が触れるおそれのない深部地下にこれを埋設することであり、低レベル放射性廃棄物の処分である「浅地中処分」とは区別される。(Wikipediaより)
■※キャスク・使用済み核燃料の容器。
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ここ数日「ハンドル名」が記載されていない「名無し」のコメントが多いのが気になります。
他人様のブログにコメントするなら、「名前:(任意)」とはなっていますが、「ハンドル名」付してコメントしては如何でしょうか?
「名無し」では、同じ人なのか、別人なのか判断できません。
書き込むならその程度は、最低のマナーと思うのですが・・・
投稿: 北海道 | 2012年12月25日 (火) 11時36分
今日の記事は、いくつかの項目に分けて考えねば整理がつかないテーマだと思います。
その中で、使用済み核燃料をどうしたら良いのかという点に対するコメントをします。
私の基本的な考え方のベースは、以前コメントした日本学術会議の提言にあります。
再処理は行わず、使用済み核燃料を直接暫定保管するというものです。一定期間貯蔵プールで保管した使用済み核燃料をドライキャスクにより乾式貯蔵するというものです。この方式は、日本は遅れていますが、国内外で実用化されています。
利点は、自然災害に強い、移動できる、新技術が開発された際に対応できる等です。
以下をご参考ください。
http://icchou20.blog94.fc2.com/blog-entry-335.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120928j0601.pdf
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=11-03-04-09
http://onodekita.sblo.jp/article/57783010.html
本当は再処理の是非などもコメントしたいのですが、長くなりそうですし、わたしもコメントを整理しきれていません。
投稿: 南の島 | 2012年12月25日 (火) 19時13分
非常に難しく全体的に複雑な課題です。岸首相が1955年に日米間で取り決めた日米原子力研究協定の時代背景と思惑・課題が2013年現在の世界情勢が変容して解決の見通しがつかないのが現実でしょう。
投稿: 放浪者 | 2013年7月 8日 (月) 16時55分