脱原発のための6のパラメータその1・原子力が減ると、増える化石燃料とCO2のパラドックス
脱原発について考えるための6ツのパラメータを挙げてみました。優先順位ではありません。
➊環境問題
❷原発をなくした場合のエネルギーの安定供給源
❸代替エネルギーの普及・経済効果とその財源
❹使用済み核燃料の処分
❺国民生活・国民経済への影響
❻原子力規制機関のあり方
今回は最初の「環境問題」を取り上げてみます。
環境問題と言う場合、原発事故が起きる前まで一番のテーマだったのは地球暖化問題でした。
環境省があれほどまでに原発に入れ込んでいたのは、CO2を原子力が出さないからでした。(厳密にいえは、プラント製造工程と、核燃料を作る過程ででますが。)
2009年の国連気象変動サミットにおいて、鳩山元首相が国際公約した1990年比で2020年までに25%温室効果ガスを削減するという目標には、あと8年しかありませんが、原子力発電なくしてほとんど絶望的な状況です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-a3c7.html
それ以前の1997年の京都議定書で8%削減という政府目標を立てた時ですら、そのために原発を9基増設し、当時60%台だった稼働率を一挙に81%にまで引き上げ、太陽光も20倍にする、と試算されていました。
また、2009年時点で、政府はCO2対策として電力に占める原子力の割合を当時の30%から2030年には50%にまで引き上げる計画を立てていました。
とうぜんのこととして、それらの計画は3.11以後、完全に白紙になったのは言うまでもありません。
日本の場合はEU圏のような系統電力に融通してもらういうわけにはいきませんから、自前でエネルギー源を探すとすれば今のところ化石燃料しかないことになります。
実際、止まっている原発の代わりとなる電力は、今まで稼働を止めていた旧型火力発電所を再稼働したものによって補われています。
それは発送電実績をみれば明瞭です。事故前の2010年11月時点で原発は230キロワット時を発電し、電力需要の30%を超えて供給していました。
それが事故後の2011年11月には70億キロワット時と3分の1以下に減少し、10%を切りました。それが現在2012年5月時点ではゼロ、現時点では大飯原発3、4号機のみです。
では、火力発電の増加ぶりを見ましょう。2011年11月時点で、363億キロワット時であったものが、493億キロワット時と35%増大し、今や電気供給量の実に68%を占めるまでになっています。
この 火力発電所のエネルギー源は、天然ガス(LNG)、石油、石炭です。
この火力発電所で原発を代替すると、2011年度実績で2.3兆円のコスト増となりました。13年度には更に増えて3.1兆円となると見られています。
この状況が続くのならば、CO2・1990年比25%削減など夢のまた夢であって、大量の排出権購入を考えない限り、わが国は外国に排出権購入で膨大な富をむしりとられ続けることになります。
つまり、原子力をゼロにする環境問題解決を実現すれば、片方の地球温暖化阻止というもうひとつの環境問題を犠牲にせざるをえないパラドックスが現実のものとなったわけです。
一方、2002年にシュレーダー政権による第1次脱原発をしたドイツも一歩早く同じ道を辿りました。
再生可能エネルギーを国策としたにもかかわらす、10年間の努力でも最大値でエネルギー供給全体の16%ていどにすぎません。(下図参照)
2010年のドイツのエネルギー構成をみてみましょう。
・石炭 ・・・46%
・再生可能エネルギー・・・16%
・原子力 ・・・・26%
皮肉なことに、ドイツも脱原発と再生可能エネルギーの増大によって化石燃料シフトが起きてしまっています。
その理由は、再生可能エネルギーの発電量が自然条件によって激しく変化する性格を持っているために、再生可能エネルギーが突然発電しなくなった時のために化石燃料のバックアップ発電所が常にいるためです。
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また、再生可能エネルギーを法律で強制的に導入させられたドイツ産業界が電力コストを低く抑えるために、窒素酸化物や硫黄酸化物が大量に出ることを知りながら石炭を使用しているからです。 (※ドイツは国内に大規模な炭鉱を有しています。)
ドイツ環境諮問委員会の資料によれば、現在計画中の石炭火力発電所により1000万キロワット、そして天然ガスによる火力発電所で更に1000万キロワットを補填する計画です。
このうち石炭火力発電所は2013年までに早期完成させ、天然ガスのほうも2020年までに竣工させるという計画をもっています。
つまりドイツは、「脱原発」というカードを選んだ代償としてCO2排出削減という環境政策を捨てたことになります。
そして、この化石燃料依存にシフトするまでの10年ていどの期間は、ドイツは電力を燐国フランスからの電力輸入に頼ることにしました。(※)
問題なのは、再生可能エネルギーが増えることによって、ドイツは環境負荷の大きい石炭火力発電に依存してしまったことです。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-5189.html
そのために、ドイツの大気汚染は脱原発政策によって確実に悪化したと言えます。特に2008年からの2年間の二酸化炭素の排出量の増加は危険視されています。 (下図参照)
ドイツ型脱原発政策は単に電力価格が高騰しただけではなく、環境悪化を引き起こしたことがわかるでしょう。
一方、日本はこの石炭ゼロエミッション(環境低負荷)の技術は保有しています。これをさらにIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素回収・貯留)技術の本格実用化へとつなげていく必要があります。
太陽光の転換率は国際的に最も高い効率をもつ技術も保有していますし、再生可能エネルギーの核心技術であるはずの次世代蓄電池の研究や、超伝導送電線の実用化も進んでいると聞きます。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-69e5.html
つまり、技術的には原子力が減衰するのを置き換える石炭・石油火力発電の環境技術的な解決は進んでいるとはいえます。
また石炭と違って、天然ガスはCO2排出が少なく、産出国も偏在していない優れたエネルギー源です。この比重は今後非常に高まると予想されます。 ただし、コスト面では未だ高価なエネルギー源です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-4.html
また、メタンハイドレートは有力な次世代エネルギー源で、実用化されたならばわが国は一気にエネルギー自給が可能となってしまう革命的エネルギー源ですが、まだ実用化には時間がかかりそうです。
シェールガスは、米国で大量に採掘が可能となった画期的なエネルギー源ですが、米国内消費との関わりでわが国には輸出されていません。
最後に、飯田哲也氏のミスリードで、あたかも原子力の代替の主力になると期待されてしまった再生可能エネルギーですが、ドイツが10年以上過剰な財政支出をしてまで支援したにもかかわらず、20%を越えない現実を見る必要があるでしょう。
これらの新エネルギー技術やエネルギー源を実用化するまでには、まだ時間がかかります。それまでの時間的スパンは覚悟せねばなりません。
■※ドイツ・エネルギー・ネットワーク庁の元責任者・マティアス・クルト氏の発言。
「今多くの人は、ドイツが数週間フランスに電力を輸出したと喜んでいます。しかし2011年全体でみれば、ドイツはフランスに対してかつての電力輸出国から輸入国へと転落しています。都合のいい数字ばかりではなく、事実を見つめるべきです。」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-6147.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-19d4.html
■関連記事 本日アップしたデータの詳細な解説は以下の過去記事をご覧ください。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-0a6c.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-e850.htm
lhttp://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-1825.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-c7a2.html
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