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2013年1月

2013年1月31日 (木)

規制委員会・勇気ある敦賀原発への最後通告、強い原子力規制委員会の誕生か

017
見直すこともありえるが、その際には、追加調査によって活断層の可能性を否定する客観的データを揃えることが必要」。(規制委員会・小林勝安全規制管理官)

この言葉が原子力規制委員会・規制管理官から発せられた瞬間、勝負はつきました。

これで99.99%敦賀原発の再稼働は不可能となりました。我が国で第1号の安全規制による廃炉です。この重さはもっと後にその価値がわかるでしょう。

日本原電は、判断の根拠を求める公開質問状を出しましたが、島崎委員長代理は、「原電の質問状は質問になっていなかった。答えるべきところは答えた」と突っぱねています。

原電は、規制委員会本体への報告書提出まで「不利益処分」として抵抗を続けるでしょうが、科学的知見に裏打ちされたこの強烈な決意の前には通用しないと見られています。

はこの規制委員会の決断に大きな拍手を送ります。規制委員会と調査団の皆さんに、「被曝地」の住民のひとりとして心からの感謝を捧げます。ほんとうに有り難うございました。

あの呪われた日、私たちは頭上を通過する放射能雲を知らされることなく無防備でした。家族を危険にさらし、大地を汚され、作物を捨て、そして1年有余続いた風評被害で倒産寸前まで追い詰められました。

福島県民の悲惨さは私たちの比ではありません。本当に憎い。私は原子力を呪いたい。

これでようやく分厚かった原子力の壁に一矢報いることができました。規制委員会が開けた扉は、今まで我が国が持ち得なかった真の原子力安全規制へつながる第一歩です。

原子力を完全廃絶するまでには、おそらくそれを利用したと同じ時間がかかります。私はその最後を看取れないかもしれない。

その間に、残存する原発の番人は、原子力規制委員会しかないのです。

さて少し具体的なことを書いておきましょう。原子力規制委員会の専門家会議は、28日、敦賀原発直下の断層を活断層だと断定しました。

国が動く可能性のある活断層上に原子力施設を立てることを認めていない以上、結論は廃炉以外ありえません。(資料2参照)

日本原電は強く反発していますが、この規制委員会の判断を覆す決定的証拠が提示できない場合、我が国での活断層による廃炉1号となります。

原電は、「(証拠となる地層が)削り取られて存在していない。今のデータで判断するしかない」(島崎委員長代理)以上、新たな証拠を提出することは不可能だと思われます。

大飯原発の専門家調査においては、活断層とする意見と、それを懐疑する意見に分かれましたが、敦賀原発においては全員一致での活断層と認めました。

2

上図(東京新聞1月29日)をごらんください。敦賀原発2号機直下を走るD-1断層を延ばしていくと、そこで大きな「浦底断層」にぶち当たります。

もう一枚見てみましょう。Photo

                     (図 東京新聞12月11日より)

この写真は逆の側から見たものですが、敦賀湾を横切って滋賀県長浜にまで至る「浦底−柳ケ瀬山断層帯」・約25キロに及ぶ大きな断層の一部が原子力施設250メートル横を走り、それとD-1断層が「試掘溝」という地点の先数十メートルで交わっているのがわかりますね。

つまり浦底断層がズレた場合、それに連動してD-1断層も動くということです。しかも2号機直下で!

この地形は、今回調査した専門家をして、「活断層だと学生でも分かる。なんでこんな場所に原発を建てたのか」と言わせる地形でした。

70年代に複数の研究者が活断層である可能性を指摘し、学術書「新編日本の活断層」(91年)では長さ約3キロの活断層として載っています。

浦底断層が活断層であることは1980年代以前から可能性が指摘され、1991年には確実視されていた」(鈴木康弘・名古屋大教授)断層だったのです。

つまり地層学会では、最近4000年以内に活動したと考えられている活断層であることは常識でした。

去年12月の規制委員会の調査で、原電が「いやなものを掘りあててしまった」と嘆いた「怪しいズレ」(島崎規制委員長代理)が、このD-1断層です。

そして今回の試掘溝の調査により、断定されました。

ところで今後ですが、既に安全基準が出来ていれば、即時運転停止命令が下せるのですが、それが出来る7月中まで5カ月間の時間があります。過渡期にありがちな微妙な時間です。

破れた原電は場外戦に持ち込むと思われます。それは「政治」の場です。

原電・荻野広報室長は、「行政手続上の不利益処分なのだから意見を聞くべきだ」とした上で、「規制委員会といっても行政機関。首相の下にあるんだから」と言っているようです。

冗談ではない。こういうことを言うから「原子力村」と言われるのです。国策でやっているのだから、まずくなったら国が助けてくれるはずだ。こういう安易な考えが福島第1原発事故を招いたのではありませんか。

規制委員会は、単なる「行政機関」ではなく、3条委員会です。公取委や公安委員会と同様に庁と同格の高い独立性を持つ機関です。

もし自民党政権が、「政治」的圧力をかけて規制委員会の報告案を書き直させるような愚行をしたならば、国民から手ひどい制裁を7月の参院選で受けるでしょう。

もし、政府が原電を助けたかったら、全原発を国有化するしかないでしょうね。しかし、それにはもっと大きな原子力政策全体の議論が必要です。たった5カ月で出るはずもありません。

原電は、「学生でもわかる」活断層の上に、ろくな地層調査もしないで原発を立てた自分の愚かさを噛みしめることです。

原子力規制機関は徹底して政治から自由でなければなりません。それが、いままでの原子力の政-財-官-学を貫くぬるい「原子力村」の失敗の総括だったはずです。

フランスの原子力安全院(ASN)がそうであるように、原子力規制機関はアンタッチャブルなのです。

したがって淡々と7月を迎え、正式な法的手続きによって敦賀原発2号機は廃炉となります。この敦賀原発のような活断層上の原発に調査が進んでいきます。

・大飯・・・ズレの活断層を見失って足踏み状態
東通・・・敷地内断層が活断層と判断される。敷地内ではないが至近距離
・志賀・・・地層調査予定。かぎりなく危険と言われる
・六ヶ所村・・・もし活断層判定されれば核燃料サイクル崩壊
・大間・・・建設中だが東通と同じ活断層上

規制委員会の健闘を祈ります。

■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-397c.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post.html

          ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

■資料1
東京新聞1月29日夕刊

Photo

■資料2 報告書案“敦賀原発 活断層否定できず”
NHK
1月28日
18時0分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130128/k10015118721000.html

国の原子力規制委員会の専門家会議は、福井県の敦賀原発の断層を評価する報告書の案を示し、「安全側の判断として、活断層である可能性が否定できない」と結論づけました。
今後、事業者だけでなく、ほかの専門家からも意見を聞いたうえで、報告書をまとめることになりました。

原子力規制委員会の専門家会議は、28日午後、敦賀原発の断層を評価する会合を開き、先月の現地調査などを踏まえた報告書の案を示しました。
それによりますと、国の調査で確認された新たな断層について、周辺の地層の分析から活断層の定義となっている12万から13万年前以降に活動した可能性が否定できず、また、その方向などから、2号機の原子炉の真下を走る断層の延長である可能性が否定できないとしています。
そのうえで、「2号機の真下を走る断層は、安全側の判断として、活断層である可能性が否定できない」と結論づけています。
規制委員会の専門家会議が原発の断層の報告書の案を示すのは初めてです。
規制委員会の島崎邦彦委員は、「気がつかない穴があるかもしれず、ほかの人にも見てもらい、よりよいものにしたい」と述べて、事業者の日本原子力発電だけでなく、学会から推薦された、規制委員会の活断層調査に携わるほかの専門家からも意見を聞く考えを明らかにしました。
このため、報告書がまとまるまでにはさらに時間がかかる見通しです。
国の指針では、原子炉の真下に活断層があることを認めておらず、規制委員会が報告書を基に、最終的に「運転再開を認めない」と判断すると、去年9月の発足以来初めて、原発の運転を制限することになります。
敦賀原発2号機は、運転が再開できないと廃炉になる可能性もあり、規制委員会の最終的な判断が注目されています。

断層の評価巡る双方の主張

原子力規制委員会の専門家会議の報告書の案では、「2号機の真下を走る『D-1』と呼ばれる断層」が活断層かどうかがポイントになりました。
日本原子力発電が調査で見つけた断層の状況から、「活断層ではない」と主張したのに対し、専門家会議は、独自に注目した別の新たな断層を中心に根拠をまとめ、「活断層である可能性が否定できない」と結論づけました。
日本原子力発電は、2号機の真下を南北に走る「D-1」と呼ばれる断層を詳しく調べるため、2号機から北に300メートルほど離れた場所で大規模な掘削を行いました。
そして、この調査地点で見つけた断層が「D-1」につながっているとしたうえで、少なくとも9万5千年前よりもあとに動いた痕跡がないことから、「『D-1』は活断層ではない」と主張しています。
これに対し、専門家会議の報告書の案では、まず、日本原子力発電が調査地点でみつけた断層を「D-1」と特定した根拠が明確ではないとしています。
また、同じ調査地点で独自に注目した別の新たな断層について、およそ9万5千年前の地層の近くまで及んでいるうえ、活断層の特徴である断層面に粘土が観察されたとしています。
そしてこの新たな断層が、南北に延びる方向や傾きが「D-1」と同じであることから「D-1」の延長部の可能性があるとし、敷地内を走る活断層の「浦底断層」に誘発されて活動するとしています。
そのうえで、「D-1」と呼ばれる2号機の真下を走る断層は、安全側の判断として活断層である可能性が否定できず、活断層の浦底断層と同時に活動し重要な施設に影響を与えるおそれがあるとまとめています。
日本原子力発電は、専門家会議が注目した新たな断層について、新たなデータを集めるために追加の調査を来月まで行うことにしています。

日本原電“疑問に十分答えていない

原子力規制委員会の専門家会議が示した報告書の案について、日本原子力発電の荻野孝史広報室長は「きょうの議論を見たかぎりでは、先月提出した公開質問状の疑問に十分答えておらず、今なお活断層か否かを判断するうえで重要なポイントについて、科学的データに基づく判断となっているとは思われない」と述べました。
そのうえで、「継続中の調査でデータをそろえ、科学的観点からの総合評価を取りまとめ、原子力規制委員会に提出し公表したい」と述べました。

敦賀市長“今後の審議を注視”

福井県敦賀市の河瀬市長は、「今後、ほかの専門家の意見や事業者からの意見も聞くということであり、市としては今後の原子力規制委員会での審議を注視したい。
また、現在も日本原子力発電による追加調査が行われていることから、それらの調査結果についても予断を持たず、幅広い見地から慎重に審議していただきたい」というコメントを発表しました。

各地の原子力発電所で断層の調査をしている、国の原子力規制委員会の専門家会議は、福井県の敦賀原発について「安全側の判断として活断層である可能性が否定できない」という報告書の案を、28日の会合で示すことになりました。
規制委員会が最終的に「運転再開を認めない」と判断すると、発足以来初めて、原発の運転を制限することになります。

原子力規制委員会の島崎邦彦委員は、学会から推薦された専門家とともに、国内で唯一運転中の福井県の大飯原発を含む3か所で、先月までに断層の現地調査を行っています。
このうち、敦賀原発の断層を評価する28日の会合で報告書の案を示し、国の調査で確認された新たな断層について、周辺の地層や断層面の分析から活断層の定義となっている12万から13万年前以降に活動した可能性が否定できず、またその方向や地層を円筒状にくり抜く「ボーリング調査」の観察から、2号機の原子炉の真下を走る断層の延長である可能性が否定できないとしています。
そのうえで、「2号機の真下を走る断層は、安全側の判断として活断層である可能性が否定できず、重要な施設に影響を与えるおそれがある」と結論づけています。

規制委員会の専門家会議が原発の断層の報告書の案をまとめるのは初めてです。
専門家会議は、次回の会合で「科学的に疑問がある」と反発している電力事業者の日本原子力発電から意見を聞いたうえで、規制委員会に報告書を提出することにしています。

国の指針では、原子炉の真下に活断層があることを認めておらず、規制委員会が、最終的に「2号機の運転再開を認めない」と判断をすると、去年9月の発足以来初めて原発の運転を制限することになります。

敦賀原発2号機は、運転が再開できないと廃炉になる可能性もあり、規制委員会の判断が注目されています。

■資料3 報告書案は“安全側に立った判断”
NHK
1月28日
8時18分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130128/k10015102241000.html

原子力規制委員会の専門家会議がまとめた敦賀原発の報告書の案では、おととし3月の原発事故を教訓に、これまでの国の規制ではあまり見られなかった、「状況証拠」を積み重ねたうえで「安全側に立った判断」を行っています。
一方で電力事業者などからは反発もあり、規制委員会は、今後、判断に至った経緯や根拠について丁寧に説明することが求められています。

敦賀原発の報告書の案では、国の調査で確認された新たな断層について、さまざまな「状況証拠」を積み重ねたうえで、原発の耐震指針に基づき、「安全側に立った判断」を行っています。
こうした判断は、これまでの国の規制ではあまり見られませんでした。
その背景には、原子力規制委員会が高い独立性を担保されていることや、委員や専門家が電力事業者の情報に依存せずより主体的に調査したことがあります。

一方で、電力事業者の日本原子力発電は、規制委員会に対し公開質問状を提出したうえで、今月22日、敦賀原発の調査現場を報道陣に公開し、「追加調査で活断層ではないことを示したい」と説明しました。

また地元、福井県の西川知事は「十分な科学的根拠を示してほしい」というコメントを発表しています。
規制委員会の別の専門家会議が検討している地震や津波に備えた原発の新たな安全基準では、考慮する活断層の年代を広げる見通しで、活断層の問題は今後、全国の原発にも広がる可能性があります。

それだけに、規制委員会が電力事業者や地元自治体に加えて国民に対し、判断に至った経緯や根拠について丁寧に説明することが求められています。
規制委員会はおととし3月の原発事故を教訓に発足した組織で、事故で失った信頼を活断層問題で取り戻せるかどうか、注目されます。

2013年1月30日 (水)

ドイツ・電離料金値上がりに耐えかねて企業脱出が増加

025
ドイツの電気料金は税金を払っているようなものだと言われています。 

下2枚がドイツ連邦エネルギー・水道連合会(BDEW)の公表している電気料金の内訳です。 上が産業向け、下が家庭用向け電気料金です。

一番下の青色部分が発電コスト、いわば純粋の電気代です。その上に乗っているのは、再生可能エネルギー拡大のための賦課金・税金類です。Photo

    (図表は下図共に国際環境経済研究所・竹内純子氏の論文によります。有り難うございました。)

イツがFIT(固定価格・全量買い取り制度)を開始した以前と以後を産業用電力で比較してみます。
・1999年・・・8.51ユーロセント/kWh
・2012年・・・8.52
 

発電コストはほぼ変化はありません。一番違っているのは、賦課金と税金の類です。
・1999年賦課金・税金の計・・・0..35ユーロセント/kWh(3%)
・2012年同上        ・・・5..35(39%
 

家庭用では他の賦課金・税金のかかる率はいっそうひどくなっています。Photo_2
最新年では家庭用では45%が賦課金・税金という比率になっています。 

賦課金という名称は、EUでは建前上、再生可能エネルギーに対して助成が税金で出来ないために「賦課金」という形で泣いても笑っても電気代に乗せるという方法をとっているからで、取られる消費者からすれば税金と一緒です。 

つまりは電気料金の半分弱は税金だと言うことになり、消費者はこれではやっていけません。

ドイツ国民の77%が電気料金のこれ以上の値上がりは歯止めをかけるべきだとアンケートに答えています。

と言ってもFITは20年間固定ですから、そう簡単に値下がりするとは思えませんが。FITは始めるのは簡単ですが、足抜け出来ない悪徳闇金のような制度なのです。

産業界は、ドイツでの国内生産をあきらめて、別の国に逃避する企業が増えました。ドイツの化学薬品会社として世界的企業であるバイエルのマライン・デッカーズCEOはこう言っています。
エネルギー・コストの上昇が止まらないなら生産拠点を外国に移転する。」(「ニューズウィーク2011年10月31日)
 

これはバイエルに限らず多くの企業も考えていることです。BMWも米国に拠点を移す計画です。 

ドイツ商工会議所がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによれば、エネルギー・コストと供給不安を理由にして、5分の1の約300社が国外に出て行ったか、出て行くことを考えているという衝撃的数字が出ました。 

日本でも、経団連が会員企業を対象に同様のアンケートによれば、以下の回答が寄せられています。(経団連タイムス2012年4月26日

・「生産が減少または大きく減少する」           ・・・72.8%
・「国内における設備投資が減少または大きく減少する」・・・55.3%
・「海外における設備投資が増加または大きく増加する」・・・38.9%
・「収益が減少または大きく減少する」           ・・・96.5%
 

日本も再生可能エネルギーのためのFITをドイツのように13年もやれば、ドイツの産業界と同じ答えになると思われます。

ドイツでは、シェールガスの発見でエネルギー不安が一掃された米国に生産拠点を移動する動きが強まっています。 

バーレンホルト(再生可能エネルギー発電会社RWEイノジーCEO)は「原発から再生可能エネルギーへの転換が可能だと考える国は産業が空洞化するだろう。」と述べています。(「ニューズウィーク」同上) 

しかし、ドイツにはロシアからパイプラインで送られる天然ガスがあり、ヨーロッパ電力広域連携による電力輸入も可能です。 

そしてCO2を度外視すれば、安い国内産褐炭も豊富に埋蔵されています。シェールガスすら埋蔵されているようです。 

我が国にはこのようなドイツのようなセーフティネットは皆無です。

天然ガスパイプラインはロシアとつながっておらず、国内パイプライン網もなく、炭鉱はとうの昔に閉鎖されており、いうまでもなく外国との電力広域連携などは望むべくもありません。 

そして、原発停止による電力の供給不安が重なって、電気料金は青天井の様相を見せています。 

このような時期にドイツのまねをする必要があるのか、じっくりと日本人は考えてみるべきでしょう。

まだ始まって間もない日本版FIT。まだ傷が浅い今なら止めることができます。これを10年間続けて、再生可能エネルギーのための送電網まで作り始めたら、我が国の経済と国民生活は大きな取り返しのつかない傷を負うでしょう。

再生可能エネルギーは今後追究されるべき重要な課題です。再生可能エネルギーは地域とそれに根ざす暮らしにあったエネルギー源です。

たとえば、東北被災地における未利用の木質系の瓦礫などは貴重なバイオマス資源です。埋める、焼却する以外の方法も試みられるべきでしょう。

農業には農業から生み出されるメタンガス発酵が可能です。農用水路や小川には小型水力発電機が設置できます。

それらの無数の地域密着型再生可能エネルギーのプラントを作っていくのが、本来の再生可能エネルギーのあり方だったはずです。

それを、脱原発の「風」に乗って、いきなり原発の代替エネルギーとして巨大な投資対象のメガソーラーや、一基数億円の風力発電所から考え始めることが誤っているのだと思います。

そもそも再生可能エネルギーには、そのような一国のベース電源となれるような力量はないし、FIT制度を使えばドイツのような「ドイツ環境政策の歴史でもっとも高価な失敗」を(シュピーゲル誌)を我が国でも再現することになります。

ましてや発送電分離に至っては、原子力とはなんの関係もない火事場泥棒のような新自由主義的構造改革にすぎません。

私たちは、「外国でもやっているから」で追随するのではなく、「どのような結果を外国が出しているか」をしっかり検証してから進むべきです。

2013年1月29日 (火)

隣国電力会社から「脱原発政策をやめろ」と迫られたドイツの事情とは

151
ドイツの脱原発に対する「美しい誤解」があります。

それは我が国が福島第1原発事故を起こしながら、脱原発に踏み切れなかったのに対して、ドイツは倫理委員会を開いて原発ゼロを決めたからスゴイというものです。

そこまでは間違いではないのですが、そこからいきなり原発がゼロになったと飛躍して理解しまう人が絶えません。

現在ドイツで稼働している原発は、ブロクドルフ、エムスラント、クローンデ、グラーフェンラインフェルト、フィリップスブルク第 2、 イザール第 2、グルントレミンゲン B、グルントレミンゲンCの各原発です。

よく勘違いされているように脱原発政策で、原発をゼロにしたわけではなく、停止中の再稼働を認めなかったのです。そのあたりは我が国と同じです。

似ていると言えば、エネルギー比率も似ていなくもありません。

2012年時のドイツの電源比率は化石燃料に70%依存しています。

そして石炭が42%を占めています。しかも石炭の火力の内訳は、質の悪い国産褐炭火力(発電出力22.4GW)と石炭火力(同29.0GW)と同じくらいです。(下図参照)

これはドイツが国内の雇用政策として長年に渡って国内炭鉱を維持してきたためで、強みでもあり弱みでもあります。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-5189.html
Photo_2

  (朝野賢司「再生可能エネルギー政策論 」より)

さて注目の再生可能エネルギーは、設備容量ベースで20%前後(※統計年によって違う)ていどです。

実はこの「設備容量ベース」というカウントの仕方は、再生可能エネルギーに対しての「美しい誤解」を呼ぶ原因になっています。

このブログとおつきあいいただいた方には、もうお分かりだと思いますが、この設備容量ベースというのは、「条件さえよければ、これだけ発電できますよ」という理論的可能性の数字です。

再生可能エネルギー以外だと、故障とか定期点検で停止しているとかの特殊事情がなければ、設備容量ベース=発電量ですが、再生可能エネルギーではまったく違うのです。

風が吹かねばプロペラは回らず、曇りや雨だと太陽光発電はただの箱だからです。

ですから、再生可能エネルギーでは設備容量に稼働率をかけたものが実発電量となります。ややっこしいですね。

ドイツの再生可能エネルギーの稼働率の実数値は
・太陽光発電平均稼働率・・・10.4%
・風力発電         ・・・23.4%

だいたい平均して、再生可能エネルギーの稼働率は10~20%前後程度だと推測されます。ですからよくメガソーラー発電所などと言っても、実は10分の1メガソーラーなのです。

ドイツのように長年に渡って莫大な国家財政を注ぎこんで再生可能エネルギーを育成しても、自然という現実の壁があるということは知っておいたほうがいいでしょう。

ところがこの「現実の壁」は、単に天候だけではありませんでした。

現実に大々的に国家レベルで再生可能エネルギーを導入するとなるとバックアップの火力発電所が悲鳴を上げ、工場は瞬間停電に日々備えなくてはならなくなりました。

そしてドイツから逃げ出す製造業がじりじりと増え始めました。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-4e06.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/jaxa-a7dd.html

そしてそれに止まらず、脱原発政策を決定していた時には想定されていなかった送電網が長大に必要だったことがわかります。

北海沿岸のドイツ北部から、工業地帯のある南部まで900キロ超の送電網を敷くことは大変な困難を伴いました。

ドイツ政府はこれを「最優先に建設する」としましたが、送電網計画の半分が遅れ、4年間に渡ってまったく進んでいない路線も生まれました。(欄外図参照)

現在完成しているのはわずかに10%です。これではいつ出来るのか分からなくなってしまいました。(欄外図参照)

ドイツの脱原発政策は、送電線不足という致命的な問題にぶつかってしまったのです。

それは皮肉にも、環境派が高圧線付近での電磁波による障害という説を拡げたために、高圧線の建設に反対する住民運動が各地で燃え上がってしまったのです。

ドイツ政府からすれば、環境派の主張に沿って脱原発をしてみれば、高圧送電線が必要となり、それに別の環境派が反対するのですから、たまったものではありません。どうすりゃいいんだ、と嘆いたことでしょう。

これは単に北から南に電気を送れない、ということにはとどまりませんでした。たとえばこういう状況が頻発します。

ある日、北海沿岸で強い風が吹き続けて風力発電がガンガン回ったとします。夜も吹き続けてすごい発電量を稼ぎだしました。

そこまではめでたいのですが、再生可能エネルギーは調節が効きません。送電網があれば南部に送り込んで国全体でコントロールすることも可能なのですが、ないものはしかたがありません。

あまり電力需要のない北部の送電網に無理矢理送り込むしか手はなくなります。すると北部地域の送電網が予期せざる過剰な電力供給のために、あっちこっちの火力発電を止めてまわらなければならなくなりました。

このような送電網の不安定は、国内だけではなく国外にも大きな影響を及ぼしました。これはヨーロッパが電力広域連携を持っているからです。

下図で色分けされているのがヨーロッパ広域電力連携ブロックです。レモンイエローがドイツが加わっている広域連携UCTE1です。Photo_3           (図 山口作太郎氏・石原範之氏論文による)
http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/supercom/117/117-4.html

するとドイツで過剰に発電された風力発電は、ヨーロッパ電力広域連携に乗って、隣国のポーランドやチェコに突如流出することが頻繁に起きてしまいました。

するといきなり大量の電力を流された隣国では、自国の火力発電所を止めたり、出力を下げるなどの緊急対応を強いられることになってしまったのです。

冗談じゃない、なんでうちらの国がドイツの尻拭いをするんだと燐国は怒りだしました。まぁ当然です。

そしてとうとう東欧諸国の電力会社4社から、「ドイツ南北の送電線増強工事が終わるまでは、ドイツ北部に再生可能エネルギー発電設備を建設すべきではない」という抗議文まで出されてしまう始末です。

ドイツは再生可能エネルギーを大胆に取り込むことで、ヨーロッパの電力広域連携を不安定にしてしまったことになります。

ドイツへの「美しい誤解」の中には、ドイツは再生可能エネルギーで電力輸出ができるようになった、というものがありますが、残念ながら内実は、突然燐国に過剰な電気を「流出」させて迷惑をかけたというのが実態のようです。

燐国の抗議を受けて、ドイツ政府は仕方なく2011年、過剰な電力が発電された場合には、風力発電のプロペラを止めて発電を止めるようにとの通達を出しました。

このようにして失われた風力発電量は、前年比で70%も増加してしまいました。まさに宝の持ち腐れです。

現在、ヨーロッパ電力広域連携をスマートグリッド化するなどの計画がありますが、EU自体が崩壊の危機にあり、難航しているようです。

このように風力発電は、立地次第では新規の大規模送電網を敷く必要ができてしまうことを、私たち日本人も知っておいたほうがいいでしょう。

          ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

Photo_2(Bundesnetzagentur (ドイツ連邦ネットワーク規制庁)・竹内純子氏の論文によります。有り難うございました。)

2013年1月28日 (月)

FIT試算が無視した再生可能エネルギーの送電網コスト

085
原子力の発電コストを論じる時よく問題とされるのは、廃炉や使用済み核燃料の処分などのバックエンドを無視して計算されていることが指摘されます。
 

つまり、燃料代とランニングコストというフロントエンドだけで計算してしまえば、原子力はもっとも安価な燃料という虚像を描けるということになります。 

実はこのトリックは実は再生可能エネルギーでも使われているから困ります。

発電そのもののコスト以外に、火力発電所によるバックアップ電源コスト発電所建設コスト、そして送電網インフラなどのバックエンドにかかるコストです。

バックアップコストは別にお話ししますが、建設コストは、どこまでを建設費として計算するのか明確な基準がなく、タワーの高さを上げれば発電量は増しますが、コストはかかります。

他に発電量、風車を外国で組むか、国産にするのかでも異なり、輸送費、建設費、航空法対策、台風対策等で価格が上昇します。

実際の例を上げれば、三陸町夏虫山発電所で1000kW機が10基で事業費は約30億円、宮崎県ETOランド発電所がラガウェイ750kW機1基で約1億8000万円、熊本県五和町発電所が三菱300kW 1基で事業費 1億2222万円といったところです。

これらの多くは海に面した山岳地帯であり、洋上発電となるともっとコストがかかると考えられています。 

だいたい2千万円から1億超といった所でしょうか。別な専門家によると蓄電池まで入れて1基30億円という人もいて、ずいぶん価格に開きがあるものです。

正直言って、まだ我が国では実用段階になったばかりで定まったものがないのが現状のようです。

さて、今ドイツが突き当たっている最大の問題は、送電インフラの新規建設です。 ここで日本で脱原発の「理想像」とされるドイツを見てみましょう。

ドイツの原発の多くは、産業が盛んな南部バーデン・ヴュテンベルク州やライン州にありました。

それは送電網が短くて済む利点があったからです。電気は貯めておけず、送電線の中でもロスしていくというやっかいな性格のために、発電所と消費地が近いことが良いとされました。

ところが今、ドイツは原発から洋上風力発電にシフトしつつあります。風が強く、広大な土地がある北海沿岸に多く建設されるようになりました。

今後は沿岸から洋上に移って、さらに大規模な洋上発電所を作る計画がたくさん上がっています。

そこで、欄外図をごらんください。ドイツの北海側から南部までは直線で900キロ超に及ぶ距離がありますから、工業地帯のある南部まで、北部から新たに電線を引っ張ってこなければならなくなりました。

2009年にドイツ政府は「送電網拡充法」を立てて、再生可能エネルギーに必要な送電網をリストアップして、それを最優先で建設する計画しました。

計画では実に1807キロにも及び、かかる費用は570億ユーロ(1ユーロ=118円換算で6兆7260億円)という莫大なものです。

これを我が国に置き換えてみましょう。下図は県別風力発電の実態です。

Photo_2  (独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構・NEDOによる)
※都道府県別の風力発電設備導入状況。棒グラフは出力合計、線グラフは発電設備の数を表す。http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1209/14/news125_2.html

これを見ると、青森県、北海道、鹿児島県、福島県、静岡県、秋田県、鹿児島県などが適地となっています。これらの県は平均風速6.7メートル/秒以上の条件を備えています。

するとここに大規模な風力発電所を導入した場合、工業地帯のある関東地方にまで電気を輸送するには、南北に串状に基幹送電網を建設せねばならないことになります。

距離の目安としては、札幌-東京間が直線距離で約1000キロ、青森-東京間が580キロ、福島-東京は約220キロ、秋田-東京は450キロといったところです。

我が国でも再生可能エネルギー拡大政策をとるとなると、ドイツと同様の新規送電網を作る必要が生まれます。

我が国が送電網を作るとなると、海を越え、険しい山谷を越えねばならないために建設費用は平地の多いドイツの比ではないはずです。

現在試算として出ている数字としては、生産地の北海道と本州を結ぶ北本連系線などの基幹送電網が1兆1700億円かかるとされています。(北海道電力、東北電力の試算による)

平坦テ土地が多いドイツでさえ6兆円以上かかる計画ですから、おそらくはこんなものでは済まず、ドイツていどにはかかってしまうと考えたほうがいいでしょう。

ところが、なぜかFIT(固定価格全量買い取り制度)を決めた際の政府コスト等検証委員会は、この再生可能エネルギーに伴う新規送電網建設コストは除外されて計算されていました

これは原子力が、発電単価だけて計算してしまい、バックエンドを度外視し将来の国民負担から眼を逸らせたことと同じ虚像です。

そもそもこの巨額な新規送電網建設費は誰が負担するのでしょうか。

再生可能エネルギーを原発の代替電源にしろと主張する人たちの多くは、飯田哲也氏のように発送電分離をワンセットで唱えていますから、きっと民間送電業者が作るんだろう、くらいに簡単に考えているのだと思います。

しかし、ちょっと考えてみてください。なにが哀しくて民間送電会社は、こんな巨額な新規送電網を負担せにぁならんのでしょうか?

新規送電事業者は儲かると思うから新規参入するのであって、土地買収をし、鉄塔を立て、長大な送電ケーブルを引いて再生可能エネルギーのためにつくすために参入したのではないからです。

そりゃあ、今の電力会社は分離されていませんから渋々やりますが、分離したらそんな不採算工事をする義理はありません。

それじゃなくても、再生可能エネルギー発電所は、しょっちゅう周波数や発電量がくるくる変化するので、バックアップするだけで大変なやっかい者なのですから。

では国が作るのかとなると、それに相応する建設国債の発行を巡って国会審議がなされねばなりません。

その過程で、再生可能エネルギーの発電コストは、従来言われていたものよりはるかに高いことが明らかになることでしょう。

発電コストは最大で、発電効率は最低、しかも不安定な再生可能エネルギーに建設国債やFITを負担していくことの妥当性が問われます。

ドイツのように「送電網拡充法」と抱き合わせで建設国債で押し切ったとしても、いずれにせよ、やがてそれらのコストは消費者の電気料金や税金に転化することになり、電気料金は値上がりします。

このように見てくると、発送電分離などしたら、再生可能エネルギーの拡大にとって障害になると思っています。少なくとも、こんな電力供給が逼迫している時期にやることではありません。

ドイツでも、この高圧送電網建設は遅々としてはかどらず、3年たって完成したのはいまだに計画の1割に止まっています。

そのために別の社会問題が生じました。それについては長くなりましたので、次回に回します。 

■写真 筑波山麓のつくば道・神郡((かんごおり) 

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Photo   (「脱原発を決めたドイツの挑戦」熊谷徹より引用させて頂きました。ありがとうございます。)

2013年1月26日 (土)

週末写真館

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土曜日は、記事ではなくて週末写真館をすることにしました。

雪が溶けても、凍結したような早朝が続きます。強霜の小川の道を歩くと、シャキシャキという音が靴の下でします。
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植物は地上部を凍結させて、代謝を極小にして根だけで生きています。日が昇ると、わずかに葉や茎が解けだしてすこしはかり息を吹き返します。
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もうすこしで、すべての生き物が待ち望む春です。

2013年1月25日 (金)

大飯原発再審査へ 権威なき「原子力の番人」は無に等しい

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この7月に原発が再度ゼロになる可能性が生まれました。大飯原発3、4号機も停止する可能性が高まったからです。(資料1参照)

もっと早くやってほしかったくらいで、しごくまっとうな判断だと思います。 

この大飯原発の再稼働は、初めから疑問だらけの決定でした。悪い意味での「政治主導」の典型でした。 

当昨年初夏に関西電力が発表したのは、怪しげな電力需要量の読みでした。

しかも何回か大阪市あたりから突っ込まれるたびに上方修正を繰り返すという無様さで、聞かされる国民の側は、「ウソだろぅ~。なにか隠しているに違いない」という気分にさせられたものです。 

そして菅首相の思いつきで始まった政府のストレステストや「安全判断基準」が出され、それを原発立地マネーで四の五の言えない福井県の県原子力安全専門委員会がお墨付きを与えました。 

この報告書が西川福井県知事に提出され、知事は、大飯町の時岡町長と県議会の同意を得て再稼働同意の決断を下し、さらにこれを受けて、首相と関係3閣僚が再稼働を決定してしまいました。 

今これを読むと、「脱原発のために再稼働する」と読めて苦笑が込み上げてきます。(資料3・4参照)

原発を動かしたくてたまらない利害関係者が、形式だけ整えて作った出来の悪い創作劇のようなものです。 こういうのをお手盛りとか、茶番といいます。

こんな時に、大阪市特別顧問という肩書をもらった飯田哲也氏が揚水発電所の存在を暴露したときには、関西電力の電力供給不足の論拠そのものが崩壊してしまっいました。あれあれ。

思えば、あの時が飯田氏が一番カッコよかった時で、あのまま政治家なんぞになろうと思わずに在野の自然エネルギー研究者のままいてくれたらよかったのですが、実に残念。 

まぁそれはさておき、半強制的節電運動で街や家庭を暗くして、工場を操業短縮に追い込んだあげく、政府の大飯原発再稼働となったわけでした。 

では、現実に夏を過ぎての電力需給の結果はどうだったでしょうか。

001             (図 毎日新聞2012年9月3日より 資料5参照)

上図は関西電力管内の電力需給グラフです。これを見ると、大飯原発が稼働を開始した7月9日から右肩上がりに電力供給は増えて、8月初めには3000万キロワットの大台に載せています。 

整理すると、関西電力管内の電力需給はこのような結果になりました。

・1日のピーク時電力使用率が90%を上回った日数・・・3日間(7/6、7/10、8/17)
・電力使用率が10%以上余裕があった日数     ・・・50日間
・昨年夏の関電の最大供給能力            ・・・3000万キロワット超
・昨年夏のピーク時電力需要              ・・・2682万キロワット(8月3日)
・実際の平均的電力需要量               ・・・2500万キロワット弱の日が多い     

 つまり昨年夏の全期間を通して、500万キロワット程度の余裕があったことになります。 

これは大飯原発3、4号機がそれぞれ117.5万キロワット、計235万キロットですから、大飯原発4基分。まったく大飯原発の再稼働は不要だったことになります。 

その上、電力各社の余裕電力は669万キロワットありましたから、十分な電力融通が可能だったわけです。

ちなみに関西電力と中国電力はダイレクトに送電網が連絡しているので、周波数の変換なしに、簡単に融通してもらえたはずです。 

むしろ関西電力は、出力調整ができない大飯原発を再稼働させたために、原子炉は出力調整が効かず、火力発電の稼働を動かしたり止めたりして供給調整しています。

技術的にしかたがないとはいえ、これだけ大騒ぎしてなにをやっているのかと言いたくはなります。

このような7月の政府の再稼働について、9月に出来たばかりの規制委員会はいきなりの判断を迫られることになりました。 

規制委員会の田中俊一委員長は、学者に似合わすズバリとものを言う人ですが、ことこの大飯原発再稼働については歯切れがよくありません。 

田中委員長はこう述べています。
インタビュー全文
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post.html

「大飯原発に今、差し迫った危険があるかについては、そうではない。ストレステストや政府の判断を鵜呑みにしているわけではなく、仮に(断層の直上にある)冷却用取水配管が地震で壊れたとしても、どれくらい冷却できるかなどは把握している。」 

つまり、政府の言ったストレステストや安全判断基準などは信じていたわけじゃないよ、しかし活断層であるということに関しては意見が専門家でも分かれたので、もっと調べてくれと言った、冷却系の一部が壊れても大丈夫だ、というわけです。

う~ん、ですね。この部分だけ取り出して読む人がいると、規制委員会に対して不信感を持つでしょう。「どれくらい冷却できるか把握している」って言われてもねぇ。

試しに壊してみるわけにはいかないから、最大限危機を想定して頑丈に作るんじゃなかったですか、田中さん。

そこで、田中委員長としては今もまだ保留だと言いたいわけです。だからこそ、今度は規制委員会が自ら作った新安全基準に照らして審査し直します、というわけです。 

そこなのです。問題の本質は、大飯原発が危険であるかないかではなく、それを利害関係者の「お手盛り」審査ではなく、原子力の番人が厳重に検証すべきだったのです。

もちろん田中委員長は、この大飯原発同再稼働に対しての規制委員会の判断を十全に正しいと思っていないはずです。

思っていれば゛再審査などする必要はありません。居直っていればいいのです。 それが出来ないのは田中委員長の科学者としての良心なのでしょう。

本来は、規制委員会はあのようないいかげんな「政府安全判断基準」は蹴飛ばすべきで、即刻大飯原発の再稼働を停止させて検証に取りかかるべきでした。

稼働を停止しなければ、原子力施設直下の活断層は調査できませんからね。 

あの時、政府に「規制委員会が作る新安全基準で審査するまで止めておけ。稼働を審査するのは私たちだ」、と言い切れば良かったのです。 

原子力規制は唯一科学に依拠し、政治や経済を超越する、その意味のことを言ったのは他ならぬ田中委員長だったはずです。

これが「原子力の番人」の仕事です。これを立ち上がった前に動かされてしまい、しかも地層調査の意見が分裂したために、グズグズの玉虫色になってしまいました。 

これは規制委員会の権威を大変に損ねました。地層調査の結論が出なかったことではなく、稼働を止めて検証する「蛮勇」が必要だったからです。

しかしあれ以降、規制委員会は鬼になったようです。国民から規制委員会は政治的圧力に屈したと思われたのがよほど悔しかったのでしょう。 

そうです。あの停止を命じられなかったことは、原子力規制機関として命取りになりかねない誤った判断でした。ふさわしい権威なき規制機関は無に等しいのですから。

この夏、「原子力の番人」・規制委員会にはあの屈辱をぜひ晴らしてほしいと私は願っています。

■明日明後日は定休日です。月曜日のお越しをお待ちしています。

■写真 強霜に凍えている稲苗

            ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 

■資料1 大飯原発、7月に停止要請の可能性 原子力規制委員長示唆
産経新聞2013.1.23
 

原子力規制委員会の田中俊一委員長は23日の定例会見で、国内で唯一稼働している関西電力大飯原発(福井県)について、原発の新安全基準ができる7月に「大飯だけ例外扱いできない」と述べ、停止を求める可能性を示唆した。再び「原発ゼロ」になり、関西の夏の電力供給に影響を及ぼす可能性がある。 

 大飯原発は9月に定期検査に入るため停止は予定されていたが、2カ月前倒しになることもあり得る。田中委員長は「安全審査には時間がかかり、7月に事業者から申請が出てもすぐに判断はできない」と述べた。 

 ただ、新安全基準の骨子は3月に示されるため、関電が事前に対応を進めて、7月までに基準を満たしていれば、運転を継続させる可能性にも言及した。 

■資料2 田中委員長、大飯原発についてのインタビュー発言(抄) 

科学技術的にデータを出して「グレー」であれば安全側に立つという判断もあろうが、大飯の場合は調査した専門家の間で、活断層であるという意見とそうではないという意見で分かれた。活断層だと言いたい人は、どうであってもずっと活断層だと言いたがる。しかし、それは科学とは違うから、私はもう少し調べてくださいと言った。それで今、早急に調べようとしている

単なる不十分なデータを基に白黒の決着をつけてよい、という簡単な事柄ではない。敦賀原発のように(活断層の可能性が高いということで)意見が明らかに一致すれば、その場で私も感想を述べたように「現段階では(再稼働は)難しい」となるわけで、それぐらい(意見を)明確にしてほしい。

大飯はそうした判断ができないということだ。山の上のトレンチを掘ったらF-6断層(活断層と疑われていた断層)の場所とはずれていたし、海側に地滑りしたのではという説もある。その可能性を強く指摘している岡田篤正教授(立命館大学)は日本の変動地形学で草分け的な方だ。だからこそ、きちんと明らかにすべきだと考えた。明らかになった時点で(運転停止要求を)やればいい。  

それに、大飯原発に今、差し迫った危険があるかについては、そうではない。ストレステストや政府の判断を鵜呑みにしているわけではなく、仮に(断層の直上にある)冷却用取水配管が地震で壊れたとしても、どれくらい冷却できるかなどは把握している。
(赤字引用者)

資料3 大飯原子力発電所3、4号機の再起動について
官邸HP2012年 4月3~13日
 

第6回会合の終了直後の会見で発表された概要は、次の通りです。 

(会見者=枝野経済産業大臣) 発言要旨はこちら全文はこちら 

  1. 政府は「脱・原発依存」の方針。今回の会合も、その枠内で行われたもの。 
  2. 昨年来、原発の安全確保対策を確実に積み上げてきた。 
  3. 徹底的な事故検証から得られた知見の集大成として、「再起動に当たっての安全判断基準」3点を整理した。 
  4. 大飯3、4号機は、その3基準を満たしていると確認した。 
  5. 「安全性」が確認できても、「必要性」が認められなければ、再起動の判断には至らない。 
  6. 関西電力の供給力積み増しを加えてもなお、このまま夏を迎えた場合、厳しい電力不足の可能性。
    代わりに火力発電を最大限活用するとなると、コスト増で、遠からず電力料金値上げも避けられない。そのため、「必要性」はあると判断。
     
  7. 政府として、国民の皆さまや立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げる。
    理解が得られた後、再起動の是非を最終決断する。
     
  8. 今後も各発電所について、その都度判断していく。 
  9. 今後も脱・原発依存の方針に沿って、具体的取組みを積み重ねていくことをお約束する。          (太字原文ママ) 

■資料4 野田首相再稼働にあたっての会見全文http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/2012/0608.html 

■資料5 大飯原発 必要だったのかなぁ、再稼働 火力発電止め、余裕調整 そんな本末転倒さえも…
毎日新聞2012年09月03日
http://mainichi.jp/feature/news/20120903dde012040009000c.html

2013年1月24日 (木)

原子力規制委員会の安全基準骨子が出る

093_10

原子力規制委員会の安全基準の細部が急速に詰まってきているようです。
(欄外資料NHKニュース参照)
 

●1月22日の骨子案要旨 

大規模な地震を想定
・地震の想定幅
活断層を旧来「12万年前から13万年前以降に活動した」としてきた年代から、「40万年前以降」に広げて評価する。
 

津波は最大規模を想定
・従来は既定自体存在していないものを、「最大規模の津波を想定」する。
 

③以上に備える耐震措置、防潮堤、重要部分の防水対策 

事故に際しての避難基準
・直ちに避難する基準・・・放射線量が1時間当たり500マイクロシーベルト(IAEA=国際原子力機関の1000マイクロシーベルトより厳しい値)
 

・1週間以内の避難を求める基準・・・1時間当たり20マイクロシーベルト(国際基準の100マイクロシーベルトより厳しい値)

事故を最小限に抑える施設の安全基準
・放射性物質の放出を抑えるフィルター・ベントの設置
・原子炉建屋に接近できなくなった場合の離れた「第2制御室」
・同じく緊急用注水施設

以上の骨子に対して、「これらの対策の中には、大規模な改良工事が必要になるものもありますが、どの対策を優先するのかや、設置までに猶予期間を認めるのか」(NHKニュース)などで、電力会社と意見が別れています。

たとえば、新基準では、規制委員会は航空機の激突に耐える建屋を要求しています。これは別に新奇なものではなく、フランスなどでは現実の基準として適用されています。

我が国はフランスと並ぶ原子力技術の先進国でありながら、万が一の備えは薄かったのです。

「事故は起きるもの」として対処するフランスと、「事故はありえない」として無事故神話にとらわれていた我が国。

やっと世界レベルの安全基準に近づいたのは、素直に評価していいのではないでしょうか。

というわけで、骨子そのものは妥当だと思います。しかし、現実には現存の原子炉は旧基準で出来ているわけです。

たとえば活断層の定義はこのように変化してきています。
・1978年にできた最初の耐震審査指針・・・過去5万年以内に活動した断層と定義
・2006年指針                ・・・「後期更新世以降の活動が否定できないもの                ・過去12~3万年以内」と定義
・同指針                    ・・・原子炉建屋などの重要施設を活断層の上に建ててはいけないと明記

ここで82年に設置許可が下りた敦賀2号機は、旧指針の「5万年以内」にもとづいて設計されています。

しかし今回規制委員会が「活断層」と定義したのは「10万年前ぐらい」のものですから、定義の変更があったことになります。

電力会社としては、「隠していたわけではない。定義が知らないうちに倍に伸びたのだ」という反論が可能なわけです。

超法規をしてしまったのは、法的に言えば規制委員会のほうであるのは事実だからです。

法的には「事後法による遡及適用」ということになり適法性が問われることになります。電力会社が訴訟を起こす可能性も否定できません。

そしてこの骨子はそのまた4倍の「40万年以内」ですから、相当多数の原発がこれに引っかかることになります。おそらくは電力会社の中には、徹底抗戦してくる会社も現れるでしょう。

実は活断層の地層学での定義には幅があるようです。ある学者が、「そんな結論は科学的ではない」と言えば、一方から「白を黒というのか」と返ってきます。大飯の調査のように、学者同士でマイクを奪い合うということになります。

このような場合どのように考えるべきなのでしょうか。私は原子力に関しては、最大限危機を想定するべきだと思います。グレイなら黒と考えて備えたほうがいいのです。

地震が皆無に近いフランスでさえ、航空機の墜落に耐える基準を持っているのに、世界に冠たる災害大国の我が国が無事故神話ではおかしいではないですか。

その意味でも、今回の骨子は地震、津波に対して最大限危機を想定していて評価できます。

さて電力会社に申し上げたい。法的争いに走ってもなんの得もありません。自民党に泣きつくのも無駄です。

徒に裁判で不毛な時間を費やし、その間再稼働も安全審査すらもストップしてしまうことになるのですから、維持費だけで巨額なものになります。

また自民党も最低でも7月末の参院選までは電力会社の力にはなってくれませんよ。

奇しくも同じ7月からこの新基準が施行されるのですが、それ以前に与党の政治的影響力を行使せねばならないのですから、自民党としてもうかつに動くわけにはいきません。

自民党が再稼働を応援するとしても、それは7月参院選の後の話。その時はもう新基準は出来てしまっています。

なにより、いったんこのような規制委員会の新基準ができた以上、今後、我が国で「これ以下」の基準に切り下がる可能性はゼロなのです。

そうである以上、電力会社にとっても、現実的に稼働可能か否かを冷徹に判断して、可能性の薄いものは速やかに廃炉にして、天然ガス発電所に転換したほうがかえって経営上も損害を低く抑えられるのではないでしょうか。

電力会社としては、「どの程度の対処で、とりあえずの再稼働が可能なのか」を、規制委員会と揉み合いながら、次の発電手段を真剣に考えるのが現実的ではないでしょうか。

一方国民としては、なにをしたらいいのでしょうか?決まっています。規制委員会を応援することです。

「田中委員長は原子力村だ」、などと馬鹿なことを言っていないで、応援することで、おかしな政治的妥協をさせないことです。

「原発ゼロ」までの十数年の期間、誰が、どのような基準で、いかにして安全を確保していくのか、脱原発派も真剣に考えるべき時期です。

「再稼働反対」の一点張りでは、なにも言ったことにはならないのです。

■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-4.html
        http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post.html
      

■写真 霞ヶ浦の朝日に輝く漁港

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■資料1 原発の地震津波新基準骨子案
NHK1月22日
 

おととし3月の原発事故を教訓に、大規模な地震や津波に備える原発の新たな安全基準の骨子案が国の原子力規制委員会の専門家会議で示され、考慮する活断層の年代を広げることや、津波は発生の可能性がある最大規模を想定することなどが盛り込まれました。 

原子力規制委員会は、原発事故の教訓を踏まえて、電力会社に義務づける新たな安全基準を作る計画で、21日に骨子案が示された深刻な事故などに備えたものとは別に、大規模な地震や津波に備えた安全基準を、専門家の会議で検討しています。 

22日の会議で示された骨子案には、耐震性を評価するうえで考慮する活断層について、これまでの「12万年前から13万年前以降に活動した」としてきた年代を、「40万年前以降」に広げて評価することや、原子炉の近くを通る活断層や地下の構造を詳しく分析することで、施設への影響を調べることが盛り込まれました。 

また、これまで国の基準がなかった津波は、地震と同様に、発生する可能性がある最大の規模を原発ごとに想定し、防潮堤の整備をはじめ重要な機器がある建物に水が入らないようにする対策、それに浸水した場合の影響を軽減する対策を求めることにしています。 

地震と津波の安全基準の骨子案は今月中に正式に取りまとめられ、深刻な事故などに備えた安全基準とともに、ことし7月までに法律で義務づけられる予定で、規制委員会は新たな基準に基づいて原発の運転再開の審査を行うことにしています。

■資料2 原発“避難”は国際基準より厳格に
NHK1月21日
19時21分
動画あり

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130121/k10014952731000.html
 

国の原子力規制委員会の専門家会議は、原発事故の際、実際に測った放射線量を基に直ちに避難する基準について、国際基準より厳しい、1時間当たり500マイクロシーベルトとすることを最終的にまとめました。 

原発事故の避難を巡って、原子力規制委員会の専門家会議は、おととしの福島第一原発の事故を教訓に、実際に測った放射線量を基に、直ちに避難するための新たな基準を検討してきました。 

21日の会合では、事務局側から原発の半径5キロより外の範囲では、直ちに避難する基準として、放射線量が1時間当たり500マイクロシーベルトと、IAEA=国際原子力機関の1000マイクロシーベルトより厳しい値に達した地域としたほか、1週間以内の避難を求める基準として、1時間当たり20マイクロシーベルトと、国際基準の100マイクロシーベルトより厳しい値に達した地域という案を改めて示しました。 

これらの基準は、12月にいったん示されたものの、専門家から「科学的根拠が薄い」と指摘されてやり直しとなり、事務局側は21日の会合で、福島第一原発の事故では原発から5キロの地点で、事故の4日後に1時間当たり600マイクロシーベルト余りを観測したことを根拠としたと説明しました。 

これに対し、専門家からは妥当とする意見が相次ぎ、専門家会議は21日に示された基準を最終的にまとめました。 

新たな基準は、近くまとまる国の防災指針に盛り込まれる見通しです。 

■資料3 原発の新安全基準 骨子案を提示
NHK1月21日
12時23分
動画あり

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130121/k10014939211000.html
 

東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえた原発の新たな安全基準の骨子案が示され、放射性物質の大量放出を防ぐための設備や、建屋に近づけなくなった場合でも、離れた場所から原子炉に注水できる施設の設置などが盛り込まれました。 

対策の中には大規模な工事が必要になるものもあり、ことし7月以降に実施される運転再開の審査をする段階で、どの対策の完了を求めるのかが今後の焦点となります。 

原子力規制委員会は、福島第一原発で起きたような深刻な事故を防ぐための対策を電力会社に法律で義務づけることにしていて、21日に開かれた専門家会議に、これまでの議論を踏まえた新たな安全基準の骨子案を示しました。 

それによりますと、福島の事故の際に格納容器の圧力を下げる「ベント」が思うようにできずに放射性物質の大量放出につながったことから、放射性物質の放出を抑えながら容器内の圧力を下げる「フィルターベント」と呼ばれる設備の設置を求めるとしています。 

また、航空機の落下などによって建屋が大規模に壊れた場合でも原子炉に注水するための設備や、原子炉の状態を監視できる「第二制御室」を建屋から離れた場所に設けることなどが盛り込まれました。 

これらの対策の中には、大規模な改良工事が必要になるものもありますが、どの対策を優先するのかや、設置までに猶予期間を認めるのかなどの整理については、具体的な議論は行われていません。 

骨子案は今月中に取りまとめられ、国民から意見を聞いたうえで、ことし7月までに基準を決めることになりますが、新たな安全基準は7月以降に実施される原発の運転再開の審査にも適用されることから、審査の段階で、どの対策の完了を求めるのかが今後の焦点となります。 

■資料4 原発新安全基準 電力側から異論
NHK1月18日 23時7分
 

原子力規制委員会は、福島第一原発で起きたような深刻な事故への対策を電力会社に義務づけることにしていて、これまでの議論では、放射性物質の大量放出を防ぐためのフィルターベントと呼ばれる安全設備の設置や、非常用の冷却装置がすべて機能を失っても離れた場所から注水できる施設の整備などを求める方向で検討を進めています。 

これについて、規制委員会は、規制される側の意見を聞く必要があるとして、18日、専門家チームの会合に初めて関西電力や中部電力などを呼び意見や要望を聞きました。 

この中で、電力側は、安全性の向上のためにすぐに必要な対策については新たな基準の決定を待たずに対応するなどと述べました。

その一方で、検討中の基準については、例えば、規制委員会がフィルターベントの設備を2系統設置する必要があるという方針を示しているのに対して、「配管が長くなると地震の影響で破損するリスクが高まる」とか「1系統でも十分信頼性を確保できる」と述べるなど、意見が異なる場面が多く見られました。 

これに対して、規制委員会側は「原子炉建屋への航空機の落下やテロを想定した場合、建屋から離れた場所か、頑丈な構造にすることが必要で予備のための系統も必要だ」などと説明しました。
新たな安全基準は、原発の運転再開の判断の前提にもなるもので、規制委員会では、18日の議論なども踏まえて、来週、骨子案を示してさらに議論し、ことし7月までに法律で義務づける方針です。

2013年1月23日 (水)

また「あの」男が登場 郵政民営化の二番煎じはさせないぞ

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新聞報道によれば、安倍首相はTPPについて、この春とされる日米首脳会談での正式表明を見送る意向であり、今年夏の参院選後への結論先送りを決めたようです。
(欄外切り抜き参照)

また、NHKニュースによれば、自民党は、TPP関連の党内での議論の積み上げをすることを開始しました。
 

自民党の意志決定機構は、まずは政務調査会の各部会ごとに個別に議論し、今回新たに出来た外交・経済連携調査会での検討に移り、政調会が取りまとめ、総務会が党議決定するという順路です。 

これだけで半年は優にかかる計算で、参院選などにはとても間に合いっこありません。

TPP交渉参加に遅れると、ルール作りをされてしまうと、わかったようなヨタを飛ばす者がいますが、自民党が選挙で国民に約束した「聖域なき関税撤廃がある限り参加はしない」という公約を貫くなら、そもそもTPPと相いれないのです。

あのTPPは幸か不幸か、米国の経済界・農業界の総意ではありません。自動車業界は大反対していますし、農業界でも多くは無関心といったありさまです。

今回の大統領選で、共和党側から「TPPはオバマの貿易政策」と揶揄されたようなものなのです。

米国産業界にとっても、今の円安と重なった日本製品の攻勢に、関税撤廃が加わるというのは避けたいところであり、賛成反対がいまだ定まらないのです。

そしてわが国にとっては、何度か書いてきていますが、TPPは得るものは皆無で失うものは甚大です。

自動車関税?家電関税?冗談ではありません。あんな2.5%ぽっちの関税は円-ドル相場が100円台に近づけば、露と消えます。

現に現在のアベノミックス効果による円安により関税換算で、日本製品は10%ていどの割安になっており、かつてのような100~120円相場に安定すれば、わが国経済の競争力は世界有数です。

ですから、なにも好き好んで日本が誇る医療保険制度や農業を破壊してまで、米国の関税を2.5%(自動車)ぽっち安くしてもらう必要はいささかもないのです。

焦っているのは、モンサントの世界制覇の片棒をかついで、遺伝子組み換えで日本市場を制圧したい米倉経団連会長くらいなものです。

もし、米国との関係を壊すことを恐れるなら、いつまでも「党内論議」をしていたらいいわけて、焦る必要はありません。

TPPなどという有害無益なものはいくらでも先延ばししていただいて結構。しっかりと議論が国民に分かる形でしてほしいものです。 

実は私の心配の種は、安陪政権ができてから、突如、今まで維新の会の「グレートリセット」の指導をやっていたはずの竹中平蔵氏が飛び込んできたので、冗談ではないと思っています。 

竹中平蔵氏が登用されたので、かなり不安になりましたが、自民党が時間をかけて検討していくというので、ちょっと安心しました。

というのは、この経済財政諮問会議というシロモノには、小泉-竹中改革の匂いがプンプンするものだからです。 

今回、安陪首相が小泉氏と同様の手法を取るとは思えませんが、この経済財政諮問会議がかつて郵政民営化で果たした決定的な役割があります。 

これについては、わが国で最初に郵政改革に代表される構造改革が、実は米国の「年次要求書」を下敷きにして出来たものだということを指摘した関岡英之氏がこう語っています。(「表現者」05年9月) 

「(質問者)そもそも要望書というのは、どういう形で実現されていくわけですか。アメリカがいくら要求してきても、こっ意を通過しなければ実現不可能ではないですか? 

(関岡)そこが重要です。日本側に、受け皿となっているトロイの木馬があるわけです。それが経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議などの総理直属のいくつかの会議です。 

そういった(諮問)会議が、アメリカの要求をあたかも日本の内政課題であるかのように偽装して政府に提言し、それを受けて所管官庁が法案を作り、閣議決定してしまう。国会に提出される以前に、法案はアメリカの要求に沿った方向で出来上がっているわけです。」

小泉内閣当時の自民党の決定プロセスはこのようなものです。 

①首相直轄の諮問委員会で基本方針決定
②総理大臣が主管官庁に指示
③主管官庁で法案作成
④自民党関係部会審議
⑤自民党政務調査会(政調会)で了承
⑥自民党総務会で党議決定
⑦閣議決定
⑧国会提出
⑨特別委員会で審査
⑩国会議決
 

このプロセスで与党議員が反対を表明できる場は、④の関係部会、⑤政調会、⑥総務会です。 

ここを通過すると、TPPはかつての郵政民営化のように党内決議されてしまいます。 

かつての郵政改革では自民党関係部会約百名のうち8割は郵政民営化に反対でした。 

部会は反対との意見を出したにもかかわらず、部会は決定機関ではないということで、政調会に上げられ、ここでも反対派が多数だったにもかかわらず、ともかく総務会に上げようとする異様な動きがあったのです。 

郵政民営化以前の従来の自民党は、全会一致原則ということを基本としており、どこぞの党のように幹事長一任などということはなされてきませんでした。 

しかし、この時慣例が破られ、久間総務会長による挙手による多数決で強行されてしまいました。 

この間の内幕を、民営化反対を貫いて自民党を脱党した小林興起氏はこう述べています。 

「それまでなら国会提出の前になって行われる閣議決定が、この時は自民党関係部会の前に行われてしまったために、私たちは反対することができなかったのです。つまり官邸主導が実現したことになります。それは実はアメリカ主導だったのです。」
(東谷暁「郵政崩壊とTPP」)

今回、郵政改革と異なるのはTPPで「官邸主導」がなされていないことで、たぶん安陪首相自身決めかねているというのが本当のところではないでしょうか。

また、今回は関係部会の審議の前に閣議決定もされていません。要するに、これから党内論議をするぞ、というただ一点だけが明らかになっているだけです。

とはいえ、まだまだ油断はできません。それは経済競争力会議・規制改革会議に「あの」竹中平蔵その人がいることです。

ああ、イヤダ。ジンマシンが出そうだ。名前を聞いただけて気持ちが悪くなる。私にこれだけ嫌われているのは、菅直人氏くらいしかいません(笑)。

この男が、また災厄を引き込まないか注視する必要があります。
まぁ、麻生財務大臣と犬猿の仲なのが保険ですが。

残念なことに、小泉-竹中改革と似た意志決定の構図ができつつあるのはたしかです。

日本国民が選んだ議員によって決せられるのではなく、私的諮問機関によって決せられることがあっては断じてなりません。この国の主権は、あくまで私たち国民だからです。

 

        ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。 

安倍首相、日米首脳会談でのTPP参加表明見送り 参院選対策を優先
産経新聞2013.1.13 01:11
 

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加問題で、安倍晋三首相が2月以降に予定される日米首脳会談での正式表明を見送る意向であることが12日、分かった。 

今年夏の参院選後への結論先送りも視野に入れる。首相はオバマ米大統領に、防衛関連予算の拡充や集団的自衛権行使の検討など「同盟強化」への取り組みを説明して、正式表明見送りへの理解を求める。複数の政府・自民党関係者が明らかにした。 

 訪米時の正式表明を見送るのは、自民党内で参院選への影響を懸念する声が強いためだ。 

 首相は昨年12月、産経新聞のインタビューで「聖域なき関税撤廃の前提条件が変われば、参加も検討の視野に入る」と述べたが、参院選勝利による本格政権樹立を最優先にした。 

 党外交・経済連携調査会は月内に交渉参加に関する議論を始める予定で、首相は党内調整に入ったことを大統領に説明する。ただ、党内には「参院選前に不参加を表明すべきだ」(閣僚経験者)との声もあり、同調査会も首相訪米前にまとめる提言で表明見送りを求めそうだ。 

 米国などTPP交渉参加11カ国は10月の基本合意を目指している。米国が外国と通商交渉を始めるには、90日前までに大統領が米議会に通知して承認を得なければならない「90日ルール」が存在する。日本の参加表明が参院選後になると交渉妥結時の参加国になれない可能性が高まる。

2013年1月22日 (火)

バランスよく代替エネルギーを評価しないか

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もう少し詳しくエネルギー源について考えてみます。

昨日も書きましたが、原発のリスクをなくすということは、別なリスクを取ることでもあります。その新たなリスクの大小が、代替エネルギーを選ぶ基準となります。

その選択基準となるのか、「エネルギーの価値尺度」というものです。まだるっこいようですが、ここからお話していきます。

ガス・コンバインドサイクルなどの技術的進歩は、この価値尺度の一部でしかありません。

よく素人が技術的ブレークスルーに接すると、すぐこれこそが次世代の救世主と思ってしまうものですが、シェールガスや、メタンハイドレートのような新たなジャンルが誕生したのでなければ、その影響はこの価値尺度の枠の中で判定されるべきです。

さて、このエネルギー価値尺度で世界的にもっとも有名なのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のテルツァキアン教授によるエネルギーの価値を判定する9の基準というリストです。(欄外資料1参照)

これはエネルギー源の利用価値を計るもので、「産出/投入比率」と合わせて使われているものです。 (欄外資料2参照)
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-3.html

テルツァキアンの判定項目は以下です。

汎用性      ・・・どんな用途にでも利用可能
量的柔軟性   ・・・微細にでも巨大にでも調整可能
貯蔵性・運搬性 ・・・自在に移動することが可能
ユビキタス性  ・・・時期と場所を選ばない
エネルギー量  ・・・面積・体積・重量当たりのエネルギー量
出力密度     ・・・時間当たりのエネルギー量
出力安定性   ・・・エネルギー出力の安定性
環境負荷    ・・・CO2や窒素酸化物・硫黄酸化物などの排出量
供給安全保障 ・・・産出地の政治的安定性

そしてこのテルツァキアンの9項目に、私は福島第1原発の過酷事故以後は10番目として「危険度」が付け加えられるべきだと考えています。

安価をうたい文句にして、事故が起きたら国土の半分は人が住めなくなったではシャレになりません。そこで私は10番目の判定基準として
事故時の危険度・・・過酷事故時にいかなる危険があるのかの度合い

また、専門家によっては、派生して出来る副産物を上げる人もいます。たとえば石油は生成の過程で膨大な石油化学製品を生み出しますが、再生可能エネルギーはまったくなにも生み出しません。

そこで11番目の判定基準として
副産物・・・製造時にどのような派生品を生み出すのかの度合い

欄外の表を見ながら読んで頂きたいのですが、この9+2の判定基準でみると、最高得点なのは石油です。

○が壮観なほどズラっと並んでいます。まさにエネルギーの優等生です。だからこそ、石油は現代エネルギーのチャンピオンになったわけですが。

●石油は⑧の環境負荷でCO2を出すことと、⑨の安全保障という点が産地が世界の火薬庫のような中東湾岸ですので、これが低い以外は平均して高い利用価値があるとされています。

私が勝手に追加した11番目の副産物も、プラスチック、ビニール、化学肥料などを先頭にして膨大なジャンルがあり、それがなくては現代生活が営めないほどです。

しかし今や、むしろその高い利用価値が禍して、過剰に投機マネーが流入したり、原油争奪の国家間紛争が起きたりして、そのつど原油価格が大きく変動してしまう欠点を持っています。

その為に数度の石油ショックで学んだ先進各国は、石油依存経済から脱却しようとしています。

●原子力は、どんな用途にでも使えるわけではなく、また移動することなどはぶっそうなのでやめて欲しいので汎用性とユビキタス性に難点がついています。

かつて冷戦初期に、米国もソ連も原子力爆撃機などというもの騒がせなものを作ろうとしましたが、堕ちたらえらいことなので計画が中止されました。

脱線ついでに、鉄腕アトムは原子力エンジンで動いています。足から出ているのは原子炉からの直接排気で、おいおいやめてくれよ(笑)。ちなみに妹はウランちゃん、弟はコバルト君です。

原子力は「環境負荷」において、福島第1原発事故以前はCO2が出ないことで高得点でしたが、今そのように思っているのは日本の環境省くらいなものでしょう。

環境負荷もなにも、事故がいったん起きれば一国の3分の1が住めなくなる可能性が高いわけですから、10番目に「安全性」という評価項目かあれば、原子力は最低最悪の得点であることはいうまでもありません。原子力に未来はありません。

11番目の副産物は核のゴミから 出るプルトニウムです。原爆を作る気ならともかく、これほど始末に悪いものはありません。

●石炭は、貯蔵性、運搬性、体積・重量あたりのエネルギー密度、出力安定性は高得点ですが、あまりにも窒素・硫黄酸化物やCO2の排出か大きく環境に負荷をかけすぎるために今後を期待できるエネルギーではありません。

●水力も出力密度と産地の安定はあるのですが、貯蔵出来たりするものではなく、どうしても巨大なダム施設を作ってしまうため環境負荷が高く、日本ではこれ以上の建設は無理です。(※小型水力発電所は期待できます。)

●天然ガス。平均して特に大きな欠点が見当たらないのが天然ガスです。汎用性、貯蔵性、運搬性にはやや石油より落ちるものの欠陥といえるものは見当たりません。

エネルギー密度、出力密度、出力安定性などのエネルギー効率は高い能力をもっています。クラスで二番目にできるおとなしい子というかんじでした。

これが天然ガス界の革命児のシェールガスや、ガス・コンバインドサイクルなどの新技術で、一躍石油に替わる次世代のエネルギーの主力の地位に躍り出ました。

特に天然ガスは石油、石炭、水力で問題となる環境負荷が少ないのが特徴です。

天然ガスをまとめてみると

①中東などの政治的に危ない地域に偏在することなく、豊富に世界各地に存在する。
②CO2や酸化物の排出も少なく、化石燃料の中で最も良好な環境能力をもつ。
③シェールガスなどによる新たな天然ガス革命により、価格が安価になる期待がある。
④過酷事故が起きる可能性が少なく、仮に起きても原発事故とは比較にならない。

非常にバランスの取れたエネルギー源だと分かります。

ですから、世界のエネルギー専門家の共通した意見では、天然ガスこそが21世紀のベース電源に成長するのではないかと期待されています。

再生可能エネルギーは、脱原発のシンボルのように扱われたために人気が高いエネルギー源です。

環境負荷が少なく、国内で生産されるという点では高評価ですが、それ以外ではすべての評価項目で「悪い」がついてしまっています。

これは再生可能エネルギー推進派のみなさんは反論がおありでしょうが、客観的に見た位置は、残念ですが一国の主要ベース電源(基盤電源)とするにはもっともふさわしくないエネルギー源だと評価されています。

ただしそれは全国共通のベース電源としてであり、そのように再生可能エネルギーを位置づけること自体が間違っています。

私はいままで利用されず眠っていた地域のエネルギーを市民参加型で利用できる地産地消型エネルギーとして発展していくべきだと思います。

ですからなおのこと再生可能エネルギーを活かすには、他のエネルギー源との組み合わせ方をどのようにしていくのかを工夫したり、どこに何を設置したら効率がいいのか、どのような地域送電網があるのかを真剣に考えねばならないのです。

以上のように、様々なエネルギー源があります。脱原発だから再生可能エルギーしかないんだなどと思わずに、また逆に原子力は絶対に必要だなどとも思わずに、バランスよく考えていったらいいのだと思います。

             ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

■資料1
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資料2 エネルギー源ごとの産出/投入比率(EROEI)

・石油・天然ガス・・・20倍(米国)~100倍(中東湾岸)
・石炭      ・・・30倍前後
・原子力    ・・・20倍
(注・ただし廃炉・賠償コストなどを含むと大きく下がって10分の1以下になるのではないかと思われます。筆者)
・風力      ・・・10~20倍
・太陽光    ・・・5~10倍

(エネルギー・環境問題研究所 石井彰氏による)

2013年1月21日 (月)

天然ガス・もっとも有力な原発の代替エネルギー

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HNただのぶさんから、このようなご質問があったのでお答えします。(欄外参照) 

私はいうまでもなく原子力推進派ではありませんし、かといっていわゆる「脱原発派」でもありません。 

心情的には、一刻も早く原子力に消え失せて欲しいと願っていますが、現実的には長い道のりだと思っています。 

それは原発ゼロの代償に国民生活や、国民経済を傷つけてしまってはなんにもならないからです。 

ですから私は、脱原発派の一部の方たちのように即時原発ゼロを唱えたり、再生可能エネルギーを徒に主張したりすることはしません。 

逆に、ただちに全原発の再稼働をせよなどとは口が腐っても言いません。

何からなすべきか優先順位をつけて、どの原発から、どのような方法によって、いかなる代替手段で行うのか考えていこうと思っています。 

ですから、原子力維持派からも、脱原発派からのどちらからも批判されるというキビシイ立場となっています(笑)。 

さて、原発維持にしても、脱原発にしても優先順位があります。すぐに全部再稼働しろというのも、逆にすぐに全部ゼロにしろと言うのも無理な話だと思っています。 

ものには手順というものがあるのです。再稼働の是非を決定するのは、一義的に科学的知見に基づく原子力規制委員会のものです。その後にそれを受けた政府や国会の判断となります。 

この規制委員会の安全審査を飛び越えて再稼働したり、廃炉にしたりすることは政治の優越を認めることになって危険です。

では現況はどうなのでしょうか。日本の原発は2基を除いてすべて稼働していませんし、再稼働の予定もまったく不透明な状況です。 

そして今後ですが、この1月に出た規制委員会の安全基準原案によれば、老朽原発と活断層上の原発には未来はないでしょう。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-4.html
        http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post.html
        http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-7d28.html

 これだけで、30年から40年たつ老朽原発の15基と、GE製markⅠ及びⅡの11基が廃炉に追い込まれます。2基重複していますからこれで24基、約半数強の原発が止まります。 

他に敦賀、東通、大間、志賀、美浜などの活断層上の原発にも再稼働の可能性はかぎりなくゼロです。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-397c.html
        http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-6351.html
        http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-1.html

 また、それ以外の原発も、現時点で安全基準に100%合格する原発などは存在しませんから、一定期間かけた再稼働のための補強工事が必要なわけです。 

その後に規制委員会に申請して審査を受けるのですから、たぶん2年から3年間、時には5年以上再稼働が遅れることが予想されます。 (その間に審査に合格すれば再稼働する原発もパラパラあるわけですが。)

つまり、20~30基の原発には未来がなく、残りの原発も多額の補強資金をかけてまで再稼働させるかどうなのか瀬戸際だというのが現状です。

維持費と改修費ばかりかさんで、5年かかって審査したあげくまた改修だったら電力会社はやってられません。きっとその見極めをする期間にこの数年間はなるはずです。 

このような現状のために、わが国では火力発電がほとんど独力でエネルギーをまかなっているというのが現状です。 

現在、9電力会社が3.2兆円と言われる燃料コストの高騰で、関西、九州が値上げを表明し、四国、北海道、東北の電力各社も追随すると見られています。

昨年9月に値上げしたばかりの東電も、今年にまた再値上げをすると見られています。 

電力会社の伏魔殿のような子会社体制を整理し、人件費圧力を減らせという声も大きいし、それをやる必要はありますが、人件費はせいぜいが1割程度であり、その圧縮によるコスト削減効果にも自ずと限界があります。 

このように原発が止まり、再稼働が完全に不透明となった今は、エネルギー戦国時代と呼ばれています。 

依存率50%を目指すとまで言われた原子力が絶望的に極小に転落し、その開いた席を巡って多くのエネルギー源が競い合う状況なのです。

たとえば、こんな動きがありました。福井県は全国最多の13基も県内に原発を抱える原発のメッカのような県でした。 

しかし去年7月のこと、福井県庁に関西電力、大阪ガス、東芝、神戸製鋼所、千代田化工などといった、そうそうたるエネルギー関係とプラントメーカーが呼ばれました。 

呼ばれた理由は「福井県内にLNGの新たな受け入れ基地が作れないか」というものでした。 

聞いた各社はさぞかしびっくりしたことでしょう。日本一の原発立地県が、天然ガスに転換するというのですから。

敦賀市には、02年に大阪ガスが天然ガス・プラント建設を作る予定だったものが棚上げになったという経過もあって既に準備調査は済んでおり、電力・ガス会社側も大いに乗り気のようです。

この福井県の動きには経済産業省がバックにあり、原発の跡地利用として天然ガス・プラントを作る構想もあります。 

特に敦賀原発3、4号機は着工が認められていない状態であり(無理だと思いますが)、天然ガス・プラントへの転換は可能性が高いでしょう。原発に頼ってきた地元の雇用をなくさないという意味でもいいことです。

福井県は日本海側に面しており、ロシアと天然ガスパイプラインが直結する可能性もあります。現にロシアは、サハリンからの数千キロのパイプラインの建設計画を持っています。

これが実現した場合、福井県などの日本海側の諸県は京阪神地区のみならず首都圏に対しても大きなエネルギー供給基地となりえます。 もはや原発などという危ないものに頼ることはないのです。 

ここで考えておかねばならないことは、ゼロリスクはありえないことです。原発のリスクを排除することは、別なリスクを取ることです。

いくつもあるリスクのパラメータ(変数)を考えながら、もっともリスクが最小化される方法を選ぶべきです。(欄外図参照)

これにはイデオロギーが入り込む余地がない問題です。脱原発はイデオロギー論争ではないのですから。

原発の代替エネルギーに、経済的・社会的合理性がないエネルギー源を置くことはありえません。そのリスクの判断基準は大きくはこの3ツでしょう。

第1に、電気料金の値上げや停電の危険がないか、あっても少ないこと
第2に、環境汚染、この増加がないか、あっても少ないこと
第3に、重大事故の危険がないか、あっても少ないこと

以上の条件で考えると、このようになります。

再生可能エネルギーは不安定で高価な上、バックアップ発電所を置かねばならず、そのための送電体制などの制約が多すぎます。

石油は安定したエネルギー源ですが、産地の中東情勢により原油価格の変動が激しい難点があります。

石炭は安価な供給源ですが、大気汚染とCO2排出が大きいのが難点です。

天然ガスは産地が分散しており、CO2排出も中程度であり、いまの原油価格との連動した価格体系が改善されれば代替エネルギーの本命たりえます。 

実は今まで天然ガスのネックになっていたのは、国内のガスパイプラインの未整備と、原油と連動する価格体系でした。

しかしこれも、現在急速にパイプラインの建設が進んでいます。 

新潟-富山、彦根(滋賀県)-四日市(三重県)でパイプラインの敷設が進み、これを敦賀(福井県)まで延ばして、日本海側と太平洋側をつなぐ新たなエネルギーの動脈にできないかと経済産業省は考えています。 

このガス・パイプラインの建設コストは、送電網建設よりはるかに安価であり、天然ガス・プラントが一基稼働すれば直ぐに採算がとれるとさえ言われています。

パイプラインの鋼管作りの技術は、わが国のお家芸でしたが、外国ばかりで自国に作っていなかっただけです。 

また、今まで原油価格と連動してきた価格体系も、米国で「シェールガス革命」が起きて世界のエネルギー地図が急速に塗り替わった結果、大きな変化のきざしが現れています。 

米国のシェールガス革命に危機感をもったロシアは、東シベリアとサハリンの天然ガスを日本に安価で輸出することに前向きになっています。

天然ガス・プラント自体も、三菱重工が製造するガス・コンバインドサイクルを使用すればエネルギー効率が従来の2倍の6割にも達し、同じ燃料で2倍の発電量が得られます。これについては別途詳述する予定です。(ただのぶさん、待っててね。) 

このように、天然ガスは国内の受け入れ基盤の整備、外国の供給事情の好転、発電プラントの技術革新などが立て続けに起きた結果、次代の主力エネルギー源とする条件は急速に整いつつあります。

長くなりましたので、次回もう少し詳しくこの稿を続けたいと思います。

■写真 雪の日の翌朝。欅がにわか雪原にポツンと立っています。 

           ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。 

「私は原発を維持した方がよいと考えておりますが、貴殿の現実的な主張は理解できます。 

私も推進派ばかりの主張を読まず、たまには反対派のをと思い、完全な専門家では無いと思いますが、旧皇族の竹田恒泰氏のこれが結論!日本人と原発にコンバインドサイクル発電というのがありました。 

現実的な発電なのでしょうか?
コスト、発電量とか。
原発の代替となりうるのであれば、
後は廃炉と核廃棄物の問題が残るだけです。一番問題ですが。
博学な貴殿のご意見はいかがでしょうか。」
(ただのぶ)

■エネルギー源のリスク比較

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             (週刊ダイヤモンド2011年11月10日より)

2013年1月18日 (金)

NHK世論調査に示された脱原発についての「民意」とは


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いささか衝撃的な世論調査の数字がでています。

先日1月16日に発表されたNHKの世論調査で、安陪首相の民主党が掲げた「原発30年代にゼロ」の見直し方針について、このような結果が出ました。

安倍総理大臣が、「2030年代に原発の稼働ゼロを目指す」とした民主党政権のエネルギー政策を見直す考えを示していることについて、賛否を尋ねたところ、「賛成」が43%、「反対」が21%、「どちらともいえない」が30%でした。」
(NHKニュース1月16日 欄外参照))

「見直し賛成」が43%と、「どちらともいえない」が30%で、積極的に「30年代原発ゼロ」を支持したのは21%に止まりました。

最大分布は43%の「見直し賛成派」で、第2位の「どちらともいえない」と合わせると73%にも達しました。

去年秋に「民意」とされた[6割の国民が原発ゼロを望んでいる」(東京新聞)という流れが、明らかにひとつの転換点を迎えていることが分かります。

原発ゼロを支持した層は分解して、一部は現実主義的な「見直し賛成」と、判断保留の30%に別れたようです。

これは、スウェーデンの国民投票結果と、1986年から2010年までの世論調査の推移と重ね合わせてみると分かりやすいと思います。

スウェーデンのヨーテボリ大学・世論メディア研究所が実施した原子力についての意識調査があります。

Photo

上の意識調査を見ると、赤線の原発廃止の意見は1988年を頂点として毎年減少し、2002年を境目にして原発利用と逆転しているのが分かります。

次に国民投票結果ですが、
ひとつの事案で国民投票で白黒をつけたというのは、原発事故の当事者でもないにかかわらず、国民を二分した課題だったのか深刻さが分かります

国民投票で示されたスウェーデン国民の「民意」の内訳はこうです。

①反原発開発、10年以内の原発全廃止・・・39.7%
②化石燃料依存から脱却し、社会に十分なエネルギーを再生可能エネルギーで生産できるようになるにつれて徐々に原発廃止  ・・・58%
③無記入                        ・・・3.3%

脱原発に投票したのは約4割、一方「徐々に原発を廃止する」と、「無記入」(現状維持=賛成)で合わせて約6割です。

つまりスウェーデン人は急激な脱原発ではなく、代替エネルギーをしっかりと確保しながら原子力依存を減らしていくことを選んだのです。

この国民投票の結果を受けて2010年まで原発モラトリアム」という建設凍結がなされました。

というか、なされたはずですが、実は2基が新設されており、期限切れの10年には、代替エネルギーの見通しがつくまでという条件付きでモラトリアムは終了しています。

ところで、去年暮れの衆院選の「卒原発」を掲げた未来の党の比例区の得票率は5.61%(北関ブロック)でした。

「いかなる再稼働も反対で10年以内」という未来の党的路線の支持率は、他の社民党、共産党も加えても10%前後ではないかと思われます。

これに民主党得票率22.8%を加えると約33%です。

政党得票率は、民主党などのような政権党の場合、多種多様な評価項目があるので、そのまま評価するわけにはいきませんが、おおむねこのNHKの世論調査の20%から脱原発政党得票率からみた30%超までが原発ゼロ支持層だと考えて大きなズレはないのではないでしょうか。

ただし、ここで問題となるのは世論調査の設問の立て方です。

この設問は、自民党政権の民主党政権時の「30年代原発ゼロ」見直しについてという聞き方をしています。

この聞き方では自民党支持層でありながら原発には疑問を持つ階層には、民主党政権への嫌悪感から「賛成」と答える人も出てしまいます。

あるいは「30年代原発ゼロ」には懐疑的だが、スウェーデンの人々のように代替エネルギーを確保しつつ、原子力依存を減らしていくことを支持する層も含まれている可能性があります。

また、かつての某新聞の世論調査のように、「原発に賛成ですか、反対ですか」というようなガサツな聞き方では、大部分の人々が「そりゃあ、なけりゃあないほうが言いに決まっているだろう」と答えてしまいます。

事故からそろそろ2年近くたとうとしています。聞くならば、このようにもっと絞り込んで具体的に聞くべきです。

①原発の30年以内の全面廃止
②原子力の代替エネルギーが確保され、国民生活や経済に影響がなくなってから廃止
③原子力発電を維持しつづける
④わからない


先ほど述べたように、スウェーデンはチェルノブイリ事故直後をピークとして、脱原発支持は急速に落ちていきました。

わが国で今後どのような流れになるのかは、脱原発派自身がもっとリアルな政策を出せるかにかかっています。

NHKの世論調査でも、安陪政権に望むものは経済対策38%と最も多く、原子力政策は10%と低迷しています。

これが示すものは、このようなデフレ不況時に脱原発派が唱えるドイツのようなことをやればどうなるのかということについての、国民の答えだと思います。

脱原発政党が、今のような「空気」だのみの離合衆集散を繰り返し、リアルなエネルギー政策を作ろうとしないかぎり、スウェーデンのような長期の後退が待ち構えていると心して下さい。

■明日明後日は定休日です。月曜日にお目にかかりましょう。

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NHK世調 エネ政策見直し「賛成」43%

NHK 1月16日 5時11分

NHKは、今月12日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行い、調査対象の68%にあたる1138人から回答を得ました。

この中で、今、国が最も力を入れて取り組むべき課題は何だと思うか聞いたところ、「経済対策」が38%と最も多く、次いで、「東日本大震災からの復興」が18%、「社会保障制度の見直し」が15%、「原発のあり方を含むエネルギー政策」が10%などとなりました。

次に、安倍総理大臣が、「2030年代に原発の稼働ゼロを目指す」とした民主党政権のエネルギー政策を見直す考えを示していることについて、賛否を尋ねたところ、「賛成」が43%、「反対」が21%、「どちらともいえない」が30%でした。

また、憲法を改正するには、まず、衆議院と参議院の両院で、すべての議員の3分の2以上が賛成する必要がありますが、安倍総理大臣が、これを「過半数の賛成」に緩めるべきだと主張していることについて、「賛成」が21%、「反対」が34%、「どちらともいえない」が40%でした

http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/index.html

2013年1月17日 (木)

「脱原発優等生ドイツの憂鬱な現実」その2 毎冬ごと繰り返される停電の恐怖

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「ニューズウィーク2012年10月31日号」の元ベルリン支局長シュテファン・タイル氏のドイツレポートを続けます。前回のまとめは欄外にあります。 

さて、このように見てくるとメルケル政権は二つの間違いをしていることに改めて気づかされます。 

ひとつは17基の原発のうち半分にあたる8基を即時停止にすることにより、電力供給の不安定を招いてしまったことです。 

そして二つ目にドイツは、原発に替わる代替エネルギーとして再生可能エネルギーを見込んでしまい、それに23兆円もの過剰な補助金を投入してしまったことです。 

その再生可能エネルギーの主力と目されたのは太陽光発電でした。ここに補助金の半額、実に葯12兆円が投じられ、それが回り回って国民の電気料金に上乗せされることになりました。 

飯田哲也氏などの脱原発派(の一部)が、ドイツと同じ政策を提言されていますが、この人たちはドイツの実態を見てしゃべっているのかいつも疑問に思っているところです。 

それはさておき、ドイツは再生可能エネルギーへの過度な肩入れにより電力供給の不安定を招いたとニューズウィーク誌は報じます。 

原子力や火力と違って風や太陽は天候頼みなために、発電への貢献度がゼロの時も20%の時もあるからです。 

そのためにいつも十分な電力を供給できないことに備えて、電力会社は従来型のバックアップ発電所をスタンバイさせておかねばなりません。

幸い、ヨーロッパは国際送電網を持っていますから不足した場合はここからの買電に頼ることになります。 

私たち島国に住む日本人には感覚的についていかないのですが、ヨーロッパでは電力は売り買いできる貿易商品なのです。 

その結果、フランスやチェコからの輸入電力が増えて、ドイツへの電気輸出をあてこんで原発を新設するという笑い話のようなことが起きました。

ドイツは脱原発まで電力輸出国でした。ドイツの産業界も、国民も自分の国が停電するなどということは考えてもいませんでした。

今はまったく違ってきています。2012年2月の厳冬期に、ドイツでは暖房機需要で大規模停電を引き起こすところでした。

それを回避できたのは、政府がハンブルクの鉄鋼所の操業を停止させたことと、急遽旧式な石炭発電所を動かしたからです。

フリッツ・バーレンホルト(再生可能エネルギー会社RWEイノジーCEO)はこう言います。

再生可能エネルギーのような供給に不安定な電力への依存度を高めれば、問題は大きくなる一方だ。電力を貯蔵できれば問題は解決するかもしれないが、電磁点では大量の需要に対応できる蓄電技術は実用化までほど遠く、コスト的にも論外だ。」

バックアップ用の発電所を、いつも再生可能エネルギー発電所につけて、動かしたり、止めたりしているのは非効率極まりありません。

電力会社にとってはコストがふくらみ、政府は冬の度に薄氷を踏むような思いで電気をやり繰りせねばなりません。

こうして再生可能エネルギーに投資する魅力はますます薄れっていったのです。

■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-19d4.html

■写真 北浦の朝の湖畔。私とは思えない上品な写真です(笑)。

 

■謝辞 本稿は「ニューズ・ウィーク2012年10月31日号」を研究のために参照させて頂きました。有り難うございました。なお、本記事は、要約の性格上、本文ままではないことをお断りします。

 

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前回のまとめ
・ドイツは福島第1原発事故により、脱原発政策を選択し(正確には二度目)、全17基中8基を停止し、22年までにすべての原発を停止することを決定した。
 

・その結果、社会的な打撃がドイツ社会に襲いかかった。最大のものは電気料金の値上がり。  

・一般所帯で電気料金が年間225万ユーロ(2万6550円)上昇し、80万所帯が滞納で電気を切られる危機に瀕している「燃料貧困層」を生み出した。  

・産業界では、電気料金の値上がりで受けた損害は葯340億ユーロ(約4兆120億円)に達し、停電などによる生産工程の混乱などと重なって、企業が生産施設を外国に移転することを検討し始めた。  

・脱原発政策の一環として再生可能エネルギーに全量固定価格買い取り制度(FIT)が持ち込まれ2000億ユーロ(23兆6000億円)が補助金として投入され、その半分は効率が悪い太陽光発電だった。

2013年1月16日 (水)

「脱原発優等生ドイツの憂鬱な現実」その1 80万所帯が電気料金を滞納

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「ニューズウィーク」(2012年10月31日)に元ベルリン支局長のシュテファン・タイル氏の「脱原発優等生ドイツの憂鬱な現実」と題する興味深いレポートが載っていますので、ダイジェストでご紹介します。 

ドイツがあわただしく脱原発に走ってから1年半、きっかけはわが国の福島第1原発事故でした。

「あの先端技術を持つ日本が原発事故を起こした」ということは、同じく技術大国のドイツを震え上がらせました。

アンゲラ・メルケル首相はこう説明します。
「日本のような技術が発達した国でさえ、地震と津波から原発を守れなかったとすれば、その事実はドイツにとっても大きな意味を持つ。」

それまでの原発の依存度は日本とほぼ一緒の23%(日本24%)、そして老朽原発が多く不安な反面、既に償却が終了しているという安い電源でもありました。(下図参照 図表はニューズウイークではありません。)

Photo_2

ドイツ政府は現在17基の原発のうち、老朽化している7基の原発を稼働停止にし、停止中の1基も再稼働を認めませんでした。22年までに残りのすべての原発の停止をする予定です。 

現在、半数弱の原発の稼働停止に過ぎませんが、既に大きな影響が出はじめています。 

その最大のものは電力料金の値上がりです。首都ベルリンの弁護士事務所で働くマリーナ・ヘッセは3人家族の主婦ですが、こう語っています。 

一般市民が支払える水準に電気代を抑える方法も考えずに原発を止めるなんて、政府はなにを考えているのかしら」。

脱原発政策によりドイツ経済が被った電気料金値上がりによる被害は、約340億ユーロ(1ユーロ=約118円換算で4兆120億円)に達するとOECDのエコノミストであるヤンホルスト・ケプラは計算します。 

そして全廃することによるコストは1200億ユーロ((14兆1600億円)を越える、と有力なシンクタンクであるライン・ウェストファーレン経済研究所のマヌエル・フロンデル教授は指摘します。 

これらの金額は、ドイツのGDPの実に5%にも達します。いかに脱原発政策がドイツ経済に大きな打撃を与えたかお分かりになると思います。

電気料金が上がれば、企業投資は冷え込み、それに連れて個人消費も落ち込んでいきます。その結果、賃金が下がり、失業者は増大していくことになるとフロンデル教授は言います。

産業界は停電を懸念しており、生産施設を海外に移転させることを考え出し始めました。

近隣諸国は、ドイツの電気輸入が増加して、ヨーロッパの電力を融通し合う国際送電網が不安定になることを懸念しています。

代償は極めて大きい。経済が麻痺しかねない」。(フリッツ・バーレンホルト再生可能エネルギー会社RWEイノジーCEO)

この原因は単に原発を止めたことだけではありませんでした。ドイツは再生可能エネルギー関連の補助金のかなりの割合を太陽光発電に注ぎ込んでしまったのです。

しかし、太陽光は現段階では極めてコストが高く、効率が悪い発電手段でした。曇りが多いドイツでは太陽光にはお世辞にも適していないのにそこに比重をかけすぎたために、ドイツは期せずして太陽光発電で世界一の国になってしまったのです。

しかもこれを全量・固定価格買い取り制度(FIT)で、相場よりはるかに高く買い取ることをしたために、その割高のコストを負担させられたのはドイツの消費者でした。

ドイツの平均的な所帯の電気代は年間225ユーロ(2万6550円)増加し、来年には300ユーロ(3万5400円)になりそうです。

特に低所得者層への影響は大きく80万所帯が電気代の滞納をし、電気を止められそうになっています。いわゆる「燃料貧困層」が誕生したのです。

既存の再生可能エネルギー発電施設だけで、これまで2000億ユーロ(23兆6000億円)以上の補助金が交付され、このうち半分の1000億ユーロは太陽光発電です。

しかし、太陽光発電による発電量は、ドイツ全体の発電量のわずか4%にすぎません。

その一方で、投資家や裕福な地主は、太陽光発電施設や風力発電への投資や土地貸与で懐を潤わせています。

このように、原発政策による電力料金値上がりと、再生可能エネルギーの過剰な補助金導入政策のために、燃料貧困層と富裕層にドイツ社会が分裂していきました。

                                           (続く)

■謝辞 本稿は「ニューズ・ウィーク2012年10月31日号」を研究のために参照させて頂きました。有り難うございました。

■写真 昨日の雪で枯れかかったホウズキに雪が被りました。

2013年1月15日 (火)

関東も大雪でした

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関東も大雪となりました。わが湖岸地域も横殴りの吹雪となり、自動車も各所で止まってしまいました。

雪国の方には信じられないでしょうが、当地は冬でもノーマルですから(笑)。

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湖や、河口に吹きすさぶ雪というのはひときわ凄惨で、水鳥も岸辺に隠れています。

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今年はひとしおの寒波です。雪国の皆様、ご健勝をお祈りします。

2013年1月14日 (月)

トンデモドラマ「発送電分離」 原作・経産省・脚色・飯田哲也

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ナオミ・クラインが書いた「ショック・ドクトリン」(岩波書店)という本があります。彼女はこう書きます。 

「市場至上主義を推進する最適の時は大きなショックの直後です。経済の破綻でも、天災でも、テロでも、戦争でもいい。人々が混乱して自分を見失った一瞬の隙をついて、極端な国家改造を一気に全部やるのです。」
■関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-066e.html

この「ショック・ドクトリン」という言葉は、新自由主義の創始者であるミルトン・フリードマンが言ったこの言葉によります。彼はこう言い放ったそうです。 

危機のみが真の変化をもたらす」。平たく言えば、「火事場泥棒ほどえぐい商売はない」というところですか。 

戦争や大災害で国民が判断停止常態になっている時こそ、平時ならできないような「国家改造」を行なう絶好のチャンスだというわけです。 

このフリードマンこそが、グローバル資本のためにすべての規制の撤廃、自由競争こそが繁栄の王道であると唱えた市場原理主義者の祖でした。 

この新自由主義はリーマンショックで化けの皮がはがれたのですが、それ以前の1980年代から90年代にかけて冷戦に勝利した経済思想として米国で全盛を誇ります。 

この時期に米国に留学した日本人から多くの新自由主義者、別名構造改革論者が誕生しました。最も有名なのは、小泉改革で手腕を振るった竹中平蔵氏です。 

彼と同じ考えをする人間は、経済学者や時に「改革派」官僚という肩書で登場します。 

「改革が足りないから不況なのだ」、「日本は規制緩和が遅れているからダメなのだ」、あげくは「グレートリセットだ」なんて言っていたらこの一派だと思いましょう。(笑)

念のために言い添えますが、このような新自由主義者は、自民、民主、第3極に関わらず存在します。民主党政権には掃いて捨てるほどいましたし、安陪政権にもいます。「維新の会」や「みんな」などは巣窟状態です。

さて、その彼らが積極的に押し進めている「改革」の目玉のひとつがTPPであり、いまひとつが福島第1原発事故を口実にした電力市場の自由化=発送電分離です。 

この間私はブログで飯田哲也氏ばかり批判してきましたが、実は電力自由化=発送電分離を言い出したのは彼ではなく、飯田氏が批判して止まないはずの経産省「電力システム改革専門委員会」という所です。 

それも昨日や今日ではなく、小泉政権時に竹中改革の一環として急浮上しながら、電力の安定供給の観点から否定されてしまいました。「改革派」官僚たちは地団駄踏んで再起を誓ったことでしょう。 

それが、福島第1原発事故があった後に、突如「脱原発」の新しい衣をまとって再登場したというわけです。 

この元来、縁もゆかりもない別次元の脱原発と発送電分離を強引に接着したのが、飯田哲也氏だったのです。 

飯田氏は、原発事故の恐怖で脅える国民に、原発があるのは電力会社が原価をいくらでも上乗せできる総括原価方式をもっていて、金がかかる原発が欲しかったんだと説きました。 

そして今まで地域独占にあぐらをかいて甘い汁をさんざん吸ってきたのだから、この電力会社の既得権を電力自由化で奪ってしまえばいいのだと叫びました。

そして出てくる結論が、「東電などの電力会社を解体して発送電分離をせねば脱原発はできない」、となります。

そして当時(いまでもそうですが)東電批判は、彼らの自業自得もあって言いたい放題であり、原発反対=東電解体=電力自由化という論理の飛躍に誰にも気づきませんでした。

というわけで、いつの間にか、「東電は原発事故の元凶だ!東電を潰せ!東電の特権を奪え!電力自由化だ。発送電分離だ!原発ゼロ!」という「民意」が作られてしまったのです。 

これはまさに経産省「改革」派官僚たちにとって願ってもない展開でした。

もはやお蔵入り同然だった発送電分離論が、一挙に国民に脱原発の錦の御旗の下に浸透していったのですから、彼らは随喜の涙にむせいだことでしょう。

おそらく資源エネルギー局を除いて、経産省官僚は打ち揃って脱原発派に転向したのではないでしょうか(冗談です)。

まぁ今さら経産省が、「小泉・竹中改革の延長戦をやろう」では、国民は「冗談じゃないや。誰のおかげで失業者が増えて、格差社会になったんだ」と怒りだすでしょうが、「脱原発」が旗印ならいまの日本で反対する人はいませんものね。 

原発事故という巨大な災厄をダシにしようという点で、経産省「改革」官僚と飯田氏の利害が一致したわけなのですが、脱原発の旗手と原発推進の司令塔が同じ改革案を出してくるこのうさん臭さは一体なんなのでしょう。

これではまるでトンデモドラマ「発送電分離」・原作・経産省、脚色・演出・主演・飯田哲也といったところです。

このトンデモ・ドラマの企画趣旨は、電力自由化がされれば新規発電事業者が増えて、競争が促進され、再生可能エネルギー発電の事業者も増えて、電気料金は安くなり、原子力依存も大幅に減るだろうというバラ色のものです。

簡単に検証してみましょう。まず、安価になるということですが、なりません。たしかに北欧では安価になりましたが、大部分の自由化した国では電気料金は高値に貼りついたままです。

英国などは2009年には、1998年の分離以前の実に2倍にまで電気料金が跳ね上がり、「燃料貧困層」と呼ばれる収入の10%を燃料代にする階層まで登場し、社会問題となったほどです。

では北欧がなぜ成功したのかといえば、スウェーデンやノルウェーが、水力や原子力という基盤電源をしっかりと持っていて、火力発電のような価格変動が激しいエネルギー源が少なかったからです。

だから、もし、北欧のように電気料金を安くしたいのであれば、ダムをもっと増やすか(無理ですが)、原子力をもっと増やす(もっと無理ですが)しかありません。

それどころか、原発の停止により、わが国はエネルギー源のバランスが火力発電に一元的に傾くという異常な状態にあり、先が見えない深刻な電力不足状況です。

このような状況では国際原油相場や、それに連動する天然ガス相場の影響をもろにかぶってしまいます。

そうなった場合、発送電分離がされていたとすると、発電業者サイドが圧倒的に有利な売り手市場となるでしょう。

はっきり言って、発電業者側は、高い売電価格を維持しておくためには、電力は「不足気味」であったほうがいいわけで、あえて安くする努力をする必要がなくなるわけです。

電力価格は、電力自由化となれば、送電業者との相対取引になるわけですから、それが適正であるかを審議する政府のチェック機能もなくなります。これで、どうして電力価格が下がるのか私にはさっぱり分かりません。

また、再生可能エネルギーが増えるということについては、逆に分離すれば致命的に拡大することは阻害されるでしょう。

というのは、いままで何度となく論じてきたように、再生可能エネルギーは本質的にその日の天候によって左右される性格があるからです。

晴れればよく発電し、雨ならばまったくダメ、風が吹けばプロペラは回るが、凪ならば全然ダメという性格は、どのような技術進歩があっても変化しません。

ですから、再生可能エネルギーには必ず、そのバックアップの従来型の発電所がセットになっていなければなりません。

再生可能エネルギー発電料が減ればバックアップで発電量を増し、増えれば減らすという損な役割の火力発電所が必ず近所にいるのです。
■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/jaxa-a7dd.html

これは現在の日本のように発送電が一体で管理されているから高い調整能力をもつのであって、発電と送電が別なら、そんなバカなことをする義理はありません。なにせ別会社ですから。

今は電力会社に公共事業体として電力需給に厳しい義務が課せられているからやっているのです。

そもそもそんな不安定な発電所の為に、なんで送電会社が険しい山谷を越えて鉄塔を建て、ヘリで送電線を引かなければならないのでしょうか。

送電網さえ握ってさえいれば、そこに自由にかけられる託送料で有象無象のミニ発電会社の首根っこを押えられるからです。

送電業者なら、絶対にイヤでしょう。経営的メリットが少ないですから。自分で引けと突っ放し、泣きつく新電源会社との交渉で高い託送料をかけることで折り合うでしょう。

特に高い売電価格をもつ再生可能エネルギーは容赦なく高い託送料が課せられると思います。だって、バックアップ電源までつけてやらねば一人立ちできないならないからです。

よく勘違いされているようなのですが、電力自由化して発送電分離した結果、必ずしも多彩な送電業者が生まれる保証はないのです。

送電業は、巨額な設備投資による減価償却圧力や、日常的な保守点検にコストがかさむわりに、利が薄い地味な部門だからです。

現在わが国の9電力会社は、どこも動かない原発の維持費と原油高がのしかかって青息吐息です。 

この経営状況の中で安易に電力市場の開放をすると、経営体力がある大規模電力会社がスケールメリットを目指してこの際とばかりに、弱小電力会社の発電シェアを奪いにかかります。これは現実にドイツの電力自由化で起きたことです。 

一方、送電部門への新規参入も限られたものになるでしょう。東京、大阪などの大都市周辺部以外では、地形が厳しいわりに送電所帯が少ないので、メリットがないからです。

したがって、大都市周辺は送電-販売の激戦区、地方は買い手がつかない、ということになります。 

このような非対照を調整するために一県単位での買い取りしかないと私は思いますが、そうなるかは分かりません。

たぶん既存の電力会社が、そのまま他社系列の送電網を買い取ることが主流となるのではないでしょうか。技術的にも、人材的にもズフの素人が参入出来ることではないからです。

結果、ドイツは独占が強化されてしまいました。わが国も電力の自由化により、発電会社は9社体制から4、5社体制に独占強化され、送電部門も同じような独占強化がされてしまう可能性が高いと思います。 

つまり、電力自由化をいまの日本のような電力供給逼迫期で実行するなら、かえって今以上の独占体制となり 、託送料も再生可能エネルギーに対して有利になるとは考えにくいのです。

原発が止まって史上空前の電力の供給不足に陥っているわが国は、現在、平時ではありません。

こんな緊急時に再生可能エネルギーの飛躍的拡大や、発送電分離、果てはスマートグリッドなどを言い出す神経が私には理解できません。

こういうくだらない国家改造はもっとのどかな時期に議論してくれませんか。こんな非常時に一挙にやりたがるからショック・ドクトリン、火事場泥棒だと言われるのです。

結論を言えば、今のような原発が止まって、しかも原油高により電力需給が逼迫している現状において、絶対にやってはならないのが不安定電源である再生可能エネルギーの大幅導入であり、発電事業者が絶対有利な発送電分離なのです

しかし、昨年12月7日に経済産業省の「電力システム改革専門委員会」が再開して、電力会社の分社化による発電と送電の分離を推進するとの方針が強く出るようになりました。

経産省「改革派」官僚は、脱原発の熱が冷めないうちに発送電分離をしてしまうつもりなのかもしれません。まさにフリードマンの言う「危機のみが真の変化をもたらす」そのままです。

何度も書いてきていますが、脱原発と再生可能エネルギー拡大とは無関係です。ましてや、発送電分離などはまったく脱原発となんの関係ありません。

「南の島」さんがいみじくもおっしゃっていましたが、再生可能エネルギーを無理矢理にFIT(全量固定価格買い取り制度)で拡大したり、発送電分離などをすれば、必ず電気料金は上がり続け、財政負担が増え、電力供給は不安定の一途を辿るでしょう。

この時、多くの国民はドイツ人のように、「再生可能エネルギーの拡大のために電気料金が上がって迷惑なことだ。だから初めから脱原発は無理だったんだ」などと考えるようになるかもしれません。

そして経産省「改革派」官僚は、この「社会実験」に失敗のスタンプを押して、誰に責任をとることもなく次の「構造改革」に取りかかるのでしょう。

私たち日本人は「改革」に何度ダマされたら懲りるのでしょうか。社会は「改革」されるごとに悪くなっているというのに。

電力自由化についての関連記事
        
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2013年1月11日 (金)

飯田哲也氏のメガ・ミスリードその4 メルケル内閣経済相 「FITは甘い毒だ」

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昨年の夏が原子炉2基だけの体制で乗り切ったために、飯田哲也氏などは「これで原発ゼロでも回ることが実証された」と、なにかにつけて言うようになりました。

なるほど原発をゼロにすることだけなら、そんなに難しいことではありません。電気料金の値上げが続くでしょうが、それは可能なことです。

問題は単に「ゼロ」にすることではなく、国民生活や国民経済に打撃を与えないで継続するにはどうするのか、ということです。

私はドイツの例を知るにつけ、もっと長い眼で考えなければならないと思うようになりました。

ドイツは急進的な脱原発政策とそれに伴う発送電分離政策により、1000社超といわれる新電力販売会社が生まれました。

これはメルケル政権が、再生可能エネルギー拡大のための賦課金制度により、電気料金が高騰し始めたために、電力市場の競争を促進させることで価格を抑えようとしたためです。

賦課金とは、EUの電力業自由化方針により、建前上税金投入ができないためにそう呼んでいるだけで、要するに税金と一緒で泣いても笑ってもかかってきます。笑う人はいないか(笑)。

さてこの新電力販売会社の大部分は「販売」だけで、発電所はおろか送電網すら持っておらず、大手送電会社から電気を卸してもらってるただの小売り会社です。

わが国にはこのようなタイプのものがないので想像しにくいですが、ドイツは電力自由化により、発電-送電-販売までバラバラにほぐされてしまったのです。

ドイツは人口がわが国の約6割程度の約8100万人ですから、そこに1000社はなんぼなんでも多すぎるというものです。

このような過度な自由化をするとどうなるかといえば、当然のこととしてすさまじいまでの過当競争に悩まされています。

たしかによくテレビなどで紹介されるようにエネルギー源の公開などは徹底されるようになり、消費者は選択の自由が大きく増えたという点は進歩でした。

しかし一方、安い電気への乗り換えも頻繁に行われるようになり、電力を乗り換えた市民の比率は電力の自由化が始まってから2年目の2000年と比較すると、2010年には3倍弱にまで増えました。

ここまで価格競争が激化すると、業者は必ず電力のクォリティを落とします。

そのために頻繁に周波数の変動や瞬間停電が起きて、ミリ秒の停電のために工場で製品が廃棄処分になる事件があい続ぎました。

今の工場はすべてコンピュータ管理ですから、瞬間停電で今までのすべての作業が飛びます。これに懲りて、ドイツ製造業は海外逃避をするようになりました。

瞬間停電など、放射能禍と較べたらという俗論があるようですが、違います。

もし、脱原発をしたいのなら、このような具体的問題をひとつひとつあらかじめ検討して、解決案を作っておく必要があります。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-4e06.html

また、儲からない新規の技術投資送電網のメンテナンスを避けるようになっていきます。

ドイツネットワーク庁という電力網のコントロールをする官庁では、毎年の冬を迎えるたびに薄氷を踏む思いだといいます。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-19d4.html

また新規の送電網建設を渋るようになり、それが風力発電所の新規着工の妨げになる場合も出始めました。

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                         (「脱原発を決めたドイツの挑戦」 熊谷徹)

そしてなにより、国民生活と経済を直撃したのが電気料金の値上げです。上図でおわかりのように、ドイツでは電気料金に実に39.2%もの賦課金(税金)が課せられています。

これらが、国内のグリーン産業の育成につながるのなら我慢もできるでしょうが、残念ながら大部分は海外投機筋や、中国製パネルメーカーの懐に転がり込みました。

ドイツは2011年1月には、再生可能エネルギーのための助成金の急増がたたって、700社の電気会社が6~7%の電気料金値上げをしました。 

この急激な電気料金の値上げに対して、ドイツ国営放送ZDFの世論調査では、再生可能エネルギーの負担金の引き上げについて、77%が「賛成できない」と答えています。「賛成」は21%、「その他」が2%です。

しかし、いまさら「賛成できない」と言っても、FIT(固定価格全量買い取り制度)は20年間先まで高額価格が決まってしまっていますから、もう引き返すわけにはいきません。

メルケル政権のレスラー経済大臣は、このような太陽光発電に与えてきたFIT(固定価格全量買い取り制度)による助成金制度を「甘い毒」とまで呼んで厳しく批判しています。

これはお金をもらう業者は一時的に潤っても、それにやがて頼る麻薬中毒患者のようになってしまい、国民生活と経済が圧迫されるからです。

そこで、2012年4月1日から、ドイツ政府は太陽光発電の買い取り価格を20~26%に一挙に下げるだけでなく、毎月0.15ユーロセント下げていく決断をしました。

これは、たとえば10キロワット未満の屋上設置型太陽光発電の場合、2016年までにほぼ半分にまで買い取り価格が下がることを意味しています。(下図参照)

Photo                        (同上)

このようにドイツは、スペインについでFITの大幅縮小と太陽光発電からの事実上の離脱を宣言しました。

そしてもう少し現実味のある再生可能エネルギーであるオフショア(洋上)風力発電にシフトを開始しています。

また一方、太陽光から風力にシフトすることで再生可能エネルギーの可能性は育てながらも、ロシアと天然ガスのパイプラインを直結するなどして火力発電所のエネルギー源は確保し続ける努力をしています。

飯田哲也氏のミスリードは、原発ゼロの代替を再生可能エネルギーとしたために、その急激な拡大を図るためにFITを導入し、さらには発送電分離までをも一体のものとして論理構築してしまったことです。

冷静に考えれば、これらは本来別々なものではないでしょうか

原発ゼロの代替は再生可能エネルギーである必要はなく、ならばFITという矛盾に満ちた制度も不要であり、発送電分離に至ってはなぜここで出てくるのかさえ不思議です

このようにふと我に返ると、なぜこんなことにこだわっていたのだろうと思う時があります。そのような時は、最初の場所に戻ることです。

つまり、私たちが本当にやりたかったことは原発をなくすことだったはずじゃないですか。

再生可能エネルギーはそのためのツールでしかないはずで、目的ではなかったはずです。ところがいつしかそれ自体が目的と化してしまいました。

そこからFITというドロボーのような制度が必要となり、本来別次元の発送電分離まで飛び出したのです。

飯田氏の言葉のマジックに惑わされないで、初発の「脱原発」に戻りませんか。まだ間に合います。

 

■写真 関東も寒波で冬の田圃か寒そうです。

■明日明後日は定休日です。月曜日にお会いしましょう。

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■資料1

「ドイツ連邦議会(下院)は29日、太陽光発電の買い取り価格を大幅に引き下げることを柱とした「再生可能エネルギー法」改正案を賛成多数で可決した。4月1日以降に導入した太陽光発電は原則として、規模に応じて価格を約20~30%引き下げる。

ドイツは再生エネルギーの普及を図るため、送電事業者に買い取りを義務づける「固定価格買い取り制度」を採用。これにより太陽光発電は急速に拡大し、設備容量で世界一になった。しかし価格は電気料金に上乗せされるため消費者負担が膨らんでおり、太陽光発電の普及を事実上抑制する形に方針転換する。

法案によると、屋根に取り付けるなどの小規模発電は1キロワット時当たり24.43セント(約27円)から19.50セントに引き下げられる。規模が大きくなると引き下げ幅も拡大、5月以降も毎月価格を下げる。

太陽光発電は風力などに比べ、価格が高く設定されている。価格の見直しは定期的に行われていたが、これまでは10%前後の下げ幅だった。」
(日経新聞2012年3月30日)

2013年1月10日 (木)

原子力規制委員会の新安全基準の原案出る

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「日経新聞」1月9日によれば,規制委員会の新安全基準の原案が明らかになりました。これが最終案というわけではなく、詳しくは11日に再開される検討チーム会合で骨子が決まります。 

そしてパブリックコメントを募集した後に7月に新基準として成立する運びです。 

これが日経紙上で公表されると、電力会社株が一斉に下がったそうです。 

まぁこの新基準は反対派にとっては「論外」でしょうが、電力会社としては
「(対策費として)原子炉の型や古さによって異なるが、冷却施設の増設などにかかる対策費は原発1基あたり最大で数百億円にのぼる可能性がある」。(日経新聞1月9日)

おそらくは、大部分の原発が新基準を満たさないと思われます。その場合、再稼働は大幅に遅れ、火力発電所の化石燃料購入でコスト高に陥っている電力会社は、この夏にでも追加値上げをしてくると考えられます。 

原発の中には改修をあきらめて廃炉にする老朽原発も多いと思われます。

さて、新基準原案の骨子は福島第1原発型シビア・アクシデントが起きえるという前提に立って建てられています。 

この制度哲学は素直に評価したいと思います。

「原発が機能を失った場合に備え原子炉を冷やす施設の新設を求める」として、このような項目が並んでいます。欄外切り抜き参照) これは原子力の深層防護という概念によって作られています。

深層防護とは、原子力施設の安全性確保の基本的考え方の1つで以下の安全対策で多段的に構成しています。
①異常発生防止のための設計
②万一異常が発生してもその拡大を防止するための設計
③万一事故が発生しても放射性物質の異常な放出を防止するための設計

(「原子力防災用語集」より)

具体的には、新安全基準はこのうよな項目で構成されています。

①大津波の被害が及ばぬ高台に非常用原子炉冷却施設
②同じく高台に非常用電源
③放射性物質フィルター付き排気施設
④放水砲をもった車両を配置
⑤防波堤の嵩上げ
⑥防水扉の設置
⑨原子炉施設本体の耐震性の強化

⑩テロ対策

①、②は福島事故で予備電源が全喪失したことを踏まえて、予備電源を原子炉施設から離れた高台に移し、冷却施設もこの図を見る限り別の高い場所に移しています。 

これはドイツやスイスの安全基準が、緊急時に原子炉を冷却する設備を独立させて持つことを義務づけていることに倣ったものだと思われます。 

米国でも、火災により原発の大部分が失われても冷却設備が機能するような基準があります。 

③は、今回の福島事故の折のベントにより、大量に放射性物質が放出されたことについての対策です。 

諸外国の原子炉施設は既にフィルター付き廃棄設備を装着することが義務づけられていることに対して、わが国も遅ればせながら追随しました。 

このフィルター付き排気装置があれば、福島、茨城などの「被曝」は大幅に下がったと思うと、今までなかったほうが異常であり、怒りが湧いてきます。 

④は、すべての予備電源がアウトになった場合、最後の手段としての放水銃の設置義務化です。 

もし福島第1原発に、非常用の小型発電機が多数あり、放水銃を持った車両があれば相当に違った事故の様相になったと思われます。

一見、非常に素朴な手段ですが、万が一、全外部電源喪失から予備電源も喪失した場合、間違いなく有効な手段であることは福島事故で立証されています。 

⑤以下は津波と地震対策です。これは既に一部で始められていますが、原発ごとの基準津波や基準震度が、いかなる設定になるのか注視していく必要があります。 

フランスでは昨年6月に、原子炉建屋に旅客機が激突してもそれに耐える防護壁で覆うように指示が出されました。 

また「日経」記事には、火災基準も盛り込まれるとされています。1970年代以前より作られていた原発には燃えやすいケーブルを使ってあったり、非常用配管が設置されていなかったりするものが多く、全面的な改修を命じられることになります。

私はこれが最終的な安全対策だとは思いません。あくまで「福島型事故」に対応したものであり、別なタイプの事故もありえるのですから、規制委員会は今後も検討を続けるべきです。

そしてそれに沿って、随時安全基準は追加され、バージョンアップせねばなりません。結果として、それに半分超の原発は追随できないはずです。

田中委員長が、「適合化の努力をされるのは自由ですが、経済的に合わないでしょう」と言っているとおりです。
■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post.html

私はこれにより稼働30~40年の老朽原発は廃炉するしかなくなり、30年以内の大地震の確率が高い地域の原発、活断層が発見された原発もまたその後を追うと思っています。

これてほぼ半分超の原発が廃炉となるでしょう。まずはこれが最初の「脱原発」へ向けた最初のステップとなるはずです。

私は脱原発の道筋はかなり長いと考えています。私の貧弱な想像力ではこのような段階を踏むでしょう。これは時系列ではなく、ほぼ同時期に進行すると思われます。

電力自由化は未知数なので、省きました。自由化になった場合まったく違った様相になります。

[私の試案]

①規制委員会の独立性の法的な確立(3月国会承認・環境省から独立させる必要あり)
②公正な安全基準を作成(今年7月・安全基準は随時バージョンアップ)
③福島事故の原因の統一見解(現在各事故調でバラバラ)
④地層調査(現在進行中)
⑤安全審査(数年に渡る・おそらく5年以上)
⑥審査による「適合化」命令
⑦「適合化」不能な原発の再稼働停止・廃炉処分(新型炉の代置を認めるのか?)
⑧使用済み核燃料処分方法の確定(暫定処分か?)
⑨核燃料サイクル稼働に対する政府判断(今年10月に稼働開始できるか?)
⑩代替エネルギーの確立(シェールガスが有力だが数年先か?再生可能エネルギーはどのていどにまで増える?)
⑪日本型新エネルギー体制の全体図作り(原発や再生可能エネルギーをどのように位置づけるか?)

ここまでの工程だけで10年超かかっています。しかし、この工程で危険度の高い原発から先に約5~6割の原発が廃炉に向かうはずです。

自民党が言う3年以内に再稼働の審査を済ませるのは、田中委員長が言うように「政治の要求」にすぎず、無理だと思っています。

一挙に来るわけでなくパラパラと改修なったところから来るわけですから,それだけて5年間はかかります。

その間にも、福島事故の事故原因の公的統一見解が必要です。現状はバラバラです。本来はここまでまとめて、原発ゼロを叫ぶべきでしたが、民主党政権は放りだしたまま行ってしまいました。

代替エネルギーや、残存する原発をどのようにしていくのかについては、その進捗状況を見ながらということになります。 

ひとついえるのは、あくまでも脱原発は段階を追っていくしかありません。危険の順位付けをして、最も危険なものから排除していく方法が合理的です。 

たぶんいわゆる脱原発派の人々からみれば、なにを生ぬるいといわれそうですが、私は原子力からの離脱はそれを使ったのと同じくらいの時間が必要だと考えていますもので。

■写真 暗雲の下の霞ヶ浦大橋。

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                      日経新聞1月9日

2013年1月 9日 (水)

飯田哲也氏のメガ・ミスリードその3 脱原発と発送電分離は無関係だ

013

昨年末の衆院選の時に飯田哲也氏は、「原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム」というプランを発表しました。(資料1参照) 

このプランは、10年以内に原発ゼロとするための初めの3年間を、「原発と電力システムの大混乱期」として大改革を断行する時期としています。 

そして原発を再稼働させないと、電力会社は火力発電所を代替にするしか方法がないわけですから、政府が国債を発行して電力料金値上げ分をカバーするとしています。 

そして、3年間後をめどにして、発送電分離をしていき再生可能エネルギーの普及で増えた託送料(送電料)の増加でそれを回収しようということのようです。 

失礼ながら、これを読んだ時に思わず失笑してしまいました。困った時の国債頼みですか。エネルギー・デモクラットが泣きますな。 

このような「電力料金値上げの補填」などといった、なんの雇用も所得の増大も生まないような国債の発行をしたとしても、交付金の償還財源は、この案では最終的には送電料に乗るわけですから、結局は消費者が払うことになります。

ちょうど再生可能エネルギーをFIT(全量固定価格買い取り制度)で20年間かけてツケ払いするようなものです。

その時は直ぐに分からなくとも、今のドイツのようにあとでしっかり請求書が毎月回って来ることになります。 (資料2参照)

飯田氏は、「この3年間で再生可能エネルギーを増加させて、送電料金が増えるから大丈夫だ」と言いたいようですが、発送電分離した後の送電会社は私企業ですか、それとも国有企業ですか? 

東電のように事実上国有会社となって、送電網も国有のようなものならともかく、送電会社が私企業なら、「なんでそんな経営的にペイしないことをせにゃならんのだ」と言うでしょう。

そもそも送電部門はメンテナンスの塊のような所で、そんなに儲かる部門ではないのです。 

送電会社をやろうという所があるのかすら疑わしいし、あの孫正義氏すら「送電事業にはうまみがない」(「孫正義のエネルギー革命」)とあっけらかんと言い切っているほどです。 

孫氏もやらないと言っているのに、誰かやる酔狂なお人がいるのでしょうか。 

それはさておき、飯田氏が原発ゼロと発送電分離を強引にくっつけたいのは、既存電力会社以外の「新電力」(PPS※1)を期待してのことだと思います。 

飯田氏によれば、送電まで電力会社が占有しているから、再生可能エネルギーなどのPPSが不当に差別されて高い託送料を吹っ掛けられてケシランので、ならば発電と送電を分離してしまえ、そうすれば再生可能エネルギーも拡大して、電気料金が安くなる、という論理です。 

では、その期待のPPSの内実を見てみましょう。 

・既存電力会社保有の発電設備・・・水力3610万kW
・                   ・・・火力1億2830万kW
・                   ・・・原子力4350万kW
・                   ・・・その他46万kW
・合計                ・・・2億850万kW

 これに対し
・PPS・37社の新電力の発電設備・・・212万kW
 

このように残念ながら、PPSは既存電力会社設備の1%程度が実態です。「いや、こんなもんじゃない自家発電設備は全体で5620万kWもあるゾ」、という人もいますが、それは「売り物」ではないのです。 

それはそうでしょう。これらの工場の多くは電力料金の削減や、不意の停電に備えて自家発電所を回しているのであって、外部への販売はその余剰の2割程度でしかありません。 

また、この自家発電の設備の多くは原油安の時代に作られたもので、今のように原油高、それと連動する天然ガス高が続くと、原油相場をにらみながら、すぐに自家発電を止めてしまったりします。 

第一夜間は発電所を稼働させないし(夜は工場は動きませんからね)、土日はそもそも一日動かないしというわけで、PPSはあてにしていいような電源ではないのです。 

となると、発送電分離をしても送電量の増大が見込めない以上、託送料は増えません 

発送電分離を主張する人がよく主張していたのは、発送電分離すると、自由化により競争が働き送電料が安くなり、したがって電気料金は下がるというものでした。 

電圧により送電料金は違いますが、現在は2円~4円/1kW時です。 

しかし、その送電コストの大部分は膨大な設備投資に対しての原価償却と、日常的に要する保守費用です。 

道路や橋、堤防などの公共インフラがそうであるように、このような国民生活に直結するインフラは絶えずメンテナンスを施していなければなりません 

それを怠ると笹子トンネル天井崩落のように、点検費用が削られたために大事故につながります。 

笹子トンネル事故も、道路公団の民営化により、保守費用が大きく削られたためだと指摘する土木関係者が多いのです。 

かつてニュージーランドでは発送電分離したところ、コスト削減のために保守費用が削られてオークランドへの4本の送電線が全て切断するという大事故が発生しました。

このように公共インフラを競争原理にさらすことは非常に危険なことなのです。

ここで「いや、再生可能エネルギーが増える」、などと言わないで下さいよ。今のところそれがいかに貧弱なエネルギー源か一番よく知っているのは飯田さんのはずですから。

ドイツは国策でこの10年、莫大な国費を投入し、電気料金の値上がりや財政負担で大変な目に会いました。(資料2参照)

それでもいまだ全エネルギー源に占める再生可能エネルギーの割合は16%に過ぎません。

ドイツ人は今後50%にすると言っていますが、それを信じるヨーロッパ人はほとんどいません。信じられるなら、自分の国もやっています。

飯田氏が青春を過ごしたスウェーデンなど、1980年に原発モラトリアムを決めて、2010年にそれを破棄するまで30年もかかっています。

それを飯田氏はわずか3年間で国論を統一し、10年間でやろうと言う、率直に言わせてもらいます。それはただの夢想です。 

第一飯田さん、再生可能エネルギーの発電所はえてして都市部から遠い場所にあるものです。大型風力発電所など辺鄙な海岸淵です。 

そうでなくては低周波公害で周辺住民に被害を与えるからです。もういっそうのこと風力も安定している外洋にもって行こうというのが今のEUの流行なくらいです。 

では、こんな場所まで誰が好き好んで送電線を敷くのでしょうか。今は電力会社は公共事業体ですから、ブツブツ言いながらも大枚の金をかけて、鉄塔を建て電線を引っ張ってきてくれます。 

先だって再生可能エネルギーの発電施設に送電網を引く試算をしたところ、北海道電力と東北電力だけて1兆1700億円のコストがかかることが分かり、関係者一同がのけぞりました。

まぁ、儲かるというので参入した送電会社があったのならば、まず絶対にこんな再生可能エネルギーの発電所などには電線は引きませんね。

ならば、再生可能エネルギーの発電事業者が自らやりますか?鉄塔を建て、送電網までを作ったら、とてもじゃないが合いません。

孫氏がメガソーラーは沢山作っても、送電会社などやりたがらないのは経営的に合わないからでした。

皮肉にも、飯田氏が批判して止まない「電力幕藩体制」の産物の公共事業体だからこそ、電力会社=送電会社は義務としてやるしかないのです。

ですから、再生可能エネルギーの拡大を考えたら、発送電分離などは安易にしてはいけません

競争原理で送電市場を運営すれば、まっさきに淘汰されるのは不安定かつ、辺鄙な場所にある再生可能エネルギー発電所だからです。

ドイツはEU委員会が発想電分離を決めたためにやらざるを得なかったのですが、正直言ってやりたくはなかったはずです。

ですから、ブリュッセル官僚から「最も電力自由化が遅れた国」という注意勧告を受けたほどです。

私も日本が電力の自由化をする必要はあると思いますが、それは各県単位ていどにまでに地域独占を解体し、新規発電業が参入しやすいように電力プール市場を作ることです。

原発は国有化し、厳重な国家管理とします。

また送電網は県単位で一括して分離し、透明性をもった電気卸売市場(電力プール制)を作ります。

飯田氏は全国単位の電力自由化をすることで、スマートグリッド(スーパーグリッド)を導入したいようですが、このような再生エネルギーのための大規模投資をすることなく、県-地域単位でのミニ・スマートグリッドを作るほうがはるかに効率的で、安価です。

また、電力融通が関西電力と中国電力の間でしか満足にできない現状も改革すべきで、全国規模のスマートグリッドなどはそれが出来てからの話です。

つまり、飯田氏の「現実的カリキュラム」は、一番大変な3年間は国債をあてにし、税金をつぎ込んで再生可能エネルギーを増やし、電気料の値上がりしてもニコニコ笑う消費者と、天使のような送電業者を必要とするという、虫のいいものなのです。

飯田氏のシナリオはすべてがドイツのデッドコピーにすぎません。FITにしても、発送電分離にしても、わが国の実情や置かれた環境を一切無視して、ドイツの直輸入をしているだけです。

飯田氏はドイツ語訳の「脱原発聖書」を翻訳して、わが国がそれに合わないと怒っている外国人宣教師のようなものです

しかもこの「ドイツ語訳脱原発聖書」は、実は欠陥品だとほとんどバレてしまったものなのです。

理想を実現するには時間がかかります。もう少し足を地につけたらいかがですか。

電力自由化についての関連記事
        
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■写真 朝日の中の湖のほとりの蓮池。

 

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※1新電力 「特定規模電気事業者」のこと。2000年4月から進められている電力事業分野の制度改革により、電気の供給は、地域ごとに国から許可された電力会社のみが行うものから、新たに電気事業に参入した「特定規模電気事業者」や、他地域の電力会社からも電気を購入することができるようになった。 

電力会社との契約で高圧 500kW以上の利用者(中規模工場、中小オフィスビル、デパート・スーパーなど)が電力を購入する事業者を選択することができるようになった。さらに、 2005年4月からは、高圧50kW以上に範囲が拡大され、これにより全国の電力需要の6割強が自由化された。http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%B7%C5%C5%CE%CF   

■資料1 交付国債で電気料値上がり抑制 未来、「卒原発」構想案
朝日新聞12月1日
 

日本未来の党(代表・嘉田由紀子滋賀県知事)が今後10年で「卒原発」を実現するための構想案が1日、判明した。電力システム改革を掲げ、脱原発に伴う供給体制移行期の電気料金値上がりを抑制するため、政府が3年間交付国債を発行することなどが柱だ。  

 構想案は、党代表代行に就任する飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長を中心に作成、「原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム」とした。10年間で全原発廃炉を表明した嘉田氏の方針を具体的に示すのが狙いだ。2日に発表する総選挙政権公約とあわせ、公認候補者に同意を求める。  

 案では、3年間を「原発と電力システムの大混乱期」として改革集中期間と位置づける。原発を稼働させないことによる電気料金の値上がりを防ぐため、政府が電力会社に値上げ相当分を必要時に現金に交換できる交付国債として給付。3年をメドに発送電分離を進め、再生可能エネルギーの普及で収益が増える託送料(送電料)で回収するとしている。 

■資料2 賦課金引き上げ、8割が反対=電気代高騰に反発-独調査 

【ベルリン時事】ドイツの公共テレビZDFが26日公表した世論調査結果によると、再生可能エネルギーの普及促進のため、電気料金に上乗せされる賦課金が来年から47%引き上げられることについて、77%が反対と回答した。賛成は21%にとどまった。
 ドイツは東京電力福島第1原発の事故後に脱原発姿勢を強め、再生可能エネルギーの開発を急いでいるが、賦課金の引き上げで標準世帯の負担が年約70ユーロ(約7200円)増えるとみられており、反発が強まっている。(2012/10/27-07:54)
 

 

2013年1月 8日 (火)

飯田哲也氏のメガ・ミスリードその2 国富は中国ヘ、電気料金値上げと財務負担はわが国へ

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ちょっと前まで、再生可能エネルギーは次世代を担う成長産業のようにもてはやされていました。 

菅首相が、メガソーラーで国興し、産業興し、地域興しと叫んでいたことが遠い昔のように思い出されます。

あの人、今なにをしているのでしょうか。落選したと聞きましたが、まさか国会議員ではないですよね(苦笑)。

それはさておき、実際、再生可能エネルギー法の蓋を開けてみたらビックリ仰天。 

出てきたのはメイド・インチャイナのパネルばかり国産勢はとうに放逐されて市場の隅でうずくまってしくしく泣いているし、設備屋もあまりに簡単な工事なんで儲からない。 

メガソーラー発電所といっても雇用はほとんど生まないので、地域への貢献度は限りなくゼロ。 

その上に新たに出来たメガソーラー施設に追加送電網を作らねばならず、北海道電力と東北電力の試算したら、そのコストだけで1兆1700億円也。 

太陽光パネルは年中拭いていないと変換効率が悪くなるし、経年変化も予想以上。パワーコンデショナー(インバーター)は一年に一回必ず交換だしと、メンテナンスがバカにならない

そのパワーコンデショナーの世界シェア4割を握るSMAソーラーは、太陽光発電関連資材の暴落を受けて売り上げ激減で、とうとうリストラに踏み切り、株価大暴落で風前の灯火状態。

誰が儲かっているのかさっぱりわからないが、巨額の税金をつぎ込んでくれるというのだからなんとかなるだろうと、後から後から新規参入者が絶えないという奇怪な業界がひとつ誕生したわけです。

これで電気料金が上がらなかったら奇跡でしょう。

・・・てなことが、わかってきたのです。 

欄外図を見ていただければ分かるように、中国は世界市場の半分を握り、他国を寄せつけません。

かつて世界一だったドイツのQセルズは会社更生法、シャープも同じようなもの、日独米を合わせてもたった35%で中国一国にもかないません。 

なぜでしょうか。理由は簡単。太陽電池は要するにシリコン製品です。このポリシリコンメタルシリコンの世界的産地が中国で安価に入手できるのですから、輸入に頼るしかない他国はかなうはずもありません。 

しかも製造工程はこれ以上ないくらいの簡単さ。ターンキーと呼ばれる一貫生産ラインを作ってしまえばジャカスカ出来ます。 

太陽光発電装置は、一見ハイテクに見えますが、実はn型シリコン、p型シリコンに2ツの電極を付けただけの簡単な半導体デバイスです。バカデカイので、半導体と呼ぶのはちょっとというだけのシロモノです。

つまり、FIT(全量固定買い取り制度)によって、我が国は巨額の税金で中国企業を儲けさせただけだったのです。

かと言って、中国メーカーだけがウハウハかと言えば必ずしもそうではないのです。

中国は隠れた再生可能エネルギー大国で、太陽光パネルメーカーだけで5、6社ありますが、最近その大手LDKソーラーが倒産し、社長は国外逃亡して行方知れずです。

太陽光発電資材メーカーのGCLも倒産寸前で、在庫したウエハーだけで2億枚といいますから、とてつもない規模です。

これらが日本市場向け製品としてで叩き売られているのですから、まっとうな競争原理は通用しないはずです。

こうなったのも、今、世界の太陽光発電の需要は、セルベースで25ギガワットですが、供給能力はその倍の50ギガワット以上あると言われ、過剰生産となっているのが根本原因です。

ですから、今後の世界の太陽光発電市場は先進国メーカーの完全撤退と、ひたすら続く中国メーカーのさらなる安売りが常態となります。

国富は中国に流れ、FITによる電気料金の値上がりと、税金による財務負担だけが我が国民に残りました。

こうまで馬鹿げたことは見た事がありません。しかし、それはドイツのFITの惨状をみれば、当然予測し得たことです。

再生可能エネルギーを拡大するにも方法は多様にあったはずです。

国産グリーン産業を保護育成するために、関税ブロックをかけるとか、フランスのように税金を投入するFIT制度を利用する以上、国産メーカーを指定するなど方法はいくらでもあったでしょうに。

それをなにもよりによってこの太陽光発電の大不況時に、42円の超高額買い取り価格を設定して、おまけに製品の国産保護もしないならば、わが国が好餌になるのは見えていました。

この再生エネ法を書いた役人は、まるで世界の太陽光市場のマーケティグをしなかったとみえます。

地道に地域で拡げて、それをつなげて拡げていく道を取らず、一挙に国単位でドカーンっとやった挙げ句、投機筋と中国製パネルに牛耳られるはめとなったのです。

くりかえしますが、こんなことはFITの先行事例のドイツを見れば、分かりきったことでした。

この失敗の責任はFITを強引に押し込んだ菅直人首相と、その主唱者の飯田哲也氏にとってもらわねばなりません。

理念など初めからなにもない菅氏は論外です。当人は都合よく忘れてなんの反省もないようですが、福島事故の前年に原発比率50%を決めたのは彼でしたから。

しかし飯田さん、FITはあなたが日本に持ち込んだ制度ですよ。本当にこれがあなたの描いた理想なのですか?

■写真 新春の筑波山麓の田園風景。

■関連記事
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 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-9.html 

 

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2013年1月 7日 (月)

飯田哲也氏のメガ・ミスリードその1 太陽光発電とFIT制度はなにをもたらしたのか?

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時代の変わり目には、えてして既存の価値観をかき回すようなトリックスターが生まれることがあります。飯田哲也(てつなり)氏もそのひとりでした。 

福島第1原発事故以前の飯田氏は、「北欧のエネルギーデモクラシー」という本に現れるように、地域の中で企業や住民が協同して新しいエネルギーの地域自給システムを作っていくことを説く環境研究者でした。 

この再生可能エネルギーのあり方には、今でも私は強く共感します。しかし、彼は変質します。 福島第1原発事故直後に、脱原発と次代のエネルギー政策を柔らかい語り口で伝えられる人材が払底していたために、一挙に彼は脱原発時代の寵児に祭り上げられてしまったからです。 

飯田氏は、再生可能エネルギーによって原発ゼロが可能だとし、なかでも太陽光発電をFIT(フィード・イン・タリフ/全量固定買取り制度)で拡大すべきであると主張しました。 

これではまるで、本来は地域自給の一環であった再生可能エネルギーに、無理やり竹馬を履かせて全力疾走させるようなものではないですか。 

再生可能エネルギーでも、小型水力やバイオマス、地熱などは大規模化に向いていないし、風力や太陽光発電もただひたすらメガ化すればいいとは私は思いません。 

そのような大型化をすれば、必ず既存のエネルギー源との競合になり、同じ土俵に乗ってその弱点をさらすことになるからです。 

ただ大きくなればいい、ひたすら拡大すればいいというのではなく、様々なエネルギー源がお互いの良さを引き出しながら、ひとつの地域で支え合っていくことを説いていたのは、他ならぬ飯田哲也氏だったはずです。
※関連記事 
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-d7c4.html 

しかし、福島事故後の「時代」は飯田氏を求め、飯田氏もただの運動家になってしまいました。 

運動家は「勝つ」ことを目的とします。ですから必然的に自分にとって不利なことには眼を閉ざします。 

合理的選択ではなくスローガンが、協同ではなく闘争が、地道な前進ではなく急進が、融和ではなく支配が、それに替わるようになります。 

そしていつしか国民は、飯田氏の脱原発の舌鋒の鋭さに影響されて、脱原発とは即時全面ゼロのことであり、そして太陽光発電などの再生可能エネルギーの拡大でそれが可能だと錯覚を起こすようになっていきました。 

実は世界を見渡せば、原子力からの離脱にしてもその方法は各国いろいろであり、EU諸国でもおおむね長期のスパンで代替エネルギーを構築しながら、少しずつ原発と置き換えていく国のほうが圧倒的です。 

また本来、原子力から脱却することと、再生可能エネルギーの拡大とは無関係なはずでした。 

別に代替エネルギーは温室効果ガスを大量発生しなければなんでもいいわけであって、天然ガスやシェールガスでもよかったのです。  

いや、むしろそのほうが多くのエネルギー専門家が一致して指摘するように、はるかに合理的選択であったと思います。  

ところが、これに無知なること天下無敵の菅直人首相が飛び乗り、なにやら金の匂いを嗅ぎつけた携帯電話屋が相乗りし、とうとう政局がらみで再生可能エネルギー法まで通してしまいました。  

まるで福島第1原発事故のドサクサ紛れの火事場泥棒ようなまねでした。 

そして、その価格がなんと42円。いままで世界一高いと言われ続けたドイツの固定買い取り価格は38.5円ですから、文句なく世界一の高額買い取り価格です。 

売電側は30円台前半でも手を打とうと思っていたので狂喜乱舞しました。やれやれです。20年間固定価格で、しかも全量買い取り制度なんですから、請求書が来てからびっくりするのは国民だというのに。 

このようなバカ高い買い取り価格をこの先20年固定でやった場合どうなるのかといえば、初年度に殺到します。 

FITを国策としたドイツで分かるように年を経るごとに財政負担がひどくなって、買い取り価格は下落する一方だからです。だから、多くの投資家は初年度に狙いを定めます。 

それはEU各国の例をみるまでもなく、買電価格は財政負担の重さから毎年下がる一方で、初年度を上回る事がありえないからです。(下図参照) 

Photo

 

                      (「脱原発を決めたドイツの挑戦」 熊谷徹)

 初年度から数年に集中することで普及に弾みがつくというブースター効果はあるのですが、それも程度問題です。 

というのは初年度からの数年間は、設備投資の大部分を占める太陽光パネルのコストが下がらないからです。 

飯田氏は大丈夫です。太陽光発電が拡がれば、液晶テレビのようにコストは大幅に下がっていきます、と言っていました。 

しかし、現実にはそのコストダウンを待たずして、たちまち政府予測の2倍以上の速度で新規参入がなされた結果、太陽光パネルの競争が十分でないうちに大量参入が始まってしまったのです。 

そうなるといっそうバスに乗り遅れてはならじと参入に拍車がかかかるわけで、オリックスなどは前倒しでメガソーラを建設するそうです。 

メガソーラーは初めこそマスコミがもてはやしましたが、今やその数260箇所(2012年)、その前年11年の約2倍です。 

メカソーラは通常の発電所よりはるかに大きな敷地を必要とするために、裏業界による土地地権者に対する地上げまで起きる始末です。 

特に、この間の太陽光発電への投資には、外国の投機筋が必ずといっていいほどプロジェクトにかんできています。 

たとえば、日照が日本一だといわれる岡山県には、日本最大の25万キロワットのメガソーラー発電所が建設されようとしていますが、事業主体がなかなか興味深いものがあります。 

日本IBM、NTT西日本、東洋エンジニアリング、そして外資系のゴールドマンサックスです。東洋エンジニアリングがプラント建設会社であることを除けば、まさにお雑煮状態。しかも外資の投機筋まで加わっています。 

総事業費650億円で、400ヘクタールという巨大規模の投資ですから、よほど儲かるという見込みがなくてはこんなことはやりません。 

そのほか、米国のサンエジソンは5000億をかけて、国内数カ所に土地を物色中ですし、カナディアン・ソーラはパネルメーカーでもありますが、ここも3000億円かけてメガソーラーを計画中です。 

中国のスカイソーラーも同じく大規模投資を計画中で、まさに世界中から投機資本が大集合というありさまです。 

ところで、これでどれだけの発電がなされているのかといえば、「環境エネルギー産業情報」によれば、このようです。 

2012年現在のメガソーラー発電所数   ・・・260箇所
・これに要した敷地面積の総計        ・・・3227h
・これがすべて発電したとしての推定発電量・・・1291メガワット
・これが供給可能な所帯数           ・・・39万所帯
 

まさに飯田氏が叩いた太鼓が、世界中のハゲタカ共を呼び寄せたようです。そしてこの260箇所のメガソーラーの発電量全部で、わずか原子力発電所の1基分ていどにすぎません。 

それは、太陽光発電のうたう「発電量」は発電容量といって、理論的にはこれだけ発電できますよという能力で計算しているからです。  

実発電量は、天候の晴れたり曇ったり(曇りや雨だとまったく発電しません)、昼夜、季節変動を平均化して計算します。おおよそ、発電容量の7分の1から8分の1ていどで、10分の1という説もあります。 

たとえば、行田市メガソーラーの場合、2.2ヘクタールの浄水場に発電パネルを5040枚並べて発電していますが、1.2メガワットという公称出力は、あくまでも発電容量ですから、実発電力はその7から10分の1となって、仮に8分の1とすれば、15万W(0.15MW)ていどです。 

メガソーラーという勇ましい名称とは裏腹に、実はわずか0.15メガソーラーだったのです。これが定常発電量を維持できる火力発電や原発などとは決定的に違う点です。 

原発一基は約1000メガワットで、しかも太陽光発電とは違って正味の実発電量ですから、行田メガソーラー(実発電量0.12メガワット)が8000基集まらないと原発1基の原発に相当できないことになります。 

全国のメガソーラーを全部かき集めても供給可能な発電量は、柏市(人口約40万)ていどのものなのです。原子力の代替など遠い幻です。 

埼玉県はこれに7億3600万円(11年度)を投入しました。これで埼玉県は年に1600万円電気代が節約できるとしています。 

当時埼玉県は、償却するのに46年かかるとしていました。現実には、パネルのメンテナンスや、インバーターの交換などがにかなり費用がかかることがEUの経験でわかっているので、もっとかかるでしょう。  

しかし私企業はこれではたまらないので、できるだけ高い価格で、できるだけ短期間に投資を回収しようとします。つまり初期にできるだけ高く売りまくる、これが太陽光発電業界の鉄則なのです。 

もともと再生可能エネルギー法が議論されていた段階で、経済産業省・算定委員会が想定していた買取価格は15円から20円程度でした。 

これに初期参入のボーナスをつけて30円から35円ならば、日本の太陽光発電はもっと堅実な発展をしたかもしれません。 

しかし孫正義氏の自然エネルギー協議会が出して来た買い取り価格試算は、42円というものでした。(資料1参照) 

実はこれは太陽光発電業界の中でも図抜けて高い価格で、太陽光発電業協会の試算では、損益分岐点が約27円でした。(資料2参照) 

孫氏は、堂々と業界試算の15円も高い見積もりを出して、これでもまだ赤字だ、全国の首長が賛同しているメガソーラー計画をチャラにするぞ、と算定委員会で吠えています。(資料1参照) 

なにがなんだかわからないが、孫氏が呼びかけるから悪くない話だろうと参加してきた自治体首長を人質にして、いい度胸です。さすが一代で巨万の富を築いた男だけはあります。 

さすがにこの孫氏の吹っ掛けには算定委員の間でも疑問の声が上がり、その試算の信憑性すら疑われました。(資料3参照) 

ところがこれがどのようなわけか、孫氏の言い値であっさりと決まってしまいます。 当時孫氏と盟友関係にあった菅首相の意志が働いていたことは疑う余地がありません。

この露払いをしたのが飯田氏でした。脱原発を太陽光発電に短絡させ、その上、FIT制度を持ち込んでハゲタカ共の好餌にしました。 

つまり飯田氏は、原発利権の代わりに巨大な脱原発利権を目覚めさせてしまっただけだったのです。 

飯田氏ならば当然、スウェーデンが原発モラトリアムを決めながらも、代替エネルギーのめどがつくまで原発を止めないことを2010年に決めていたことも知っていたはずです。 

またドイツが今FITで苦しんでいる事情も知り得たはずです。しかし、彼の口からはそのようなバランスの取れた情報は一切出ませんでした。 

このような意図的に偏った情報で世論を操作し、人を誤った方向へ導くことミスリードと呼びます。しかも一国のエネルギー政策に影響を与えて、これを偏らせたという意味でメガ・ミスリードでした。 

飯田氏はその後、もうひとりの時代のトリックスターである橋下徹市長に招かれて大阪市の特別顧問になりますが、そこでも強引に自分の政策を主張する独善的姿勢が、他のブレーンに受け入れられず、追放同然で去ることになります。 

そしてこの「維新の会」との醜い内部抗争が国民の眉をひそめさせ、山口知事選の敗北、衆院選の「未来の党」惨敗へとつながっていきます。 

トリックスターは時代をとんでもない方向にもっていくことかあります。しかし、トリックスターの魔術が切れた時、時代はゆっくりと自らをあるべき形に修復していくのです。ちょうど、今のように。 

さて次回は太陽光発電が、飯田哲也氏が主張したように我が国の再生可能エネルギー産業を現実に振興させたかどうかを検証します。

 

■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-c7a2.html
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 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-9.html 

■写真 霜の降り積もるわが村の早朝。 

           ゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。

 

■資料1経済産業省 調達価格等算定委員会(第3回)議事録要旨 

孫代表取締役社長
(略)仮に40 円で20 年だという試算をしたときに、二百数十カ所のうちの200 カ所ほどは採算が合わないということで見送らざるを得ない。

われわれはもともと最初から発表時の約束が、10 数カ所を造るということですので、10 数カ所以上は予定どおり行うつもりでおります。

ただし、本来は200 数十カ所で、各都道府県の皆さんがメガソーラーの候補地があるということで提示いただいたわけで、その9 割近くを見送らざるを得ないというほど決して40 円とか20 年という数値が甘い数値ではなくて、それでもかなり多くの一般的な候補地が脱落してしまうほど、安易な軽いレベルのハードルではないことを、最初に申し上げさせていただきます。
 

■資料2 太陽光発電業協会  前回の御指摘事項について(PDF形式) 

■資料3 経済産業省 調達価格等算定委員会(第5回)議事録要旨
http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/005_giji.html 

委員
コスト計算の根拠となるデータについて、実績の有無や信憑性に留意する必要がある。

委員
改めて事業者から提案された買取価格を見ると、思っていたよりも高いという印象。例えば、非住宅用の太陽光が、現状の余剰電力買取制度(42円/kWh) と同じというのは、高いのではないか。事業者は最大限の金額を提示してきていると思われるので、内容をしっかり精査する必要がある。
委員
消費者の立場からすると、負担をする以上、途中で事業をやめるようなことがないよう、認定等の際によく精査して欲しい。
       

2013年1月 4日 (金)

原子力安全委員会・田中俊一委員長インタビュー 規制委は規制委として独立した科学技術的な判断をする

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原子力安全委員会の田中俊一委員長が、いくつかのインタビュに答えています。大変に興味深い内容ですので、ぜひ欄外の「東洋経済」誌とNHKの記事をお読みください。

田中氏が自ら言うように、「科学とか客観的な事実をベースにして判断することに逡巡しなくなっている。今まではいろいろな思惑が働いていた面があったと思うが、今は気持ちの上で吹っ切れている」心境が伺えます。

さて最も重要なことは、規制委員会が「政府からの独立」を維持できるのか、です。ここがグラつけば、従来の原子力安全・保安院となんの変わりもなくなるからです。

いままでこの「独立性」について、今ひとつ規制委員会がどのように考えているのか明確に語られることがありませんでした。大飯原発再稼働についても、奥歯にものの挟まったような言い合いを政府としていました。

しかし、このインタビューで田中委員長は「3条委員会」(※1)として「政治がどう言おうと科学的技術的判断をする」と言い切っています。私は、まさにこの言葉を待っていました。

地層調査は下北半島のすべての原子力施設に対して行うとしており、他にも島根、柏崎刈羽、浜岡などにも実施するとしています。島根などは敷地外に活断層が走っている場合も考えられるのですが、それについては耐震指針の見直しをするとしています。

ただ誤解なきように付け加えれば、活断層の疑いがない原発については地層調査は「しない」ということで、全原発について地層調査をするわけではありません。このあたりは反対派から非難を受けそうです。

また、稼働40年たつ老朽原発については、いままでなぁなぁの特例既定で20年間の延長認めていましたが、これは認めないとしています。この発言で、日本に多い老朽原発の運命が決まりました。

いやーすっきりしました。これでmark1、2型原発は事実上廃炉です。(※2)

これらの原発に対しては審査結果でクロと出た場合、耐震補強をするなどのバックフィット(適合化)対策を事業者がするのは自由だが、それで経済的にペイするかわかりませんよと突き放しています。

審査次第では、発電事業者に大きな経済的ダメージを与えることがあり得るわけですが、それに対しても考慮しないと明言しています。これも優れた見識です。

留意しなければならないのは、審査に基づいてグロ判定が出た場合でも、それ自体が即「停止命令」そのものではないことです。

これを受けて新耐震指針に沿った改善をするかどうかは、巨額な費用をかけて経営的にペイするならおやりなさい、たぶん合わないでしょうが、また審査してあげます、という立場です。

立地する地元については、苦慮している様子がみえますが、原則は規制委員会の科学的技術的判断を前提にする点では一緒だとしています。

賛成、反対でもめる地元に対してどちらかに肩入れする発言はできず、説明責任は誠意をもってするが、どのように受け取るのかまでは考えないということでしょう。

これは一見冷徹に聞こえますが、今のように原子力に対して立場が違う者に対しては聞く耳を持たない我が国の現状には、それしかないと思います。

それはあくまでも「政治」の仕事であって、「科学」の立場ではないからです。そして現在進めている新安全基準が出来上がる今年7月までは、審査はしないとしています。

新安全基準は、「深層防護(※3)の概念でレベル4に当たるシビアアクシデント(過酷事故)防止の施設対応が必要で、そうした施設を造るとなると、施設の設計の認可(標準審査処理期間は半年~2年)から始まり、そんなに簡単なものではない。」

その後に、審査をしていくわけですが、一定期間、おそらくは5年程度の再稼働停止状態が出る原発が続出することが予想されます。

ただし裏返せば、安全基準に則った審査に合格すれば再稼働や新規建設は可能なわけで、何がなんでも一切の原発は認めない、という反対派の要求にも距離を置くという立場です。

田中氏について反対派から「原子力村の中心人物だ」とか、「「除染オタク」だとかいうような低レベルな非難がありました。

規制委員会には、原子力の専門家を置くのが絶対条件ですし、そうな以上「原子力村」と何らかの関わりを持つのはあたりまえです。

また、20mSvや100mSvについての田中氏の発言は、放射線防護学の常識を言っただけであって、それを問題視するほうが馬鹿げています。

私はむしろ、福島事故直後の4月1日に原子力学者16名の謝罪と緊急提言の勇気を評価します。

その思いがあってこそ、田中氏は規制委員会の責任者という、政府、業界、地元、そして反対派のいずれからも煙たがられる損な仕事を引き受けたでしょう。

今私たちに必要なことは、このような原子力関係者の勇気ある行動を支援することであって、つまらない足を引っ張ることではないはずです。

始まったばかり原子力安全・規制は、座るべき人物を得たようです。

以下、田中委員長の発言を要約します。

①[再稼働について
停止中の原発について「基準ができないと審査のよりどころがない。相談に乗ることはあっても、『審査』というプロセスに入ることはできない。

したがって、安全審査は安全基準ができることし7月まで行わない。 

②[自民党の再稼働の可否は3年以内方針について
3年というのは政治的要望であり、できるだけ努力はするが、確約はできない。3年以内にはいくつかの炉は動く可能性はある。

④[政府からの独立について]、
政府からの独立性を高めた「3条委員会」(※1)として独立していることは相当強い。「3条委員会」にすることは自民党の案なので、『独立』は尊重してもらえると信じている。

科学とか客観的な事実をベースにして判断することにしゅん巡しなくなっている。今まではいろいろな思惑が働いていた面があったと思うが、今は気持ちの上で吹っ切れている。

⑤[事業者への配慮
安全基準を守れないならば、政治がどう言おうと関係ない。(再稼働が遅れて)会社がつぶれるかどうかも考えない。

⑥[地元の了解
規制委は規制委として独立した科学技術的な判断をする。今の日本では、原子力に関して自分の考え方以外は受け付けないという人が多い。私たちとしては、わかりやすい資料も用意して説明はする。でも、そのことについて地元の了解が得られるかどうかは関係ない。

自治体から求められれば説明責任を果たそうと思う。今後の規制委員会の最終的な判断については、原発の地元で説明する。

⑦[7月に出来る新安全基準について
40年運転制限原則は、今までのように法律で最大20年の延長を1回に限り例外として認めており、運用次第で40年制限原則が形骸化していたが、新しい安全基準に合致していない限り例外はない。

40年を越えた原子炉(※2)の再稼働を認めるかどうかは、新しい安全基準に合致しているかどうかで決まる。その対応ができるかが大きな条件となる。実態としては、40年以上前のものは(新安全基準に合致するのは)そう簡単ではないだろう。

問題は経済的にペイするかどうか。バックフィット(適合化)の不可能なような炉もある。

⑧[新安全基準の要求レベル
深層防護(※3)の概念でレベル4に当たるシビアアクシデント(過酷事故)防止の施設対応が必要となる。

そうした施設を造るとなると、施設の設計の認可(標準審査処理期間は半年~2年)から始まり、そんなに簡単なものではない。

大飯原発の再稼働を許可した理由
調査した専門家の間で、活断層であるという意見とそうではないという意見で分かれた。私はもう少し調べてくださいと言った。それで今、早急に調べようとしている。

大飯原発には今差し迫った危険はない。

⑩[東通、大間、六ヶ所村などの下北半島全域の断層調査の必要性
下北半島全域について調査する。
東通に加え、大間や中間貯蔵施設や六ヶ所もあるし、それぞれに調べたデータや海側の大陸棚外縁断層、津軽海峡の断層の問題も含めて調べる必要性はある。

⑪[島根、柏崎刈羽、浜岡などの活断層が疑われる原発について
・島根・・・敷地外活断層については、現在島崎委員長理代理が影響と耐震基準と指針について小委員会をもって評価することになる。この新基準でバックフィット(適合化)することになる。

・柏崎刈羽、浜岡・・・敷地内の深い地層に柔らかい地層があると、地震動が大きくなるとわかってきたので、今後は指針で見直しが必要となるだろう。

⑫[廃棄物処理や廃炉などバックエンド対策
今回のような事故がまた起こるのだったら原発はやめたほうがいい。そういうことが起こらないように、私としては最善を尽くしたいと思っている。

■田中 俊一(たなか しゅんいち、1945年1月9日は、日本の工学者。専門は、放射線物理日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)東海研究所所長、日本原子力学会会長、原子力委員会委員長代理、内閣官房参与等を歴任し、現在 環境省原子力規制委員会初代委員長。東北大学工学博士。(写真・東洋経済) 

2011年4月1日 原発推進の学者16人連名で、「原子力の平和利用を先頭だって進めてきた者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝する」「状況はかなり深刻で、広範な放射能汚染の可能性を排除できない。」として、原子力災害対策特別措置法に基づき、国と自治体、産業界、研究機関が一体となって緊急事態に対処することを求める異例の緊急提言を発表。
(Wikipediaより)

■※1【三条委員会】中央省庁の機構などを定めた国家行政組織法は第三条で、内閣の行政事務を行う組織を「府」と「省」とし、その外局として「委員会」と「庁」を置くことを規定している。三条に基づく委員会は国家公安委員会公正取引委員会など七つあり、いずれも「庁」と同格の独立した行政組織と見なされる。(読売新聞)

■※2 現時点で30年から40年以上稼働している原発は以下

敦賀1・・・41年
美浜1・・・40
美浜2・・・38
島根1・・・37(markⅠ型)
高浜1・・・36
玄海1・・・35
高浜2・・・35
美浜3・・・34
伊方1・・・33
大飯1・・・33
福島1-5・・32(markⅠ型)
東海2・・・32
福島1-6・・・31
大飯2・・・31
玄海2・・・30
計  ・・・15基・・・①

福島第1原発と同型のmarkⅠ型は以下

敦賀1
島根1
福島1-5
女川1
女川2
女川3
島根2
浜岡3
浜岡4
志賀1
東通1
計   ・・・11基・・・②

①+②=26基(ただし重複2基で24基)

■※3 深層防護(Defense in depth)
原子力施設の安全性確保の基本的考え方の1つ。原子力施設の安全対策を多段的に構成しており、次の3段階からなる。①異常発生防止のための設計、②万一異常が発生しても事故への拡大を防止するための設計、③万一事故が発生しても放射性物質の異常な放出を防止するための設計。
多重防護ともいう。
<原子力防災用語集より> 

■明日明後日は定休日です。始まってすぐにお休みです(笑)。すいません。

 

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■「再稼働は皆さんが思うほど簡単じゃない」
原子力規制委・田中委員長に聞く
東洋経済
 

大飯原発の判断は敦賀原発とは違う 

――田中委員長は就任時から、日本の原子力規制をつねに世界で最も厳しいレベルに維持し、安全性が「グレー」の場合には、より安全側に立つとのスタンスを明らかにしている。しかし、現在3、4号機が電力需給逼迫を理由とした"政治判断"で国内唯一稼働を続けている関西電力の大飯原発に関して、11月の規制委による断層調査では「重要施設直下の断層は活断層を考えても矛盾はない」としながらも、運転停止を求めようとしない。調査した有識者の中にも即時運転停止を主張する人もいるが、規制委としてなぜそうしないのか。 

科学技術的にデータを出して「グレー」であれば安全側に立つという判断もあろうが、大飯の場合は調査した専門家の間で、活断層であるという意見とそうではないという意見で分かれた。活断層だと言いたい人は、どうであってもずっと活断層だと言いたがる。しかし、それは科学とは違うから、私はもう少し調べてくださいと言った。それで今、早急に調べようとしている

単なる不十分なデータを基に白黒の決着をつけてよい、という簡単な事柄ではない。敦賀原発のように(活断層の可能性が高いということで)意見が明らかに一致すれば、その場で私も感想を述べたように「現段階では(再稼働は)難しい」となるわけで、それぐらい(意見を)明確にしてほしい。

大飯はそうした判断ができないということだ。山の上のトレンチを掘ったらF-6断層(活断層と疑われていた断層)の場所とはずれていたし、海側に地滑りしたのではという説もある。その可能性を強く指摘している岡田篤正教授(立命館大学)は日本の変動地形学で草分け的な方だ。だからこそ、きちんと明らかにすべきだと考えた。明らかになった時点で(運転停止要求を)やればいい。 

それに、大飯原発に今、差し迫った危険があるかについては、そうではない。ストレステストや政府の判断を鵜呑みにしているわけではなく、仮に(断層の直上にある)冷却用取水配管が地震で壊れたとしても、どれくらい冷却できるかなどは把握している。 

大間や六ヶ所村を含め下北半島全域は断層調査の必要あり 

――大飯、敦賀、東通の3件の規制委の断層調査により、電力会社がこれまで行ってきた独自調査の信頼性が失墜した。規制委の断層調査はもんじゅを含めて6カ所に限られているが、ほかにも疑問視されている原発があり、調査対象を拡大すべきではないか。 

今調査対象となっている6か所は、旧原子力安全・保安院時代に専門家が活断層の存在や地震評価で疑問を指摘していた場所であり疑問のないところまで調査する必要はないと私は思う。 

ただ、下北半島全域については12月20日(東通原発の評価会合)の議論でも出ていたし、私も調べる必要があると思っている。今回の東通に加え、大間や中間貯蔵施設や六ヶ所もあるし、それぞれに調べたデータや海側の大陸棚外縁断層、津軽海峡の断層の問題も含めて調べる必要性はあると思っている。 

――その他にも島根や柏崎刈羽、浜岡なども懸念が強い。

島根は敷地内の断層ではないが、今、島崎委員会(規制委委員長代理の島崎邦彦氏がトップを務める小委員会)で耐震の指針や手引の見直しを行っており敷地外の活断層についてどういう評価をすべきかが出てくると思う。それによって基準地震動が今まで採用されてきたものでいいのか、これは全原発を対象に行う。15キロメートルと10キロメートルの断層があって、これをつなげて25キロメートルとして考えたほうがいいといったようなケースも出てくるかもしれない。そのうえで影響と耐震性を評価することになる。それは指針が変わることによるバックフィット(適合化)としてやることになる。

柏崎刈羽については浜岡もそうだが、敷地内の深い地層に柔らかい地層があると、地震動が大きくなるとわかってきたので、今後は指針で見直しが必要となるだろう。 

40年経過した原子炉の新安全基準合致は困難 

――安全規制の厳格化という意味では、来年7月に法制化する新たな安全基準において40年運転制限原則はどこまで徹底するのか。法律では最大20年の延長を1回に限り例外として認めており、運用次第で原則が形骸化する懸念がある。

新しい安全基準に合致していない限り例外はない。40年を越えた原子炉(※2)の再稼働を認めるかどうかは、新しい安全基準に合致しているかどうかで決まる。その対応ができるかが大きな条件となる。 

実態としては40年以上前のものは(新安全基準に合致するのは)そう簡単ではないだろう。皆さんが思っているほど簡単なバックフィットにはならないもっと厳しいものとなるだろう。それでも投資をして(バックフィットを)やるのだったら、どうぞおやりください、ということ。問題は経済的にペイするかどうか。バックフィットの不可能なような炉もある。 

――40年を越えた炉については、新安全基準への適合はほとんど難しいと。 

そうなるだろう。 

3年以内の再稼働審査は確約できない 

――13年7月に新安全基準ができて、原発の安全審査を開始する際には、全国の電力会社による再稼働の申請を一斉に集中する可能性もあると考えられるが、審査を同時並行的に進めるだけのマンパワーがあるのか。申請順にかなり待つことになるのか。 

13年7月時点でいくつかは出てくるとは思うが、何十基も同時に申請するようなことは考えられない。規制委としても新安全基準の骨子は早めに公表していくが、その対応にはいろいろと工事が必要な場合もあり、2~3カ月で対応できるようなものばかりではない。 

――新安全基準への対応はそれぐらいに厳しいということか。 

そういうことだ。深層防護(※1)の概念でレベル4に当たるシビアアクシデント(過酷事故)防止の施設対応が必要となるそうした施設を造るとなると、施設の設計の認可(標準審査処理期間は半年~2年)から始まり、そんなに簡単なものではない。 

安全基準を守れないなら、政治がどう言おうと関係ない 

――安全審査にどれくらいの期間が必要となるのか。自民党は「再稼働の可否は3年以内に判断する」と政権公約で述べているが、現実的な時間軸と言えるか。 

3年というのは政治的要望であり、できるだけ努力はするが、確約はできない3年以内にはいくつかの炉は動くとは思うが。 

40年前の車と新車とでは安全性が全然違うように、炉によって(対応に要する期間に)違いがある。新しい炉や10年、20年、40年経った炉もあり、炉型もP(PWR=加圧水型原子炉)とB(BWR=沸騰水型原子炉)がある。立地条件も異なるため、一概に言えない。こちらが出した基準に合致した対応を事業会社がすみやかにできれば、比較的簡単にできようが、われわれが設備対応するわけではないからわからない。 

事業者としては、最も重要な発電所から対応して、あとは後回しという対応をとることも考えられ、一斉に申請が出てくるということはないだろう。安全基準を守れないならば、政治がどう言おうと関係ない。(再稼働が遅れて)会社がつぶれるかどうかも考えない

――安全審査は科学的判断に基づいて行われるというが、その判断結果を巡り、原発が立地する地元との対立も考えられる。地元住民の説得に時間がかかるケースも考えられるが、規制委としてどこまで説得に責任を持つのか。規制委としては1度か2度、説明会は開くとしても、あとは事業会社や政治家が責任を持つべきというスタンスか。 

最終的に地元の了解をとるのは電力会社と政治家の責任 

難しい問題だが、規制委は規制委として独立した科学技術的な判断をする。わからないというのは口癖みたいなもので、わかろうとしていない人にわからせようとしても難しい。今の日本では、原子力に関して自分の考え方以外は受け付けないという人が多い。私たちとしては、わかりやすい資料も用意して説明はする。でも、そのことについて地元の了解が得られるかどうかは関係ない。 

――地元が了解しない場合は、あとは事業会社と政治の責任だと。 

そうだ。安全か、安全でないか、なぜ安全なのか、なぜダメなのかの説明はするが、あとは自分で勉強してもらうしかない。 

――民間保険会社がリスクを引き受けることもできず、廃棄物処理や廃炉などバックエンド対策が高くつく原発のリスクやコストをどう考えるか。

今回のような事故がまた起こるのだったら(原発は)やめたほうがいい。そういうことが起こらないように、私としては最善を尽くしたいと思っている

――安全基準をつくるうえでどこまでの原発のリスクを想定するのかが問題。たとえば、原発関係者、インサイダーによるテロなどはどうか。 

そういうのはみんな想定する。サボタージュみたいなことも想定する。そういうことが起こっても、安全性を保てるような炉にしなければならない。いちばん怖いのは個人のテロではなく戦争のような脅威だろう。絶対安全とは言わない。言えばまた安全神話になる。しかし、そういうことも含めて対応しなければならないと考えている。 

※太字は本文まま。赤字は引用者です。 

原発安全審査 “7月まで行わない”
NHK1月2日 18時56分
 

国の原子力規制委員会の田中俊一委員長は、NHKのインタビューに応じ、全国の停止中の原発について「基準ができないと審査のよりどころがない」と述べ、運転再開の前提となる安全審査は、安全基準ができることし7月まで行わないという考えを示しました。 

全国の原発は、福井県の大飯原発の2基を除く48基が停止したままで、原子力規制委員会が、運転再開の前提となる安全審査を、いつ始めるのか注目されています。規制委員会の田中委員長はNHKのインタビューに応じ、停止中の原発について「基準ができないと審査のよりどころがない。相談に乗ることはあっても、『審査』というプロセスに入ることはできない」と述べ、安全審査は安全基準ができることし7月まで行わないという考えを示しました。 

また、田中委員長は政権が交代したことについて、「政府からの独立性を高めた『3条委員会』として独立していることは相当強い。『3条委員会』(※3)にすることは自民党の案なので、『独立』は尊重してもらえると信じている」と述べました。 

さらに田中委員長は、専門家会議が福井県の敦賀原発と青森県の東通原発について、先月、「断層が活断層の可能性がある」と判断した背景について、「科学とか客観的な事実をベースにして判断することにしゅん巡しなくなっている。今まではいろいろな思惑が働いていた面があったと思うが、今は気持ちの上で吹っ切れている」と説明しました。

そのうえで、「自治体から求められれば説明責任を果たそうと思う」と述べ、今後の規制委員会の最終的な判断について、原発の地元で説明する考えを強調しました。  

原子力規制行政の現状と課題
日テレNEWS242013年01月01日 

新たな原子力の規制機関である「原子力規制委員会」の設置法案が国会を通過したことで、福島第一原発事故から1年半がたった去年9月、5人の委員で構成される原子力規制委員会と、その事務局である原子力規制庁が発足した。 

 規制委員会は、国家行政組織法上の「3条委員会」として、委員長に強い権限が与えられ、政治や行政から独立した立場で原子力施設の安全性を科学的な観点から監視することが大きな役割。発足から3か月で、成果を出すとともに課題も浮き彫りとなっている。

 規制委員会が発足後、真っ先に取り組んだのは、新たな原子力災害対策指針「防災指針」を策定すること。防災指針とは、原発事故の際、住民を被ばくから守るためにはどのような対策を取ればいいかを具体的に示したものだ。福島第一原発事故では、国や自治体からの住民への避難指示が遅れたり混乱したりしたため、多くの住民が何度も避難場所を変えるなどして、不要な被ばくをする結果を招いたと指摘されている。

 このため、規制委員会は「何よりも住民の安全と健康を守る体制作りが最優先」として、防災指針の見直しに着手した。新たな防災指針の柱は、緊急時の避難区域を原発から10キロ圏から30キロ圏に拡大したこと。
 

しかし、これによって避難の対象となる市町村や住民の数が大幅に増加し、県をまたいで避難する必要があるところも出てきたため、各県の判断だけでは避難がスムーズに行かないケースが出てきた。12年12月25日には、福井県の原発に関する「広域防災協議会」の第1回会合が開かれ、出席した各県の担当者からは「どのタイミングで避難指示を出したらいいかなど、国がわかりやすい基準を示し、国の責任を明確にしてほしい」という要望が相次いだ。

 防災指針のもう一つの柱は、避難指示を出すために参考にする指標を、これまでの「放射能の拡散予測」から、「実際に計測された放射線量」へと方針転換すること。例えば「一時間当たり500マイクロシーベルトが計測されたらただちに避難」「一時間当たり20マイクロシーベルトなら1週間以内に避難」などと具体的な数字をあらかじめ定め、いざという時の混乱を避けることが狙い。
 

しかし、これらの指標となる数値についても専門家の間で意見がまとまっておらず、協議が続けられている。一方、原発の安全性をめぐっては、敷地内に活断層がある可能性も指摘され始めている。規制委員会は、活断層の可能性が指摘されていた原発については自ら現地調査をすることを決めて、これまでに大飯原発と敦賀原発(福井・敦賀市)、東通原発(青森・東通村)で敷地内の断層調査を行った。 

]敦賀原発については、2号機の原子炉建屋の直下に活断層がある可能性が指摘され、2号機が廃炉となる可能性が濃厚になっている。また、東通原発についても、専門家は「活断層の可能性が否定できない」との見解で一致したため、大規模な耐震工事が必要になるとみられ、当面、再稼働はできなくなる見通し。

 民主党政権の時代に誕生した規制委員会が、自民党政権でどのような影響を受けるのかについて、様々な臆測が飛び交っている。「3条委員会」である規制委員会は政治からは独立した立場であるため、政権が変わっても直接影響を受けることはない、というのが基本的なスタンス。
 

しかし、民主党は「30年代までに原発ゼロを目指す」としていたのに対し、自民党は選挙公約で「10年以内に判断する」としており、「原発政策は時間をかけて検討する」、つまり、決定を先送りする方針を打ち出した。さらに、安倍首相は、選挙期間中から「原発ゼロは無責任」と主張している他、原発の新増設にも含みを持たせる発言をしており、政権交代で原子力規制を取り巻く環境が大きく変わることは避けられない見通し。 

こうした状況の中、規制委員会が「政治や経済情勢に左右されず、純粋に科学的視点から原発の安全性を判断する」という当初からの方針をどこまで貫き通すかが注目されている。

 

2013年1月 1日 (火)

明けましておめでとうございます

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明けましておめでとうございます。

皆様と、わが瑞穂の国に、安らぎと豊穣が訪れますように。

今年こそ汚れなき大地を取り戻し、未来への種を蒔きましょう!

                              平成25年元旦

                                  濱田幸生 

正月三賀日はお休みさせて頂きます。開始は4日からです。

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