隣国電力会社から「脱原発政策をやめろ」と迫られたドイツの事情とは
それは我が国が福島第1原発事故を起こしながら、脱原発に踏み切れなかったのに対して、ドイツは倫理委員会を開いて原発ゼロを決めたからスゴイというものです。
そこまでは間違いではないのですが、そこからいきなり原発がゼロになったと飛躍して理解しまう人が絶えません。
現在ドイツで稼働している原発は、ブロクドルフ、エムスラント、クローンデ、グラーフェンラインフェルト、フィリップスブルク第 2、 イザール第 2、グルントレミンゲン B、グルントレミンゲンCの各原発です。
よく勘違いされているように脱原発政策で、原発をゼロにしたわけではなく、停止中の再稼働を認めなかったのです。そのあたりは我が国と同じです。
似ていると言えば、エネルギー比率も似ていなくもありません。
2012年時のドイツの電源比率は化石燃料に70%依存しています。
そして石炭が42%を占めています。しかも石炭の火力の内訳は、質の悪い国産褐炭火力(発電出力22.4GW)と石炭火力(同29.0GW)と同じくらいです。(下図参照)
これはドイツが国内の雇用政策として長年に渡って国内炭鉱を維持してきたためで、強みでもあり弱みでもあります。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-5189.html
(朝野賢司「再生可能エネルギー政策論 」より)
さて注目の再生可能エネルギーは、設備容量ベースで20%前後(※統計年によって違う)ていどです。
実はこの「設備容量ベース」というカウントの仕方は、再生可能エネルギーに対しての「美しい誤解」を呼ぶ原因になっています。
このブログとおつきあいいただいた方には、もうお分かりだと思いますが、この設備容量ベースというのは、「条件さえよければ、これだけ発電できますよ」という理論的可能性の数字です。
再生可能エネルギー以外だと、故障とか定期点検で停止しているとかの特殊事情がなければ、設備容量ベース=発電量ですが、再生可能エネルギーではまったく違うのです。
風が吹かねばプロペラは回らず、曇りや雨だと太陽光発電はただの箱だからです。
ですから、再生可能エネルギーでは設備容量に稼働率をかけたものが実発電量となります。ややっこしいですね。
ドイツの再生可能エネルギーの稼働率の実数値は
・太陽光発電平均稼働率・・・10.4%
・風力発電 ・・・23.4%
だいたい平均して、再生可能エネルギーの稼働率は10~20%前後程度だと推測されます。ですからよくメガソーラー発電所などと言っても、実は10分の1メガソーラーなのです。
ドイツのように長年に渡って莫大な国家財政を注ぎこんで再生可能エネルギーを育成しても、自然という現実の壁があるということは知っておいたほうがいいでしょう。
ところがこの「現実の壁」は、単に天候だけではありませんでした。
現実に大々的に国家レベルで再生可能エネルギーを導入するとなるとバックアップの火力発電所が悲鳴を上げ、工場は瞬間停電に日々備えなくてはならなくなりました。
そしてドイツから逃げ出す製造業がじりじりと増え始めました。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-4e06.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/jaxa-a7dd.html
そしてそれに止まらず、脱原発政策を決定していた時には想定されていなかった送電網が長大に必要だったことがわかります。
北海沿岸のドイツ北部から、工業地帯のある南部まで900キロ超の送電網を敷くことは大変な困難を伴いました。
ドイツ政府はこれを「最優先に建設する」としましたが、送電網計画の半分が遅れ、4年間に渡ってまったく進んでいない路線も生まれました。(欄外図参照)
現在完成しているのはわずかに10%です。これではいつ出来るのか分からなくなってしまいました。(欄外図参照)
ドイツの脱原発政策は、送電線不足という致命的な問題にぶつかってしまったのです。
それは皮肉にも、環境派が高圧線付近での電磁波による障害という説を拡げたために、高圧線の建設に反対する住民運動が各地で燃え上がってしまったのです。
ドイツ政府からすれば、環境派の主張に沿って脱原発をしてみれば、高圧送電線が必要となり、それに別の環境派が反対するのですから、たまったものではありません。どうすりゃいいんだ、と嘆いたことでしょう。
これは単に北から南に電気を送れない、ということにはとどまりませんでした。たとえばこういう状況が頻発します。
ある日、北海沿岸で強い風が吹き続けて風力発電がガンガン回ったとします。夜も吹き続けてすごい発電量を稼ぎだしました。
そこまではめでたいのですが、再生可能エネルギーは調節が効きません。送電網があれば南部に送り込んで国全体でコントロールすることも可能なのですが、ないものはしかたがありません。
あまり電力需要のない北部の送電網に無理矢理送り込むしか手はなくなります。すると北部地域の送電網が予期せざる過剰な電力供給のために、あっちこっちの火力発電を止めてまわらなければならなくなりました。
このような送電網の不安定は、国内だけではなく国外にも大きな影響を及ぼしました。これはヨーロッパが電力広域連携を持っているからです。
下図で色分けされているのがヨーロッパ広域電力連携ブロックです。レモンイエローがドイツが加わっている広域連携UCTE1です。 (図 山口作太郎氏・石原範之氏論文による)
http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/supercom/117/117-4.html
するとドイツで過剰に発電された風力発電は、ヨーロッパ電力広域連携に乗って、隣国のポーランドやチェコに突如流出することが頻繁に起きてしまいました。
するといきなり大量の電力を流された隣国では、自国の火力発電所を止めたり、出力を下げるなどの緊急対応を強いられることになってしまったのです。
冗談じゃない、なんでうちらの国がドイツの尻拭いをするんだと燐国は怒りだしました。まぁ当然です。
そしてとうとう東欧諸国の電力会社4社から、「ドイツ南北の送電線増強工事が終わるまでは、ドイツ北部に再生可能エネルギー発電設備を建設すべきではない」という抗議文まで出されてしまう始末です。
ドイツは再生可能エネルギーを大胆に取り込むことで、ヨーロッパの電力広域連携を不安定にしてしまったことになります。
ドイツへの「美しい誤解」の中には、ドイツは再生可能エネルギーで電力輸出ができるようになった、というものがありますが、残念ながら内実は、突然燐国に過剰な電気を「流出」させて迷惑をかけたというのが実態のようです。
燐国の抗議を受けて、ドイツ政府は仕方なく2011年、過剰な電力が発電された場合には、風力発電のプロペラを止めて発電を止めるようにとの通達を出しました。
このようにして失われた風力発電量は、前年比で70%も増加してしまいました。まさに宝の持ち腐れです。
現在、ヨーロッパ電力広域連携をスマートグリッド化するなどの計画がありますが、EU自体が崩壊の危機にあり、難航しているようです。
このように風力発電は、立地次第では新規の大規模送電網を敷く必要ができてしまうことを、私たち日本人も知っておいたほうがいいでしょう。
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(Bundesnetzagentur (ドイツ連邦ネットワーク規制庁)・竹内純子氏の論文によります。有り難うございました。)
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コメント
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お詳しいですね
このような客観的な事実をより多くの人に知って欲しいです。
ドイツの脱原子力政策を大成功として報道されることがありますが、大変疑問に感じております。
投稿: とまと | 2013年3月 2日 (土) 09時41分
不安定な再生可能エネルギーを、電力を使いたいときに、使えて、なお、充分に、ランニングコストが、合うために、また、日本のこの手の産業に、収益として、貢献するために、まず、パナソニックに、今、1番、蓄電量が、安定的に多いと思われるリチウムイオン蓄電池とそのコントローラーだけの、価格をお尋ねしたら、電池だけで、最低1,200万円と言われました。
しかも、この畜電池、せいぜい5年から7年持てば、良い方だと言われてますし、また、産業用蓄電池として、カタログに載っては、居ますが、蓄電容量は、あと10倍くらい無ければ、産業には、使えないということだそうです。
再生可能エネルギーは、自然任せですから、使いたいときに、使うには、蓄電設備、交流、直流変換コントローラー、電圧安定化装置や、インバーター設備など、必要になる訳で、当面、1番コントロールしやすい化石燃料から、高圧水蒸気タービンを動かす、現状の交流発電機が、もっとも、適正に、安定供給できるものであることは、当面、変わらないと思います。
再生可能エネルギーは、各地域ごとの小さなエリアでのスマートグリッドでしか、今のところ、成功するとは、思えません。
これらは、ほとんど管理人さんが、過去、指摘されてきたことですが、政府も電力会社も、学者たちも、正直に、本当のことを積極的に公表しないまま、税金を投入しようとしている姿は、かつて、大阪万博のころ、原発は問題点は、多いが、半世紀後には、すべての問題点を解決できるはずだ。
との、政治的発言で、多額の税金をつぎこみ、突き進んできたことと、全く同じことを、やろうとしているように、見えます。
アルカリ液を用いた蓄電池の研究は、自動車のバッテリーのような、酸性液型鉛蓄電池より、遅れていて、問題点が克服できていない現状で、それを、全国規模で、使うことに、問題点を感じます。
ノーベル賞を取った「山中教授」の謙虚な姿勢とは、正反対の行為では、なかろうかと思います。
投稿: りぼん。 | 2013年3月 4日 (月) 11時12分