また「あの」男が登場 郵政民営化の二番煎じはさせないぞ
新聞報道によれば、安倍首相はTPPについて、この春とされる日米首脳会談での正式表明を見送る意向であり、今年夏の参院選後への結論先送りを決めたようです。
(欄外切り抜き参照)
また、NHKニュースによれば、自民党は、TPP関連の党内での議論の積み上げをすることを開始しました。
自民党の意志決定機構は、まずは政務調査会の各部会ごとに個別に議論し、今回新たに出来た外交・経済連携調査会での検討に移り、政調会が取りまとめ、総務会が党議決定するという順路です。
これだけで半年は優にかかる計算で、参院選などにはとても間に合いっこありません。
TPP交渉参加に遅れると、ルール作りをされてしまうと、わかったようなヨタを飛ばす者がいますが、自民党が選挙で国民に約束した「聖域なき関税撤廃がある限り参加はしない」という公約を貫くなら、そもそもTPPと相いれないのです。
あのTPPは幸か不幸か、米国の経済界・農業界の総意ではありません。自動車業界は大反対していますし、農業界でも多くは無関心といったありさまです。
今回の大統領選で、共和党側から「TPPはオバマの貿易政策」と揶揄されたようなものなのです。
米国産業界にとっても、今の円安と重なった日本製品の攻勢に、関税撤廃が加わるというのは避けたいところであり、賛成反対がいまだ定まらないのです。
そしてわが国にとっては、何度か書いてきていますが、TPPは得るものは皆無で失うものは甚大です。
自動車関税?家電関税?冗談ではありません。あんな2.5%ぽっちの関税は円-ドル相場が100円台に近づけば、露と消えます。
現に現在のアベノミックス効果による円安により関税換算で、日本製品は10%ていどの割安になっており、かつてのような100~120円相場に安定すれば、わが国経済の競争力は世界有数です。
ですから、なにも好き好んで日本が誇る医療保険制度や農業を破壊してまで、米国の関税を2.5%(自動車)ぽっち安くしてもらう必要はいささかもないのです。
焦っているのは、モンサントの世界制覇の片棒をかついで、遺伝子組み換えで日本市場を制圧したい米倉経団連会長くらいなものです。
もし、米国との関係を壊すことを恐れるなら、いつまでも「党内論議」をしていたらいいわけて、焦る必要はありません。
TPPなどという有害無益なものはいくらでも先延ばししていただいて結構。しっかりと議論が国民に分かる形でしてほしいものです。
実は私の心配の種は、安陪政権ができてから、突如、今まで維新の会の「グレートリセット」の指導をやっていたはずの竹中平蔵氏が飛び込んできたので、冗談ではないと思っています。
竹中平蔵氏が登用されたので、かなり不安になりましたが、自民党が時間をかけて検討していくというので、ちょっと安心しました。
というのは、この経済財政諮問会議というシロモノには、小泉-竹中改革の匂いがプンプンするものだからです。
今回、安陪首相が小泉氏と同様の手法を取るとは思えませんが、この経済財政諮問会議がかつて郵政民営化で果たした決定的な役割があります。
これについては、わが国で最初に郵政改革に代表される構造改革が、実は米国の「年次要求書」を下敷きにして出来たものだということを指摘した関岡英之氏がこう語っています。(「表現者」05年9月)
「(質問者)そもそも要望書というのは、どういう形で実現されていくわけですか。アメリカがいくら要求してきても、こっ意を通過しなければ実現不可能ではないですか?
(関岡)そこが重要です。日本側に、受け皿となっているトロイの木馬があるわけです。それが経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議などの総理直属のいくつかの会議です。
そういった(諮問)会議が、アメリカの要求をあたかも日本の内政課題であるかのように偽装して政府に提言し、それを受けて所管官庁が法案を作り、閣議決定してしまう。国会に提出される以前に、法案はアメリカの要求に沿った方向で出来上がっているわけです。」
小泉内閣当時の自民党の決定プロセスはこのようなものです。
①首相直轄の諮問委員会で基本方針決定
②総理大臣が主管官庁に指示
③主管官庁で法案作成
④自民党関係部会審議
⑤自民党政務調査会(政調会)で了承
⑥自民党総務会で党議決定
⑦閣議決定
⑧国会提出
⑨特別委員会で審査
⑩国会議決
このプロセスで与党議員が反対を表明できる場は、④の関係部会、⑤政調会、⑥総務会です。
ここを通過すると、TPPはかつての郵政民営化のように党内決議されてしまいます。
かつての郵政改革では自民党関係部会約百名のうち8割は郵政民営化に反対でした。
部会は反対との意見を出したにもかかわらず、部会は決定機関ではないということで、政調会に上げられ、ここでも反対派が多数だったにもかかわらず、ともかく総務会に上げようとする異様な動きがあったのです。
郵政民営化以前の従来の自民党は、全会一致原則ということを基本としており、どこぞの党のように幹事長一任などということはなされてきませんでした。
しかし、この時慣例が破られ、久間総務会長による挙手による多数決で強行されてしまいました。
この間の内幕を、民営化反対を貫いて自民党を脱党した小林興起氏はこう述べています。
「それまでなら国会提出の前になって行われる閣議決定が、この時は自民党関係部会の前に行われてしまったために、私たちは反対することができなかったのです。つまり官邸主導が実現したことになります。それは実はアメリカ主導だったのです。」
(東谷暁「郵政崩壊とTPP」)
今回、郵政改革と異なるのはTPPで「官邸主導」がなされていないことで、たぶん安陪首相自身決めかねているというのが本当のところではないでしょうか。
また、今回は関係部会の審議の前に閣議決定もされていません。要するに、これから党内論議をするぞ、というただ一点だけが明らかになっているだけです。
とはいえ、まだまだ油断はできません。それは経済競争力会議・規制改革会議に「あの」竹中平蔵その人がいることです。
ああ、イヤダ。ジンマシンが出そうだ。名前を聞いただけて気持ちが悪くなる。私にこれだけ嫌われているのは、菅直人氏くらいしかいません(笑)。
この男が、また災厄を引き込まないか注視する必要があります。 まぁ、麻生財務大臣と犬猿の仲なのが保険ですが。
残念なことに、小泉-竹中改革と似た意志決定の構図ができつつあるのはたしかです。
日本国民が選んだ議員によって決せられるのではなく、私的諮問機関によって決せられることがあっては断じてなりません。この国の主権は、あくまで私たち国民だからです。
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■安倍首相、日米首脳会談でのTPP参加表明見送り 参院選対策を優先
産経新聞2013.1.13 01:11
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加問題で、安倍晋三首相が2月以降に予定される日米首脳会談での正式表明を見送る意向であることが12日、分かった。
今年夏の参院選後への結論先送りも視野に入れる。首相はオバマ米大統領に、防衛関連予算の拡充や集団的自衛権行使の検討など「同盟強化」への取り組みを説明して、正式表明見送りへの理解を求める。複数の政府・自民党関係者が明らかにした。
訪米時の正式表明を見送るのは、自民党内で参院選への影響を懸念する声が強いためだ。
首相は昨年12月、産経新聞のインタビューで「聖域なき関税撤廃の前提条件が変われば、参加も検討の視野に入る」と述べたが、参院選勝利による本格政権樹立を最優先にした。
党外交・経済連携調査会は月内に交渉参加に関する議論を始める予定で、首相は党内調整に入ったことを大統領に説明する。ただ、党内には「参院選前に不参加を表明すべきだ」(閣僚経験者)との声もあり、同調査会も首相訪米前にまとめる提言で表明見送りを求めそうだ。
米国などTPP交渉参加11カ国は10月の基本合意を目指している。米国が外国と通商交渉を始めるには、90日前までに大統領が米議会に通知して承認を得なければならない「90日ルール」が存在する。日本の参加表明が参院選後になると交渉妥結時の参加国になれない可能性が高まる。
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