FIT試算が無視した再生可能エネルギーの送電網コスト
原子力の発電コストを論じる時よく問題とされるのは、廃炉や使用済み核燃料の処分などのバックエンドを無視して計算されていることが指摘されます。
つまり、燃料代とランニングコストというフロントエンドだけで計算してしまえば、原子力はもっとも安価な燃料という虚像を描けるということになります。
実はこのトリックは実は再生可能エネルギーでも使われているから困ります。
発電そのもののコスト以外に、火力発電所によるバックアップ電源コスト、発電所建設コスト、そして送電網インフラなどのバックエンドにかかるコストです。
バックアップコストは別にお話ししますが、建設コストは、どこまでを建設費として計算するのか明確な基準がなく、タワーの高さを上げれば発電量は増しますが、コストはかかります。
他に発電量、風車を外国で組むか、国産にするのかでも異なり、輸送費、建設費、航空法対策、台風対策等で価格が上昇します。
実際の例を上げれば、三陸町夏虫山発電所で1000kW機が10基で事業費は約30億円、宮崎県ETOランド発電所がラガウェイ750kW機1基で約1億8000万円、熊本県五和町発電所が三菱300kW 1基で事業費 1億2222万円といったところです。
これらの多くは海に面した山岳地帯であり、洋上発電となるともっとコストがかかると考えられています。
だいたい2千万円から1億超といった所でしょうか。別な専門家によると蓄電池まで入れて1基30億円という人もいて、ずいぶん価格に開きがあるものです。
正直言って、まだ我が国では実用段階になったばかりで定まったものがないのが現状のようです。
さて、今ドイツが突き当たっている最大の問題は、送電インフラの新規建設です。 ここで日本で脱原発の「理想像」とされるドイツを見てみましょう。
ドイツの原発の多くは、産業が盛んな南部バーデン・ヴュテンベルク州やライン州にありました。
それは送電網が短くて済む利点があったからです。電気は貯めておけず、送電線の中でもロスしていくというやっかいな性格のために、発電所と消費地が近いことが良いとされました。
ところが今、ドイツは原発から洋上風力発電にシフトしつつあります。風が強く、広大な土地がある北海沿岸に多く建設されるようになりました。
今後は沿岸から洋上に移って、さらに大規模な洋上発電所を作る計画がたくさん上がっています。
そこで、欄外図をごらんください。ドイツの北海側から南部までは直線で900キロ超に及ぶ距離がありますから、工業地帯のある南部まで、北部から新たに電線を引っ張ってこなければならなくなりました。
2009年にドイツ政府は「送電網拡充法」を立てて、再生可能エネルギーに必要な送電網をリストアップして、それを最優先で建設する計画しました。
計画では実に1807キロにも及び、かかる費用は570億ユーロ(1ユーロ=118円換算で6兆7260億円)という莫大なものです。
これを我が国に置き換えてみましょう。下図は県別風力発電の実態です。
(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構・NEDOによる)
※都道府県別の風力発電設備導入状況。棒グラフは出力合計、線グラフは発電設備の数を表す。http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1209/14/news125_2.html
これを見ると、青森県、北海道、鹿児島県、福島県、静岡県、秋田県、鹿児島県などが適地となっています。これらの県は平均風速6.7メートル/秒以上の条件を備えています。
するとここに大規模な風力発電所を導入した場合、工業地帯のある関東地方にまで電気を輸送するには、南北に串状に基幹送電網を建設せねばならないことになります。
距離の目安としては、札幌-東京間が直線距離で約1000キロ、青森-東京間が580キロ、福島-東京は約220キロ、秋田-東京は450キロといったところです。
我が国でも再生可能エネルギー拡大政策をとるとなると、ドイツと同様の新規送電網を作る必要が生まれます。
我が国が送電網を作るとなると、海を越え、険しい山谷を越えねばならないために建設費用は平地の多いドイツの比ではないはずです。
現在試算として出ている数字としては、生産地の北海道と本州を結ぶ北本連系線などの基幹送電網が1兆1700億円かかるとされています。(北海道電力、東北電力の試算による)
平坦テ土地が多いドイツでさえ6兆円以上かかる計画ですから、おそらくはこんなものでは済まず、ドイツていどにはかかってしまうと考えたほうがいいでしょう。
ところが、なぜかFIT(固定価格全量買い取り制度)を決めた際の政府コスト等検証委員会は、この再生可能エネルギーに伴う新規送電網建設コストは除外されて計算されていました。
これは原子力が、発電単価だけて計算してしまい、バックエンドを度外視し将来の国民負担から眼を逸らせたことと同じ虚像です。
そもそもこの巨額な新規送電網建設費は誰が負担するのでしょうか。
再生可能エネルギーを原発の代替電源にしろと主張する人たちの多くは、飯田哲也氏のように発送電分離をワンセットで唱えていますから、きっと民間送電業者が作るんだろう、くらいに簡単に考えているのだと思います。
しかし、ちょっと考えてみてください。なにが哀しくて民間送電会社は、こんな巨額な新規送電網を負担せにぁならんのでしょうか?
新規送電事業者は儲かると思うから新規参入するのであって、土地買収をし、鉄塔を立て、長大な送電ケーブルを引いて再生可能エネルギーのためにつくすために参入したのではないからです。
そりゃあ、今の電力会社は分離されていませんから渋々やりますが、分離したらそんな不採算工事をする義理はありません。
それじゃなくても、再生可能エネルギー発電所は、しょっちゅう周波数や発電量がくるくる変化するので、バックアップするだけで大変なやっかい者なのですから。
では国が作るのかとなると、それに相応する建設国債の発行を巡って国会審議がなされねばなりません。
その過程で、再生可能エネルギーの発電コストは、従来言われていたものよりはるかに高いことが明らかになることでしょう。
発電コストは最大で、発電効率は最低、しかも不安定な再生可能エネルギーに建設国債やFITを負担していくことの妥当性が問われます。
ドイツのように「送電網拡充法」と抱き合わせで建設国債で押し切ったとしても、いずれにせよ、やがてそれらのコストは消費者の電気料金や税金に転化することになり、電気料金は値上がりします。
このように見てくると、発送電分離などしたら、再生可能エネルギーの拡大にとって障害になると思っています。少なくとも、こんな電力供給が逼迫している時期にやることではありません。
ドイツでも、この高圧送電網建設は遅々としてはかどらず、3年たって完成したのはいまだに計画の1割に止まっています。
そのために別の社会問題が生じました。それについては長くなりましたので、次回に回します。
■写真 筑波山麓のつくば道・神郡((かんごおり)
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誰も来てませんね(苦笑)
再生エネルギー推進の方には、それこそ言って欲しくないところを指摘されたのでしょうか?
現在政府内からも発送電分離案の発言が出てますし、どんな将来デザインを描くのかは気にかかるところです。
また、日本原燃などから、予想通り「その法的権限は何だよ!」と反撃が始まりました。早く規制委員会の関連法を整備して実効力を付与しなければなりませんね。
過去の「保安院」や「安全委員会」と違う、独立した強力な組織ですから、
「うるせー、難癖つけんならオマエラぶっ潰すぞ!」くらいの力が必要です。
投稿: 山形 | 2013年1月28日 (月) 14時34分
風力の場合は、原子力とは異なって、一基の発電量が、ごくわずかなので、普及に合わせて系統を整備しようということなのだろう。
その意味では、原子力や、東日本と西日本の周波数の不一致とおなじで、場当たり的といえる。
ただ、放射性廃棄物の管理は、地中深くの墓地へ、しまっておくだけの予定だったなので、保守管理費が、ほとんどかからない。
今では、地中深くへ入れて地震などがおきたら、抽出して確認することが、たいへんじゃねえかという議論がある。
その議論は別にするとして、寄生委員会に実効力を与えることが言語道断だ。
やつらは、反原発でしかない無能な連中だ。日本人の平均寿命より短い原子力発電所に対して、あれをしろこれをしろと、まさしく今後約五十年間に、ふたたび対応不能な災厄が日本列島をおそうことを前提とされた。
しかも、日本国民が、いつ寄生連中の信任投票をしたか。
やつらが電気料金を全体の一パーセントでも払ってきたか。
つまり、利害関係がまったく無い連中へ 「とにかく安全な規制をおねがいします」 とたのんだものだから
「じゃあ、事故が起きないように、飛行機も自動車も電車もすべて停止ね」 となった。
子どもでもわかる理屈だ。
その結果、火力発電所は検査を延ばすなど、ぎりぎりの発電をして 2013 年になって事故死者が出た。もちろん、天災とは無関係だ。
そんな机上論の権力をふりまわしてきた規制委員こそ、ぶっつぶすことが公正だ。
投稿: とや ひろし8057 | 2013年2月 4日 (月) 12時43分