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2013年2月13日 (水)

船橋洋一「カウントダウン・メルトダウン」を読む       その2  「最悪のシナリオ」

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船橋洋一(民間事故調プログラムディレクター)の「カウントダウン・メルトダウン」を読んでいます。この大著の白眉は、下巻16章「最悪のシナリオ」の部分です。 

当時、15日早朝の4号炉建屋の爆発と、2号炉格納容器の損傷で大規模な放射能汚染が起きるという心配が現実のものになりつつありました。 

官邸スタッフによれば、官邸中枢の抱いたイメージはこのようなものです。 

「原子炉の中の水が減って、燃料棒がバタンと倒れたら、原子炉の底が抜けて核物質がドーンと落ちる。いずれ地下水に至れば、そこで大規模な水蒸気爆発を起こしてチェルノブイリだ。福島第1、第2合わせて10基の原子炉が飛び、総理は東アジア全体が大変なことになるとおっしゃっていました。」 

つまり官邸は、この3月15日段階で、連鎖的に多数の原子炉でメルトダウン、メルトスルーが起きて大規模水蒸気爆発が起き、チェルノブイリ級「最悪のシナリオ」事態になることを予想し得ていたわけてす。

この時、菅首相たち官邸中枢は、「日本の半分が住めなくなる。そして米国が再占領するという悪夢に苛まれていたようです。

内閣危機管理監は天皇陛下を九州に移すことまで頭をよぎったそうです。

15日早朝に起きた「菅首相東電怒鳴り込み事件」は、まさにこの時期のことです。菅がいかに度を失っていたのかは、この状況背景を照らし合わせるとよく分かります。

対策統合本部事務局長の細野は、官邸に専門家を中心とする実行部隊の知恵袋的「助言チーム」を作ることを構想し、近藤駿介原子力委員会委員長にリーダーを依頼します。 

近藤は、原子炉の確率論的安全評価の第一人者であり、この時期、海を隔てて同じく福島事故の分析と対応に苦慮していた米国側原子力機関トップとも人的ネットワークを持っていました。 

近藤は、当時原子力委員会委員長という「推進側」にたまたまいたために、斑目安全委員長の領分を荒らさなかっただけでした。

しかしおそらく、斑目よりはるかにこの危機的状況にふさわしい人材だったと思われます。 

16日、近藤たちは東電本社に向かいますが、この時近藤たちがもっとも心配したのは、吉田所長が事故指揮を執っている重要免震棟の線量が高くなって使えなくなることでした。 

もしそうなった場合、福島原発からの撤退という、米側がもっとも恐れた事態に発展していき、原子炉はもはや完全に制御不能に陥る可能性がありました。 

この状態になった場合、福島原発の「もっとも弱い環」である4号炉使用済み燃料プールの水が抜けて、炉から取り出して間もない崩壊熱の大きな使用済み核燃料がメルトダウンすることもありえます。 

そして4号炉プールがメルトダウンすれば、1、2、3号炉で今やっている注水による冷却作業は出来なくなり、再び連鎖的に炉心融解が始まります。その場合も同じく撤収のやむなきに到ります。 

近藤たちのチームは徹夜で、原子炉の「最悪のシナリオ」、別名「プランB」を計算し、放射性物質拡散の最悪シナリオをシュミレートしていきました。そして25日、その解析結果が出ました。

政府「最悪のシナリオ」(正式名「福島第1原子力発電所の不測事態シナリオの素描」] 

現在の20㎞の避難区域は当面据え置く。 

・4号機の燃料プールが損傷し、コアコンクリート相互作用が起きた場合は、50㎞圏内の住民を避難させ、70㎞圏内の住民を「屋内退避」させる。 

・他の燃料プールでも同じことが起きた場合は、170㎞が強制退避、250㎞は自主退避を考える。 

・最終手段としてはスラリー(※砂と水を混ぜた泥)による遮蔽がもっとも有効。必要量1100トン/基) 

これを見た細野は、「もしこれが外に出たら、だれが漏らしたのかを徹底的に追究しますからね」とメンバーを見据えて言い、この作業で使った資料、データをすべて廃棄するように命じました。 

この「最悪のシナリオ」は、直ちに既に出来ていた米NRC(原子力規制委員会)の「最悪シナリオ」とすりあわされ似た結果だったそうです。

そしてこの政府「最悪のシナリオ」は、北沢防衛相を経て、統合幕僚監部を中心として「作戦計画」が練られていきます。 

これも突貫作業で行われ、フェーズ1からフェーズ4に至るシナリオの悪化に応じた作戦計画と実施要領を作成していきます。 

・フェーズ1。福島第1原発の原子炉か格納容器が爆発するか、あるいは新たな建屋の爆発が起きて、大量の放射性物質が拡散する場合の東電と協力会社社員の撤退と救出作戦 

・フェーズ2。放射性物質が拡散した場合の、福島県全域で実施する陸海空自衛隊の救出作戦。その際、原発から半径50㎞圏内で自力で避難できない住民を輸送支援する。 

・フェーズ3。1号炉から4号炉まで連鎖的にメルトスルーし、膨大な放射性物質の拡散の蓋然性が高くなった時、原発から半径250㎞圏内の治安活動を行う。対象となる総人口は、3500万人を越えるだろう。 

・フェーズ4。複数の原子炉や格納容器が爆発した場合、それに伴って完全な制御不能状態が起きる。そうなった時には、コンクリートによる石棺作戦を実施する。 

自衛隊はこれを基にして、部隊動員計画と車両の準備、フェーズ4の石棺作戦に備えた「キリン」(高所コンクリート車)につけるコンクリート圧送機などを準備し、数百名の隊員は既に訓練に入っていました。

これがもし実施される事態になれば、首都東京の避難を含む3500万人というチェルノブイリを優に越える世界史上空前の避難作戦になったと思われます。 

菅は、劇作家の平田オリザに「最悪のシナリオ」に至った場合の「総理談話」の草稿を準備するように要請しました。

このようにして、密かに政府は「最悪のシナリオ」を想定した動きを開始していくことになります。

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