中国環境汚染・弱すぎる環境行政、強すぎる国営石油企業
今回の中国の大気汚染は、中国環境保護省によれば、17の省、自治区、直轄市の及び、中国全土の4分の1の約240万平方キロ、日本の国土面積の約 6・5倍に相当する範囲にまで拡がりました。
人口の半分にあたる6億人がこの分厚い大気汚染の雲の下にいます。まさに「人類史上空前」という表現をしても、あながち大げさではない規模にまで達してしまいました。
「中国環境保護省は4日、1月24日に開かれた全国会議での周生賢環境保護相の発言全文をウェブサイト上で公表した。それによると、1月の大気汚染は中国全土の4分の1、全人口の半数近い6億人に影響が出たという。」
(毎日新聞2月4日資料1、2参照)
今回の大気汚染の原因は、2.5μmという超微粒子の「PM20」と、それよりさらに微小な10μm以下のSPM(浮遊粒子状物質)の汚染物質が原因です。(※μm=ミクロン・ミリの1000分の1)
失礼ながら笑えることには、中国政府はこれだけ壮大な汚染を垂れ流しておきながSPMはおろか、PM20についても満足な計測をしていなかったことが発覚しました。
中国がとりあえず計測していたのは、なんとPM10で、こんな粗い単位で計っているものだから、市民は「たいしたことないや」とタカをくくっていたようです。
しかし、このPM20を測定していた所が一カ所ありました。それはこともあろうに、中国にとっての仮想敵国・米国大使館だったのです。
北京の米国大使館は中国政府の環境政策などまるで信じていませんでしたから、独自にPM2・5の観測を続けており、「危険な状態」とネットで公表してしまいました。
中国市民の方は米国大使館のサイトを見て初めてとんでもない状況になっていることに気がついて仰天したわけです。
批判の高まりを受けて慌てて、昨年1月からデータの公表に踏み切ったところ、既に大気汚染の状況はもはや待ったなしの最悪の状況になっていました。
周環境保護相は、この爆発的大気汚染になってようやく、「社会の関心が高い環境データの公表を進め、環境問題をめぐる対応の重要な指標としてもらう必要があると述べ、PM2.5の観測網の拡充と情報公開に努める考えを示した」(2月3日ロイター」そうです。
我が国のお役所仕事も相当なもんですが、ここのような「人類史的」な状況になるまで公害を放置し、なおかつ観測体制すらなかったというのですから、お粗末というより近代国家の態をなしていません。
中国のメディアによれば、このメガ大気汚染を受けて先週ようやく、中国政府はディーゼル燃料に含まれる硫黄分をEUの規制値と同じ50ppm以下とする基準強化を適用する見通しだと報じました。
移行期間が与えられるため、新基準が中国全土で義務付けられるのは2014年末以降になるといいます。
残念ながら、私は無理だと思っています。
その理由は追々書いていきますが、環境保護省(前身)の初代局長である曲格平氏が指摘するとおり中国は「人治」の国であり、すべてが「法」によらず、政治的な駆け引きと人脈で決定されているからです。
環境保護省は存在しますが、権限が与えられていません。なぜなら、国是である経済成長至上主義に水を差し、国営企業の既得権益に揺さぶりをかける目の上のタンコブ的存在だからです。
「中国では環境に関する政策の策定に、国家発展改革委員会(NDRC)や工業情報化省(MIIT)など10以上の組織が関与する。」(ロイター同上)
米国の環境保護庁とは異なって、中国の環境保護省には独自に排出の基準を定める権限はありません。
他の省庁とすり合わせるということは、我が国の環境省もよくやっていることですが、あくまでも主体は環境省です。
中国の環境保護省は重要な環境に関する決定が下される場合にすら、相談に与らないことすらあります。
「自動車排ガスコントロールセンターのDing Yan氏によると、NDRCとMIITが環境対応車への補助金政策を検討する会議を開いた際、環境保護省には連絡さえなかった。」(ロイター同上)
中国は2008年に、環境問題に取り組む姿勢をアッピールするために、従来の国家環境保護総局を環境保護省に格上げしました。しかしそれに伴う権限はあたえませんでした。
公害の最大の発生源である巨大国営企業や地方政府を従わせる「力」は初めからなかったのです。それは環境保護省を政治的に支える党幹部がいなかったからです。
「環境保護省の役割を本当に機能させたいのなら、習近平氏や李克強氏のような最高指導者が(バックに)必要だ(ロイター同上)
しかし、それは無理な相談です。党最高幹部はむしろ巨大国営企業とのつながりが強いからです。
大気汚染の元凶は自動車用ディーゼル燃料ですが、中国では地域ごとに基準が違い、平均して硫黄分がEU基準の15倍含まれた燃料を使っています。
そのため環境基準の統一と強化は、環境保護省が何度か国営石油企業2社に申し入れていたことでした。
この2社とは、国営企業である中国石油天然ガス集団(CNPC)と中国石油(シノペック)です。いずれも今や欧米のセブンシスターズに並らぼうとするまで肥大した超巨大企業集団です。
彼らがクリーンなディーゼル燃料を供給するためには、石油企業は硫黄分の除去費用として数十億ドルを投じる必要があります。
「この環境基準の強化が何度も遅れていることに業を煮やした環境保護省の張力軍次官は、2011年後半にCNPCとシノペックの幹部らとの会議を開き、これ以上は基準の強化を遅らせるつもりはないと明言した。」(ロイター同上)
しかしこの環境保護省の要請はあっさりとホゴにされました。
「2社の幹部はこれに対し、2012年の旧正月以降にクリーンな燃料を供給することを誓約したが、湯氏によれば、数カ月後に同省が検査を実施したところ、2社は依然として通常のディーゼル燃料を供給していた。」(ロイター同上)
これが中国の現実です。今回のメガ大気汚染を受けて中国政府も重い腰を上げて、環境基準の強化を打ち出すでしょう。
しかしCNPCとシノペックは、原油価格がイラン問題で高止まりしているために:これ以上のコスト負担は飲めないはずです。しかも、ガソリン価格は政府公定価格なために、石油会社の思うに任せません。
また石油価格は、中国政府の方針て安く設定されています。国営石油会社の言い分では、多くの精油所は赤字だと主張しています。
エネルギー専門家によれば、クリーンなディーゼル燃料を供給するためには、石油企業は硫黄分の除去費用として数十億ドルを投じる必要があります。
彼らは、共産党中央に圧力をかけるでしょう。現にクリーン燃料を受け入れるとしても、優遇税制の見返りをもらうなどの条件を出しています。
「エネルギー価格が大幅に上昇するということは世間に発信しなければならない。安い燃料費ときれいな空気の両方を同時に手に入れる方法はない」。(NDRC能源研究所・Jiang Kejun・ロイター同上)
結局、中国国民の悲劇は、自らの利害を代表する政党を持たないことです。どんなに生活環境が劣悪になろうと、その声をすくい上げて政権に伝える回路が中国には存在しないのです。
国民が政党の形で政権と合法的に交渉することがあらかじめ禁じられている以上、いつものように暴動でも起こして車でも燃やすしかないということになります。
ただし、車を燃やせば、いっそう大気汚染がひどくなるので止めたほうがいいと思いますが。
■写真 霞ヶ浦の出島水位観測所の標識です。
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■資料1 中国全土の4分の1でスモッグ、6億人に影響
毎日新聞 2月4日(月)20時51分配信
【北京・成沢健一】中国環境保護省は4日、1月24日に開かれた全国会議での周生賢(しゅう・せいけん)環境保護相の発言全文をウェブサイト上で公表した。それによると、1月の大気汚染は中国全土の4分の1、全人口の半数近い6億人に影響が出たという。
有害物質を含んだスモッグは1月10日ごろから中国の華北地方を中心に広がった。環境保護相は公表された発言で「最近の長時間、広範囲のスモッグ」としか言及しておらず、1月中旬から会議直前までの状況を説明した模様だ。
スモッグは17の省や自治区、直轄市に及んだとしている。中国全土の4分の1だと約240万平方キロで日本の国土面積の約 6・5倍に相当する。
「4分の1」は影響を受けた地域の累計の可能性もある。環境保護省は情報公開を求める声に押されるように1月下旬から大気汚染の影響範囲を公表している。特に汚染が深刻だった1月29日は約143万平方キロがスモッグに覆われた。この日を約100万平方キロも上回る日が全国会議の前にあったのか、あるいは面積の算出基準が異なるのかは不明
だ。
環境保護相はまた、1年間に車が約1500万台増える状況が続く中で汚染物質の排出量も増え、7割前後の都市で大気が環境基準を満たしていないことも明らかにした。
さらに、呼吸器や循環器の疾患を引き起こす微小粒子状物質「PM2・5」に対する国民の関心が高まっていることを認め、2015年までに濃度を5%下げる目標の達成に取り組む姿勢を強調した。
PM2・5をめぐっては、北京の米国大使館が独自に観測して「危険な状態」などと公表し、中国でも関心が高まった。中国の環境当局はより粒子の大きなPM10の観測データに基づいて汚染状況を発表していたが、実態と異なるとの批判が強まり、昨年1月からデータの公表に踏み切った経緯がある。
周環境保護相は「社会の関心が高い環境データの公表を進め、環境問題をめぐる対応の重要な指標としてもらう必要がある」と述べ、PM2.5の観測網の拡充と情報公開に努める考えを示した。
◇福岡でも基準値のPM2・5測定
日本では、福岡市で、1月24、30、31日の3日間、環境基本法で定められた基準値(1日平均で1立方メートルあたり35マイクログラム)を超える数値のPM2・5を測定した。中でも31日は、市内6カ所の観測所すべてで基準値を超え、最高で同53マイクログラムを記録した。
■資料2 中国“大気汚染で6億人に影響”
NHK 2月5日 4時34分
中国の環境保護省は、深刻な大気汚染の状況について、有害物質を含む濃霧が国土の4分の1に広がり、全人口の半数近い6億人が影響を受けたとする報告を公表し、強い危機感を示しました。
これは、中国の周生賢環境保護相が先月24日、環境問題について話し合う会議で報告したものとして、4日、公表されました。
このなかで、周環境保護相は「毎年1500万台ずつ自動車が増え続けるなか、70%前後の都市の大気が環境基準を満たしていない」と指摘しました。
さらに、車の排気ガスなどに含まれるPM2.5というきわめて小さな粒子を含む濃霧について、国土の4分の1に広がり、全人口の半数近い6億人が影響を受けたとして、大気汚染が深刻な状態だと強い危機感を示しました。
一方で、周環境保護相は、大気中のPM2.5の濃度を再来年までに5%下げるという政府の目標を打ち出しました。
また、中国メディアも4日、政府系のシンクタンクがまとめた先月の大気汚染の状況について、首都北京ではPM2.5の大気中の濃度が、国の基準を上回った日は合わせて27日に上ったほか、大気汚染の影響は全国で8億人以上に及ぶなど厳しい状況にあると伝え、対策を急ぐ必要があると警告しています。
■北京 大気汚染: リアルタイムの大気質指標(AQI)
http://www.aqicn.info/?lang=jp
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ここまでのレベルかどうかはわかりませんが、1960年代~70年代前半の日本を見ているような気がしますが、その後は経済発展と環境(公害問題)と同時に取り組んできた経緯にあると思います。
ただ、当初は全企業がそこまで意識改革されていたかは疑問な所もあり、汚染物質を垂れ流していた企業も存在し、時々マスコミを賑わしていた事は事実で、その影響で被害を受けた人も大勢いる事も確かです。
世界第2位の経済大国であっても「開発途上国」と言い張り、経済支援を受けるのが当たり前、攻撃の準備の為の「レーダー発出」しても、知らない顔、尖閣も南シナ海も自分のもの、地方のGDPを誤魔化していた・・・書き出したらきりがない国ですから、何でもありなんでしょう。
気持ち的には、頭の中の開発が必要なのでは?
同じ地球と言う星に存在している以上、その影響は国内だけに止まらないのが、いかんともしがたい所であります。
投稿: 北海道 | 2013年2月 6日 (水) 10時28分
今日から鹿児島県がホームページで、大気環境(PM2.5など)の測定結果(速報値)を掲載するのとのことで、見てみました。
http://kagoshima-taiki.life.coocan.jp/Jiho/OyWbJiho01.htm
種子屋久・奄美諸島には全く観測点がありません。
そこで、環境省の方を見たのですが・・・
http://soramame.taiki.go.jp/DataHyou.php?BlockID=08&Time=2013020618&Pref=46
SMPの測定ばかりでPM2.5は鹿児島県では4箇所のみです。種子屋久・奄美諸島のデータはありません。
沖縄県は、SPMのみです。石垣・宮古にも観測点がありますが・・・・。
http://soramame.taiki.go.jp/DataHyou.php?BlockID=09&Time=2013020618&Pref=47
残念ながら南の島の測定レベルはPM2.5を測定していませんので中国並。
いや!種子屋久から与論まで観測点すらないので、中国以下です。
投稿: 南の島 | 2013年2月 6日 (水) 20時10分
南の島さん。
後れ馳せながら、自治体の観測強化の方向に向かってますので、あまり悲観的にならないで!
これまでの観測マップでも大まかな汚染状況分かるし。
東北も同じようなもんですよ。
「そらまめ君」、一昨日にはアクセス集中でダウンしてましたね。
同時に気象庁のスパコンもダウン。
むしろ、これらが「偶然」なのか?という疑問が残ります。
投稿: 山形 | 2013年2月 7日 (木) 14時05分