公害大陸・中国その2 農業から吹き出す公害
中国の国土が「狭い」と言ったら、おかしなことを言うと思われるかもしれません。13億の民、万里の長城、桂林などから日本人が受けるイメージは、ひたすら事物博大といった感があります。
たしかにデータ上では、中国の国土は約960万平方キロ、日本が約37万平方キロですから、ざっと約26倍の面積を誇っています。
しかし北京から少し出てみましょう。西に重慶、成都に飛び、さらに新疆ウイグル自治区に旅すると、中国の「事物博大」の裏側がもう少し見えてきます。
長江付近の巨大な都市は人を溢れさせんばかりにしていますが、そこからわずかに奥に入った農村部では傾斜のきつい山肌にへばりつくように生きているのが分かります。
そして、そこからさらに奥に進めば、乾燥した強アルカリの土漠がどこまでも続きます。人はわずかのオアシスの付近で生活を営んでいるにすぎません。
実は、このような地域が中国の大きな部分を占めています。そこでは牧畜しかできないので、政府は砂漠化を恐れて定住政策をとっていますが、そのために人口が集中してかえって都市周辺の砂漠化が進むという皮肉な現象すら起きています。
中国で、農業に向いている地域は、東北部(旧満州)の吉林省、そして沿岸部の黒竜江省、江蘇省 、安徽省に集中し、後は山岳部の四川省、陜西省にわずかに点在するだけです。
にもかかわらず、人口が13億人(一説14億人とも。政府もわかっていないみたい)いますから、狭小な分母の上に、過大な人口を抱えるというのが中国の実態です。
これは、農家一戸あたりの平均耕作面積をみれば分かります。日本の農家の平均は約2ヘクタールですが、中国は約0.67ヘクタールです。
狭い狭い、だからお前らは国際競争力がないとなにかにつけて言われる日本の3割強ていどです。ヨーロッパの平均はイタリアなどで約26ヘクタールですから38倍ですから、較べるべくもありつせん。
ちなみに、米国は中国とほぼ同じ約963万平方キロの面積がありますが、作付け可能面積は国土の2割に当たり、中国の約2倍に達しています。
中国は斜度25度以上という土地で作る薬草、綿花、麻類栽培などの非食料栽培も含めて、国土の1割に満たない部分しか耕作可能ではないのです。
斜度25度とは、日本で言えば山間地農業ですから、そこまで入れて1割となると、中国農業の技術的レベルから考えれば、よく喰っているなという気分になります。
ですから、国民一人当たりに換算すると、耕地面積は米国の10分の1以下となります。つまり、人口は米国の3億人の4.3倍ありながら、米国の10分の1の耕地しかなく、それで食を支えねばならないわけです。
世界人口の22%を世界の耕作可能面積のたった7%で養っていることになりますが、いくら国民の6割が農民でもそりゃ無理だということで、輸入食糧は激増の一途を辿っています。
「今後5~10年で、中国は世界最大の農産物輸入国となる」(中国国務院発展研究センター)
既に中国は現在、大豆と綿花に関しては世界最大の輸入国となっていて、シカゴ穀物相場を混乱させるモンスターと化しています。
このようなアンバランスな条件で、食糧自給などがそもそも無理で、ましてや日本への農産物輸出など、正気の沙汰とも思えません。
それもあってか、中国は07年末からは食料輸出の抑制政策をとるようになっています。
ところで、私は外国に旅すると、哀しい職業病で、ついそこの国の農地を触ってみたくなります。手首まで土に入れてひとつかみ土を握り、手でほぐしてみればおおよそのことが分かります。
掴んだ土がにぎり寿司のように軽く握ればまとまり、力を抜くとはらりとほぐれればいい土質です。そのような土は有機質や微生物を大量に含み、色も深い褐色をしています。ほのかな芳香すら漂います
中国の土は、粘り気がなく、乾燥してバサバサで、まるで砕いたグレイのレンガのようでした。芳香などは望むべくもありません。
率直に言って、私が今まで見た耕作地の中で最悪の部類に属します。こんな土になるまで放置しておいた農民の気が知れないというとすら思いました。たぶんただの一度も土作りをしたことがないことだけはたしかです。
失礼ながら、このひどい土を見て、中国産農産物がなんの味もしない無味乾燥な理由が分かりました。土の力で作物を作っているのではなく、化学肥料の力だけに頼って作っているのです。
聞けば、中国にはそもそも堆肥を作るという伝統がないそうです。この最悪の土の上で、過剰な人口を養うことを可能にしたのが、化学肥料と化学農薬の度はずれた多投です。
中国環境科学研究院のGao Jixi生態学研究所長はこう述べています。
China's agriculture causing environmental deterioration,xinhua.net,7.5
「化学肥料と農薬の大量使用は厳しい土壌・水・大気汚染をもたらしてきた。中国農民は毎年、4124万トンの化学肥料を使っており、これは農地1ha当たりでは400kgになる。これは先進国の1ha当たり225kgという安全限界をはるかに上回る。」
「中国で大量に使われる化学肥料である窒素肥料は、40%が有効に利用されているにすぎない。ほとんど半分が作物に吸収される前に蒸発するか、流れ出し、水・土壌・大気汚染を引き起こしている。」
化学肥料は土を豊かにしません。単に作物に成長栄養を与えるだけです。むしろ過剰な窒素は、作物をひ弱にし、植物が利用しきれなかった窒素は硝酸態窒素として、土壌に沈下し、そして水系に流れ込みます。
1985年から2000年の間に、1億4100万トン、1年当たりにして900万トンの窒素肥料が流出し、土壌や水系を汚染しました。
病虫害を抑え、見てくれをよくして商品価値を高める化学肥料を過剰に使用すれば、作物を化学汚染させていくばかりか、天敵生物を滅亡に追い込み生態系を破壊し、畑の外にまで汚染を拡げます。
中国の農薬使用量は年間120万トンにのぼり、年々増加する一方です。
これは、日本も経験したことですが、害虫には農薬に対して耐性を持つようになります。
仮に100匹の害虫がいたとして、それに農薬散布して、仮に百回に一度農薬耐性を持つ個体が発生した場合、以後農薬の効果は急速に衰えていき、やがてまるで効かなくなります。
農薬耐性を持つ害虫は繁殖力も強いからです。人間は毎年より濃度を上げた農薬を散布するしかなくなり、その無限地獄が始まります。
現在の中国は、農業外からの工場排水に冒される前に、内在的に大きな問題を抱えていたのです。それは化学肥料と化学農薬の過剰投入という問題です。
結果、中国の湖沼の75%、地下水の50%が汚染されています。その原因の一部に農業であることは疑い得ないでしょう。
このようにi中国農業は、工業排水の最初の被害者でありながら、自らもまた化学肥料、化学農薬の多投による汚染源でもあるという加害者でもあったようです。
「狭小」な国土に過剰な人口、そして成長至上主義の農業政策からはその副作用として公害が吹き出てきたのです。
■写真 そろそろ梅の季節ですが、まだつぼみのまま。今年も桜と重なりそうだと村の人は言っています。見上げる空に筑波山。
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なんで元々決して衛生観念の高くない中国で、「堆肥文化」が育たなかったんでしょうね?
かつて「大躍進政策」や「文化大革命」(どちらもあまりに悲惨すぎて、何やってんだ!と)で大混乱したのは解るのですが、古来からそうだったのでしょうか?
2年前に放送されたBS世界のドキュメンタリー「成長の代償~ヨーロッパが見た中国~」でも、家畜を飼ってる田舎の農家が「糞尿は川に捨ててる」と答えていました。
一方で、10年ほど前の「食物メジャー(カーギル)の中国戦略」では、配合飼料の売り込みに対して「豚には残飯やっときゃ充分だよ」と、かなり嫌悪でした。
なんともチグハグです。
投稿: 山形 | 2013年2月20日 (水) 07時32分