« 週末写真館 | トップページ | 公害大陸・中国その1 公害研究創始者、宇井純先生の「予言」 »

船橋洋一「カウントダウン・メルトダウン」を読む       その4 SPEEDIはなぜ隠匿されたのか

076
船橋洋一(民間事故調プログラムディレクター)「カウントダウン・メルトダウン」を読み続けて4回目になります。 

SPEEDIがなぜ隠匿されたのか、発表されてもどうしてこんなに遅れたのかについて長い間疑問に思っていました。 

本書に入る前に、なにがあったのか当時の状況を見てみましょう。 政府事故調報告書はこう書いています。

(政府の避難指示は)ともかく指示範囲の外に逃げよと言っているのみで、住民はどの方向にどの程度避難すれば安全かわからないまま、かつ市町村長が手さぐりで行った判断に従うしかなかった」 

SPEEDIはそもそもはスリーマイル島原発事故の翌年の1980年から、過去30年間に渡って巨額の費用を投じて作られたもので、まさに3.11の為に作られたようなシステムでした。 

単に避難指示だけではなく、政府の事故対応を決定する意味でも極めて重要な基礎データだったはずです。

しかし、ご承知のようにSPEEDIの結果が「国内向けに」発表されたのが、3月23日午後9時の原子力安全委員会の記者会見でした。事故から遅れること12日後のことです。 

ここで「国内向け」と書いたのは、気象庁はIAEAには事故直後から逐次報告していたからです。 

IAEAは、独自に各地で放射性物質の計測を行っており、福島第1原発から30㎞の飯館村での計測で、避難勧告の2倍の値が出たというニュースは、私たち国民を恐怖に陥れました。 

政府が出す4回も変化し、そのつど拡大する避難範囲以外にも、実は汚染地域が拡がっているのではないか、と思わざるを得なかったからです。 

国民はパニックになり、ミネラルウォーターが買い占められ、ネットで見るドイツ気象庁シミュレーションと早川マップに釘付けになります。

しかし実は、気象庁はSPEEDI情報を把握しており、それはIAEAにだけは連絡していました。IAEAフローリー事務局長の30日のウィーン本部での会見は、実は気象庁の情報を基にしています。 

一体どこの国の官庁なのか、その倫理性すら問われます。 

政府事故調報告書はSPEEDI問題について3つ要点を上げています。

文科省は3月12日から16日にかけて、38件のSPEEDI計算をして、結果を経済産業省の緊急時対応センター(ERC)に送付した。 

②原子力安全委員会は、3月12日に原安技センターに計算を依頼した。しかし、あくまで内部の検討のためであるとして、結果は一切委員会の外に出さなかった 

保安員は、3月11日から15日にかけて、45件の予測計算を行った。12日午前1時半過ぎに、官邸地下に詰めていた保安員職員に送った。 
その結果は内閣官房職員を介して、官邸地下にいた各省庁職員に配布し共有した。しかし、この情報は内閣官房職員も保安員も一切、菅総理(官邸5階)には報告しなかった 

つまり、気象庁はSPEEDI情報を知りながら、公表せず、保安院は計算しておきながら国民はおろか、官邸にも伏せていたということになります。 

前置きが長くなりましたが、「カウントダウン・メルトダウン」はこのSPEEDIの内幕を綿密な取材の積み重ねで解いていきます。 

文科省は、事故の翌日から単位量放出に基づいた予測以外にも、様々な状況を予測して計算を行ってきました。

そのシミュレーションには、原子炉1基分のすべての飛散、複数の飛散、すべての原子炉からの飛散などが含まれていました。 

同時に世界規模の広域拡散シミュレーションであるW-SPEEDIすら動かして計算しています。 

ところが、文科省内部に動揺が生まれます。 

このSPEEDIシミュレーションは避難に利用できるほど、飛散の実態を反映したものではないし、かといってまったく役に立たないものでもない、だから公表してこなかったのだか、いつまでも持っていると追究されるのではないだろうか・・・。 

当時原子炉の水素爆発によって、SPEEDIがにわかに注目を集めていました。このままでは、厳しい避難民と世論の批判を浴びかねない、さっさとよその官庁に渡してしまおう、そう文科省は考えたのです。 

公表しなかったことを情報隠蔽だと批判され、被曝の責任まで追究されてはたまらない。かといって、今までのシミュレーションを全面公開すればパニックになる、それの責任をとらされてたまらない。 

そこで枝野官房長官のモニタリングデータの役割分担指示(「枝野仕切り」)にかこつけて、SPEEDIを原子力安全委員会に「裏口移管」したのです。 

斑目委員長はこれを文科省の「奇襲作戦」と呼んでいます。

その上、文科省はSPEEDIのデータセットを安全委員会に委譲せず、文科省HPで見ろとまで言い、安全委員会スタッフはひとつひとつ手書きでそれを書き移すことになります。 

一方当時、「(官邸は)みんなプラント収束しか念頭にない」、と「助言チーム」の小佐古(当時内閣官房参与)には思えました。 

小佐古は、鹿野農水大臣や、細川厚大臣と立て続けに面会し、次のように訴えました。 

「最初から食品の放射能検査をやって下さい」、「放射能検査機が自衛隊の大宮(化学防護隊)に2000台あります。あれを直ちに取り寄せていただきたい。」 

小佐古はチェルノブイリの現地調査の経験から、「チェルノブイリをそのままなぞって先回りすれば事故被害を緩和できる」と考えていたのです。

小佐古は内閣危機管理監にも会いまが、「全部保安院に任せてある」と答えが返って来るのみでした。

小佐古は、「保安院はプラント(事故収束)は出来るが、環境影響、被曝はどうなのか」と強い不安を覚えました。彼のこの不安は的中します。

官邸の反応は鈍く、そもそも彼ら政治家たちはSPEEDIの存在そのものを知りませんでした。枝野(当時官房長官)すらそれを知ったのは、15日頃に「マスコミかなんかから」知ったと明かしています。

その後、枝野は文科省、安全委員会、保安院にSPEEDIの実態を尋ねると、いずれも「放出源情報がないので動かしていません」との答えでした。

枝野は後に、「実際使えない情報として、私にまで隠していた」と文科省を非難することになります。

海江田経産大臣が知ったのは、枝野から遅れて5日後の20日頃のことでした。実際、当時保安院は、11日に2号機のベントを仮定した環境予測をして以来、何十とSPEEDIの試算結果を出していましたが、一切海江田には報告していませんでした。

他の関係部署にいた政治家たちもこの時期の前後別々にSPEEDIの存在を知り、官僚に問い合わせています。そしてその答えは決まって、「ソースデータがないから使えない。動かしていない」という偽りの回答でした。

このような官僚たちの対応は、「環境放射線量モニタリング指針」に違反しています。

「モニタリング指針」はこう述べています。

「緊急時には、放出源情報を迅速かつ性格に入手する必要があるが」、「一般に、事故発生後の初期段階において、放出源情報を定量的に把握することは困難であるため、単位放出量またはあらかじめ設定した値による計算を行う」。

また、この指針に基づいて2010年10月の浜岡原発の原子力総合防災訓練でも、ヨウ素の放出量を単位放出量としたSPEEDIの予測計算は現実に使われています。

かくして政府は、15日から16日にかけての福島県内から北関東一円に降下した放射線量ピーク時期にこのような発表をしてしまうことになります。

16日午後5時56分、枝野官房長官記者会見。「直ちに人体に影響を及ぼす数値ではない」。

これが、後々まで日本政府の情報隠蔽体質として国内はおろか、国際社会からも強い批判を受けるSPEEDI隠匿事件だったのです。

■関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-2.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-15e5.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-a56d.html

■写真 今や珍しくなった火の見櫓。しかし村ではいまでもリッパに現役です。

|

« 週末写真館 | トップページ | 公害大陸・中国その1 公害研究創始者、宇井純先生の「予言」 »

原子力事故」カテゴリの記事

コメント

当時の対応の全てが、記事の通りであったとすれば、虚偽の報告をした官僚は厳正に処分されなければなりません。
優能無能はあっても、国民から選ばれた議員がその責任者で有る以上、それに虚偽の報告をする事は許されるものではありません。
もう少しで2年が経ちますが、マスコミ報道からは、何ら処分の情報は有りません。
事故の検証と同時に、官僚たちの判断や動きも検証して、非がある場合はそれなりの処分が下されるのが普通です。
私の職場で、同じような事をしたとすれば、一瞬で首は飛ぶでしょうね!!

投稿: 北海道 | 2013年2月18日 (月) 11時50分

私が、SPEEDIはじめ、各国の放射性物質の飛散予想動画を、ネット上で、見たのは、枝野氏などが、記者会見で、その存在を、国民やマスコミに、発表する前だったと思います。
つまり、3月23日より、かなり以前から、SPEEDIはじめ、ドイツの予測動画など、ネット上では、流れていた記憶があります。

ネットで、国民が、その存在を知る前に、相当の経費を使ったシステムなのに、なぜ、公開しないのか。あるいは、精度に問題があり、実際の空間放射線量と比較してから、発表するにせよ(そういう判断をもし、関係者がされたのなら)。正直、海外から、教えられて、国内のシュミレーションを知ってしまった現実には、正直、驚きでした。

水素爆発があれば、当然、IAEAの各国(日本は、高崎と沖縄)データーは、外務省管轄であれ、日本人の安全、安心のため、使われるべきだし、たとえ、定性データー収集が目的の機器であれ、定量予測は、精度が、落ちても、解るので、1国民としては、なぜ、情報公開しないのかとか、外国経由で、日本のシュミレーションデーターを知るという実態は、正直、かなしさを覚えました。

当時は、いかに、現地へいける道路網を探していて、ホンダとか、トヨタとかの、カーナビデーターを地図に落とした物を、早く救援物資輸送用に公開する作業が優先され、民間有志は、頑張っていたのですから、なぜ、放射線拡散予測を、隠し続けたのかは、未だ不明に思ってます。

政府には、SPEEEDIデーターは、どこかの担当までは、上がっていたはずで、どこで、止めたのかは、存じ上げませんが、なぜ、自国民は、海外から、自国のデーターを知るはめになるのは、正直、おかしな制度だなあと、今でも思っております。

投稿: りぼん。 | 2013年2月18日 (月) 22時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 週末写真館 | トップページ | 公害大陸・中国その1 公害研究創始者、宇井純先生の「予言」 »