青空様。いつも的確なご意見ありがとうございます。ご意見は欄外に全文転載させていただきました。
私も交渉脱退は可能だと思っていますし、自民党TPP対策委員会でも「脱退の覚悟」という「覚悟」の表現を巡って紛糾したようです。
ただの「覚悟」でいいんかい、という訳で、結局、「聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする。」というかなり強い表現で落ち着きました。(欄外に全文)
この程度決議文に書き込まないと、どのツラ下げて選挙区に戻るんだという議員諸公も多かったと思われます。
皆さん今週の金曜日夜には一斉に選挙区に帰って、「ぜったいに5品目6条件は死守します!」と農業団体に連呼し続けているでしょう。
一方安倍首相の交渉参加についての発言は、以下の部分だけに首相らしい国土を愛する息づかいを感じますが、後は通産官僚の作文にすぎません。(欄外に全文)
「日本には世界に誇るべき国柄があります。息を飲むほど美しい田園風景。日本には、朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統があります。自助自立を基本としながら、不幸にして誰かが病に倒れれば村の人たちがみんなで助け合う農村文化。その中から生まれた世界に誇る国民皆保険制度を基礎とした社会保障制度。これらの国柄を私は断固として守ります。」
問題は安倍氏が「言ったこと」ではなく、その「タイミング」の読み方なのです。
実は私は、どうしてかくも遅れた時期に、かくも不利な、かくも大変な多国間条約に参加するのか皆目理解ができませんでした。
青空様がおっしゃるように、「目的は米国の牽制と条約の無効化で、やや腹黒い狙いからですが。官僚勢も似たことを狙っている」のでしょうか。
う~ん、非常にうがったご意見です。茂木経済産業業大臣や石破幹事長などはそう思っていないでしょうが、一部の政府首脳の裏シナリオにはそれがあるかもしれません。
まず、状況的には崖っぷち一歩手前の判断時期でした。安倍政権が今のような高支持率をバックにしていなければ、このような正面突破は不可能だったでしょう。
民主党が丸2年以上かけてなにひとつまとまらず、党分裂の原因となったことを忘れてはいけません。それを安倍首相は、わずか政権奪取後3カ月でなし遂げたわけです。
私ですら安倍首相は、7月の参院選以降まで「決断」時期を引っ張ると考えていました。聞くところによれば、菅官房長官や麻生副総理もその腹だったようで、首相から15日の表明を告げられて両人とも一瞬絶句したそうです。
それどころか、読売新聞によれば、2月のオバマ大統領との首脳会談の席上で安倍氏は「2月28日に交渉参加を発表します」と言って、大統領側のほうが「ちょっ、ちょっと待って。2週間国内調整に時間をくれ」とまで言ったと伝えられます。
一部のブログで米国が自動車産業の反対で日本参加を拒否しているという説が流れていますが、もし米国がそれを理由に日本を拒絶したならば、いままでの日本に対する圧力はなんだったんだということになり、メンツ丸潰れ、外交的失点はあちらの方です。
とまれこの勢いで、安倍首相は米国に対して事実上の「聖域あり」を呑ましてしまったわけで、そう考えると共同記者会見のオバマ大統領の浮かない顔はそのせいだったかもしれません。
JA全農としては大っぴらには言えないでしょうが、7月参院選までは絶対に「決断」はありえないと読んでいたはずです。
各地の1人区の与党議員はTPP反対で当選したのは事実であり、「違約」で地獄行きと責めたてられるわけで、したがって無理と思っていたからです。
そして引っ張れば引っ張るほど、9月の交渉参加国会合には間に合わず、「タイムアウト、残念でございました、またの機会に」、ということになると踏んでいたはずです。
このような読みに対して、安倍首相は周到でした。今回の安倍首相の「決断」は、時間がかかっているのです。
民主党のように政権をとってからのにわか勉強ではありません。屈辱的な下野時代から、当時与党だった民主党など比較にならない時間をかけたTPP問題の絞り込みをしていました。
この過程でTPPの問題点を徹底して煮詰めており、それが衆院選前に示されたTPP6条件に結実しています。
これが与党となった今、単なる国内向けだけではない交渉条件として諸外国に提示できる最大の材料になりました。
この6条件があってこそ17日党大会において「党一丸参院決戦突入」体制が作れるのであって、それなくしては民主党の二の舞となったことでしょう。
このような党内手続きを踏んだ後は、安倍首相はみずから言い訳にまわる必要はありません。
JA全農会長には挨拶くらいはするでしょうが、個々の選挙区の説得は反TPPを掲げた農村議員が自ら行うのです。
そして、これは単なる与党内部の文書ではなく、選挙公約であった以上、それを信頼した「国民との約束」でもあります。
この「国民との約束」を背景にして、既交渉参加国に対しては、このような確固としたわが国の原理原則があり、背水の陣で交渉に来ている以上、「わが国がゴネれば決まらないぞ、困るのはそっちだろう、WTOみたいにしたいのか」とタンカのひとつも切れる攻勢にでられます。
これが、青空さんがおっしゃるような対外的な「交渉の条件づけ」ができての国際交渉なのです。いままでのわが国がよくやった原則なき国際交渉と本質的に違うのはその点です。
皮肉にも多国間交渉というのは、一国でも合意できなければ御破算ですから、わが国は国益が守れるカードがテーブルに出るまで12月交渉終結を背景にしてゴネまくっていればいいのです。
強いのは日本であり、弱いのは既交渉参加国なのです。
それでなおも「遅れてきたくせに」と既得権を既交渉国の一部が振りまわすのなら、「ではさようなら。日本を入れないで環太平洋自由貿易圏が出来るものなら作ってみてください」とイヤミのひとことも言って粛々と席を蹴っていただきたいものです。
ただし、この交渉の場はあと1回こっきりだと言われています。相当に腹を据えてかからなければなりません。WTOと日米経済交渉を合わせた以上に困難な交渉となるのは必至です。
ひるがえってJA全農は、もはや組合員を動員して圧力をかける方針には限界があることを知るべきでしょう。
9月に最終決戦が控えている以上、TPPに関しては野党で今なお明確に反対しているのは生活と社民、共産しかないわけですから、与党内反TPP派にがんばってもらってTPP交渉を後押しするしかないわけです。
安倍首相はこのJA全農も含めて、国民の圧倒的多数が「がんばって交渉してこい」という追い風を期待していたのです。
国が分裂して国際交渉に出かけて行くのと、一丸となるのは難しいとしても相当部分までもががんばれと送り出す交渉は天と地の違いがあります。
この前回とはうって変わったような安倍首相のしたたかさと強さが、TPP交渉に生かされることを望みます。
■写真 カンボジアで道路を吹っ飛んでいく元気なガキたち。こういうしっかりとした目をもった子供が大好きです。
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■青空様コメント
青空です。
TPP交渉参加を決めたようですね。
自民党が米国のいいなりにならないかを心配する向きはありますが、私は以下の4点があるのでやや楽観しています。
①TPPは参加交渉をすれば途中離脱はできず、致命的な打撃を受けるので、交渉参加イコール参加ととらえる方も多くいますが、条約の交渉途中の離脱権利はウィーン条約でも定められた権利です。
事実日本は従来から条約批准していないものは相当数あります。
日中韓印欧米加豪他との各種貿易協定も交渉開始から既に十年超経っていますが、外交信任失墜という事象は見あたりません。
米国も京都議定書はじめ交渉離脱、批准拒否は日常茶飯事です。
②多国籍条約であるため全参加国の同意承認が必要であること。
いかなる条約も署名、同意成立、そしてそれぞれの国会承認がなければ実効力を持ちませんし、国内承認を得られなかった条約承認は無効にできると国際条約は定めています。当然無効なので損害賠償は発生しません。交渉途中の文書の公開は4年間の非開示義務がありますが、最終文書と条約内容は開示されます。国会での承認が必要なので当然ですが。
日本に取り不利な内容であればそのとき国会否認することは可能ですし、自民党の支持母体、票田を考えれば不利な内容での承認は困難でしょう。
③関税が主財源になっている途上国にとり日本の参加は税収の激減に繋がるため考えの修正が必要になっています。それぞれの国会を通せるかは甚だ疑問です。
TPPは関税と補助金の撤廃を唱っているため米国内の年間1.5兆円の農業補助金も存続の危機になります。
米国国内調整は困難を極めるでしょう。米国の目論見は圧倒的な経済力格差で中小国に対して有利な交渉を進めることでした。しかし日本規模の経済体の参加は調整を複雑にさせ難易度を飛躍的に引き上げます。
私は日本参加によりこのTPPは第二のWTOとなるとみています。つまり永久に交渉を継続し決まらないという形です。
④安倍首相が米国で日本のスタンスをあらかじめ提示したことです。関税撤廃に聖域を設けることが日本の条件と対外発表をしました。これにより日本は条件にそぐわない場合途中離脱することが容易になりました。
つまり途中離脱の大義名分を得る形を提示しておいたのです。途中離脱による外交信頼度の減退を防ぐことが目的でしょう。
というように考察しています。
私は本条約は参加反対派ですが交渉参加は賛成派です。
目的は米国の牽制と条約の無効化で、やや腹黒い狙いからですが。官僚勢も似たことを狙っているのではと期待していますが。
■【安倍総理冒頭発言】
本日、TPP/環太平洋パートナーシップ協定に向けた交渉に参加する決断をいたしました。その旨、交渉参加国に通知をいたします。
国論を二分するこの問題について、私自身、数多くの様々な御意見を承ってまいりました。そうした御意見を十分に吟味した上で、本日の決断に至りました。なぜ私が参加するという判断をしたのか、そのことを国民の皆様に御説明をいたします。
今、地球表面の3分の1を占め、世界最大の海である太平洋がTPPにより、一つの巨大な経済圏の内海になろうとしています。TPP交渉には、太平洋を取り囲む11か国が参加をしています。TPPが目指すものは、太平洋を自由に、モノやサービス、投資などが行き交う海とすることです。世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏が生まれつつあります。
いまだ占領下にあった昭和24年。焼け野原を前に、戦後最初の通商白書はこう訴えました。「通商の振興なくしては、経済の自立は望み得べくもない」。その決意の下に、我が国は自由貿易体制の下で、繁栄をつかむ道を選択したのであります。1955年、アジアの中でいち早く、世界の自由貿易を推進するGATTに加入しました。輸出を拡大し、日本経済は20年間で20倍もの驚くべき成長を遂げました。1968年には、アメリカに次ぐ、世界第2位の経済大国となりました。
そして今、日本は大きな壁にぶつかっています。少子高齢化。長引くデフレ。我が国もいつしか内向き志向が強まってしまったのではないでしょうか。その間に、世界の国々は、海外の成長を取り込むべく、開放経済へとダイナミックに舵を切っています。アメリカと欧州は、お互いの経済連携協定の交渉に向けて動き出しました。韓国もアメリカやEUと自由貿易協定を結ぶなど、アジアの新興国も次々と開放経済へと転換をしています。日本だけが内向きになってしまったら、成長の可能性もありません。企業もそんな日本に投資することはないでしょう。優秀な人材も集まりません。
TPPはアジア・太平洋の「未来の繁栄」を約束する枠組みです。
関税撤廃した場合の経済効果については、今後、省庁ばらばらではなく、政府一体で取り組んでいくための一つの土台として試算を行いました。全ての関税をゼロとした前提を置いた場合でも、我が国経済には、全体としてプラスの効果が見込まれています。
この試算では、農林水産物の生産は減少することを見込んでいます。しかしこれは、関税は全て即時撤廃し、国内対策は前提としないという極めて単純化された仮定での計算によるものです。実際には、今後の交渉によって我が国のセンシティブ品目への特別な配慮など、あらゆる努力により、悪影響を最小限にとどめることは当然のことです。
今回の試算に含まれなかったプラスの効果も想定されます。世界経済の3分の1を占める経済圏と連結することによる投資の活性化などの効果も、更に吟味をしていく必要があります。
詳細については、TPPに関する総合調整を担当させることにした甘利大臣から後ほど説明させます。
TPPの意義は、我が国への経済効果だけにとどまりません。日本が同盟国である米国とともに、新しい経済圏をつくります。そして、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々が加わります。こうした国々と共に、アジア太平洋地域における新たなルールをつくり上げていくことは、日本の国益となるだけではなくて、必ずや世界に繁栄をもたらすものと確信をしております。
さらに、共通の経済秩序の下に、こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にとっても、また、アジア・太平洋地域の安定にも大きく寄与することは間違いありません。
日本と米国という二つの経済大国が参画してつくられる新たな経済秩序は、単にTPPの中だけのルールにはとどまらないでしょう。その先にある東アジア地域包括的経済連携/RCEPや、もっと大きな構想であるアジア太平洋自由貿易圏/FTAAPにおいて、ルールづくりのたたき台となるはずです。
今がラストチャンスです。この機会を逃すということは、すなわち、日本が世界のルールづくりから取り残されることにほかなりません。「TPPがアジア・太平洋の世紀の幕開けとなった」。後世の歴史家はそう評価するに違いありません。アジア太平洋の世紀。その中心に日本は存在しなければなりません。TPPへの交渉参加はまさに国家百年の計であると私は信じます。
残念ながら、TPP交渉は既に開始から2年が経過しています。既に合意されたルールがあれば、遅れて参加した日本がそれをひっくり返すことが難しいのは、厳然たる事実です。残されている時間は決して長くありません。だからこそ、1日も早く交渉に参加しなければならないと私は考えました。
日本は世界第3位の経済大国です。一旦交渉に参加すれば必ず重要なプレイヤーとして、新たなルールづくりをリードしていくことができると私は確信をしております。
一方で、TPPに様々な懸念を抱く方々がいらっしゃるのは当然です。だからこそ先の衆議院選挙で、私たち自由民主党は、「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対する」と明確にしました。そのほかにも国民皆保険制度を守るなど五つの判断基準を掲げています。私たちは国民との約束は必ず守ります。そのため、先般オバマ大統領と直接会談し、TPPは聖域なき関税撤廃を前提としないことを確認いたしました。そのほかの五つの判断基準についても交渉の中でしっかり守っていく決意です。
交渉力を駆使し、我が国として守るべきものは守り、攻めるものは攻めていきます。国益にかなう最善の道を追求してまいります。
最も大切な国益とは何か。日本には世界に誇るべき国柄があります。息を飲むほど美しい田園風景。日本には、朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統があります。自助自立を基本としながら、不幸にして誰かが病に倒れれば村の人たちがみんなで助け合う農村文化。その中から生まれた世界に誇る国民皆保険制度を基礎とした社会保障制度。これらの国柄を私は断固として守ります。
基幹的農業従事者の平均年齢は現在66歳です。20年間で10歳ほど上がりました。今の農業の姿は若い人たちの心を残念ながら惹き付けているとは言えません。耕作放棄地はこの20年間で約2倍に増えました。今や埼玉県全体とほぼ同じ規模です。このまま放置すれば、農村を守り、美しいふるさとを守ることはできません。これらはTPPに参加していない今でも既に目の前で起きている現実です。若者たちが将来に夢を持てるような強くて豊かな農業、農村を取り戻さなければなりません。
日本には四季の移ろいの中できめ細やかに育てられた農産物があります。豊かになりつつある世界において、おいしくて安全な日本の農産物の人気が高まることは間違いありません。
大分県特産の甘い日田梨は、台湾に向けて現地産の5倍という高い値段にもかかわらず、輸出されています。北海道では雪国の特徴を活かしたお米で、輸出を5年間で8倍に増やした例もあります。攻めの農業政策により農林水産業の競争力を高め、輸出拡大を進めることで成長産業にしてまいります。そのためにもTPPはピンチではなく、むしろ大きなチャンスであります。
その一方で、中山間地などの条件不利地域に対する施策を、更に充実させることも当然のことです。東日本大震災からの復興への配慮も欠かせません。
農家の皆さん、TPPに参加すると日本の農業は崩壊してしまうのではないか、そういう切実な不安の声を、これまで数多く伺ってきました。私は、皆さんの不安や懸念をしっかり心に刻んで交渉に臨んでまいります。あらゆる努力によって、日本の「農」を守り、「食」を守ることをここにお約束をします。
関税自主権を失ってしまうのではないかという指摘もあります。しかし、TPPは全ての参加国が交渉結果に基づいて関税を削減するものであって、日本だけが一方的に関税を削減するものではありません。そのほかにも様々な懸念の声を耳にします。交渉を通じ、こうした御意見にもしっかり対応していきます。そのことを御理解いただくためにも、国民の皆様には、今後状況の進展に応じて、丁寧に情報提供していくことをお約束させていただきます。
その上で、私たちが本当に恐れるべきは、過度の恐れをもって何もしないことではないでしょうか。前進することをためらう気持ち、それ自身です。私たちの次の世代、そのまた次の世代に、将来に希望を持てる「強い日本」を残していくために、共に前に進もうではありませんか。
本日、私が決断したのは交渉への参加に過ぎません。まさに入口に立ったに過ぎないのであります。国益をかけた交渉はこれからです。私はお約束をします。日本の主権は断固として守り、交渉を通じて国益を踏まえて、最善の道を実現します。
私からは、以上であります。http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0315kaiken.html
■TPP対策に関する決議全文
自民党のTPP対策委員会は3月13日夜、「TPP対策に関する決議」(本文参照)を採択した。各グループ会合のとりまとめ報告とともに、14日夕の外交・経済連携本部で正式の了承する。
平成25年3月13日
自由民主党外交・経済連携本部
TPP対策委員会
本年2月22日の日米首脳会談の結果、安倍総理とオバマ大統領は、「環太平洋パートナーシップ」(TPP)交渉に関する共同声明を発表し、「聖域なき関税撤廃」が前提でないことが文書で確認された。これは、安倍新政権による日本外交の成果と考えられる。
これを受けて、自由民主党外交・経済連携本部に置かれたTPP対策委員会は、政府並びに関係諸団体等から意見聴取を行うとともに、分野毎の検証作業などを通じ、全党挙げての集中的な議論を行った。これらの結果として、以下の通り決議し、安倍総理に対し、申し入れを行うものである。
1.先の総選挙において、自由民主党は、TPP交渉参加に関し6項目の約束を国民に対して行って選挙戦に臨み、政権復帰を果たした。これらの公約は、国民との直接の約束であり、党として必ず守らなければならない。
このため、政府は、国民生活に対する影響を明らかにし、守るべき国益を如何にして守るかについて明確な方針と十分な情報を国民に速やかに提示しなければならない。また、本年2月27日に自由民主党外交・経済連携調査会で採択した「TPP交渉参加に関する決議」を遵守し、その実現に向けた戦略的方針を確立するべきである。
2.TPP交渉参加については、国民の間に様々な不安の声が存在している。
(1)もし、聖域の確保が達成できなければ、食料自給率の低下、農地の荒廃、担い手の減少などにより、国民に安定的に食糧を供給する食料安全保障が確保できなくなるのではないか、離島や農山漁村地域などにおける社会基盤が維持できなくなるのではないか、また、美しい故郷と国土を維持する多面的機能が維持できなくなるのではないか、との声が大きい。
(2)国民の生活に欠かせない医療分野でも、これまで営々と築き上げてきた国民皆保険制度が損なわれるのではないか、また食の分野においては、食品添加物や遺伝子組換え食品などに関する規制緩和によって食の安全・安心が脅かされるのではないか、との強い懸念が示されている。
(3)さらに、我が国の主権を損なうようなISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)が導入されるのではないか、政府調達、金融サービス等について、我が国の特性を踏まえることなく、国際調和の名の下に変節を余儀なくされるのではないか、といった様々な懸念が示されている。
3.一方、今TPP交渉に参加しなければ、今後、我が国の人口減少・高齢化が一層進む中、アジア太平洋地域の成長を十分に取り込むことができず、我が国がこれまで築き上げてきた国民生活の水準、国際社会における地位を保つことはできなくなるのではないか、との懸念する声も大きい。
また、世界第3位の経済大国である我が国が、アジア太平洋地域における貿易や投資等の経済ルール作りに参加しないことは、この地域における政治的・経済的リーダーシップの低下につながるとの声もある。
さらに、我が国にとって日米関係が外交の基軸であることにかんがみ、今後のアジア太平洋地域における経済連携を進めるに当たっては、TPP交渉に参加して、米国との一層の経済的連携を深めるとともに、守るべき国益の議論のみでなく、交渉において攻めるべき点を攻めていくべき、との大きな声もある。
4.このように、国民の意見が大きく分かれる中で、我が国がTPP交渉参加の是非を判断することは、容易ではない。安倍総理におかれては、岐路に立つ日本の経済・社会が今後進むべき方向を選択するという高い見地から判断願いたい。なかんずく、上記のような様々な意見を十分に尊重され、我が国の自然的・地理的あるいは歴史的・社会的条件、我が国を取り巻く国際環境、経済再生の重要性等を踏まえ、国家百年の計に基づく大きな決断をしていただきたい。
5.なお、仮に交渉参加を決断する場合において、TPPが国民生活に大きな影響を及ぼし得ることから、以下の諸点を確実に実行すべきである。
この場合において、特に、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要5品目等やこれまで営々と築き上げてきた国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする。
(1)政府は、別紙の党内5グループ並びに21作業分野に対する検討チームの取りまとめの内容を踏まえ、2国間交渉等にも留意しつつ、その主張が交渉結果にしっかりと反映されるよう全力を挙げ、交渉の進展に応じ、適時に十分な情報提供を行うこと。
(2)これまで、国内の各産業や各制度については、省庁ごとに個別に交渉することが多かったが、TPP交渉においては、強力な交渉チームを作り、また閣内の連携を強く保つことにより、政府一丸となって国益を十分に実現していくこと。
[結び]
仮にTPP交渉に参加する場合は、国益がしっかり守られ、結果として日本の繁栄につながるよう、政府と与党が一体となって交渉を進めるべく、自由民主党外交・経済連携本部内のTPP対策委員会と政府は緊密に連携すべきである。
また、各国の主張を冷静に見極め、我が国としての主張を効果的に展開していくために、党としても国会議員による議員外交を、戦略的、かつ、積極的に展開してまいる所存である。
以上
(2013.03.14)
■毎日新聞3月15日
安倍晋三首相は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加をにらみ、農地の大規模化や農産物を加工して販売する6次産業化(農商工連携)で農業を立て直す戦略を描いている。しかし、現在の農産品の高関税を永続的に維持できる展望は薄いうえ、関税と補助金で保護してきた農業を「攻め」の成長産業に育てる時間的猶予は最長でも10年前後しかない。近い将来、保護農政の象徴とみられてきたコメの生産調整(減反)の廃止論議などが焦点になるのは必至だ。【川口雅浩】
【首相が会見で】TPP:安倍首相、交渉参加を正式表明 官邸で記者会見
◇減反見直し必至
「世界に日本の特産品を広げていけるよう、従来の発想を超えた大胆な対策を具体化してほしい」。安倍首相は2月の日本経済再生本部で、林芳正農相に指示した。
農水省がこれまで示した対策は、耕作放棄地の解消や農地の集約による大規模化や、食品の生産、加工、販売を一貫して手掛ける農業事業者向けの官民ファンドの支援などだ。官民ファンドを設立し、国内消費と輸出拡大を目指す。しかし、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「減反など国内農業の構造改革なくして本格的な輸出振興は不可能」と話し、減反政策の見直しは必至と指摘する。
コメの減反は、政府が翌年のコメの需給を予想し、作付面積の削減を各農家に指示する政策。戦後の増産で60年代後半からコメの生産が過剰となったため、価格の下落を防いで農家の経営を安定させる目的があった。
しかし、減反に対しては「零細農家を温存させ、農地の集積や大規模化が進まなかった」との批判が強い。高関税で海外から安価なコメが流入しないことを前提にしており、関税が撤廃されれば調整そのものが成り立たなくなる。
自民党のTPP対策委員会は交渉参加の条件として、コメのほか牛・豚肉、麦、乳製品、砂糖を重要5品目として関税を死守するよう訴えているが、TPPに反対してきた農水省の内部でさえ「5品目すべての関税を残せる可能性は低い」(幹部)とみている。
仮にこれらの分野で関税が撤廃された場合、政府は生産農家の所得補償(直接支払い)を行う方針。鈴木宣弘東大教授(農業経済学)は、TPPで関税がゼロになった場合、コメだけで1兆7000億円の所得補償が必要になると試算。他の重要品目を含めると、「毎年4兆円の財政負担が必要になる」と主張している。厳しい財政事情の中で財源をどう確保するのか、新たな議論を呼ぶのは確実だ。
◇農業の貿易自由化◇
戦後、日本は農水産物の市場開放を進めてきた。55年に関税貿易一般協定(GATT)に加盟し、大豆、鶏肉、バナナなどの輸入を自由化。日米では88年に牛肉・オレンジの自由化が決定し、食卓に安価な米国産牛肉が並ぶようになった。86年からはGATTの多角的貿易交渉(ラウンド)がウルグアイで始まり、コメ以外の小麦、乳製品などの輸入制限品目の関税化を決定。
政府は国内農家に与える影響を緩和するため、94~01年に総事業費6兆100億円の農業対策を実施したが、公共事業が過半を占め、「ムダ遣い」と批判を浴びた。その後、世界貿易機関(WTO)で農業交渉が始まったが、各国の利害が対立し、08年に交渉が決裂した。
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