中国新型インフルエンザ事件第10回 WHO福田敬二氏、「これまで見たなかで最も致死性の高いウイルスの一つだ」
■台湾旅行者の感染は、ヒト・ヒト感染している証拠だ
既報のように、台湾で新型インフルエンザの感染が確認されました。
上海と江蘇省に3月28日から旅行し、4月16日に台湾に帰国して3日後に発症したものです。(※1参照)
なお、台湾にも中国からウイルス下部が提供されたそうです。(※2参照)
どのような感染経路なのか分かりませんが、旅行者が生きた豚や鶏と直接接触したことは考えにくいので、市場などの環境中に濃厚にウイルスが放出されている場所で感染したのか、あるいは、これがもっとも疑われますが、ヒトから感染したのではないかと思われます。
だとするならば、これから、このようなケースは確実に急増していくはずです。
(図 BSプライム9 4月25日より参考のため引用いたしました。)
■人口の大量移動に乗せてウイルスは拡散した
中国にはいくつか大量の人口移動が生じる時があります。そのひとつが春節で、今年は2月9日から14日まででした。
その期間には、上海などの大都会に働きに出ている労働者が、延べ数億人(一説では十数億人)規模で農村部へ帰郷します。
今年の新型インフルエンザは2月中旬に発症し、3月にかけて感染拡大しています。この時期との因果関係はあると思われます。
2003年のSARS 流行時には延べ18億人という膨大な人口が、都市部から農村に移動して流行を拡大しました。
今回も、1月中(一説では昨年中)には、既に新型インフルエンザは発生していたと見られており、それが春節の移動時にウイルス拡散したものだと思われます。
そして、次の大量の人口移動は、いうまでもなく4月から5月にかけてのGW期間です。
■死亡例の病状進行ケース わずか8日間で死亡に至る
さて感染染死亡した52歳女性の進行状況を、「日経メディカル」(4月12日)の「中国のH7N9型鳥インフルエンザ、死亡例の臨床像が明らかに」から引用します。(※3参照)
・第1病日 悪寒と発熱40.6度で発症。他の症状はみられず。服薬せず。
・第2病日 救急受診するも投薬のみで帰宅。
・第3病日 胸部X線施行、右下肺野に斑状陰影。抗生剤の経静脈的投与が3日間行われている。咳や呼吸困難は認められず。
・第7病日 咳、呼吸困難の症状が急速に悪化し転院。この時点で急性呼吸不全を伴う「重症インフルエンザを疑われ、気管内挿管・人工呼吸器開始。
・第8病日 抗生剤・免疫グロブリン・ステロイド継続するも状態悪化し死亡。
・第9病日 死後H7N9型感染と診断確定。
■新型インフルエンザだと分かった時には既に手遅れ
同誌によれば、このH5N9型トリインフルエンザの難しさは、初期診断でインフルエンザだと引っかからないことです。
「(死亡例の)いずれもインフルエンザとは認識されずに生理的食塩水の点滴や抗生剤の投与をされているうちに最初の48時間が過ぎてしまっている。
(略)発症から抗インフル薬投与まで7~8日間の時間を要している。初診で診察室に現れたとき、どう疑って診断をすすめるべきか非常に悩ましい。検査キットもまだ無い現状で、ある程度過剰なまで抗インフルエンザ薬の投与ということも致し方ないのかもしれない。」
■台湾は発症症初期に抗ウイルス剤を投与するべきだった
抗ウイルス剤は、ウイルスが大量増殖してからでは効果が上がりません。
まず、発症初期に咽喉をスワブ(滅菌綿棒)で検査して、インフルエンザに感染していたならばウイルス増殖を押さえるために、この段階から抗ウイルス剤を投与します。
中国も、そして大陸と濃厚な交流がある台湾も、これを怠ったために初期の感染拡大阻止のタイミングを逃してしまいました。
台湾は、今まで何度もトリインフルの度重なる全島感染を経験しています。
防疫体制も、大陸ほどではありませんが、私たちから見ればまだまだ甘い。
おそらくは、既にH7N9の侵入は既に始まっているはずだと考えて対応すべきでしょう。
一方、わが国では特別措置法が成立して強制入院や隔離が可能となったことは評価できます。
しかし、未だわが国の識者の反応は鈍く、「感染力も毒性も弱い。感染拡大を慎重に見極めよう」という認識であるのが危惧されます。
■あいまいな「限定的なヒト・ヒト感染」という警告のために対処が遅れた
今回の新型インフルエンザでは、中国政府とWHOから「限定的ヒト・ヒト感染」というようなあいまいな感染警告しか出ていないために、診療した医師はそれをインフルエンザだと疑わないことです。
そのために、初期で叩くべきタイミングを失って拡大させています。
そして、もうひとつ特徴的なのは急激に劇症に突入し、死に至ることです。
多くの場合、抗インフルエンザ剤・タミフルなどの投与をする前になくなってしまっています。ですから、医師が初めから新型インフルエンザだと疑って診断すれば、初診から抗インフル剤を投与するなどして対処できるにも関わらず、的確なWHOからの警告がないために初期対処を誤って死亡させることになります。
■台湾に感染拡大した時点でパンデミック・フェーズは5だ
私がパンデミック・フェーズ5に突入した宣言したほうかいいのではないかと思います 。フェーズ5の要件の最大のものは、「人ひとりの感染がWHOが決める2カ国以上で続く大流行直前の兆候がある」ということです。まさに台湾に拡大した今です。
私にはWHOが何にためらっているのか理解できません。
いくらなんでもありえないとは思いますが、中国はかつて台湾をWHOから追放する画策をしており、今も台湾は「国内」という立場です。WHOも中国の主張を受け入れる形で、加盟国に対し「中国台湾省」と表記するよう求めています。
だから、台湾は「二国」ではないということのようです。(※4・追記参照)
■WHO福田敬二氏、「これまで見たなかで最も致死性の高いウイルスの一つだ」
嬉しいニュースがあります。WHOから、世界的なインフルエンザの権威が派遣されました。福田敬二医師です。
福田氏は米国CDC(米国疫病予防管理センター)の疫学チーフを務めた後に、2005年からWHOに転じて、2009年H5N1型新型インフルエンザ世界的流行時には、事務局長の特別アドバイザーを務めて、現職は事務局長補です。(※5参照)
氏は中国で1週間の調査後、このように述べています。
「中国で感染が拡大している鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)について世界保健機関(WHO)の福田敬二事務局長補は24日に記者会見を開き、「これまで見たなかで最も致死性の高いウイルスの一つだ」と語った。
中国で1週間の調査を行ったWHOのチームを率いた福田氏はまた、H7N9型は鳥インフルエンザウイルスとしてより一般的な「H5N1型よりも伝染性が強い」と述べた。WHOによれば、H5N1型による世界の死者数は2003年以降で360人を超えている。」(AFP4月25日)
ちなみにこのAFP電は、わが国ではなぜかまったく無視されて報道されていません。
■WHOは方針転換するか?
福田氏はジュネーブに帰り次第、この危機感に満ちた報告をすることでしょう。
氏の「H5N1よりも伝染性が強く、今までに見たなかでもっとも致死性が高い」という分析は、氏がかつてのH5N1インフルと最前線で戦った当時者であるだけに重く受け止められねばなりません。
今までWHO北京代表のオリアリー氏が取り続けてきた、新型トリインフルエンザの脅威度を「今のところ珍しい病気が散発的に発生しているにすぎない」と不当に低く見積もり、隠蔽に走る中国当局との過度な協調路線を取る現行方針を覆せるかが注目されます。
GWを控えた今、パンデミックは目前です
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※1 「(感染した)台湾男性はビジネスで蘇州と台湾を往来。直近の蘇州滞在は3月28日~4月9日で、上海経由で台湾に9日戻り、3日後の12日から発熱や発汗、体のだるさなどの症状が出た。16日に入院したが、19日夜から病状が悪化したため、隔離された。いったんは陰性反応が出たが、24日の検査で陽性と確認された」(時事)
※2 「中国での鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染拡大を受け、台湾衛生署(衛生省)は11日、中国から1週間以内にウイルス株が提供されると明らかにした。鳥インフルエンザを含めウイルス株が中国から台湾に提供されるのは初めて。これを受け台湾はワクチン製造に着手する。10年前の新型肺炎「SARS」では、台湾には中国から情報提供を受けるルートがなく死者は約40人に上った。」(毎日4月13日)
※3http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/201304/529990.htm
※4 WHOパンデミンク・フェーズ5
フェーズ5は、WHOが定義する1地域(図4)の少なくとも2カ国で、ウイルスのヒトからヒトへの感染が発生している状況。この段階ではほとんどの国が未感染であるが、フェーズ5の宣言は、パンデミックが差し迫っており、組織やコミュニケーション方法、感染緩和措置の実施を最終決定する猶予が少なくなっていることを示す最も強いメッセージとなる。
・http://www.internationalsos.com/pandemicpreparedness/SubCatLevel.aspx?li=9&languageID=jpn&subCatID=255
・http://k2r-co.jp/Swine-Flu-Alert-5.html
※5 福田敬二 日本人。医師、伝染病学者としてアメリカ疾病予防管理センター(CDC)、及び世界保健機関(WHO)で要職を歴任、特にインフルエンザ対策における世界的リーダーのひとりとして知られる。(Wikipedia)
※ 追記 台湾はWHOにオブザーバー参加していますが、「地域」であって「国」ではないので「他国に感染拡大」ではない、というのがわが国の見解のようてす。
WHO事務局長マーガレット・チャン氏は台湾の総会参加に対して「チャイニーズ・タイペイ(中華台北)」という名称を使うように求めています。http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/21/dga_0429.html
※追記「中国で拡大する鳥インフルエンザ・ウイルス(H7N9型)感染者が台湾で確認されたことについて、田村憲久厚生労働相は「他国にまで感染者が出た」と述べた。日本政府は「台湾の領土的位置付けに関し独自の認定を行う立場にない」としている。そのため田村氏は発言を撤回し、台湾を「他国」とした発言を文書で「他地域」に訂正した。」(産経4月26日)
●上海市、江蘇省、安徽省、浙江省にGWに渡航するのは非常に危険です!できる限り渡航は自粛してください!
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コメント
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青空です。
台湾での発症は衝撃でした。
ビジネス出張で渡航しており鳥、家禽類との接触がなかったとの調査結果が特に深刻です。
人からの感染か、
鳥類の乾燥した糞の飛散からの感染か、
と主に考えてしまいますが、
いずれも絶望感が漂います。
この鳥インフルは鳥類にはどの程度の殺傷力があるのでしょう。
普通の鳥インフルの鴨のように感染しても平然としている種類があるのでしょうか。
特に渡り鳥が感染しても平気なタイプであれば、
日本にも今年か、来年空襲がくると言うことになります。
憶測で語るには情報が足りません。
せめてもの救いは
台湾で感染した方は帰国後130名以上と接触しており、
接触者は監視下にあるようですが、
発症者はまだないとのこと。ほとんどは潜在期間を超過したようなので、人人の感染力はまだ弱いか、特殊な要件が必要なのかも知れません。
調査が進むことを期待するほかありませんね。
しかしなんでこの期に及んでもプレパンデミックワクチンを活用しないのか。
抗体獲得の時間を考えると流行りだしてからでは手遅れなのですが。たしか1000万備蓄していたはずなのですが。
投稿: 青空 | 2013年4月26日 (金) 07時56分