公害大陸中国その10 中国食品モラルハザードの根深さ
中国の病をひとことで言えば、それはモラルハザードではないでしょうか。
モラルハザードは「倫理性の崩壊」あるいは「道徳観の欠落」と理解されてきました。たしかに、前回触れた感染症で死んだ豚やアヒルを河に大量に投棄する、あるいはその病死体を食肉として販売するなどという行為はそれに当たるでしょう。
しかしモラルハザードには、もうひとつの元来の保険用語の意味があります。それは、このような意味です。
「規律の喪失、倫理観の欠如した状態のこと。
危険回避のための手段や仕組みを整備することにより、かえって人々の注意が散漫になり、危険や事故の発生確率が高まって規律が失われることを指す。」
(現代政治用語辞典による)
中国の場合、「道徳観の崩壊」が深く浸透した社会的温床の上に、本来は危機回避のための法律整備や仕組みがあっても、それは名ばかりで、その陰の「隠れた行動」によってかえって危険性が増している状況だと考えられます。
昨年暮れのこと、またしても中国の食の安全が揺らぐ問題が発覚しました。
しかも今回は、ただの中国国内問題にとどまらず、あろうことか日本にも大量に輸出されていることが分かったというおまけ付きです。
中国農畜産業は、おそらく世界最大の農薬と抗生物質、薬剤の中毒的利用者であることは有名です。
新華網によれば、中国環境科学研究院のGao Jixi生態学研究所長はこう述べています。
「中国農民は毎年、4124万トンの化学肥料を使っており、これは農地1ha当たりでは400kgになる。これは先進国の1ha当たり225kgという安全限界をはるかに上回る。
「統計によれば、1985年から2000年の間に、1億4100万トン、1年当たりにして900万トンの窒素肥料が洗い流され、汚染物質に変わった。国の湖沼の75%、地下水の50%が汚染されている。
中国で大量に使われる化学肥料である窒素肥料は、40%が有効に利用されているにすぎない。ほとんど半分が作物に吸収される前に蒸発するか、流れ出し、水・土壌・大気汚染を引き起こしている。
さらに、中国の畜産農場の90%はいかなる環境影響評価も行っておらず、60%は必要な汚染防止・統御施設を欠いている。」(農業情報研究所による)
中国の養鶏場では、飼育の常識を超えた過密飼育をするために、病死する鶏や豚が絶えず、それを防ぐために薬剤、抗生物質などが過剰に投与されています。
そして、先進国基準値をはるかに越える薬を与えられた鶏肉や、病死した鶏肉すら平然と出荷されています。
発覚の発端は昨年11月、中国のニュースサイト「中国経済網」(11月23日)の報道から始まりました。
河南省食肉大手の「山西粟海」が、短期間で急速に成長する品種であるブロイラーに、薬物を過剰に投与していると告発しました。
そしてこの鶏肉は、同社が鶏肉を中国国内のマクドナルドやケンタッキーフライドチキン(KFC)に供給していると報じたため、中国国内で衝撃を呼びました。
中国人も、屋台の店は危ないと承知して用心していても、よもや外資系のファーストフード大手までが危険な食材を使っているとは思わなかったようです。
当初、この事件は、山西省農業庁の調査で「基準に合致している」とされました。たぶん賄賂でもつかませたのでしょう。しかし、そう簡単に幕引きできませんでした。別の業者で火を吹いたのです。
12月18日、今度は中国中央電視台(CCTV)が、別の「六和公司」というマクドナルドやKFCに出荷している養鶏場を調べたところびっくり仰天の実態がバレてしまいました。
その番組では、隠しカメラを持った取材記者が養鶏場の責任者と会話をしているところが映し出されています。
責任者 「(薬剤を与えるから)鶏の死亡は少ないんだ。だから、これからも投与を続けるよ。そうすれば体重はすごく増えるからね。だからオレたちは(投薬期間には)こだわらない。」
記者 「では基本的に薬はやめない?」
責任者 「やめないよ。出荷前日にやめればそれで十分だろ。」
いちおう中国にも投薬禁止期間があって、出荷前1週間は投薬が禁じられています。それを守らないと、肉の中に薬剤や抗生物質が残存して健康に悪影響が出るからです。
例えば、この農場責任者が言っている、「(薬を投与を続ければ)すごく大きくなる」というのは、成長ホルモン剤を指しています。
これは中国で大量に使用されている動物薬剤のひとつで、体重や背丈を司る成長ホルモンの分泌を過剰にすることで、異常な性成長をさせます。
通常ならありえない発達を薬剤によって促進させ、短期間で大きな家畜に仕上げることが可能です。言うまでもなく危険で、わが国では使用が禁じられています。
成長ホルモンを投与された乳牛のミルクを飲んだ子供の胸が膨らんだり、性成長が狂ったというケースが多く報告されているからです。
このテレビ報道によって「速成鶏」の危険性が中国国内でも大きく報じられ、政府はこの養鶏場や加工工場の閉鎖を命じて調査する事態となりました。
KFCは発覚後、いったんは「安全基準を満たしている」との声明を発表したものの、最終的には「検査が不適切だった」と謝罪に追い込まれてしまいました。
これで一件落着かとおもったところ、この話には続きがありました。
この業者たちは日本の業務用食肉として大量に輸出されていたことが分かったのです。
日本は今も懲りることなく、年間400万トンもの食材を中国から輸入しています。水産物、業務用野菜、その加工品の漬け物、調味料、食肉加工品などです。
特にコンビニ、スーパーの弁当や惣菜に入っている中食業務用として大量に輸入しています。焼き鳥、チキンナゲット、から揚げなどですが、それらをこの業者が輸出していました。
中国の報道によればこの出荷先としてマクドナルド、KFC、吉野家、大阪王将などの名が上がっています。
日本の食品輸入体制は国が行うモニタリング検査と、民間検査期間の命令検査、自主検査があります。
しかし検査そのものは輸入量の1割程度を検査するのがやっとです。
しかも、国のモニタリング検査のやり方は、検査ロットをすべて留め置いて検査すべきなのに、流通させて消費者の口に入った頃に結果がわかるという杜撰さです。
さすがに現在、店頭ではかつてのように中国産野菜や加工品を見ることは減ってきました。毒餃子事件以降、危険だという認識が消費者に行き渡ったためです。
しかし、中国現地で冷凍されてしまう業務用食材は、事実上フリーパスで数百万トンも流入していることを知ったほうがいいでしょう。
中国の食の安全問題は、牛肉に絨毯染料のスーダンレッドが使われていたとか、養殖魚介にマラカイトグリーンが検出された、あるいはほうれん草にシロアリ駆除剤が散布されていた、などという表層に浮かび上がってくる問題ではもはやありません。
このようなことはかの国ではおそらく無数に存在します。今後もっとわれわれを驚かす事実がいくらでもわかってくるでしょう。しかし本質は別にあります。
とりあえず表面的には危機回避のための手段である法律はある、しかし見つかった奴がマヌケ、仮に見つかっても地方政府の役人に賄賂をつかませれば逃げおおせる、捕まるのは下っぱばかり、上層部はとっくに大金を持って一族郎党で国外脱出している・・・。
国民が共有すべき「モラル」が消滅し、特権階級は富を独占し、国民もまた法など眼中になくこぼれたわずかな富にしゃぶりつこうと狂奔しています。
このような法なき人治の国、希望なき大国に「安全な食」など存在するわけがありません。
■写真 河にそった桜道。眠くなるような午後。
« 週末写真館 桜の季節 | トップページ | TPP 林農水大臣「サインだけしなければならないなら、席を立って帰ってくる」 »
「中国環境問題」カテゴリの記事
- 中国大気汚染黙示録 その4 越境汚染(2015.12.18)
- 中国大気汚染黙示録 その3 驀進する巨大複合汚染体(2015.12.17)
- 中国大気汚染黙示録 その2(2015.12.16)
- 中国大気汚染黙示録 その5 石油派vs環境派 最強・最弱対決(2015.12.19)
- 中国大気汚染黙示録(2015.12.15)
コメント
« 週末写真館 桜の季節 | トップページ | TPP 林農水大臣「サインだけしなければならないなら、席を立って帰ってくる」 »
スーパーなどでの購入なら選択の余地はありますが、ファーストフードで使用されていたら、余地はなくなります。
知らず知らずのうちに食べているのでしょうね。
定年が近くなった私達は良いとしても、これからの子供たちや若者への影響が危惧されます。食の安心・安全・・・と言っても、都会に住む人たちには、実感しない事かも知れませんが、我が身が徐々に蝕まれている事も認識する必要があると思います。
全中・全農など農業団体もPRする必要がありますが、身内でやると誤解される可能性もあり、中々に難しい所ではあります。
投稿: 北海道 | 2013年4月 1日 (月) 13時01分
ファーストフードで使用されていたら、余地はなくなります。
>>>>ファーストフード産業は、顧客の勘違いや知識不足に、じょうじて、商売をするところなので、生産者や消費者の安全、安心の気持ちなど、解っていても、わざと無視して、売り上げ至上主義に徹しておられます。
ステーキハウスチェーン店で、目玉安値ランチの食材が、結着肉やインジェクション肉であり、見た目の霜降りも、柔らかさも、人工的に作り出したもので、原料が、動物園の肉食獣にも使われるレベルのくず肉であることは、決して、言わない。
本来、そういう加工肉は、その旨、消費者も承知で、選択できれば、消費者としては、ありがたいし、余命の少なくなり、小食になった自分や、成長期に、まがい食品を、知らずに食べ続ける、孫立ちの世代には、少なくとも、長期摂取で、病気にならないものを、祖父が、金銭的に援助してでも、食べさせたいです。
流通の正義感を感じることが、出来る構造が、正直、ほしいです。(この正義感とは、加工食品のメリットである価格の情報より、加工品ゆえの安全レベルの低下について、正直に公表してほしいだけです。)
そういう見た目販売行動や売り上げ至上主義商魂を、きちんと、国民が理解した状態で、食材を選べる環境であれば、ミンチ肉同様、えたいの知れない食材を、お財布加減で、考えながら、月に何回かは、価格が高くなっても、正直でまっとうな生産者から直送される食材を、給料でまかなえる範囲で、購入すると思うのですが。。
ある意味、発展途上国でのドライブインでの食事は、蛙の足だったり、ワニ肉だったりしても、本物なので、衛生上の問題が無ければ、実に、健康食であり、本来の安心な食材なのかも知れないと思ってます。
HACCP(ハサップ).など、社内自主基準など、誤魔化しとうそで固められた食材は、そのことを、理解して、選択したいと思ってます。
投稿: りぼん。 | 2013年4月 2日 (火) 12時04分
モラルハザード問題とはよくいったもので,元々中国は道教を生み世界の中心に恥じない道徳観念文明を完成させた国。古代でも諸葛亮の「三分一計…」等で判るように決して自己利潤最優先でなく天下太平のバランス努力こそ人間が最も尊ぶべき、と指針を示しその思想は我が国の聖徳太子や古の聖人偉人も未だ安泰望めぬ古代の世を統べる手法として影響されているが、西洋式物質重視文明が近代以降優勢になると昔の遺徳が情けない程に崩壊しました。これは食材産業、環境産業に限らず全てが現時点のビジネスモデルから脱却改善する必要があります。我が国も例外でありません。折角ネット社会でwikiリークス宜しく万人が告発そして糾弾の機会が得られている内に、日韓や台湾、香港、環中民族の諸氏はガンガン民事運動を繰り返し、そして大陸内部の道徳改善を呼び掛けよう。それが古の聖人偉人の遺した貴い道徳文明を蘇えらせ守り継ぎ、報い供いる事になる
投稿: 名無し老子 | 2013年7月28日 (日) 01時53分
秋。時は満ちた。秋風5丈原で司馬懿仲達に死期を読まれ没した諸葛亮孔明と同様に、ノストラダムスやマヤ歴の滅亡予言免れた人類に最期の宣告をするのだ。孔明の子孫の中原人が。
投稿: 中原大陸的公司 | 2013年9月 2日 (月) 11時27分
http://bewithgods.com/hope/etc/etc-11.html
程度問題だと思いますが、実際、中国国内自治区では、中華思想として、漢民族同化政策が、着実に取り入れられています。
毎年、内陸自治区から、3月末の飛行機搭乗者や長距離汽車利用者を見れば、ほとんど、少数民族が、西都などへ、留学補助金をもらっての若者が、今でも多いです。(税金を使って、民族浄化をする国ですから)
中国人に対して、そういう人権意識の国ですから、たかが、家畜や食品の不適切な薬品汚染など、たいした社会問題では、ないのではと思います。(個人的感想です。現地で、何人かの少数民族や、入域証がないと、外国人が、入れない、内陸自治区で、直接、聞いた話です。)
もちろん、中国公安警察の居ない環境でしか、聞くことは、出来ませんし、観光ガイドなどは、そういう人権問題発言を、地方役人に、聞かれると、観光業免許など、強制的に、取り上げられるようです。
このような内国政治を、未だ、行っている国ですから、彼らには、成長ホルモン剤の効能とリスク(ハザードかもしれません)は、内陸部人民には、理解されないと思います。
外国人入域自治区では、北京語は、正しく伝わりません。
中国国内でありながら、地域方言を通訳できるきちんとした通訳を同行させないと、本当のことは、解らない国が、中国です。大体、自治区内の観光地域以外では、北京語の看板が、少ないです。結構、アラビア語など、北京語以外の看板が、多いですね。
この手の中国独特の国内法や慣習を、情報として、得ることは、非常に、難しいですね。
少数民族の扱いが、この程度ですから、家畜や野菜などの過剰な薬品投与など、危険性を、きちんと、認識できないのが、実情でしょう。
自分は、チベット自治区の漢族の管理者の居住する青海省の高級地方官僚に、ご馳走して、聞きだしました。
ラサは、少数民族衣装を着た公安警察や修行僧が、多くて、ほとんど、本当のことを、教えてもらえませんでした。
なお、日本にも、良い影響を与えた道教など、文化大革命以降は、ほとんど、忘れ去れているように、感じました。
ラサの空軍、陸軍での、人民解放軍の影響力は、すごいです。
高速の水陸両用の装甲車など、近代兵器は、日本より、優れているかもしれませんし、車両数は、日本の自衛隊の数倍は、楽にありますね。
地方政府役人の子供は、カナダ国籍が、流行のようです。
TPPの関税問題より、非関税障壁である、安全、安心の担保が、得られない中国産食品は、日本に、輸入されないことを、強く望みます。
実際、ラサ市は、上水道も、下水道や浄化槽など、必要なインフラが、ほぼ、ありません。外国人向け、高級ホテルでさえ、まともに、お皿を洗う習慣がありませんから。。
日本向け輸出加工食品は、検査用として、検査専用のものが、流通しながら、未検査加工食品が、日本に、大量に、輸出されているのが、実態ですね。
投稿: りぼん。 | 2013年9月 2日 (月) 19時19分