TPP 林農水大臣「サインだけしなければならないなら、席を立って帰ってくる」
林芳正農水大臣は、安倍政権でTPP推進派の甘利氏や茂木氏と折り合いが悪いのではないでしょうか。
かつて2月12日に、林農水大臣は自民党の政権公約は、「自民党の公約には、『聖域なき関税撤廃を前提とする限り交渉参加に反対する』ということ以外にも、5つの項目を掲げている」、と改めて表明しています。(資料1参照)
どうも日米首脳会議以降、マスコミは「聖域なき関税撤廃」ばかりを前面に押し出しています。困ったものです。
このブログでもかなりしつこく言ってきているように、自民党政権はTPP交渉参加について政権公約で6項目の判断基準を全てクリアできなければ、TPP交渉に参加しない、そう公約したのです。(資料2参照)
ところが、短絡的に「聖域」=重要品目=関税5品目ばかりが関心の対象になってしまっています。
また、林大臣は交渉参加についても多くのマスコミや政治家が、「バスに乗り遅れるな」といわんばかりに、「今交渉参加できなければ交渉内容がわからなくなる」と騒ぎ立てていることに対して、こう言っています。
「TPPは『貸し切りバス』であり、日本が入らないとバスは出ない」。(資料3参照)
これと同様の、「日本というTPP第2の経済大国が参加しないTPPなどありえない」という発言を、昨日3月31日のNHK日曜討論でした時には、思わず見ていた私もオッと叫んで膝を打ってしまいました。
「日本としては年内妥結にこだわらず交渉に取り組む考え」であり、「市場アクセスの分野はまだ何も決まっていないという情報がある。決まっているものにサインするだけならば、その場で席を立って帰ってくることだって視野に入れてやればいいわけで、しっかり交渉力を行使していかなければならない」
(資料3、4参照)
この「その場で席を立って帰ってくる」という発言は、反TPPの論客で有名な鈴木宣弘東大教授が「交渉は9月で最終回ではないか」と問うたことに対する返答の中に出てきます。
鈴木さん、勢い込んで大臣から言質をとろうとして大臣からいなされていましたね。お気持ちよく分かります(笑)。
私も実は鈴木教授と同様の認識を持っていました。あと1回の交渉で、ほとんどが決まっていることを呑まされる可能性があると考えていたわけです。
これに対して゛林大臣は落ち着いた口調で大意こう述べています。
「TPPの22項目中2つしか妥結していない現状であって、そもそも去年11月をめどに終結のめどといいながらまったく進展していない。あと2回で交渉がまとまるわけがない。わが国が参加しても、すべてが決まっていることをサインだけして帰ってくることはありえない。」
まさにそのとおりです。あせって交渉する必要などまったくないのです。
日本はTPP参加国の大部分の国と経済連携協定(EPA)を結んでいます。つまりTPP参加国のほとんどの国と自由貿易枠組みは出来ているわけです。
ただ自由貿易協定予定がない国がふたつあります。それが、米国とニュージーランドの2カ国です。
つまり、本来ならば米国とニュージーランドの2カ国間で個々に自由貿易協定を結んでしまえばいいのであって、なにもこんな11カ国などという枠組みを作る必要はありませんでした。
しかしわが国が3.11に遭遇してしまったためと、民主党政権が年中行事の内部分裂を起こしたために、TPP交渉参加の意思決定が大幅に遅れてしまいました。
その間に中国との厳しい政治的緊張関係が生まれてしまったことで、経済問題だったはずのTPPに新たな安全保障上の課題が生じてしまい、日米関係の強化のために米国主導のTPP枠組みに参加を余儀なくされてしまったのです。
対中国との関係がなければ、わが国にとって経済的にはTPPなどどうでもよかったのです。
あくまでもTPPに日本を入れたいのはオバマ大統領のほうであり、わが国にとって利害はまったくといっていいほどないのです。はっきり言って安保をカタに取られたのです。
ですから、わが国は「バスに乗り遅れる」ことなどまったく心配する必要はありません。
TPPというバスは林大臣がいみじくも言ったとおり日本の「貸し切りバス」なのですから、納得がいくだけわが国の利害得失を並べ立ててわが国をTPP交渉に招いたことが、エライことだったと思わせたらいいのです。
そして、林大臣の言うとおり、今年9月どころかズルズルと3、4年先まで交渉をやって米国のみならず政府内の推進派の諸公のうんざりする顔がみられるまで引っ張ってしまいましょう。
林大臣にぜひこのようなタフネゴシエーターになって頂きたいものです。
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■資料1 農相 TPP参加は公約確認後
NHK2月12日
林農林水産大臣は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、関税の撤廃に例外が設けられるかどうかに加え、食の安全安心に関する基準を守ることなど、自民党が先の衆議院選挙で政権公約に掲げたすべての点を確認できなければ交渉に参加するのは難しいという認識を示しました。
TPP交渉を巡っては、安倍総理大臣が、今月8日の衆議院予算委員会で、今月下旬に予定されている日米首脳会談で関税の撤廃に例外を設けられるかどうか確認したいという考えを示しています。
これに関連して林農林水産大臣は、12日の閣議のあとの会見で、「自民党の公約には、『聖域なき関税撤廃を前提とする限り交渉参加に反対する』ということ以外にも、5つの項目を掲げている。
5項目の判断基準に反することが明らかになった場合には、TPP交渉への参加は難しくなると思う」と述べ、関税の撤廃に例外が設けられるかどうかに加え、食の安全安心に関する基準や、国民皆保険制度を守ることなど、自民党が先の衆議院選挙で政権公約に掲げたすべての点を確認できなければ、TPP交渉に参加するのは難しいという認識を示しました。
■資料2 自民党のTPP交渉参加の判断基準
(1)政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
(3)国民皆保険制度を守る。
(4)食の安全安心の基準を守る。
(5)国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
■資料3 TPP交渉参加、参院選前の表明に難色 林農水相
朝日新聞 1月18日
林芳正農林水産相は、米国のルース駐日大使に、環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加表明は7月の参院選前は難しいとの見通しを伝えたことを、18日あったBS朝日の番組収録の中で明らかにした。林氏は大使と15日に意見交換し、「参院選が非常に重要で、人口が少ない31の選挙区(1人区)が勝敗を決すると伝えた」と言い、参院選前の参加表明の難しさを示唆したという。
林氏は収録で、「TPPは『貸し切りバス』であり、日本が入らないとバスは出ない」とも語り、急ぐ必要はないとの認識を示した。TPPの経済効果についても「(関税が25%の)トラックも、日本企業はすでに米国に工場がある。関税ゼロになったからといってまた日本に工場造って輸出する企業がどれだけあるか、議論しなくてはならない」と否定的な見方を示した。
■資料4 TPP、年内妥結にこだわらず NHK番組で林農相
共同通信 3月31日
林芳正農相は31日のNHK番組で、環太平洋連携協定(TPP)交渉で米国などが年内の合意を目指していることに関して「スケジュールに合わせなければいけないという意識が強すぎる。国益が満たされない場合、もう少し議論しようと主張していい」と述べ、日本としては年内妥結にこだわらず交渉に取り組む考えを示した。
交渉で日本の主張が受け入れられない場合「その場で席を立って帰ることだって視野に入れてやればいい」と述べ、自民党が「聖域」とする重要品目が守れない場合、交渉脱退も辞さない姿勢を強調した。
■資料5 TPP、年内妥結にこだわらず NHK番組で林農相
共同通信3月31日
林芳正農林水産相は31日午前、NHKの番組に出演し、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題について「(国益を守れない場合は)席を立って帰ってくることを視野に入れればよい」と述べた。コメや砂糖などを「聖域」として関税撤廃の例外扱いとする目標を達成できない場合は、交渉からの撤退も検討すべきだとの考えを示した発言だ。
林農水相は「『最後はサインしなければいけない』ということはない」とも語り、日本が得る利益が小さければ、合意に加わらない選択肢もあると指摘した。
■資料6 林農水大臣がTPP交渉で年内妥結こだわらず交渉に、国益を守れないなら撤退を視野に
NHK 3月31日
農相「関税撤廃の例外訴えたい」
NHKの「日曜討論」で林農林水産大臣は、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、関税撤廃などのルールはまだ決まっていないとして、参加国との交渉の中でコメや麦などを関税撤廃の例外とすべきだとする日本の主張をしっかりと訴えたいという考えを示しました。
政府は、TPPに参加した場合に農林水産物の生産額が3兆円減少するとした試算を公表しており、自民党はコメや麦などの5品目を関税撤廃の例外とすることを最優先に交渉に当たるべきだとする決議をまとめています。これについて林農林水産大臣は、「TPPの参加国の中で、日本はアメリカに次ぐ大きな国だから主体的に交渉をやっていくという意識を持たないと交渉にならない。われわれが交渉がまだだといえば延ばしていけばよい」と述べました。
そのうえで林大臣は。述べ、参加国との交渉の中で、コメや麦などを関税撤廃の例外とすべきだとする日本の主張をしっかりと訴えたいという考えを示しました。
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コメント
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私も林農相は、頭のキレがよく聡明な方だと思います。
しかし、彼が2・3年後も農相でいるかどうかは、なんの保証もありません。
また、秘密交渉で国民に情報が開示されないTPPにおいて、状況に応じて離脱することを国民が意思表示する機会は、おそらく、現実には与えられないでしょう。
何も明らかにならないまま締結され、締結後に気づいても遅かったというのが、米韓自由貿易協定や北米自由貿易協定で明らかです。
参加後離脱などというのは、推進派に騙されているに等しいと思います。
その土俵にのってしまった今、TPPの先行きはとても厳しいと思います。秘密交渉のうえに、マスコミにはTPPのチェック機能はほとんどありませんから・・・。
林農相のような天秤にかけてTPPにのぞむ閣僚は少数で、交渉がどうなろうと参加ありきの甘利氏や茂木氏ような方が、当事者の閣僚では多数でしょう。
投稿: 南の島 | 2013年4月 2日 (火) 12時59分
正直な所、政府を信じ切れていない所も有り、楽観視していて良いものかどうか悩んでいるといった状況です。
そして、一般国民の方々についても、どこまで知っているやら知らないやら・・・・
何とも中途半端な気持ちでいます。
今、しなければならない事・・・
農畜産物の質と量をしっかりと、届ける事しかないのかな?勿論「安心・安全」は担保しての話ですが。
後は、生産に掛るコストをどこまで下げられるかが、キーとなりそうです。
全農からは何も反応は有りません・・・
投稿: 北海道 | 2013年4月 2日 (火) 23時37分