再生可能エネルギー・送電線奪い合い始まる 孫さん、自分で送電線敷きなさいよ!
やはり、再生可能エネルギーの普及にとって送電網がボトルネックとなっているようです。
菅元首相の盟友である孫正義社長率いるSBエナジーも、北海道電力から接続を拒否された模様です。(※参照)
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-20a5.html
私は再生可能エネルギー法が通過する前から、再生可能エネルギーにも立派にバックエンド(※参照)問題が存在すると言ってきました。
福島事故後、原発の問題点として廃炉にかかる膨大なコストや、被害賠償コストなどのバックエンド・コストが電力会社の総括原価方式では費用として計上されていないことが大きな問題とされました。
まったくそのとおりなのですが、ではそれに替わると主張された再生可能エネルギーではバックエンド問題がないのかといえば、当然ですがあります。しかもハンパではなくあります。
発電所で作られた電気は、貯めておくことができません。(※参照)電力会社は所有する送電網を通って消費地に届けようとします。要するに、送電網がなければ、いくら電気を起こしてもなんにもならないということです。
なにを当たり前のことをと思われますが、再生可能エネルギーは幾つかの理由で既存の送電網に接続することが難しいのです。
ひとつは私が再三取り上げてきた再生可能エネルギーが、晴れたら発電しすぎ、雨ならゼンゼンだめという定常性のなさです。これについてはしつこく書いていますので、過去記事をお読みください。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/jaxa-a7dd.html
そしてもうひとつは、既存の送電網不足のために接続を拒否されるケースが増えると予想しました。やはりそのようなことになっているようです。(※参照)
たとえば「毎日新聞(13年4月12日)には今の現状をこう報告しています。
「津軽海峡を隔てて青森県・下北半島と向かい合う北海道函館市に、巨大スピーカーのような三つの建物がそびえる。「Jパワー」(電源開発)の海底ケーブルの端末だ。東京電力福島第1原発事故後の電力逼迫(ひっぱく)時、ここを介して北海道と本州間で電気を融通し合った。ところが、ここが再生エネ拡大の「ボトルネック」となっている。」
この記事にある北海道と本州間の接続が最大のネックだということは、かねてから予想されていました。
というのは、メガソーラー発電事業者は再生可能エネルギー発電の最適地である本州北部と北海道に殺到するのは当然予測しえたことでした。
蓋を開けてみたら全国の太陽光発電のうち、実に3割が北海道に集中してしまったというのですからハンパではありません。
北海道に集中したのは、発電業者が土地の安い北海道に目をつけたことがあるのはたしかです。
太陽光発電の買取価格は全国一律で42円/kWhな以上、土地代を安く上げればコストは大きく下がって儲かるという仕組みです。
そのために、北電の設定した買電枠2メガワット分は早くも1年目で受け入れ可能量を越えてしまって、接続拒否とのことで、切り捨てられた業者は不満たらたらです。
孫社長など「日本の再生可能エネルギーはここでストップしてしまう」と、いかにも「愛国者」らしい大見得を切って見せました。
ちなみにSBエナジーのメガソーラー基地は、帯広と苫小牧にあります。
※http://www.softbank.co.jp/ja/news/sbnews/sbnow/2012/20120213_01/
というのは北海道や東北はズバ抜けて「発電埋蔵量」とでもいうべきポテンシャルが大きいのです。
下図をご覧ください。これは風力ですが、グラフの左端が北海道です。
これを見ると風力の「埋蔵量」は、青森県、北海道、鹿児島県、福島県、静岡県、秋田県、鹿児島県などが適地となっています。
これらの県は平均風速6.7メートル/秒以上の条件を備えており、しかも、大面積の用地買収が容易だからです。
風力だけではなく、全国のメガソーラー(1000kW以上の太陽光発電)設置の半分が北海道に集中し、発電事業者が送電網に接続できる希望量が限界に来ていることからも分かるように太陽光にとっても北海道、東北は魅力ある地域なのです。
しかしここに大規模な風力発電所を導入しても、北海道や東北だけでは作った電力を消費しきれませんから、結局のところ工業地帯のある関東地方にまで電気を輸送するには、南北に串状に基幹送電網を新たに建設せねばならないということになります。
(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構・NEDOによる)
※都道府県別の風力発電設備導入状況。棒グラフは出力合計、線グラフは発電設備の数を表す。http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1209/14/news125_2.html
具体的にいえば、大規模な風力発電の展開が可能な地域の北海道北部名寄地区、東北の下北・津軽半島、秋田沿岸、酒田・庄内(山形県)地域などからの送電網や海底ケーブルの新設が必要となるというわけです。
ところが我が国が送電網を作るとなると、平べったいフランスなどとは違い、海を越え、険しい山谷を越えてエンヤコラと送電ケーブルや海底ケーブルを敷かねばなりません。建設費用は覚悟してください。
試算として出ている数字としては、生産地の北海道と本州を結ぶ北本連系線などの基幹送電網が1兆1700億円かかるとされています。(北海道電力、東北電力の試算による)
というわけで、いま、この再生エネルギーのための送電線不足が焦点になっているようです。
要は、いくら発電してみても送電量オーバーなのですからどうしようもない。「では誰が送電するの?」という話です。
「環境省などの試算によると、北海道には太陽光と風力による発電を開発する余力が約2850万キロワットあるとされる。毎冬500万キロワット台の道内ピーク電力を補って余りあるが、海底ケーブルの容量は60万キロワットしかない。発電所をいくら増やしたとしても、この容量を超えて本州の消費地へ送ることはできない。」(同)
経産省も、北海道・東北地域内送電網整備として、3100億円を投入する枠組みを作ろうとしています。
現在のところ、Jパワーは90万キロワットへの増強も検討しているが、再生可能エネルギーの発電ポテンシャルは北海道だけで2850万キロワットだそうですから、それでもまったく足りないのは明らかです。
では誰が新たな送電網を作るのかというやっかいな問題につき当たります。送電網は莫大な建設コストを要求するからです。
法律的には、電力会社に接続が義務づけられています。しかしこのような逃げ場も作ってあります。
「円滑な供給の確保に支障が生ずる恐れがある時」には接続拒否できる特例が儲けてあります。
ドイツがそうであるように、天候がよければ太陽光はガンガン発電し、強風ならば風車はズンズン回る・・・、のはいいのですが、送電網や、変電所の許容量を上回ってしまえば拒否するしかありません。受け手の送電線や、既存の発電所群が不安定になってしまいますからね。
そこで、送電網側はこの特例条項を楯にして拒否するわけです。、
しかし一方、発電側からすれば、送電網の実際の許容量がどれぐらいあるかの情報は、送電網を管理する電力会社が持っていて、公開されていないという不満もあります。
この毎日新聞記事には、都内のある太陽光事業者が、昨年12月に1000キロワット弱の発電所を計画して、電力会社に申請したところ、「既に2件の申請があり容量オーバー」と拒否されたということもあるそうです。
この太陽光発電業者は、たかだか1000キロワット弱で本当に不安定になるのか、外部からは検証できない。おかしいじゃないか、と怒っているそうです。
こんな話もあるそうです。同記事によれば、九州を中心に太陽光発電などを展開する芝浦グループホールディングスの新地哲己会長によれば、福岡県みやま市でメガソーラーを計画し、近くの変電所まで送電線の敷設を九州電力に申請したそうです。
ところが、「半年以内に敷設したければ、明日までに約2億円を振り込むように指示された」といいます。
指示通りこの会社は支払いましたが、「金額は言い値。断る理由も勝手。接続できるかは電力会社の気持ち一つだ」とのこと。
なるほど、九電からすれば、そんな不安定なものを持ってこられてはたまらんという気持ちがありありで、嫌がらせまがいのことになってまったのでしょうか。
まぁ、毎日新聞の記事では電力会社が悪役にされていますが、買電側からすれば、できるならこんな文字通りのお天気屋に付き合いたくないというのが本音でしょうね。
メガソーラーや大型風力にはバックアップ火力をつけねばならず、その出力調整だけで大変な思いをしている上に、そんな電力会社の苦労も知らずにFIT価格で超高額買い取りをしてもらっているのに、その上に巨額な送電網まで敷けって、冗談もほどほどにしろというのが電力会社の偽らざる声です。
しかしいくら新規発電会社が怒っても、発送電分離していない現状では送電網を所有している側が圧倒的に有利な現状には変わりありません。
経産省としては、風力関係の民間事業者が過半を出資し、残りは一般電気事業者が出資するSPC(特定目的会社)を設立し、風力発電事業者が支払う利用料で投資を回収する計画を検討中とのことです。
ただこのようなわざわざ辺鄙な場所にある再生可能エネルギー発電所に送電網を引っ張る奇特な企業が現れるかはなはだ不安なので、呼び水として国が総事業費3100億円の半分を補助することも考慮しているようです。
とりあえず経産省は、2013年度予算案として、250億円を要求しているようですが、そのような予算額ではまったく不足。なにせ1兆1700億かかると今までさんざん送電線を敷いてきたプロの送電屋の電力会社が言うのですから。
よく安易に発送電分離が特効薬だという人が絶えませんが、ならばその接続拒否されて怒っている業者が自分でやればいいじゃないですか。止めやしません。
私が見るところ、そのようなSPC(特定目的会社)が現れるどうかさえわからず(なにせ送電事業は儲かりませんから)、仮に現れてもそれで必要な送電網のどれだけをカバーしていけるか不透明なように思われます。
孫正義社長はたぶん、安い太陽光パネルで電気を作りさえすれば、FIT(固定価格全量買い取り制度)でバカ高く売れると考えていたのでしょう。
ですから送電網などは初めは意識になかったか、仮にあっても電力会社が作ってくれるもんだろうていどで参入したはずです。
ところが、待っていた現実は電力会社による接続拒否でした。
ならば、そうです。「送電事業にはうまみがない」」(「孫正義のエネルギー革命」)などと言っていないで、ご自分でSPCを作って送電鉄塔と海底ケーブルも敷いたらいかがでしょうか。携帯電話の基地局を作ると思えばいいじゃないですか。
そうして頂かないと、孫社長のような身勝手な要求を通すとなると、新たに送電網と海底ケーブルを巨額なコストで電力会社が負担して敷設せねばなりませんが、そのコストは結局電力料金の値上げという形で消費者に転化されるはずです。
私は孫社長の金儲けの尻拭いをするなどまっぴらですね。
それがイヤならば、発電コスト自体を下げるために原発の再稼働をせねばなりません。
原発はライフサイクルでみれば決して安い電源ではありませんが、現時点ではプラント建設が終了していますから、有利なことはたしかです。
さぁ、どちらを選びますか?頭が痛い問題かまたひとつできましたね。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-9dc0.html
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※バックエンド 原子力発電所で、燃料製造・発電所建設・運転などの「フロントエンド事業」に対し、原子 炉の廃炉費用や放射性廃棄物の処理、核燃料サイクルにかかわる事業を「バックエンド事業」と呼んでいます。
※経済産業省は再生可能エネルギー発電支援として、現在電力会社が保有する変電所に、数万kW級の大型蓄電池を設置する実証事業に着手することも表明しています。
※オーバーしたのは2メガワット以上の大規模な設備の枠だけで、0.5メガワット~2メガワットの申し込み枠については許容範囲に納まりました。
※メガソーラー建設中止も 北海道でソフトバンク
産経 5月21日
北海道電は4月、固定価格買い取り制度導入に伴う大規模な太陽光発電の受け入れは出力2千キロワット以上で40万キロワット程度が限度と発表。天候で出力が変わる太陽光発電の割合が増えると電力供給が不安定になるためと説明していた。北海道電によると、2千キロワット以上の売電申請は4月末時点で87件、156万8千キロワットに上り、7割以上が実現困難な見通しとなっている。
ソフトバンクの孫正義社長は16日、東京都内で開かれた会合にビデオメッセージを寄せ、「北海道電力だけでなく他の電力会社も同様に上限を設け拒否する構え。日本の再生可能エネルギーはここでストップしてしまう」と批判していた。
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もう10年以上も前になりますが、人気番組だったNHK「プロジェクトX」で、国内風力発電のパイオニアとなった立川町(現庄内町)を取り上げた回があったので、ご覧になった方も多いかと思いますが、
番組の性格上、田んぼと風以外に何も無かった寒村が様々な難問を乗り越えて成功を掴むというイイ話に仕上がってました。
冬は安定して強い北西風が吹き、夏場は清川ダシと呼ばれる最上峡から庄内平野に東風が吹き抜けるという抜群の立地条件です。人口も少ない。
しかし、現在も立川ウインドパークとして稼働し、周辺にはハーブ園なども整備され道路アクセスも良い(真冬は地吹雪でヤバい!)のですが、その後風車は増えていません。
設置費用・メンテナンス・バードストライクといった諸問題もありますが、最大のネックは、やはり送電網です。
震災後になってからマスコミは電力会社こそ悪者のように書き立ててきましたが、誰が整備するんだと。
現状、私は金額が桁違いになることでしょうがケータイに上乗せされてるユニバーサル料金のような形を取って徴収するか、発電事業者が少なくても近くの幹線まで自力で引っ張るしかないと思ってます。
孫さんみたいな大資本なら、場所も比較的良いところばかり選んでFITでホクホクなんだから、本気ならそのくらいはやるんじゃないの?くらいに思ってましたが、どこまでも強欲なようですね。
話が逸れました。
当時のテレビでは簡単に触れただけでしたが実際に法整備も全く無い時代で、東北電力は大反発。県庁(今は知事も代わって電力の地産地消なんて言って赤字補助金ダラダラ。しかも地域の離れた酒田市北部の火力発電所周辺です)や地元財界もほとんどが反対で、良い噂は全くありませんでした。
ちなみに東北電力(子会社)では、立川町奥地の山で冬季の送電線点検中に痛ましい遭難死亡事故も起きてます。
投稿: 山形 | 2013年5月24日 (金) 07時19分
北海道では今日の記事の通りだし、以前コメントしましたが、家畜糞尿による「バイオガス」発電も同様に送電の課題があり、スムーズには事が進んでいません。
私の家の近くの廃校になった小学校のグランドに、東京の業者が町と契約し、太陽光発電設備をする予定でした。
敷地の一部には大木も有ったのですが、全て切り倒しフラットな土地を準備しましたが、中々設置されないので問い合わせたら、計画は頓挫したようです。
理由は発電された電気の買い取り拒否(記事に有るように送電?)なのか、業者の資金不足かは判りませんが、結果として平らな土地が残されただけになりました。(ただ、土地の端が傾斜になっていて、雨が降ると道路に泥水が流れて来るようになり、その度に車が汚れてしまいます)
震災を発端にもたらされた別な被害なのでしょう・・・
投稿: 北海道 | 2013年5月24日 (金) 21時26分
一年前から日経新聞を読み、再生可能エネルギー関連の記事は収集していますが、この内容は大変参考になりました。氷山の下の部分に言及されていて有り難いです。
投稿: TOM | 2014年7月30日 (水) 09時44分