公害大陸中国16 大河流域から内陸部へ拡大 まさにガン細胞の如く全身に転移
長年中国の農業と公害研究に携わった高橋五郎先生の本のタイトルに、「農民も水も悲惨な中国農業」という好著がありますが、まさにその書名どおりです。
私はここまで水と土と人が汚染され尽くした国を知りません。ここまで汚染が放置された国土を知りません。
公害は多かれ少なかれどの国も経験してきたことです。しかし、それがかくも長期間にわたって国家から「ないもの」とされた国はなかった。
下図(Lee Liu2010年論文「Made in China: Cancer Villages」「メイド・イン・チャイナ・ガン村」)は、「ガン村」(別名「死亡村」)の散布状況を集計したものです。
明らかに黄河と長江流域、珠江デルタに沿って支流域や下流域まで伸びています。この流域こそが中国の先進地域です。
(Major rivers and counties with cancer villages, China, 2009 「主な河川に沿ったガン村および郡」)
この長江デルタの貴重な土壌汚染データが存在します。 (「週刊文春」による。参考のため転載いたしましたありがとうございます。)
この表の右端が我が国の環境基準値(02年制定)です。我が国の基準値と比較してみます。
・水銀 ・・・244倍
・鉛 ・・・3500倍
・ヒ素・・・1495倍
・カドニウム・・・4.2倍
・BHC ・・・59倍(※DDTと並んで国際的に検出されてはならない使用禁止農薬)
このような地域で生活すれば、水銀を原因とする水俣病が、大量に発生しているはずです。
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やがてこのガン村は従来の大河流域から、内陸部へと大きく展開するようになり、全国に散在するようになりました。
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沿岸部と違って、鉱業と農業しかないと思われていた貧困な地域です。内陸部にも赤い地域があるのが確認できます。
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たとえば内陸部「ガン村」のひとつである広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮思的村はこのような地形です。(下図参照)
(Google Earth 広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮思的村)
思的村は険しい山あいの村で、流れが急な思的河が流れています。この村の水田は思的河を水源としているが、村の上流15キロメートルに鉛・亜鉛工場があり、これが汚染源です。
同工場の規模は大きなものではないのですが、1950年代に採掘を開始した頃にはほとんど環境浄化施設がなく、カドミウムを含んだ鉱山廃水を思的河に垂れ流しました。
それを知らずに下流の思的村が灌漑用水としたことで、土壌にカドミウムが蓄積されていきました。
因果関係は明白です。この村ではイタイイタイ病が大量に発生しています。
中国内部情報紙サーチナ(2011年10月14日)はこう伝えています。
内陸部の湖南省では
「湖南省国土資源規画院基礎科研部の張建新主任によると、同省住民7万人の25年間にわたる健康記録を調べたところ、1965年から2005年にかけて、骨癌や骨に関係する病気の発生率が上昇傾向にあった。重金属が深刻な株洲地区住民の血液や尿に含まれるカドミウムは通常の2-5倍に達した。」(同)
ガン村のひとつ湖南省株州市馬家河鎮新馬村はGoogle Earthでみると、思的村と同じく河川付近にあります。
(Google Earth 湖南省株州市馬家河鎮新馬村)
この写真に見える新馬村から1キロメートルの距離にある湘江は、中国で重金属汚染が最も激しい河川と言われています。
新馬村の対岸や湘江上流には多数の工業団地があり、重金属を含む廃水を垂れ流し続けていました。
この新馬村でも、湘江の水を引いて灌漑していたために、新馬村の土壌はカドミウム汚染されました。
南京農業大学の潘根興教授が2008年4月に行った新馬村で生産されたコメの分析結果では、カドミウムの含有量は米1キログラム当たり0.52~0.53ミリグラムで、国家基準値の2.5倍でした。
また、村内にある自動車部品のクロームメッキ加工を行っていた株州龍騰実業有限公司が工場廃水を垂れ流したことにより、地下水汚染が引き起こされました。
この井戸水を飲んだために、2人が死亡し、村人1800人中の1100人がカドミウム中毒と判定される事件にまで発展しました。
もっとも内陸深部にある内モンゴル自治区ですら
「内モンゴル自治区河套地区(※下図参照)の地下水は砒素(ひそ)などで汚染されている。砒素中毒患者は2000人を超えた。砒素中毒者が多い地域では癌を発症して死亡する人が多い。
同自治区フフホト(呼和浩特市)のトクト県一帯では、フッ素中毒が深刻だ。住民のほぼ全員に中毒症状がみられる村も複数ある。」(同)
「包頭地区では、穀物から希土類やフッ素が検出された地域がある。地下水が原因と考えられ、血管関係の病気、癌、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が多発している。10歳になっても、歯が1本も生えない子どももいる。」(同)
そして二大大河以外の沿海部でも
「遼寧省の錦州市(※下図参照)や葫蘆島市では、土壌がカドミウム、鉛、亜鉛が汚染している。汚染源は亜鉛の精錬所で、従業員の間で「イタイイタイ病」は、「普通に見られる病気」という。」(同)
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「中国では、難病の多発地域が「癌の村」、「死亡村」などと呼ばれている。ほとんどの場合、土壌や地下水の汚染が原因と考えられている。現地当局は実態をよく把握していないので、たとえ発表したとしても「漠然(ばくぜん)とした表現にとどまっている」という。住民も慣れてしまった。「対策を何度も求めても、結局は何の反応もない」からという。」
「騒いでも状況は改善されず、土壌汚染や地下水の汚染で難病が多発している事実が広まると農産物や家畜が売れなくなるので、「外部には知られたくない」と考える農村部住民もめずらしくない。」(同)
公害は、発生初期で抑えねばなりません。それを怠れば取り返しのつかないことになります。今やまさにガン村は、癌細胞のごとく中国全土に拡がっているようです。
■写真 朝もやの中の筑波山と田植えが終わった水田
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コメント
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思的村といわれると、なんとなく美しく素晴らしい場所のように聞こえてしまいますね。
それが「ガン村」「死亡村」だなんて…想像するのもおぞましいですが、最悪期の水俣のような土地が広大な中国全土に点在しているわけですか。
特に「南部の長江流域には肥沃な土地が広がり、昔から農業が盛ん」であると学校の社会科では習いますが、私が習った頃には既に相当な水質と土壌の汚染がなされていたのでしょうね。
だから、「隣の反面教師」である日本をよく見てみろと…。
未だにこんなザル基準に人治賄賂政治。
党幹部と急速に発展した都市の金持ちだけが救われ、田舎の人民は棄てられるという、全くもっておかしな「共産主義国家」になってしまいました。
ちなみに私がよく利用するコンビニでは、今月に入ってから中国産(加工)冷凍フライドチキンから、インドネシア産にシフトしました。段ボールを確認したので間違いありません。
ただし安全性云々というよりも、人件費増加によるメリットの減少と、産業界全体のチャイナリスクを嫌った東南アジアシフトのせいらしいです。
味もちょっと変わりました。肉質自体は分からない程度ですが、不自然過ぎるほど大量だったスパイスが減り、油凭れも減少しましたね。
投稿: 山形 | 2013年5月23日 (木) 07時02分