TPPの原型・郵政民営化のウソ その4 優良事業体が年間1000億円の赤字会社に転落
あれだけ「公務員がやったから非効率的だった。民間企業になれば画期的に業績は向上するはずだ」と言ってきた郵政改革以後、さぞかし収益を延ばしていると思われるかもしれません。
ところが残念ながら、民営化後の日本郵政グループは、巨額赤字を計上し続けて業績を悪化させています。
初めて日本郵政が大変な体質に転落していることがわかって、国民に衝撃を与えたのか2011年のことでした。
2011年1月に日本郵便が総務省に提出した、2010年9月期の中間決算の赤字に関する報告書には、このように重大な経営危機が報告されています。
「抜本的な収支改善に早急に取り組まなければ、毎年度1000億円を超える営業損失が拡大していくおそれがあると考えます」。
日本郵便は中間決算で実に928億円もの営業赤字に転落、通期では1185億円もの巨大赤字を生産する会社に転落してしまいました。
そして、これは改善の見込みは薄く、来期も970億円の営業赤字と、2期で2100億円を越える赤字が出ると報告しています。
郵政公社の時代には、下半期には年賀状特需があるために黒字転化するのですが、それすらも焼け石に水の状況が続いているようです。
その原因は、JPエクスプレス(JPEX)だと言われています。JPEXは郵政民営化の目玉事業と期待されていた宅急便部門です。
公社時代から赤字経営だったゆうパックと、同じく赤字経営だった日本通運のペリカン便の2弱が宅急便部門だけを統合して、2強のヤマト運輸と佐川急便に対抗しようという目論見でした。
しかしこの事業統合は、ゆうパックの準備不足などがあって不調に終わり、JPEXは設立以来赤字を垂れ流し続け、最終的に1000億円近い累積損失を出して、JPEXに86%の出資を行っていた日本郵便は出資の丸損と融資の貸し倒れで、前期だけで約860億円もの損失を計上してしまいました。 (※欄外図参照)
しかもこの巨額赤字のJPEXを、郵政会社が事業と従業員もろとも引き受けたのですから、どうなるかは火を見るより明らかでした。
「郵政民営化委員会委員の野村修也・中央大学法科大学院教授は『考えられない経営判断のミス。通常なら、株主が日本郵政グループの経営陣に対して代表訴訟を起こせば容易に勝訴できるケースだ』。」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月5日)
もちろん「国有民間企業」というあいまいな存在ですから、株主代表訴訟などはできませんが。
この経営失敗を、賞与支給を年間4.5カ月から3.0カ月にまで引き下げした結果、590億円もの人件費圧縮をしてなんとか息をついている状況です。
この人件費抑制がなければ、「約120億円の減益だった」(日本郵政執行役員高橋亨氏)だったのです。
つまり人件費に手をつけるという非常手段を用いなければ、年間2000億の赤字をダダ漏れさせる巨大赤字会社にすぎないまでに転落したということです。
また本業の郵便物の遅配や、かんぽの宿売却の迷走など、経営不祥事が絶えない一方、「民間企業」としての経営の自由度や商品開発には強い制限がかかったままです。
今年に入ってからも、米国はTPP事前交渉の中で簡保生命の新商品についてクレームを出してきており、それを受けた日本側が発売を凍結するといったふざけた内政干渉まがいの事態も生じています。
あらためて、竹中平蔵さんにお聞きしたいのだけど、民営化するっていうのはどういうことなんでしょうね。
規制をはずして民間会社の活力を取り入れ、利用者にはより便利に、会社にとってはより事業収益が上がる、ということじゃなかったのですか。
ところが、現実はこうです。
・業務形態 ・・・より煩雑、奇怪に。従来の部門間相互連携が不可能に
・業績 ・・・悪化の一途。1年間で1000億の赤字垂れ流し
・労働条件 ・・・人件費切り下げ。パート雇用激増
・利用者の利便性 ・・・局数が減り、より煩雑になり低下
・規制 ・・・1千万円上限など公社時代と一緒
・外圧 ・・・米国からのクレームひとつで新商品発売もままならない。
なんかいいことがひとつでもありましたか。これは立場の見方によるなんてものではなく、誰しもが認める民営化の結末なのですよ。
国会議員も大部分わかっているが、覆水盆に戻らずというだけで、誰も責任をとりたくないから眼をそむけているだけです。
竹中さんはもうすっかり郵政民営化なんか忘れて、新たな「規制緩和」を提言していらっしゃいます。 しかし、あなたの原点だった郵政民営化の惨憺たる現状を見てからにしてからのほうがいい。
竹中さんは、国民に大変な出血を強いて、その代償に利用者には不便を、そして職員には賃下げとパート化を強要し、健全事業体を大赤字会社に蹴落としました。
初めから郵政職員は身分は公務員でも、郵政3事業の収益から賃金を支払っていたので、国民の税金で雇われていたわけでもなんでもなかったのです。
そして地域住民は郵便局にはなんの不満もありませんでした。コンビニを付け足してくれ、なんてバカな要求がひとつでも上がっていたのでしょうか。
それを地域コミュニティセンターの役割も果たしていた郵便局を破壊して、得られたのが年に1000億の赤字を垂れ流すボロ会社の集まりだけだったのですよ。
これが小泉純一郎と竹中平蔵両氏がやった「聖域なき改革」のグロテスクな結末です。
私たちはいつの日にか再び、「郵便局」を国民の手に取り戻さねばなりません。
新自由主義者は、与党にも野党にも経済界、マスコミにも多く存在します。政党として純化した新自由主義政党は維新の会とみんなの党です。
TPPはありとあらゆる分野で、郵政改革のような無意味かつ有害な「改革」とやらを開始することを意味します。もうこれ以上、彼らに日本をいいように「改革」させてはなりません。
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