TPPの原型・郵政民営化のウソ その2 竹中平蔵氏は郵政民営化は必要ない、と知っていた
米国原産の新自由主義が一貫して言うことは煎じ詰めればいくつかに要約できます。
「政府がやる仕事は非効率である。だから政府の仕事は民間に移管して市場競争にさらすべきである」、というものです。
そして政府で仕事をしている公務員をどんどん削減して、「国民の見えない負担」を減らしていくことで規制のない「小さな政府」を作ろうというのが、この新自由主義者、別名構造改革論者(新古典派)の人たちの主張です。
まさにこの新自由主義経済理論に則って進められたのが郵政改革でした。
では郵政改革で竹中平蔵氏が挙げた「4ツのメリット」が実現したのかどうか見てみましょう。
「郵政民営化4ツのメリット」とは 、次のようなものです。(竹中平蔵「郵政民営化『小さな政府』への試金石」)
ちなみにこの4ツの中には、小泉首相が郵政選挙の時に叫んでいた「郵貯が財投の財源になっていて特殊法人に流れ込んでいる闇の資金だ」などということはひとこともでてきません。
①350兆円という膨大な貯金・簡保資金が「官」のお金から「民」のお金になること。
②全国津々浦々の郵便窓口がもっと便利になること。
③公務員を3割削減して、小さな政府を実現すること。
④「見えない国民負担」が最小化されること。
①の「官」のお金を「民」のお金にするということは、わかったようなわからないような表現ですが、350兆の資金が市場に流れ込むというのではなく、名義を替えるということのようです。
つまり、なんのことはない郵貯銀行を民営化することによって、「民間資金化」するというだけのことでした。
当時財務省にいてこの民営化の制度設計に携わった高橋洋一氏が言うように、郵貯が買っていた「国債を抱える主体が官から民になるというだけて、それ以外なんの意味もない」ということになります。
高橋氏は、郵政民営化の前と後の資金の流れを調査してこう述べています。(「郵政民営化・政策金融改革による資金の流れの変化」)
[民営化前の財政投融資の資金の流れ]
・中央政府・地方自治体へ・・・72%
・企業 ・・・19%
・特殊法人 ・・・9%
[民営化後]
・中央政府・地方自治体 ・・・74%
・企業 ・・・22%
・特殊法人 ・・・4%
一目瞭然のようにやや企業が微増した以外変化は見られません。むしろ政府、自治体関係に対する財投は増えているくらいです。
つまり、竹中平蔵氏の掲げた350兆円の財投を「官」から「民」にするというのは、そもそもウソだったか、実現していないということになります。
実は竹中平蔵氏は、「郵政改革が必要ない」ことを誰より知っていました。それは当時小泉-竹中改革の民間ブレーンのひとりだった田原総一郎氏がこう暴露しているからです。(「サンデー毎日」12年1月22日号)
「ある時竹中平蔵さんから電話がかかってきた『困ったことになった。小泉さんはが私に郵政民営化担当大臣になれという。でも民営化は必要ないんですよ』。」
「小泉さんが郵政相の時に郵政民営化をぶち上げた時には、財投が問題だったから。郵貯で集めたカネを官僚たちが使いまくり伏魔殿になっていた。そこで小泉さんは民営化によって入口を閉めようとした。だけど2001年に郵貯からの財投はなくなった。」
そして竹中平蔵氏はこう田原氏に言ったそうです。
「民営化が必要な理屈も一から作るしかない。」
竹中平蔵氏は郵政民営化担当大臣として、小泉総理が事実誤認をしていることを知りながら、それを修正することなく「理屈を一から作り上げた」わけです。
つまり、総理大臣は2001年に郵貯が財投に流れ込むのがなくなったことを知らず、担当大臣はそれを知っていて自分の新自由主義経済理論を実行するいいチャンスが到来したと考えたということになります。
それが米国で竹中平蔵氏が若き日に注入されてきた新自由主義政策、つまり「政府がやる仕事は非効率である。だから政府の仕事は民間に移管して市場競争にさらすべきである」というものだったわけでした。
まさに言葉本来の意味での「御用学者」の竹中氏がしたことは、郵政をバラバラにして、「政府の仕事を民間がする」ことでした。ではその結果どうなったのでしょうか?
彼の言うように無駄が削られて、郵便局窓口がより便利になったのでしょうか。 それは次回検証します。
※参考文献 東谷暁「郵政崩壊とTPP」
■写真 水族館の海亀です。意外にも素早く泳ぐので驚きました。水族館の撮影は、暗いのにフラッシュがたけない、魚はブンブンすごい勢いで泳ぐのでシャッタースピードを早くしなければならない、すると手振れする・・・といやー難しいこと。
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コメント
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財政投融資が、2001年から、止まっていたことを、管理人さんの記事で、知りました(正直、お恥ずかしい限りです。)
マスコミなども、そういうことには、一切触れない、ODAなども、現在、中国本土向けには、止まっているはずだと、思ってますが、あまり、報道がないので、ほとんど、無知な状態ですし、朝鮮半島が、日本の植民地?(領土というべきか?)のときに、どれくらいインフラ整備に、投資したのかも、正直、詳しいことは、知りません。
米国やIMFなど、国際機関から、日本が、融資を受けた金額を、日本が、完済したのは、確か、昭和の末期のような気もしますが、随分、長い期間、米国中心の融資返済をしていたことは、事実なのでしょう。
正直、国際社会における日本の立ち位置(経済、防衛、貿易、外交、国際貢献(国際援助)など、あまり具体的には、報道されないという現状は、今も、変わりありませんよね。
公益制の高い事業は、もともと、民間であれ、自治体運営であれ、市場に任せるということは、よさそうに見えて、よくない場合が、かなりありますよね。
JA解体とか、言っている国会議員も、多いのですが、JA共同組合も、民法34条法人だと、推測していますので、JA解体云々より、JAの定款を、変えることで、実際、市場を意識しながら、中長期的には、安定する訳で、近年、そういう法人スタイルを、採用しているのが、国立大学法人だと、思ってます。
全中を初めとして、政治活動は、別団体にして、純粋な農業活動をメインにして、収益部門と公共部門と、分けて、国税庁の承認を受けた定款にすれば、本来の農業部門、金融部門のうち、公益性の高い部分は、公益団体として、守られ、収益部門は、市場原理に、影響されるような共同組合に、変身できる訳で、
農業組合も、たとえば、学校法人、社会福祉法人のうち、国税庁が、承認した会計基準(農林水産省に、省令として、公開してもらう)と定款が、登記されれば、JAの金融部門のうち、本来の農業振興事業については、いままでどおり、法律的には、継続できるはずだと、思ってます。
ただし、国税の法律では、本体事業の経営補填のため、収益事業利益を、本体に流す前に、しっかりと、納税した残りの20%しか、会計移動できないので、事業内容や規模により、どういう定款にするのが、ベターかは、個別で、考えないといけないのですが。。。
租税特別措置法にもあるように、30年以上、農業に使うという約束をすれば、個人の相続税や長期譲渡税、家事充当金など、かなり変わるはずですので、そういうことも、各農家さんが、理解していただいて、共同組合という法律で、認められた法人が、自由を採るか、高額納税を採るか、補助金の受け皿を採るか、もっと、考えれば、政治的には、国内すべての農協が、解体されることは、ないと思います。
特定郵便局と違って、民法と言う法令に基づいて、出来て、きちんと登記されている共同組合は、その辺はご存知なはずですし、独立農協であれば、設立時に、かなり農協の法的位置付けを勉強されたはずでしょうから。。。
なぜ、こんなことをコメントしたのかと言えば、学校法人、社会福祉法人なども、定款の内容で、国や自治体の補助金を受けやすい法人と、そうでない法人とがあって、どちらの道を、採用するかは、農協の総会で、議決され決められるものだからで、同じ農協でも、
経済的法的背景には、ピンからキリまであるからですが。。。
投稿: りぼん。 | 2013年10月21日 (月) 09時11分