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2013年7月

2013年7月31日 (水)

ほんとうは怖い電力改革 その11 電力関係者が自由化賛成という理由は

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民主党の幹事長に,輿石氏の推しでわが茨城県の、というより日立労組出身の大畠章宏氏が就任されるようです。

日立という会社は労使癒着が激しいとみえて、構内放送で労組候補の演説が流れるところだという噂が地元にはあります。

また全国自治体には、茨城県を中心に日立の子会社労組議員まで32名も議会に送り込んで、一大派閥を作っています。もちろん連合の民間主力組合のひとつです。※http://www.hitachi-gr-giindan.jp/

大畠氏は、原発プラントの設計者にして、「原発ゼロ」政策推進の民主党左派に属する人ですから、この矛盾する立場を説明するエネルギー政策をぜひお聞きかせ願いたいものです。

しかし、山本太郎氏あたりからは、まちがいなく「原子力ムラ出身」という批判が来るでしょうね。

さて、電力自由化シリーズです。忘れられそうになりながらも細々と続いております(涙)。

調べていてわかったのですが、意外なことに、電力関係者の中には、やや皮肉な口調で「電力自由化やるべし」という人もかなりいます。 

新自由主義者風にいえば「既得権の巣窟」である電力業界が一枚岩で反対かと思ったら、必ずしもそうではないんですね。

しかしその理由は、なんと「再生可能エネルギーにいいお灸になるだろう」だとのことだからダーッとなります。 

この人たちは電力自由化が、太陽光や風力にとって今までのフリーライド(ただ乗り)状態から、一人前の電源になるための関門と考えているのです。 

現実にFIT制度を導入して2年たちましたが、風力にしても、太陽光にしても、土地代が安く、発電効率がいい土地を探すためにいやでも僻地に建設がシフトしています。

特に「発電埋蔵量」が多く、地価が安い北海道にはメガソーラーと風力の新規参入が殺到したのですが、既存の高圧線からとんでもなく離れていたり、津軽海峡を渡る送電ケーブルの容量が圧倒的に不足していたりで接続拒否が頻発しています。

北海道に広大なメガソーラーを作ってしまったSBエナジーの孫正義社長も、北海道電力が買い取り枠を厳しくしたことによりさっそく事業危機を迎えてしまい、「日本の再生可能エネルギーはここでストップしてしまう」と怒り狂っているそうです。

しかし、前回のドイツでも見たように送電線の拡充というのは大変な事業なのです。

具体的にいえば、大規模な風力発電の展開が可能な地域の北海道北部名寄地区、東北の下北・津軽半島、秋田沿岸、酒田・庄内(山形県)地域などからの送電網や海底ケーブルの新設が必要です。

ところが我が国が送電網を作るとなると、平べったいフランスなどとは違い、海を越え、険しい山谷を越えてエンヤコラと送電ケーブルや海底ケーブルを敷かねばなりません。建設費用が巨額化するのは覚悟してください。

試算として出ている数字としては、生産地の北海道と本州を結ぶ北本連系線などの基幹送電網が1兆1700億円かかるとされています。(北海道電力、東北電力の試算による)

というわけで、いま、この再生エネルギーのための送電線不足が焦点になっているようです。

要は、いくら発電してみても送電量オーバーなのですからどうしようもない。「電気作ったのはいいけど、一体誰が運ぶの?」という身も蓋もない話になってしまいました。

多くの新規参入した再生可能エネルギーの新電力会社は、安い太陽光パネルで電気を作りさえすれば、FIT(固定価格全量買い取り制度)でバカ高く売れると狸の皮算用をしていたのでしょう。

ですから送電網などは初めは意識になかったか、仮にあっても「電力会社が作ってくれるんじゃないの」ていどで安易な見込みで気楽に参入したはずです。

ところが、待っていた現実は電力会社による系統送電網への接続拒否でした。別に電力会社が嫌がらせをしているのではなく、技術的にできないのです。

「環境省などの試算によると、北海道には太陽光と風力による発電を開発する余力が約2850万キロワットあるとされる。毎冬500万キロワット台の道内ピーク電力を補って余りあるが、海底ケーブルの容量は60万キロワットしかない。発電所をいくら増やしたとしても、この容量を超えて本州の消費地へ送ることはできない。」
(毎日新聞(13年4月12日)

この新規参入業者の要求に沿うとなると、新たに送電網と海底ケーブルを巨額なコストで電力会社が負担して敷設せねばなりませんが、そのコストは結局電力料金の値上げという形で消費者に転化されるはずです。

今の接続を義務づけられている電事法にすら、「円滑な供給の確保に支障が生ずる恐れがある時」には接続拒否できる特例条項が設けてあります。 

これが発送電分離して系統送電運営者が別になったら、今の公共事業体的義務から自由になり、しっかりと営利を前提にするので、人も住まないない海辺などに多い風力発電所や、耕作放棄地などのメガソーラーなどは今後続々と接続拒否に合うと思われます。

ですから発送電分離をすれば、再生可能エネルギーの系統接続が進むような能天気なことを飯田氏は盛んに吹聴してきましたが、まったくの空理空論です。

送電網は、適切な投資やメンテナンスが維持されていることが前提であり、そのコストを送電業者は託送料金を中心に回収しているのですから、不安定でしかも山間僻地に多い再生可能エネルギーは、送電網の自由化により一挙に冬の時代に突入することでしょう。

このように、再生可能エネルギーにとっても電力自由化は危険な選択なのです。

■写真 水田脇に休むシジミチョウです。

2013年7月30日 (火)

TPP 見えてきた米国の医療・保険分野の侵略戦略

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豪雨被害を受けられた山口、島根両県の皆様に、お見舞い申し上げます。まだ全国各地でゲリラ豪雨が続くと思われます。十分にお気をつけ下さい。               

日本が関税をかけている輸入品は工業製品も含め全体で9018品目に枝分かれし、うち「聖域」とした農産物は5分野は6%強に相当します

そしてさらにメ、乳製品などのひとつひとつの品目は、関税表の中で枝分かれしてコメだけで58品目、5分野(いわゆる5品目)で586品目となります。

TPP交渉は「コメ」としての一括交渉ではなく、これら細分化されした一品目ずつのつぶし合いになっていきます。

ですからたとえば、コメ輸入本体で日本が勝っても、コメ加工品のパックご飯で譲歩するという可能性もありえるということです。

今までの実績としてはペルーなどとの自由貿易協定では、交渉後の関税残存率は約4%です。

賛成、反対といった立場をぬきにしてみれば、この今までの交渉実績である4~5%の350~450品目ていどが目安となります。

念のため繰り返しますが、この「品目」は細分化した関税品目ですのでご注意下さい。一般に言われる「重要5品目」ではありません。

一方、工業関税で大物である自動車関税を日本は米国が長期で温存することに同意しており、カナダ、オーストラリアも自動車関税を残したい意向のようです。

このように各国の関税に関しての利害は強烈、かつ手前勝手で、関税ゼロということはたんなる建て前に過ぎず、まだなにも決まっていないようです。

たとえば、砂糖関税は米国の関税の出発点ですから死守するでしょう。この点で我が国と米国は共通の主張を展開できます。 

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                     (図 農業情報研究所より)

また乳製品自由化はどうせ大畜産国のNZが強硬に主張しているでしょうが、乳畜産品のそんなどしゃぶり的安値輸出をされたら米国、カナダはかなわないので、ブロックしているはずです。というわけで、NZには乳畜産品でこの米加両国と共闘可能です。

このように 関税問題は見えやすく、分かりやすいのです。分かりにくい問題は、むしろ農業外の「制度的事項」なのです。 

この交渉で関税問題では米国と共闘の余地がありますが、問題はこの「制度的事項」などの医療、・保険、政府調達などです。ここで日米は正面から衝突することになります。 

これは、オレの国の商品を売りたいからお前の国内の諸制度を変えろという内政干渉まがい、いや内政干渉そのものを協議することです。米国が好きな言い方で言えば「関税外障壁」のことです。 

たとえば我が国が、医療保険制度の保険補償をいくらにしていくのかという政策決定に医薬品会社を入れてこなかったのを認めろと米国は言ってきています。 

これは一見分かりにくいですが、要は米国ファイザーのような米国医薬品会社に審議会で発言権を認めろということです。 

これは既に米韓FTAをしている韓国でやって、医療保険制度が米国に牛耳られる状況に立ち至っています。 

小型自動車の税金保護政策をやめろとかいうような、なんでそんなことを外国にいわれなきゃならないんだ、ということまでも議題に昇ります。 

といっても上げて来るのは常に米国で、彼らは自分で売れる小型車や軽自動車を作ればいいだけなのに、なにが「日本の自動車市場は中世だ」(USTR)、馬鹿か。

また知的財産権も大きなネックになるはずです。これは単に映画や音楽ソフトの特許期間の問題だと思って、ならば知的ソフト先進国の我が国は東南アジア諸国に対して米国と共闘できるはずと思ったら間違いです。 

というのは、「知的財産」分野では、医薬品、医療技術、医療機器の特許強化、果ては手術の術式までもが対象となるからです。

新たな手術方式までも、知的所有権で囲い込むえげつなさ!これが米国流です。こんなものは公開して、すべての人類共通の財産にすべきではないですか。

あるいは、医薬品の特許を長くすることが既に日米交渉で登場していますので、それと同様なことがTPPでも議題に登場しているはずです。 

この米国の要求を呑んでしまうと、医薬品の特許期間が延長され、事実上ジェネリック薬品は市場から姿を消し、薬価が跳ね上がります 

その時に意味を持つのが、先の「制度的事項」で、そのために薬価審議会などに米国勢を扶植しておこうという深慮遠望なのです。

たぶん米国は、我が国の経済競争力会議の新自由主義者を使って、「規制緩和特区」、つまりは「TPP特区」を作ろうと言い出してくるでしょう。

一定の地域をモデル地域にして、混合診療の全面解禁などを「一度試してみようよ」ともちかけてきます。

この方法は米韓FTAでもなされており、韓国では「FTA特区」が作られ、社会的混乱をもたらしています。ぜったいにこんな「TPP租界」を作らせてはなりません。

他にも、「金融サービス」分野で、混合診療の全面解禁が議題となります。

これはすでに経済成長力会議という新自由主義者どもの巣窟が提案しているもので、高額な高度医療を中心とする保険外診療を全面的に解禁ようというものです。
※混合診療については
http://www.med.or.jp/nichikara/kongouqa/ 

これは、韓国で既に「医療サービスの企業の参入」として実現しており、「病院株式会社」を誕生させ、患者や地域住民ではなく「株主」のための医療サービスに変えていきます。

つまり、特許権強化でジェネリック薬品を潰し、混合診療の全面解禁で跳ね上がった医療費は、どうぞアフラックにという仕組みを、制度的事項の変更まで踏み込んでやってしまおうという二重三重の攻撃なのです。

なんのことはない、こんな医療・保険の仕組みは米国そのままじゃないですか。もうやっていることなんですよ。自国流こそグローバルスタンダードだと言い募っているだけです。

むしろオバマ大統領などの米国民主党は長年この医療・保険制度の変革を訴えてきたはずでしょうに、外国には、その遅れた自国の制度を押しつけてこようというのですから太い根性です。Photo日本の医療達成度は世界一、米国は29位です。29位が1位にまねをしろというんですから片腹痛い。

なぜこんなハゲタカ資本主義流をマネせにゃならんのか。もう一回言ってやりましょうバッカじゃないか。 

このようにTPPは営々と築きあげてきた我が国の良さは破壊しようとするものです。

政府はいかなる方法を使ってでも、交渉内容を公開していただきたい。 

「さぁ、これだけ我が国は悪くなりますが、国会で批准してください」なんて韓国のような愚行は絶対にイヤです。

韓国はギリギリげでこんな国会批准をせねばならなくなり、大変な騒乱になりましたが、結局は押し切られていまやグローバル資本の植民地と化しています。 

思えば、我が国の今までのEPA交渉や日米経済交渉もそうでした。豪州とのEPA交渉では、2008年2月に交渉の「リクエスト&オファー」を既に交換していても、国会における質問に対しても、外務省審議官の答弁はこのようなものでした。

外交案件であり、両国の約束で公表しないことになっている」チャンチャン♪という実に紋切り型の取りつくシマがないものでした。 

安倍首相がTPP交渉参加を表明した際に、「「交渉でありますから、相手国との関係で公表できることとできないことがありますが、交渉に参加すれば、今よりも大分情報が入手しやすくなると考えています。公開できることは、進捗の状況に応じて、しっかりと国民の皆様に提供していきたい」と公約しています。 

しかし今の現状では、数千ぺージに及ぶ英文21分野の和訳と整理・分析に時間がかかる上に、守秘義務に守られて、国民にまったく一片の情報すら漏れてこない状況です。 

政府はなにか勘違いしているのではないでしょうか。 

後発参入国にとって、こんな守秘義務に義理立てすることが大事なのか、国益に反することは国民的議論に付したほうがいいのか、自分の心に聞いてみていただきたいのです。

我が国が今の時点でできることは、案件ごとの入り組んだ同盟関係を結ぶことと、国民世論のバックを取り付けて大応援団を作ることていどしかありません。

交渉団は、といっても密室に入れるのはわずか2名ですが、その外には国民の「冗談じゃないや」、「交渉団、腹を切れぇ」などという声が満ち溢れているので、残念ながら妥協できないんですと言えばよろしい。

ともかく密室のブラックボックスに密封されたら、圧倒的に我が国が不利だと自覚するべきです。 

そのために、いかなるチャンネルでもいいですから情報をリークし、交渉団大応援団を作ることです 

ただし、この応援団はやや口が悪く、「交渉団なにやってんだ、このタコ!」くらいは言いますがね(笑)。

■写真 森の中に雨に濡れてポツンと自生している紫陽花に、クロアゲハ(たぶんモンキアゲハ?)がそっと舞って、、またどこかに飛んでいってしまいました。一瞬の出来事です。

2013年7月29日 (月)

TPP 恐るべき秘密交渉ぶり

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TPP交渉がとうとう始まりました。想像以上の徹底した密室交渉です。 

なにせ日経新聞7月24日が伝えるところでは、「通訳を交えずに進められる首席交渉官会合には原則、本人と代理の2人しか参加できない」という厳戒体制の下での交渉となります。

日本の交渉代表団は、利害関係者への説明会を開いたものの内容はゼロ。たたひたすら、「TPPは他の通商交渉に増して秘密保持が厳しい」と言い訳に終始しました。

参加に際して署名した守秘契約にしばられ、交渉文書や交渉内容はおろか、日本代表団自身が何を主張したのかも明らかにできないとうゼロゼロぶりでした。

自分がなにいったのかくらい公開しろってんだ、と誰でも言いたくなりますよね。

さて伝えられるところでは、鶴岡首席交渉官は補佐官は、携帯、メールなどを取り上げられて、一切の外部との連絡が出来ない部屋で雪隠詰で交渉に臨むそうです。 ここは試験会場か!

一般の外交交渉でもこんな情報統制はなされません。なにかしら情報は漏れてくるものですが、聞きしに優る多国間協議の恐ろしさです。 

交渉文書、各国からの提案、関連資料を閲覧できるのは、政府当局者では「当該部署の担当官」、民間では「政府の国内協議に参加する資格のある担当者」、「交渉文書の情報を検討する必要のある者」、あるいは「情報を知らされる必要のある者」に限られます。 

また、仮に入手しても、政府から許可された者以外に見せることは固く禁じられています 

さらにこれはかつて記事にしたことがありますが、これらの文書は、TPP発効後4年間秘匿されます。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-cd51.html 

仮にTPPが成立しなかった場合ですら、交渉の最後の会合から4年間秘匿されます。なんともすごいですね。

米国で執拗な反対を続けているNGO「パブリック・シティズン」は、「これまでに公表された唯一の文書は、どんな文書も公表されないという説明の文書だ」と皮肉を込めて批判したとがあります。

また米国労働総同盟産別会議(AFL―CIO)、ニュージーランド労働組合評議会、オーストラリア労働組合評議会などは、揃ってTPP交渉の情報を公開するよう求める公開書簡を各国政府に送っています。 

TPPの主要国であり、先発の米国ですら、まったく情報が聞こえてこないというのは、そこから漏れることを恐れているからです。 

たとえば、我が国の反TPP団体とネットでやりとりしている先に出た「パブリック・シチズン」が情報を掴めば、それは瞬時にして各国で共有されます。 

そうなった場合、秘密交渉は、国民の怒りの声に大きく影響を受けることになります。

だから、徹底した水も漏らさぬ秘密体制を敷いているのです。 

でも、それが常識的な姿じゃないですか。国民こそが最大のステークホルダー(利害保持者)なんですから。 

しかしTPPが多国間「外交」交渉の範疇に入れられています。 

一般的に外交交渉は、安全保障と密接不可分なために交渉内容が途中で漏れた場合、敵対関係にある国を利してしまう可能性かあります。 

だから、国民には国会での批准を通じてしか異議申し立てかできないのです。 

TPP交渉のおかしさはここにあります。いいですか、TPPの内容は政治・軍事的安全保障条約ではないのですよ。 

国民の生活に密着する、それも瑣末なことではなく、医療、保険、農業、政府調達など、国民生活を直撃することばかりがテーマになっていることで、弾道ミサイル迎撃システムがどうしたこうしたという話じゃないのです。 

我が国のいままで築いてきた医療、保険、農業などが大きく揺らぐ可能性があり、しかもそれが国内法を勝手に超越して決まってしまう、この危なさを私は言っているのです。

今、さらっと「国内法を超越する」と書きましたが、それは外交条約だからです。外交は政府の専管事項で、しかも交渉過程を相手国との関係から秘匿できる特権があります。 

通常の経済交渉なら、事前に「関税はここまで」とか、「輸出入はここまで制限をかける」など、事前に関係業界との綿密な交渉があります。 

あたりまえです。勝手に、「締結したんで、国会で批准次第関税なしだから、よろしくね。あ、安心して最大10年間移行期間あるから」などと政府から言われたらたまりません。 

この「あたりまえ」のことが通用しないのがTPPなのです。TPPは、国民の経済・社会のあり方を大きく改変してしまう条約にもかかわらず、まるで軍事条約のように十重二十重にガードされて窺い知ることすらできないのです。 

長くなりましたので、次回も続けます。

■写真 カノコユリです。絶滅危惧種です。素晴らしい芳香で蜂を引きつけます。

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■TPP:国益確保に時間の壁 交渉官に緊張感
毎日新聞 2013年07月23日 

 日本のTPP参加は、鶴岡首席交渉官が秘密保持契約にサインした瞬間に始まった。交渉参加国には「通常の通商交渉と異なり、極めて厳格な情報管理が求められる」(外務省幹部)。一方で交渉の行方は産業界から国内農家までさまざまな利害に関わり、食品規制などは国民生活に影響を与える。政府はTPPが求める厳格な守秘義務と、国民の理解を得るための説明責任のはざまで難しい調整を迫られそうだ。 

 鶴岡首席交渉官が署名した保秘契約には、交渉中にやりとりした書簡や提案などを協定発効から4年間秘匿しなければならないことが明記されているという。また、協定の素案や交渉経過をまとめたテキストを読めるのは、登録されたごく一部の交渉関係者に限られる。

 実際、TPP参加で大きく出遅れた日本は外務省や経済産業省の官僚らが事前に交渉の進捗(しんちょく)状況を探ろうと国際会議などで参加国当局者に接触したが「見事なまでに中身が見えなかった」(政府関係者)。

 厳格な情報管理は米国の意向が反映したものという。米オバマ政権は通商交渉をめぐって議会と緊張関係にあり、輸入関税撤廃には米自動車業界の反発が強い。「途中段階で情報が漏れれば、交渉を進められなくなる恐れがある」(通商筋)からだ。

 「交渉で何を言ったか、何を話し合ったかは一切申し上げられない」。23日の交渉初参加後、記者会見した大江博首席交渉官代理は会合でのやりとりについて沈黙を通した。それがTPPの流儀。しかし、農業団体などの反対を押し切って交渉参加に踏み切った安倍政権には、国内で情報開示を求める声が高まっている。「政府は難しいハンドリング」(関係者)を迫られそうだ。

2013年7月27日 (土)

週末写真館 水鳥の飛翔

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このところ風景や草花の写真はそっちのけで、水鳥撮影にはまっています。難しい!ほんとうに難しい!
いままでの風景や草木は動かないんですが、あたりまえですが鳥はすごい勢いで動くんです。
手持ちだと、ブレ防止がついていてもピントかはずれる、ブレるの連続です。
では三脚を出して、高速シャッターでとなると、今度はかんじんのモデルさんの鳥が寄りつきゃしない(涙)。

その上、今の夏の湖は渡り鳥がシベリアにお出かけで種類が少ないんですね。
彼ら渡り鳥が帰る秋l以降が本番だと思って、腕を磨いております。 

今日の美しいモデルをご紹介します。
上がコサギ。小柄ですが実にシャープな飛翔を見せてくれます。
下が、アオサギ。大柄な鳥で、なんとも渋いシックなジャケットを羽織っておられます。

2013年7月26日 (金)

参院選で原発が議論されなかったわけ

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今回の参院選で原発は、年金医療、景気に次ぐ関心ランキングで上位になりながらも、まったくと言っていいほど論戦は行われませんでした 

その原因は、共産党と社民党を除いて、ほとんどの野党が議論の俎上に乗せずに、神棚にお祭りするようなていたらくだったからです。

野党の公約はゼロ年代に差があるだけで、だいたい似たようなものです。 明瞭に「脱原発」を主張したのは山本太郎氏と三宅洋平氏(落選)でした。

彼らは野党の自壊、選挙区に知名度がある人がいないなどの理由はあったにせよ善戦したことは間違いありません。

語っている内容は、三宅洋平氏の主張を欄外に載せておきます。まるで喜納昌吉氏の焼き直しのようで、私たちの世代にはむしろ懐かしい「ラブ&ピース」そのものです。

両氏の主張は、私のような70年代育ちにはまったく新鮮味がなく陳腐なくらいですが、若い人には違うのかもしれません。

御覧のように政策といえるような態をなしておらず、政策評価するのがヤボというものですので、「スピリット」とか「心情」の範疇に入れたほうが賢明なようです。

彼らはある意味、脱原発精神主義といっていいのかもしれません。

しかし、しっかりと「脱原発」というテーマを、「山本太郎」、「三宅洋平」という「カッコイイキャラ」もろともにワンイッシュで伝えきったことは、素直に評価されるべきだとは思います。

米国のリベルラル系メディアのハティントン・プレスはこう書いています。

「山本にとって脱原発とは被曝リスクをゼロにするために必要なものと位置づけられている。その立場は同じように311の原発事故後にわかに被曝リスクゼロを強く願うようになった都市圏の脱原発指向と共振・共鳴し、投票行動を促した。
低線量被曝による晩発性障害の発生が完全に否定できないと聞いて、できるだけ被曝を避けたいと願う心情を持つに至るプロセスは十分に理解できる。だが、そうした心情をそのまま現実の投票行動に結びつけられるのは、原発立地から遠く離れた都市圏の特権であることもまた事実だろう。」

彼らが、福島瑞穂さんや菅直人氏のような、「終わった人」と組まない限り、一定の支持層を拡大し続けていくかもしれません。

※追記 三宅氏が属する「緑の党」はこのような政策を掲げているようです。私の考えと近い部分もありますね。http://greens.gr.jp/policy/seisaku/

一方、自民党は、規制委員会の審査を大前提とした上で「電気料金が上がることは日本社会にとって大きなダメージですよ」、と言い続けていました。 

そして野党が批判するような単純な原発推進ではなく、「国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働し、その努力を地元自治体に対して行います」という正攻法です。 

これに野党は反論できないでいます。というか自民党が言うことのほうが常識だからです。 

電気料金は、4兆超の貿易赤字の大分部がLNGや原油によって占められており、値上げは間近に迫っています。 

にもかかわらす、「原発ゼロ」を言う以上、「原発を再稼働させない」のなら、国民が支払う電気料金の値上がりをどうくい止めていくのか明確に野党には答える義務がありました。 

しかし、すべての野党は、ロシアの天然ガス輸入を説いた新党大地以外、国民が聞きたかった肝心な「電気料金の値上がり」という都合の悪い部分に対して口をつぐんでしまいました。

というか、できるはずがないのです。 これで自民党のリアリズムに勝てるわけがありません。 

だから、事実上原発はまったく争点にならず、「そんな面倒なことは考えない。ともかく原発ゼロ」という人たちは、エネルギー問題なんか知ったことかという山本太郎氏に投票したというわけです。

これはうがった見方をすれば、 山本氏ひとりが参院で議席を持ってもなにもできないという妙な「安心感」があったからともいえます。

たぶん現実の壁は厚いだろうが、原発ゼロという意志を伝えるメッセンジャーになってくれる、それが山本氏に託した想いだったのだと思います。

だから彼には初めから具体的政策などは要求されておらず、ひたすら放射能の恐怖と原発ゼロを叫んでいてくれてよかったのです。

このようなエネルギー問題にまで踏み込んだ議論がなされないかぎり、脱原発はたんなる空疎なスローガンの連呼となるか、新たな精神主義となってしまうことが、あらためてこの参院選でわかりました。 

さて脱原発派の論理は、発送電分離して、発電部門と送電部門を別々にし、その市場を自由化すれば、再生可能エネルギーFIT(全量固定価格買上制度)で高い買い取り価格なのだから、一気に活性化して、原発の代替に育っていくだろうという目論見でした。 

ここで私が10回ほど検証してきたのは、電力自由化というのがそんなに夢の扉なんですか、ということです。夢どころか、夢は夢でも「悪夢の扉」ではないか、と私は思っています。

                  ○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*

■三宅洋平政策ビジョン
「すべての武器を楽器に」

①文化は最大の輸出品
②復興は補償から
③除染から廃炉ビジネスに
④送電線から蓄電技術へ
⑤消費税より金融資産課税に
⑥大規模農業から家庭菜園へ
⑦官僚主義から住民主権へ
⑧破壊の公共事業から再生の公共事業へ
⑨憲法9条を世界遺産へ 

■お断り 後半が長いと思われましたので、いったんアップしましたが、カットして次回に回します。(8時56分記)

■写真 湖の水鳥たち。逆光なのでよくわかりませんが、柱に登ってブイブイいわせているのがカワウ。その右がダイサギ。その次がたぶんカイツブリかな。 このところ水辺のトリ撮影にはまっています。

2013年7月25日 (木)

菅直人氏、民主党から追放か? 自分が誰だかわからなくなった人の病理について

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菅氏に離党勧告だそうです。要するに、出ていってくれ、というということのようてす。

引導を渡したのが、彼にさんざん苛められてきた事故当時の経済産業大臣・海江田氏と、首相補佐官として暴走の尻拭いをしてきた細野氏というのも泣かせます。

民主総潰れで、参議院議員山本太郎を誕生させてしまったので、もう手遅れですが、追い出された菅氏は山本太郎氏と「新党脱原発」でも作るんじゃないですか。 

相性、すごくよさそうだし。党首・菅直人。幹事長・山本太郎。政審会長・三宅洋平って配置かしら。う~ん、それなりにインパクトありそう。

普通、仮にも国家のトップをやった人間は、こういう人たちとは絶対に組まないんですが、菅氏ならやるでしょう。 

彼のスタイルは一貫して「市民運動家」そのものでした。自分が国家という官僚機構と法体系の上に立つ人間だというアイデンティティがぜんぜんないんですね。 

だから、鉄火場の事故現場に行ってかき回してみたり、東電に怒鳴り込んだりと、いかにも「市民運動家」らしい直接行動がお好きでした。 

市民運動家なら身ひとつですが、彼の場合はなにぶん最高権力者なので、SP引き連れて自衛隊ヘリに乗って突っ込んでくるんですら、さぞかしシュールな眺めだっと思います。 

米国大統領が同じことをしたら、世界中からバッカじゃねぇかと大笑いされて、盟主の地位から滑り落ちます。 

フランス大統領なら、ANC(仏原子力規制機関)の総裁から、「閣下、出口はあちらです」と冷酷に言われてつまみ出されます。 

そういうことは、自分が誰なのか分からなくなった人がやることなのです。菅氏は、自分の立場はガバナンス(統治)するべき立場だということを忘れて、というよりハナっから自覚していない人だから迷惑なのです。

「あなたは首相なのよ、いいね」とそっと教えてやってもダメでしょう、この人は根っから「市民運動家」でしかないからです。 それもあまり質のよくない。

菅氏自らは、自分は気さくな権力者ぶらない市民政治家のイメージなのでしょうが、それがとんでもなく迷惑なスタンスだということは、首相に就任してすぐに分かってしまいました。あの福島第1原発事故があったからです。

福島事故時に菅氏は、原災法(原子力災害特別措置法)15条(緊急事態通告)に則って、各自治体に対して緊急避難勧告すべきを失敗しました。

もちろん、避難通告から避難までの手順は決まっていました。

この原子力事故緊急事態に際して、首相に原子力安全委員会の5人の委員と40人調査委員からなる「緊急技術助言組織」という原子力の専門家ブレーンが付くはずでしたが、これが震災の交通・通信インフラの麻痺で官邸まで来られなかったのです。

携帯の呼び出しすらできず、それをいいことに「原子力に強い」と自称する菅氏は、自らが電話で呼び寄せた東工大の同窓だけを集めて緊急対応を始めてしまったからです。 

それらの人々はかつて菅氏と同じ大学紛争の釜の飯を食った、というだけの理由で招集された素人集団で、原子力事故の専門どころか、原子炉ってなにという人までも含まれていました。 

こういう「専門的知識・経験もない政治家」(民間事故調)が、さらに素人のお仲間を呼び寄せて、彼らに内閣参与の肩書を与えて指揮系統に介入させていたのです。

キャンパスじゃあるまいに、ここは国家の中枢ですよ。彼はまさにリスクマネージメントでいちばんやってはいけない指揮系統逸脱をしてしています。それをトップが率先してやるのですから、どうしようもない。

後に菅氏は反省はおろか、むしろ得意気にインタビューでこう述べています。このへんの反省のなさが、まさに「自分が誰だかわからなくなった人」特有の病理です。

「私にはそういう経験があるの。だからこのときも(略)個人的つながりで、後に内閣参与になってもらう人から話を聞いたんだ。」

原子炉の過酷事故について菅氏がどういう「経験」があったのか知りませんが、菅氏とその「個人的つながり」のご学友の皆さんたちは早々に重大なミスを犯します。 

原災法では緊急事態が宣告されると、避難を定めた区域を定め、住民を避難させることをせねばなりませんが、首相は緊急事態を宣言しただけで、その避難誘導どころか、避難区域を設定することすらしなかったのです。

理由はただ忘れていただけで、指示を出すのは斑目委員長らが官邸に到着してからのことになります。

それも避難圏の規定がなかったために3キロ、10キロ、20キロと猫の眼のように変わっていきます。その都度、周辺住民は転々と避難場所を変えねばなりませんでした。

政府事故調報告書によれば、ある人など逃げた先のほうが、自宅がある地域より高い放射線量だったということすら起きました。 

この状況について、当時の細野首相補佐官は、「(官邸では)原発でどんな事象が起きていて、どんな避難区域にすべきなのか、完全に検討できなかったのです」と正直に述べています。(11年6月20日記者会見)

ちなみに 脱線しますが、私は細野氏の事故処理は、彼の補佐官という立場では最善であったと思っています。 

特に3月15日に統合対策本部事務局長になってからは、菅氏の重しがとれたのか的確な手腕を振るいました。

それはともかく、官邸が勝手に指揮系統を乱しているために枝野官房長官は、午後7時45分の記者会見でこのような重大なミス発表をしてしています。

居住者や滞在者は現時点で特別な行動をとる必要がありません。あわてて避難することなく自宅で待機していて下さい。」

一方、この官邸の指示の遅れにしびれを切らしたのは地元福島県でした。福島県は緊急事態宣言が発せられたままなんの指示も政府から来ないために、独自に午後8時50分に2キロ圏の住民を避難させ始めています。

官邸から避難指示が来たのは福島県の独自避難が始まってから30分がたつ午後9時23分でした。 

枝野官房長官は、午後9時52分の記者会見で前回の記者会見の内容を忘れたかのように、「すみやかに避難を始めていただきたい」と前言撤回をしました。 

この政府避難勧告があったのは、吉田所長が「15条通告」(緊急事態通告)をした午後4時36分から実に5時間、首相が緊急事態宣言をしてからも2時間50分が経過していました。 

避難に際して、事故初動の貴重な5時間もの時間を徒に空費した政府とは一体なんだったのでしょうか

後に分かることですが、この時既に、1号炉は炉心頂部が露出し始めてメルトダウンが始まっていたのです。

この惨憺たる政府の原子力事故対応はもはや犯罪的ですらあります。このようなことは、菅直人氏という人が、まともな首相ならば起きなかったことでした。

こういう「権力者」という立場をわきまえない人、自分が国家と国民を背負っていることを理解しようとしない人、ガバナンスの頂点に立っていることを忘れて、学生活動家のスタイルのまま怒鳴り散らす人、それが菅直人という人物です。

辞任後も、選挙戦の真っ最中に後任の首相を訴えたり、それどころか公職選挙法を無視した「落選運動」まで展開にするなどやり放題。菅氏は鳩さんとは違った意味で「自分が誰だかわからなくなった人」なのです。

菅氏が「原発ゼロ」を叫ぶのは勝手ですが、では止めたらどう今の社会のエネルギー供給がダメージを受け、代替をどう構想し現実化するのか、それまでの過渡期が何年続くのか、その間国民生活がどんな影響を受けるのか、あるいは、原発立地をどうするのか、そこで働く多くの人がどのようになっていくのか、なとなど考えるべきことは山ほどあるはずです。

それを一切無視して「原発ゼロ」はないでしょう。菅氏が、ただの一般市民ならかまいません。やや無責任な気はしますが、それでもそこまでつきつめて考えるべき義務はありません。

しかし、政権トップについ昨日までいたガバナンス側の人間がどの口で言うのか、ということです。

あんた原発事故処理に失敗したあげく、支持率一桁目前となりながら、1%でも辞めないと言い張り、結局再エネ法を与野党の取引材料に使ってなんの論議もしないで通したんじゃないか、という大方の声を菅さんどう聞きます。

原発反対と叫べば済む立場じゃないだろうという話です。 

今思い出しましたが、鳩さんも金曜デモに出ていましたね。つい数年前まで最高権力者だった人が、国家権力と「戦う」というマンガのような風景だと気がつかないのが「病理」なのです。

このふたりは似た者同志なのかもしれませんが、国民はちっともほのぼのとしませんがね(笑)。

■※参考文献。「メルトダウン」大鹿靖明 講談社。 福島事故とその後についての必読の一冊です。 

■写真 特に菅さんに捧げる花というわけではないんですが、ヘクソカズラです。花を揉むとスカトロ系の素敵な匂いがします。

2013年7月24日 (水)

ほんとうは怖い電力改革 その10 電力自由化で増加した停電率

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先週からの続きで、電力自由化後の現実をみています。このシリーズは順調に進行しているなと思うと、菅氏のトンデモ訴訟があったりしていっかな進みません。

たぶん今週中にはTPP情報の輪郭程度はわかるでしょうから、果たしてどうなりますか。TPP守秘義務のサインをしてもう見ているはずです。ああ知りたい!

さて、日常に戻って電力自由化です(笑)。電力自由化が需要者にとって利益かどうかの指標は、ふたつあります。ひとつは前回みた電力料金、そして今日取り上げる停電率です。

各国の大停電は下図のようですが、いずれも電力自由化後に起きています。

もうひとつ下の図と見比べてくださると、自由化後に増加したのがお分かりになると思います。

             ●最近の基幹送電設備故障による停電 (電力改革研究会)

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関西電力、中部電力の需要量が、共に今年最大になりました。と言いますか、北海道電力を除く電力会社は、この数週間、毎日「今年最大」を更新している有様です。

この夏、猛暑というよりもはや立派な熱波を受けて九州電力の電力供給力に対する需要率が93%に達しました。軒並み各電力会社は厳しい需給見込みを出しています。 

この2年間の真夏の電力需給を受けて、今年もまた電力会社同士での電力融通は当然盛んに行われますが、再稼働に対する審査結果が半年先以上に延ばされた以上、当分電力供給的にも、経営的にも、片肺飛行が続くのは避けられません。

つまり原発は2基を残して全停止、再生可能エネルギーはとうぶんものにならない、そして頼みの火力は原油高という三重苦です。

この綱渡り状況で停電がなんとかしのげそうなのは、4兆円の国富流出をしながら高価な天然ガス、原油を買い込むことのできる経済力が日本にあるということもありますが、基本は発電設備の設備率が需要より上回っているからです。

だいたい先進国は設備率が1.3から1.4前後です。(下図参照)

           主要国における自由化開始時の設備率と自由化開始年

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図 電力改革研究会  出所 海外電気事業統計、米DOE/EIA、カリフォルニアエネルギー委員会、電気事業便覧
※設備率=電気事業者発電設備の銘板容量合計/最大電力
・テキサス州は、銘板容量の代わりに夏季供給力を使用(値は小さめになる)
・カリフォルニア州の設備率は、データの制約により2000年のデータ
 

米国には3ツの送電網ブロックがあって、カリフォルニアとテキサスでは0.37も違っています。このの低い発電設備率のカリフォルニア知事が、新自由主義(レーガノミックス)にかぶれて電力自由化を断行してしまったために大停電を頻発してしまいました。 

設備率が低い国や地域で、電力自由化をしてはいけないという米国の教訓ですね。

ヨーロッパ諸国はEU指令で電力自由化が断行された結果、上図の1.0%を上回る余剰電力を食いつぶしてしまっています。

れは何度も書いているように、火力に対する設備投資や更新のインセンティブ(やる気)が、太陽光を過剰に優遇したFIT制度のために急速になくなってしまい、発電部門が原油高も手伝って荒廃したためです。

またイタリアのように2003年の記録的大停電の原因は、スイス国境付近の送電線の過負荷です。我が国なら短時間で再送電できるのですが、欧米にはこの過負荷事故に対する備えがなく18時間の大停電になってしました。これについてはもう少し後の回でご説明します。

とまれ、送電網で過負荷対策をしないでいると、ちょっとしたことで大停電になるというのがイタリアの教訓のようです。

今やヨーロッパで電力の余裕があるのは、水力を持つスウェーデンなどのスカンジナビア諸国と原発大国フランスだけてあり、他の国々はヨーロッパ広域送電網によってやり繰りしながら凌いでいる状況のようです。

特に長く寒い冬が鬼門で、ドイツなどではメルケル政権の脱原発政策と電力自由化の同時実施で一挙に7基の原発が停止し、実に7ギガワットの電力が消滅してしまいました。

そこでドイツネットワーク庁(BNA※ドイツの送電網管理官庁)は2011年8月、冬を前にしてコールド・リザーブ(予備発電所)を用意しました。

これは今までCO2問題で稼働を止めていた老朽石炭火力発電所を8基稼働させることにし、なんとか厳しい冬を乗り切ろうとしたわけです。

原発が半数停止した中で毎日曇天が続き、おまけに風も吹かないという天気です。このような最悪シナリオを描かずに、原発をゼロにすることは自殺行為だからです。

まぁ、考えてみれば、熱波の夏の我が国はこの時のドイツに輪をかけた最悪シナリオですが(苦笑)。

それはさておき実はこの時、ドイツ北部では電気はやや余っており、おまけに強風で風車はブンブン回っていました。

しかし、かんじんのドイツ南部工業地帯への送電網の拡充が遅れていたために余っているのに需要地へ送れないという悲喜劇のようなことが起きたのです。

翌年2012年は記録的な大寒波がヨーロッパ全域を襲いました。まさにBNAが予想していた「最悪シナリオ」です。

寒波により電力需要は毎日ピークを更新する反面、太陽光パネルは曇天と雨でまったく電気を作らず、風車も回らないという事態が現実のものとなったのでした。

脱原発と再生可能エネルギーに電力供給を委ねた場合、このような「最悪シナリオ」が頻発するというのがドイツの教訓です。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-19d4.html

ところで、電力自由化前までは、再生可能エネルギー(新電力)はちやほやされた存在でした。 

晴れたり曇ったりする度に変化する再性可能エネルギーの発電量は、常に優しく火力がバックアップしていました。 

また送電網も、自由化前まではよほどの距離がない限り、既存電力会社(系統送電運用者)がケーブルを敷いてくれていました。 

それは電気事業法で制限つきながらも送電義務があって発電と送電が一貫していたからで、発送電分離して別会社になれば、発電事業者は単なる営利業者ですからそんな義理はありゃしません。

ですから、いったん自由化になったとたんそんな「ただ乗り」(フリーライド)は御法度になり、再生可能エネルギー発電所は一斉に受難の時期を迎えることになるでしょう。

つまり、自由化ということは、負担の平等化であり、コストの均等化を意味するのです

今まで、不安定という致命的欠陥がありながらも、「脱原発」という政治的色彩の強い電源として優遇されていた再生可能エネルギーが、ほんとうに実用エネルギーとして一人立ちできるのかが問われるのが電力自由化ということなのですから。

それをノーテンキにも、再生可能エネルギー推進側が、新自由主義者と一緒になって発送電分離を叫ぶとは・・・!

繰り返しますが、発送電分離していないほうが、再生可能エネルギーにとって断然有利なんですよ。

さらに脱原発を最終目標とするなら、ほんとうに再生可能エネルギーが必須条件なのか真剣に考えてみてください。

新自由主義体質の飯田哲也さんや、モノを考えないことで有名な菅直人さんの口車に乗って、「脱原発の代替は再生可能エネルギーだぁ。だから電力自由化だぁ!」などと単純に信じていては、ぜったいに原発はなくなりませんよ。

・・・残念ですが正直言って、菅氏の悪のり、山本太郎氏の当選などを見ると、脱原発運動はよく言えばピュアに、悪くいえば異論を許さない、狭い凝り固まった形に変容していっているようですので、絶望的な気もしますが。

しかし、私はあきらめないで、訴え続けることにします。

■写真 水戸千波湖のコクチョウさんとハクチョウさん。実に白黒仲が良いようで。

2013年7月23日 (火)

Roentgeniumさんにお答えして 民主党の「政治主導」の失敗としての福島事故

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Roentgeniumさん、コメントありがとうございます。長々と船橋洋一氏の経歴を貼り付けていただきましたが(ご勘弁ください。ここは掲示板ではありませんので)、船橋氏が親米だろうと反米だろうと、はたまたCIAの「情報提供者」だろうと、私にはどうでもいいことです。 

もしCIAの「情報提供者」だったなら、船橋氏が主筆をしていた朝日新聞もまたCIAのお抱えメディアになってしまいますね(笑)。 

ではその朝日新聞が進める脱原発社論は、CIAの指示なんでしょうか。すいません、書いていて笑いが止まらなくなりました。 

福島第1の事故経過は闇に包まれた部分がありました。ですから、民間、政府、国会事故調と、その後に出た何冊かの本によって多面的にチェックするしかありません。事実経過のクロスチェックが大事なのです。 

親米だろうとなんであろうと、あの事故において在日米軍、米国NRCが重要な役割を果たしたことは紛れもないことです。

東京のすぐそばには、横須賀という米海軍の世界拠点があるのですからあたりまえです。だから米国は自国利害と同盟国支援という二重の意志をもって、日本政府に協力を申し出たのです。

それは事故初期に最初の放射能飛散状況を調査した無人偵察機グローバルホークや米海軍の東日本の各地の車両による線量測定だったり、あるいは米国の当該部局のNRCの技術的サジェスチョンでした。

投入こそされませんでしたが、米軍の原子炉事故対処部隊も来日しています。ただし、米側から提供されたグローバルホークの貴重な飛散測定図を、菅氏はまったく見ていないか、知りさえしていないようですが。

これらの事実は他の事故調には載っていないもので、船橋氏の著書が最初です。

私は船橋氏の本で、この事故が世界情勢の中で進行しており、それに気がついていないのは当時の「テンパっていた」(民間事故調)日本政府だけなのを知り愕然となりました。 

また、お勧めの「カレイドスコープ」とやらの記事も読んでみましたが、私と交わるところがまったくありませんでした。 

私はあのての誰それがどこそこの株主だから、その利益のためにどうしたこうした、という類の週刊誌のような訳知りのインサイドストリーは一切無視することにしています

なぜなら、そのような陰謀論は解釈ひとつで、どのようにでも解釈できるからです。 

たとえば、小沢一郎氏は原発を潰して地元ダムに有利にとりはからうために、あえて事故の間なんの力も貸さずに事故を巨大化させたのだとか。 

いやいや、外国人献金で断崖絶壁にいた菅氏が延命のためにあえて注水停止を命じて事故を大きくしたのだとか、いくらでも言いようがあります。 

もちろん全部デタラメですが、陰謀論など事実の積み重ねの中ではただのジャンク情報のひとつにすぎません。 

ところで「注水中止と菅氏が言ったことは安倍氏のデマ」だとのことですが、事実関係としてどこかどう「デマ」なのでしょうか? 

私は時系列で追っていますので、時系列で菅氏が「注水中断しろ」ととられることを一切言っていないとおっしゃるなら、それを証明なさって下さい。 

ちなみに私は、記事中でも「菅氏の主張の半分は正しい」と公平に書いているつもりです。 

それは正確には、彼が「(注水を)やめろ」と言った直接的発言は記録にないからです。

あくまで菅氏が言ったのは、「塩水だぞ。影響は考えたのか!」というと恫喝的空気を作った上で、「(注水作業を)もっと検討しろ!もっと詰めろ!」という怒号だったのです。

ここで「恫喝的」とか「怒号」といった穏やかでない表現を私は使っていますが、これは当時官邸に居合わせた人たちの証言によります。 事故調報告書にもこの表現が散見されます。

この恫喝的言辞で相手をひれ伏させ、自らの意志に服従させる暴君的態度は菅氏が得意とするもので、福島第1現地に視察した際にも、出迎えた東電副社長に対して出会い頭に「オレの質問だけに答えろ!」という台詞を叩きつけています。

ま、常識的に考えても、最高権力者からこんなピリピリした空気の中で「塩水だぞ」、「もっと検討しろ!」と怒鳴られたら「首相が中止を命じた」ととられてもなんの不思議はありませんね。 

この菅氏の態度は、私がまだ学生時代には大勢いた学生活動家のスタイルそのままで、あの時代で彼の成長が止まってしまっているのがよく分かります。

それを今になって、「吉田氏は東電の注水停止命令に抗した。えらい。悪いのはみんな東電だ。オレは吉田クンの親友だ」みたいに菅氏に書かれると、私は嘘コケぇと思うわけであります。

このことは、民主党政権が当初からもっていた「官僚は政治家に命令されたことだけやれ。余計なことはするな」という「政治主導」の流れの中で理解されるべきだと考えます。 

震災の時も、この「政治主導」とやらのために多くの官僚が判断に迷い、震災の対処が遅れました。 

SPEEDIなどは、官僚は一刻を争う判断なのにかかわらず、とりあえず官邸に情報をFAXすれば任務終了とばかりにその先に、どのようにこの貴重な資料を避難誘導に使うかなどは考えもしませんでした。 

もし余計なことをすれば、民主党の政治家から、「なにをやっているんだ。聞かれた事だけハイハイとやっていればいいんだ」という叱責が飛んできたからです。 

ですから、官僚は「とりあえず福島県にFAXしました」という弁解の証拠だけを残して、それ以上の仕事をしなかったのです。 

このように、「言われたことだけしろ」と命令されると官僚は、余計なことをすると叱られると思い、ヒラメばかりになってしまいます。 

今回の武黒フェローのように(彼は官僚ではありませんが)「官邸がグジグジ言っているから(とりあえず)ヤメロ」みたいな「とりあえず主義」の空気が醸成されてしまうのです。 

政治家なんか、原子炉や、ましてや原子力事故に対しては今までまったく勉強してこなかったのですから、「政治主導してやる」なんてご大層なことを思わず、早期に専門家に指揮権を委譲するべきだったのです。 

このように、この「注水中断命令事件」、いや、原子力事故対応全体の失敗は、民主党政権の過てる「政治主導」がやるべくしてやってしまった必然的失敗だったと私は思います。 

■写真ファビュラスという白薔薇です。つくば実験植物園にて。

2013年7月22日 (月)

参院選結果 凄まじすぎる「反省しないシンボル」・菅直人氏の破壊力!

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当然といえば言える結果になったようです。自民党圧勝、民主党惨敗。生活、みどりの風、社民党が壊滅的状況といった中で、共産党のみが躍進しました。

共産党は低投票率で組織力を生かせた上に、民主「なき後」(いちおう残ってますが、時間の問題です)の反自民票を取り込めたようです。

選挙後にマスメディアの一部は、「低投票率が自公に有利に働いた」といったことを言うところがありますが、そんなことはありません。

投票率は、与野党に公平に現れます。投票率が低ければ、野党でいえばしっかりした組織票を持つ共産党や、日教組、自治労、民間巨大労組が支持基盤の民主党には有利に働くはずです。現に共産党はそうでした。

民主党が壊滅的打撃を受けたのは、彼ら自身の内在する問題があるからにすぎません。

民主党の場合、3年3か月の政権党としての失敗を総括できていない上に、もっとも深く反省すべき菅直人氏があろうことか自党の選挙妨害行為に走りました。 

東京は言うまでもありませんが、菅氏が手柄とする諫早干拓の地の長崎選挙区(改選1)で落選した民主現職・大久保潔重氏ですらこう言う有り様です。

ここはかつて全議席制覇の民主王国だったんですが、もうひとつの民主王国愛知と並んで全滅です

「敗因はもちろん私の力不足ですが、長崎でも民主党に対する拒否感をはっきりと感じました。最大の理由は菅直人元首相でしょう。あの人が首相になったことが民主党にとって最悪だった」。 

「菅さんが首相就任直後に消費増税を言い出し、そのせいで22年の参院選に負けた。にもかかわらず首相に居座り、TPP参加など公約にもないことを何の根回しも何の党内議論もなく言い出し、混乱を招いた。さらに東日本大震災でもひどい対応で批判を浴びた。首相にすべきではなかった。心からそう思います」。 

菅直人氏の破壊力をいちばん被ってしまったのが民主だったというわけのようですね。

そういえば、現執行部の海江田、細野両氏は、福島事故の時の家臣団たちだったというのはなんとも皮肉な巡り合わせです。

また民主党支持母体であるはずの連合傘下の民間労組は、組織内候補を除いてまったく民主を応援していていなかったこともわかりました。 

「電力総連が九州7選挙区の民主党候補に推薦を出したのは福岡、長崎だけ。連合推薦候補に独自の判断で推薦を出さなかったのは初めてだ。ある電力系労組幹部はこう打ち明けた。
「菅氏がいる民主党を推して組合員が納得するはずがないでしょ。組織内候補は全力で推しますが、選挙区で特定候補を組合員に推すことはしません。私も党派は問わず私たちに理解のある人に投票するつもりです」。(産経新聞7月14日)
 

国民の民主党政権への怒り(というよりもはや憎悪か)は未だ収まらず、収まりかかった火種をまた菅直人氏が選挙中に火を付けて回るに加えて、唯一の支持母体だった労組がこの有り様では、民主党が勝てる道理がありません。 

菅氏はなにも反省しないでしょうが、彼のキャラそのものが福島原発事故対応の失敗と、その後の復興の遅れの無反省ぶりを象徴していることに、彼自身いいかげん気がつくべきです。

いや、永遠に気がつかないだろうな。なにせ、自分の選挙区東京18区で首相経験者なのに無様に落選して、民主比例で拾ってもらったにもかかわらず、後ろ足で党に砂をかけるまねをするのですから、まぁ無理な相談ですか。

それにしても、菅氏の手に触るものは国だろうが、党だろうが見さかいなく壊して回るのですから、凄まじいというか、なんというか。

もう将門の首塚みたいに菅塚でも作って祭っておいたほうがいいのではないでしょうか。ついでに鳩塚と一郎塚も並んで建てておいて下さい。

脱原発派のみなさん、悪いことは言わないから菅氏と距離をあけたほうが無難ですよ。危なそうなバックがあるという噂もありますが、山本太郎君のほうが極論を言うだけまだましです。

山本君は、さっそく当選のインタビューで「福島の農産物は放射性廃棄物だ」と言ったとか、言わないとか。もう飛ばしてますね。(※追記参照)

社民党や、国民新党崩れのみどりの風、ましてや民主の大ボスだった小沢氏の生活などの民主政権崩れ諸派は、民主党政権の失敗のつけを払わされたということになりました。

ただ、山田正彦氏は惜しいことをしました。民主党政権で、数少ない理念と実力を兼ね備えた政治家だった骨がある政治家がこのまま消えてしまうのでしょうか。残念です。

さて私としては、今週中に全貌が明らかになるはずのTPPの既決内容を早く知りたいものです。たぶんギョ,ツとする内容ではないかと思います。

今回、わが茨城選挙区の民主藤田幸久氏も含めて、かなりの数のTPP賛成候補が当選しているので嫌な気分です。

追記 山本太郎氏NHK午後9:13文字起こし
「いま1キロあたり100ベクレルは、放射性廃棄物と同等なんです。低レベル放射性廃棄物、それを国民に食べさせて、安全とする政府、国なんで、もう、話にならないんですよね。国民全員が低線量被曝しろっていう話なんですね。この、農家の方々に対し今、この国の向かっている方向性ということに不満を感じていると思うんですよ。何よりも一番やって欲しいということは、食品の安全基準。これを変えることですよね。今、1Kgあたり100bqは、放射性廃棄物と同等なんです。低レベル放射性廃棄物。それを国民に食べさせて安全とする政府なんて、国なんて、話にならないんですよね。国民全体が低線量被ばくしろという話ですよね。この、農家の方に対して、生産者の方に対して、保証、賠償するというのは当然の話。それを逃げているのは(が?)当然であり、国であるという話なんですよね。やっぱり被害者があまりにも多すぎる。ただちに影響がないというところを利用して、金もうけに走らないでほしい。やっぱりこの声を聞いて欲しい。」

ということで、「福島農産物が放射性廃棄物だ」という風評は、悪意に短絡させたデマということになりました。
ただし内容的には100bqの農産物基準が震災瓦礫処分の基準と一緒だという主張は、飛躍もいいところですが。まだこんなこんなこと言ってんだよな、このひと。
(7月23日午後記)

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■写真の説明
水戸の千波湖に行ったのですが、なんとコクチョウが!黒い白鳥という珍種中の珍種が、人を恐れるでもなく湖岸にたむろしておりました。日々、霞ヶ浦で望遠越しに隠し撮りをしている私としては(←オレは痴漢か)唖然絶句の風景でした。

水戸市公園協会によると,千波湖のコクチョウは1978年に宇都宮市から寄贈されたそうで,現在は、ほとんどが千波湖で繁殖したものだそうです。60羽以上いるようで、パン屑をやると、陸にまで上がってくるというサービスぶり。
「コクチョウ (学名:Cygnus atratus)は、カモ目カモ科ハクチョウ属に分類される鳥類。 1697年に発見された。
オーストラリアに生息する固有種。内陸部の乾燥地帯と、ヨーク岬半島を除く全土に生息している。オオハクチョウなどのように渡りを行わず、季節や環境の変化により動を行う漂鳥である。オーストラリア唯一の固有のハクチョウ属であるが、コブハクチョウが移入されている。西オーストラリア州の州の鳥。またニュージーランドに移入されている。」Wikipedia

2013年7月20日 (土)

週末写真館 夏の村の風景

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うだるような暑さの村に、気持ちよく雲が流れています。
昼下がりの時間はさすがに田畑には人影がなくなります。
皆、早朝5時くらいから仕事をして、日中は倉庫で仕分けなどをしているのです。
一見、草原のようにみえますが、稲ですよ。
もう少しで出穂の季節。
すくすくと暑い天に向けて延びています。
蓮の花も咲き始めました。

耐える夏は、成長の夏でもあります。

2013年7月19日 (金)

菅直人氏、安倍総理提訴事件その2 民間事故調による菅氏の事故マネージメント評価

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昨日からの続きです。
※その1http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-707b.html

菅直人氏が安倍首相を名誉毀損で提訴するという前代未聞の事件が起きています。菅氏は「注水を命じたのが嘘だ」という安倍首相の2年数カ月前の言説を、今頃になって裁判沙汰にするという珍しいことをしています。

歴史的選挙を控えて、その真意はなんなのか、各方面から不信がられています。

思えば、菅直人氏こそ在任中にはTPP参加消費税増税の尖兵となり、福島事故対応には失敗し、そして発送電分離を主張し、FITを導入したのもすべて菅氏なのですから、彼なりに3年3カ月の民主党政権の総括を国民に問いたかったのかもしれませんね。

けっこうです。大いに問うてあげましょう(笑)。

●[独立事故調報告書による事故対応に対する指摘

さて昨日の「塩水注水事件」の資料にさせていただいた「カウントダウン メルトダウン」の著者・船橋洋一氏は、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)の調査報告書のプロデューサーとして同事故調査報告書を作成しています。

この報告書が特徴的なのは、政府事故調報告書(中間報告)では事故原因の核心部分である政府中枢の危機管理対応にふれないで、技術的な失敗のみ列挙するという政治的圧力すら感じるような内容だったことに対して、事故対応が的確であったのかという事故マネージメントという視点があったことです。

当時、政権与党にいて最高実力者だった菅前首相に配慮して、臭いものに蓋の最終報告書を作りあげたのなら、この巨大原発事故の真相は公式には永遠に葬られてしまうという危機感があったと船橋氏は語っています。

「カウントダウン メルトダウン」は、国際的観点も取り入れてより立体的に書かれた独立事故調報告書の続編のような存在です。

さてこの事故調報告書で、どのように菅氏の事故対応は評されているでしょうか。

3月12日以降の国家的非常事態において、官邸が「パニックと極度の情報不足」(報告書)に陥り、「テンパッた状態」(同)になったことが描かれています。

「今回の福島事故直後の官邸の初動対応は、危機の連続であった。制度的な想定を離れた展開の中で、専門知識・経験を欠いた少数の政治家が中心となり、次々と展開する危機に場当たり的な対応を続けた。決して洗練されたものではなく、むしろ、稚拙で泥縄的な危機管理であった。」(報告書)

この極度の混乱状況の中で、菅首相は理性が吹っ飛んだ半狂乱状態になっていたことも報告書に記されています。

菅氏は、一切の助言に対して「言い出したら聞かない」(報告書)状態となり、過剰な政治介入とスタンドプレーのみに奔走しました。

たとえば、12日ベント準備に全力を尽くしていた事故現場に突如「陣頭指揮」に行くと言い出し、官邸内部でも枝野官房長官など多くのスタッフが反対をしたにもかかわらず、首相は聞く耳をもたず強行しました。

当時現場は、原子炉に海水注入をしようにも炉内が空焚きのための高気圧により、通常のポンプでは注水できない状態になっていました。

だからこそ、圧力を逃がすために早急のベントが必要だったわけですが、しかしこれも停電のために、高線量下の1号機原子炉建屋内に突入して手動ベントを決行するしかない状況でした。

そのために既に50代以上の「決死隊」6名の編成が完了していました。彼らは癌になることを覚悟のうえで、それが発症しても高齢になっているために進行が遅い年代が志願しました。

彼らの名前は公表されていませんが、ご無事であることをお祈りします。

一方菅氏は「なにをグズグズしているんだ」と激怒し、「陣頭指揮」(首相の国会答弁時の表現)に向かったのです。

この一分一秒でも惜しい事故現場の修羅場に首相自らが乗り込み、最前線指揮官を小一時間拘束しに来るという前代未聞のアホーマンスを知った吉田所長はこう言ったそうです。

私が総理の対応をしてどうするんですか。」(報告書)

事故現場にヘリで乗り付けた首相は、居合わせた武藤副社長をどなりつけ、わめき散らし、吉田所長の「決死隊を作ってでもやります」というひとことを聞いてやっとお引き取り願えたそうです。

局、この決死隊の突入のかいなく、手動ベントは失敗に終わり、高圧コンプレッサーでの高圧注水することとなったのですが、このことについて、報告書はこう述べています。

官邸の決定や経済産業相の命令、首相の要請がベントの早期実現に役立ったと認められる点はなかった。」(同)

また、冷却機能喪失、炉心融解に直接結びついた電源喪失に対して、官邸は東電の頭越しに40数台の電源車を送りましたが、GE製の特殊なコネクターのために使用ができないという信じられない大ポカを引き起しました。

これを報告書はこう述べています。

「官邸では福山副長官がその手配を中心に担当し、どの道路が閉鎖されているのかわからないので、各方面から40数台の電源車を手配した。しかし、これらの電源車は事故対策にほとんど貢献しなかった。」(同)

そもそもこんなことは専門家がやるべきことで、それこそ「専門知識・経験を欠いた一部の政治家」がするべきことではありません。

そういえば、菅氏はポンプのバッテリーの寸法まで口出ししていたとの記録もあり、近代的危機管理を知らない瑣末主義と評されています。

この報告書には書かれていないようですが、菅氏の思いついたヘリからの冷却水投下は、パイロットたちを危険におとしめただけでなんの効果も上がりませんでした。

これをテレビでみていた米国大使館内の「トモダチ作戦」本部は、「これが先進国のやることなのか」と唖然としたそうです。(ケビン・メア「決断できない日本」)

ちなみにあのヘリからの海水投下という思いつきも、彼が学生活動家の時に見た安田講堂攻防戦からヒントを得たもののようで、ため息がでてきます。

また官僚組織は菅首相の強圧的、恫喝的とも言える指揮に恐怖し、まともな判断力を失って、ひたすら保身と責任転嫁のみに走ったことも分かりました。

たとえば、官僚はSPEEDIによる放射性物質の拡散状況を知りながら、それを官邸に形式的にFAXしたのみで、その情報の重要性は官邸の誰もが知らないという驚くべき状況だったようです。

私はこれを組織的隠匿だと考えていましたが、事態はもっと幼稚で、単に官僚をこの危機においても使いこなせなかっただけの話だったようです。 

専門家として指揮を担うべき原子力安全委員会の斑目春樹委員長もまた、菅首相に振り回されるような状態に陥りました。

「(菅首相の)強く自身の意見を主張する傾向が、斑目委員長や閣僚に反論を躊躇させた。」(同)

12日午後3時36分1号機建屋が水素爆発をしましたが、それに対しても斑目委員長は、「あー」と答えたきり頭を抱えて判断不能に陥る状態でした。

この斑目委員長は官邸にいたただふたりの原子力専門家だったにかかわらず、事態の深刻さと首相による強ストレスのために判断停止状態でした。

この腰が抜けたようになった専門家を見て菅氏はいっそう逆上し、周囲を「おまえ」呼ばわりで罵り散らし、まったく耳を貸そうとしない様も描かれています。

後に菅氏は保安院、安全委員会、東電に対して極度の不信に陥り、官邸から携帯で昔の学生運動仲間を招集し、勝手に内閣参与に任命して危機対応に当たらせましたが、その多くは原子炉事故はおろか原子力に対してすらまったくの素人にすぎませんでした。

その後のドライベントの避難地域の設定に対しても、菅氏は既定の3キロでは足りず、はるかに大きな避難地域を設定せねばならないにもかかわらず、それを失念し、場当たり的に拡大して避難を妨げました。

というか、彼の念頭には最高指揮官として避難まで含めたトータルな事故対応を指示すぐ立場にありながら、原子炉にのみ集中している状況だったようです。

これは元来、独善的でわがままな彼の性格が、この極限状況でさらに加速されてしまい極度の視界狭窄に陥ってしまったからです。

また今回、菅氏が提訴した「海水注入」については、12日5時55分に海水注入作業を進めていた事故現場に対して、突如その夜になって「塩水だぞ。影響を考えたのか!」と叫びました。

狭い意味では、なるほど確かに菅氏が主張するように「海水注水を命令したのは嘘というのは虚偽」は、事実の半面では正しいとも言えます。

つまり彼は「塩水だぞ。影響を考えたのか!」と怒号しただけといえば「だけ」で、注水停止を命じたわけではありません。

この暴走する首相の「もっと検討しろ!」という怒号に対して、斑目委員長や武黒フェローなどの専門家がそれを制止できず、それどころか彼の強権的態度にひれ伏してしまい「意をくみ取る」ことのみに汲々としていたからです。

いみじくも斑目委員長は報告書の中でこう情けないことをこぼしています。

「私としてはもっといろいろなことを伝えたかった。」、「菅首相の前で大きな声で元気よく言える人は、相当な心臓の持ち主だ」。

議事録を作らなかったのは、「首相に録音の許可をもらうことが怖くて言い出せなかった」との官僚の声もあります。(産経新聞3月1日)

この危機対応会議の議事録がなにひとつないというのが、今回の福島事故総括を遅らせた大きな原因となりました。

当時官邸にいた「専門的知識・経験のない一部政治家たち」は、議事録がないことを幸いに、口止めをしたり、口裏合わせすらして全貌解明を妨げました。

たまに出てくる情報は「一部政治家たち」からのマスコミリークであり、「東電が原子炉に塩水をいれると痛むから嫌がっていて注水ができないでいる」などという事実ではない憶測も多く含まれていました。

「痛むから東電が注水を渋っている」ではなく、技術的に高圧の炉内に注入できずに苦闘していただけです。

さて菅氏の「(注水を)検討しろ!」という怒号に、武黒フェロー(東電の連絡担当者)が震え上がり、吉田所長に直に携帯電話し、さらに頑として停止に応じない吉田氏を屈伏させるために東電社長まで引っ張りだして「業務命令」の形にしたわけです。

このような状況下で、菅氏が「検討しろ!」と怒号すれば、それが「停止しろ」だと解釈して当然ですが、それにしてもくどうしようもない東電の腰抜けぶりです。

とはいえ、これをしてしゃらっと菅氏は、こう書くのですから鉄面皮なのか、物忘れがひどいのか、まぁ常人ではないことだけは確かです。

「事故発生日の翌日の夕刻、東電上層部からの海水注水停止の指示に対し、吉田所長は現場の責任者として、また技術者の立場から注水の継続が必要と判断し、上層部の意向に反して独断で注水を継続した。英断だ。」(2013年7月12日菅直人ブログ)

なるほど狭い意味で、菅氏が言うように吉田所長に注水停止を「命じた」のは武黒フェローであり、彼からの「吉田は頑として言うことを聞かず注水を継続している」という報告に動転した東電本社でした

だからといって最高指揮官の狂態が許されて言いわけではありません。菅氏は確かに「中断」も命じなかったし、注水命令も(既に現場が独自に実施していましたが)とりあえず5時56分に命じてはいます。

この意味で菅氏の主張は半分正しいともいえます。ただし御覧になったように、彼にとってのみの都合のいい「半分」にすぎません。

最高責任者という存在は、現場指揮をすべきではありません。それは専門知識と経験を持つ者がすればいいのです。最高指揮官は、その者を任命し、起きた「結果」に対して責任を負えばいいのです。

しかし、菅氏は、現場指揮にまでいらぬ介入を繰り返し、混乱を拡大した挙げ句、結果に対しては「オレは悪くない。悪いのは○○だ」と責任逃れを繰り返しました。

この○○は、ある時は東電であり、ある時は安全委員会であり、ある時は原発そのものでした。

東電撤退を止めたのはオレだ」というのが菅氏の自慢のようですが、あれは事故現場から吉田所長が関連会社の社員を撤収させ、東電社員だけで対応しようとしたことが、猜疑心に満ちた菅氏の脳内フィルターで転換されて「東電撤収」に変じただけです。

そして猜疑心に凝り固まって東電本社にまでに突撃をかけたのですから、なんともすごい。

そういえば民主党大反省会」とやらで彼は、反省どころか「悪いのは小沢と自民党」と言い放って失笑を買っていましたね。そういう品性の人間なのです。

そして今回は「悪いのは安倍だ」と言いたいようです。まったく最高指揮官としてのプリンシパルを逸脱しています。

菅氏はブログの中で「安倍首相から反論が来ない」ことをあげて勝利宣言を出しているようですが、馬鹿か。

歴史的選挙の前夜に安倍首相がこんなどうでもいい提訴に「反論」などするわけがないでしょう。

このような菅氏の極度に幼児的な自己中心的体質が事故をあれだけ深刻にしてしまった原因のひとつなのです。

これについて報告書はこのように結論づけています。

官邸の議論は結果的に影響を及ぼさなかったが、官邸の中断要請にしたがっていれば、作業か遅延していた可能性がある危険な状況であった。」(同)

この部分で、かなりはっきりと菅氏の「オレは注水中止など言っていない。言ったのは東電だ」という主張を退けています

このように菅直人という異常な精神形質を持つ人間が、事故対応の指揮権のすべてを強引に掌握したために、本来行われるべき的確な権限委譲がなされずに、事故リスクをかえって拡大してしまいました。

いわば、悪天候の中でエンジンが炎上した旅客機のコクピットを「専門知識も経験もない」素人が占拠して、思いつきでそこら中のスイッチを押しまくっていたようなものでした。よく墜落しなかったものです。

報告書はこう結論づけています。

少なくとも15日の対策統合本部設置までの間は、官邸による現場マネージメントが事故対応として有効だった事例は少なく、ほとんどの場合、まったく影響を与えていないか、無用の混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めていたものと考える。」(同)

                     ~~~~~~~~

結局、このパニックの中でただひとり冷静さを失わなかった吉田所長が、官邸と東電本店の命令系統を無視して独自に海水注入作業を続行していたために最悪の事態は避けられました。

吉田氏の最大の敵は、原子炉ではなく、東電本社と官邸だったようです

吉田氏は、津波の過小評価やICの忘却などいくつかの失敗をしていますが、もし現場責任者が斑目氏や武黒氏、あるいは清水社長のようであったなら、我が国は最悪シナリオに突入していたことは間違いありません。

菅氏が注水事件でいちゃもんつけのような提訴に踏み切ったことを歓迎します。

法廷で様々な事故対応資料や証人が集められ、菅氏が犯した歴史的過誤が白日の下にさらされるでしょう。

関連記事 船橋洋一「カウントダウン メルトダウン」を読む(第1回~第4回)は以下でご覧ください。
      http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-2.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-15e5.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-a56d.html
       http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-a96e.html

2013年7月18日 (木)

菅直人氏、安倍総理提訴事件その1 船橋洋一「カウントダウン メルトダウン」に見る「海水注入」当日の情景

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菅直人元首相が、現職の安倍首相を名誉毀損で提訴したそうです。いや、なんとまぁ、そのほんまにスゴイ人ですな。

実現不可能なことは百も承知でしょうが、安倍首相の辞任まで要求しています。(笑) 

「菅氏は16日、安倍首相のメルマガがネット上で掲載されているのは名誉毀損だとして、慰謝料1100万円やメルマガの削除、謝罪記事の掲載を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。」(産経新聞7月17日) 

どうも、安倍首相が「やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だった」と書いたことに対して、菅氏は「いずれの事実も虚偽で名誉毀損だ」と言いたいらしいようです。 

では2011年3月12日の事実関係を、船橋洋一氏のメルトダウン カウントダウン上巻・第4章「1号機水素爆発」を基に、その状況の流れを振り返ってみます。 

できるだけ省略せずに、事実関係を書き起こしておきたいと思います。

この経過をお読みいただければ、菅氏の提訴がいかに「嘘は言っていないがほんとうのこともひとことも言っていない」類のものかご理解いただけると思います。

さて当時、東京電力本店事故対策本部と、政府事故対策本部のふたつの指揮系統が、情報交換はおろか、互いに不信と憎悪すら募らせていました

●[第1場 1号炉爆発 現場吉田所長の判断で海水注水開始 

・12日昼頃。吉田所長が1号炉に海水を注水することを決断
・午後3時前。防火水槽の水が干上がっていることがわかる。
午後3時すぎ。東電は保安院に「海水注入」の予定を告げた
・午後3時20分。1号炉爆発。
・2名負傷。全員、免震重要棟に脱出。構内は高濃度の放射線で汚染された瓦礫が散乱。最悪の極めて危険な作業環境。
・午後4時27分。吉田原災法第15条第1項の「特定事象」(敷地協会放射線量異常上昇)を宣言し、政府に報告。
・午後4時30分から約1時間30分。吉田ら現場は破損した海水注入用消防車のホースの修理などの注水のための復旧作業に当たる。
午後5時55分。この情報が海江田(経済産業相)に伝わらず東電本社に対して原子炉等規制法64条3項を根拠に海水注入を命じる

●[第2場 首相官邸

・午後6時。首相官邸執務室。海水注入をめぐる会議。出席者・菅、海江田、細野、斑目、平岡保安院次長、武黒フェロー(東電の連絡担当者)

会議の情景
・菅「塩水だぞ。影響は考えたのか!
・平岡「(海水の注水によって)臨界の危険性が高まることはありません」
・武黒「臨界を作ることは芸術的に難しい芸当です。不純物だらけの海水を入れて、そんなのできるはずがありません」
・斑目「(菅に促されて)保安院がそういうなら」
・菅「自分の判断で言ってくれ。絶対にないんだな」
・斑目「あるかもしれません」
・菅「どっちなんだ」
・斑目「ないとおもいますが、ゼロではありません
・菅「お前、水素爆発もないといったじゃないか」
・斑目「(泣きそうな声で)とにかく今水を入れなきゃいけないんです。海水で炉を水没させましょう」
・菅「もっと検討しろ!」「もっと詰めろ!」

●[第3場 武黒、清水、吉田に注水停止を命じる

・午後7時過ぎ。官邸危機管理室から携帯で吉田に電話。
・武黒「おまえ、海水注入は」
・吉田「やってますよ」
武黒「えっ、おいおい、やってんのか、止めろ
・吉田「なんでですか」
武黒「おまえ、うるせぇ。官邸がグジグジ言ってだよ」
・吉田「何言ってんですか」と電話を切る

吉田証言「指揮系統がもうグチャグチャだ。これではダメだ。最後は自分の判断でやるしかない
・吉田、テレビ会議で本店の武藤副社長に海水注入の必要を訴える。
東電本店「官邸の了解が得られていない以上、いったん中断もやむをえない
・吉田、納得せず
東電清水社長「今はまだダメなんです。政府の承認が出てないんです。それまでは中断するしかないんです
・吉田「わかりました」

●[第4場 吉田、本店がなにを言っても、絶対に水を止めるな

その後、吉田は所員にこう宣言する。
「海水注入に関しては、官邸からコメントがあった。一時中断する。」と大きな声で言った後、テレビ撮影機に背を見せて注水担当に対して、「本店から海水注入を中断するように言って来るかもしれない。しかし、そのまま海水注水を続けろ。本店が言ってきたときは、おれも中断を指示するが、しかし絶対に水を止めるな。わかったな

                    ~~~~~~~~~

まさに狂王とその下僕たちに国家存亡の非常事態は握られていたのです

ですから狭い意味で、吉田所長に注水停止を「命じた」のは武黒フェローであり、彼からの「吉田は頑として言うことを聞かず注水を継続している」という報告に動転した東電本社の清水社長でした

菅氏は吉田所長の死の翌日に自身のブログでこう書いています。

「事故発生日の翌日の夕刻、東電上層部からの海水注水停止の指示に対し、吉田所長は現場の責任者として、また技術者の立場から注水の継続が必要と判断し、上層部の意向に反して独断で注水を継続した。英断だ。」

先ほどの経過[第2場]をお読みいただければ、この菅氏の言葉がいかに白々しい責任すり替えをしているかご理解いただけると思います。

武黒フェローに「(海水注入を)もっと詰めろ」、「もっと検討しろ」と大声で怒鳴り散らし、東電を震え上がらせて、注水停止にまで追い込んだのはどこの誰だったのでしょうか

万事この調子です。菅氏は確かに「中断」も直接命じなかったし、注水命令も(既に現場が独自に実施していましたが)海江田氏を通じてとりあえず5時56分に命じてはいます。

この意味で菅氏の主張は半分正しいともいえます。ただし菅氏にとって都合の悪い半面を見なければ、ですが。

見てきたように菅氏の指揮ぶりは最低最悪の事故対応失敗マネジメントの見本帳のようであり、一国の首相として常軌を逸したものであったことは、すべての事故調が指摘するところです。

また安倍首相か菅氏が問題にしている記述をしたのは2011年5月の段階であり、事故調報告書が出るかなり前であったために、先に見て来たような一連の内部情報が内密にされた段階だったことによります。

内部情報は、当時官邸にいた民主党政権の政治家たちの露骨な口裏合わせ、責任回避、事実隠蔽があったために真相がつかめませんでした。

この封印が解けるには、独立事故調の報告書が世に出るのを待たねばなりませんでした。(独立事故調報告書については明日触れます。)

菅氏はブログの中で「安倍首相から反論が来ない」ことをあげて勝利宣言を出しているようですが、歴史的選挙の前夜に安倍首相がこんな馬鹿げた提訴に「反論」などするわけがないでしょう。

このような幼児的な自己中心体質が事故をあれだけ深刻にしてしまった原因のひとつなのです。
このテーマは明日に続けます。 

                   。。+゚゚。。+゚゚。。+゚゚。。+゚゚。。+゚゚。。+゚゚

■民主党の菅直人元首相は16日、安倍晋三氏(自民党総裁、首相)が東京電力福島第1原発事故への菅内閣の対応を批判したメールマガジン記事に事実誤認があり、名誉を傷つけられたとして、記事の削除や謝罪を求める訴訟を東京地裁に提起した。
菅氏が同日、衆院議員会館で記者会見して明らかにした。
 訴状によると、安倍氏は2011年5月20日付のメルマガ記事に、同原発事故の初動対応に関し「海水注入をとめたのは菅総理だった」
「海水注入は菅総理の英断とのウソを、側近は新聞・テレビにばらまいた」などと記載した。
 これに関して菅氏は会見で、「いずれの事実も虚偽。重大な名誉毀損(きそん)だ」と主張。訴えでは、

(1)記事のバックナンバーからの削除
(2)謝罪記事の2年以上の掲載(3)慰謝料1100万円の支払い―を求めた。

 首相経験者が現職の首相を提訴するのは極めて異例。メルマガ掲載から2年以上が経過し、参院選(21日投開票)の期間中のタイミングで提訴したことについて菅氏は「今回の選挙からネット選挙が解禁された。
何度も(間違いを)指摘したのに無視し、選挙期間に入った今日まで掲載し続けている」と説明し、
「国民に誤った情報を流し続けている」と安倍氏を批判した。 

時事通信 7月16日

平成23年5月26日 東京電力株式会社プレスリリース

 当社は、本年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力
発電所の事故に関し、事態の収束に全力を挙げて取り組むとともに、事実関係の
調査を進めております。

 こうした中、3月12日に実施した1号機への海水注入に関する主要な時系列につ
いて、これまでに以下の内容が判明しましたので、お知らせいたします。

<3月12日の主要な時系列>
12:00頃  社長が海水注入の準備について確認・了解
14:50頃  社長が海水注入の実施について確認・了解
14:53頃  淡水の注入停止(これまでに8万リットル注入)
15:18頃  準備が整い次第、海水注入する予定である旨を原子力安全・保安院等
      へ通報
15:36頃  水素爆発
18:05頃  国から海水注入に関する指示を受ける
19:04頃  海水注入を開始
19:06頃  海水注入を開始した旨を原子力安全・保安院へ連絡
19:25頃  当社の官邸派遣者からの状況判断として「官邸では海水注入について
      首相の了解が得られていない」との連絡が本店本部、発電所にあり、
      本店本部、発電所で協議の結果、いったん注入を停止することとした。
      しかし、発電所長の判断で海水注入を継続。(注)

(注) 関係者ヒアリングの結果、19:25頃の海水注入の停止について、発電所長
    の判断(事故の進展を防止するためには、原子炉への注水の継続が何より
    も重要)により、実際には停止は行われず、注水が継続していたことが
    判明しました。

菅直人氏の訴状資料
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11574298649.html
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11574300090.html
http://ameblo.jp/n-kan-blog/entry-11573707126.html

 

2013年7月17日 (水)

ほんとうは怖い電力改革 その9 「国民の利益」が忘れられた電力自由化議論

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やや涼しくなりました。といっても29度です(笑)。お見舞いありがとうございます。 

なんとか首の周りに頂き物のコールドネッカチーフなど巻き、塩飴など舐めながらがんばっております(←なんか悲壮ですな)。 

さて、脱原発が選挙争点のひとつになっているようです。原発ゼロという公約は自民党以外すべての党が言っていますが、大声で叫んでいるわりには内容空疎というか、かえって再稼働を堂々と主張する自民党のほうが新鮮なほどです(笑)。 

問題は、「どうやって脱原発をするか」という政策方法論が欠落していて、「新党大地」以外その具体性がみえません。 

新党大地は、ロシアからの天然ガス輸入といういかにもロシア大好きのムネオさんらしい方針で、微笑ましいですね。 

確かにサハリン3が軌道に乗って、日本までパイプラインが敷設されれば、エネルギー事情は一変するのはたしかです。 

価格的にも、今ロシアの天然ガスは米国のシェールガス革命の影響で、生産過剰になっていますからいいチャンスてす。つい先だっても、ドイツから足元を見られて供給単価を値切られました。 

ただし、まだ貧弱な全国的パイプライン網の建設も必要ですし、ロシア領サハリンとせっかく近距離にあるのですから、海底パイプラインを通さないと不経済です。

そしてロシアにエネルギー源を強依存すること自体、政治的に大いに不安というネックがあります。 

というのは、ロシアはヨーロッパ各国へパイプライン供給しているのですが、自分の気に食わない政策をしたウクライナなどには、懲罰的に2005年にパイプラインのコックを締めたりする暴挙を平気でする国です。(ただし価格が折り合わなかったことも原因にはあります。) 

このためにウクライナを経由して供給されていた諸国までがとばっちりを受けて、大混乱しました。

それ以来、ロシアは政治的道具として天然ガスを使用することを辞さない国というレッテルを貼られたままです。

このようなロシアと地政学的にも歴史的にも緊張関係があった日本が、主要エネルギー源を依存するのは・・・、ちょっとお止めになったほうがいいかも。

それはさておき、他の政党はだいたい最大公約数で、[FITで再生可能エネルギー拡大→発送電分離・電力自由化→おめでとう、原発ゼロ社会到来!]というシナリオですから、私から見ればあまりにナイーブに過ぎます。 

この議論のキモはたぶん「発送電分離」(アンバンドリング)なんじゃないでしょうか。発送電分離、いいかえれば電力自由化がダメな政策であったとすると、この脱原発三段論法が成り立たなくなるからです。

この電力自由化は、ちょっとTPPに似ているところがあって、「なんでやるの?」という問いに対して明確な回答がありません 

電力自由化を審議している電力システム改革専門委員会の伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)委員長などはこう述べています。 

「コメを例として考えてみればよい。関西電力という農家が作ったコメを関西電力という流通チャネルを通じて購入するようなものだ。これだけの地域独占と垂直統合が残っている分野は、電力以外にはあまり残っていない
 それでも世界の電力システムが同様のものであれば、電力独特の技術的な事情があると考えることもできよう。しかし、事実はそうではない。欧州でも米国でも、発送電分離を前面に出した改革が次々に進められてきた。公共的な色彩の強い送配電分野は公共利益に合致するように規制し、発電については自由な競争と参入を促してきたのだ。」
(「電力システムを創造的に破壊する3ツの理由」
http://diamond.jp/articles/-/34615 

伊藤先生、失礼ですがこんな程度のことは、電力自由化を考えている者には初歩的なことで、だからなんだというのです。 

伊藤委員長は、「垂直統合だから、地域独占だからいかんのだ。世界の趨勢は自由化だ」と言っているだけで、「なぜ今この電力需給が逼迫している日本でやるのだ」という問いにまったく答えていません。 

ただ「外国がやっているから」では、かんじんの電力自由化・発送電分離をした「結果」、どのような利益を国民が享受できるのかがまったくわかりません。 

先生と同じ構造改革派(新自由主義)の竹中平蔵氏が、「TPPは自由貿易だからやるのだ」というわけの分からないことを言っていたことをイヤでも思い出してしまいました。 

これではまるで、「A=Aだ。他の先進諸国はBだ。だからうちもBにするのだ」と言っているにすきません。このような論法を同義反復とか拝外主義とかいいます。 

伊藤委員長の議論には、「公共的利益」は登場しますが私のような一国民から見ればはなはだ悪い意味で学者的で、「国民の利益」という肝心の部分が欠落しているように見えます。

この「国民の利益」という観点がない制度改革論議は、そもそも無意味なんじゃないでしょうか。 

このような「制度の破壊的創造」がお好きなお二人には、「構造改革」という名のイデオロギーがこびりついているのです。

イデオロギーとは「(政治的に)固定化された思想、観念で、ひとびとの社会的行動や思考を縛るもの」と定義されています。

まさに今や新自由主義や市場原理主義は、合理的思考であるより単なる「イデオロギー」と解釈したほうがいいようです。

さて、電力自由化をした諸国は数ありますが、果たして消費者、企業といった需要サイドの利益はどうだったのでしょうか。この需要サイドの利益は大きく二つで測定可能です。 

ひとつは電気料金価格、そして停電率です。 

まず電気料金ですが、電力自由化した諸国は、改革前の建て前だった「競争による価格低下」どころか、電力料金の値上がりをもたらしています。電力料金の値上がりについては下図をご覧ください。
(図GEARより引用)
 

Photo_3 図の中で日本は一番下のブルーの線ですが、日本の1996年の電気料金を90とした場合諸外国の電気料金は以下のようになります。

特に脱原発政策と同時期に電力自由化をやってしまったドイツがほぼ2倍にまで電気料金が値上がりしています。

・日本  ・・・ 90
・ドイツ ・・・193
・英国  ・・・181
・スペイン・・166
・米国  ・・・144

・イタリア・・・122
 

つまり、電力自由化をやった結果、需要者に待ち構えていたのは「競争による電気料金の値下がり」ではなく正反対の料金値上げだったのです。 

かんじんの電気料金が値上がりしてしまったら、発送電分離する意味がそもそもないのではないでしょうか。

伊藤先生のように、他国の自由化の結果をろくに総括もしないで、我が国の電力インフラを「創造的破壊」することなど止めてほしいものです。 

ならば、それを発送電分離を手段として脱原発を図るという諸政党の公約も、真面目に考えて言っているようにはみえません。

原発から自由になるという考え自体は間違っていないのですから、もう少し真面目に考えてほしいものです。 

発送電ではなく、脱原発と電力自由化の発想を分離したほうがよくはありませんか。

■写真 真っ青な水田に白鷺がたたずんでいます。一見知らんぷりですが、実は鳥類の眼はこちらを見ているかも。

2013年7月16日 (火)

TPP第18回交渉始まる 既に関税は決着している可能性あり  今後は党ではなく議員ひとりひとりの意志の問題だ

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さぁ、いよいよTPP交渉の全貌がその姿を私たちの前に現します。  

「18回目の交渉会合が、15日から25日までの日程でマレーシアで開かれます。日本は終盤の23日午後から初めて交渉に参加できる見通しで、関税の撤廃や知的財産のルール作りなどを巡って主張を説明するとともに、交渉全体の把握を急ぐことにしています。
18回目となるTPPの交渉会合は、アメリカやオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなど11か国が参加して、マレーシアのコタキナバルで15日から始まります。」
(NHK7月15日 資料1参照)
 

各省から100名以上の大官僚団がマレーシアのコキタナバルに向ったようですが、今回は「交渉力」もへったくれもありません。

ただひたすら何が決まっているのか、どの程度の交渉の余地が残っているのかの情報採集するだけです。  

しかもこの18回目会合すら、米国手続きが終わる23日午後まで参加を引き延ばされるという有り様で、最終日までやっと渡された1000頁を越えると言われるTPP資料の翻訳と分析で追われることになります。  

さて内容的には、TPP反対派の国会議員にとって、受け入れがたい内容が目白押しなはずです。  

たとえば、農産物の関税が話合われた「市場アクセス」の協議日程は、初日15日から5日間の日程で開かれ、日本が参加する23日午後には既に終了してしまっています。(資料2参照)

日本が参加できるのはちょうど終わったばかりの日というわけです。実にふざけた話で゛なんか仕組まれているんじゃないかと疑心暗鬼になりますね。 

というのは、今回の会合は、「市場アクセス」「投資」「知的財産」などの分野に分けて行われており、我が国の関心事が「市場アクセス」にあることは明々白々だからです。  

というか、関税に関心がない国などは貿易都市国家のシンガポールくらいなものじゃないでしょうか。 

くそ、ハメられましたね。 協議には参加させてやるが、いちばんのキモの関税は終わっているぜ、というわけです 

ここでもし、砂糖や乳製品、コメといった重要5品目が関税ゼロと決まっていた場合、さぁどうします。 (自民党決議5重要品目6原則については資料4参照)

他の諸国から、「もう協議は終わっている。再交渉は原則として認めていない」と言われたら、どうします。  

ここで林芳正農水大臣が今年3月31日に言ったように、「決まっているものにサインするだけならば、その場で席を立って帰ってくることだって視野に入れてやればいいわけで、しっかり交渉力を行使していかなければならない」(資料3参照)という態度を貫いてほしいものです。 

林大臣はこうも述べています。

「TPPの22項目中2つしか妥結していない現状であって、そもそも去年11月をめどに終結のめどといいながらまったく進展していない。あと2回で交渉がまとまるわけがない。わが国が参加しても、すべてが決まっていることをサインだけして帰ってくることはありえない。」 (同) 

まさにそのとおりです。あせって交渉する必要などまったくないのです。  

日本はTPP参加国の大部分の国と経済連携協定(EPA)を結んでいます。つまりTPP参加国のほとんどの国と自由貿易枠組みは既に出来ているわけです。  

ただ自由貿易協定予定がない国がふたつありました。それが米国とニュージーランド、豪州の3カ国です。カナタ、メキシコは米国とFTAを結べば、自動的にNAFTA(北米自由貿易協定)の枠内です。

つまり本来ならば、このEPAで残った米国とニュージーランド、豪州の3カ国間で個別に自由貿易協定を結んでしまえばいいのであって、なにもこんな11カ国などというご大層な枠組みを作る必要はありませんでした。(下図参照 産経新聞12年11月21日)

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しかしわが国が3.11に遭遇してしまったためと、菅政権が言い出しっぺの民主党政権が例によって内部分裂を起こしたために、TPP交渉参加するのか否かの意思決定が大幅に遅れてしまいました。 

その間に尖閣をめぐる中国との厳しい政治的緊張関係が生まれてしまったことで、経済問題だったはずのTPPに新たな安全保障上の課題が生じてしまい、日米同盟関係の強化のために米国主導のTPP枠組みに参加を余儀なくされてしまいました。 

対中国との関係がなければ、わが国にとって経済的にはTPPなど本来どうでもよかったのです。 

あくまでもTPPに日本を入れたいのはオバマ大統領のほうであり、わが国にとって利害はまったくといっていいほどありませんはっきり言って、鳩山政権が破壊した日米安保をカタに取られたのです。 

ですから、わが国は「バスに乗り遅れる」ことなどまったく心配する必要はありません。

TPPというバスは、林大臣がいみじくも言ったとおり日本の「貸し切りバス」なのですから、納得がいくだけわが国の利害得失を並べ立てて、わが国をTPP交渉に招いたことがとんだ「失敗」だったと思わせたらいいのです。 

年内決着?あと2回?もう決まっている?なにが?TPP域内GDP24%を占める我が国がいないところで決まったことなど受諾できるはずがないだろう」、とふてぶてしく言ってのける面憎さが必要です。 (下図参照)

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そして、林大臣の言うとおり、今年9月どころかズルズルと3、4年先まで交渉をやって米国のみならず政府内の推進派の議員がうんざりするまで引っ張ってしまいましょう。延びて困るのは我が国ではありません。先行諸国なのですから

林大臣にはぜひこのようなタフネゴシエーターになって頂きたいものです。 

この関税で躓くようでは、あとの知的所有権、食品表示、遺伝子組み替え、医療保険にしても総崩れとなります。  

ところで、なんの冗談なのか参院選終了してから、私たち国民はTPPの「秘密」を知ることになります 

この日程が逆で、せめて28日投票だったら、内容がわかってからの投票ができたのですが。ひょっとして、そこまで計算に入れたのかな・・・?

しかし、逆に考えればまだ投票まで5日あると思いましょう。

各選挙区の、特に自民党の立候補者にもし関税ゼロが既に決定していたならば、決然としてTPPから離脱するか、林大臣が示したような遅滞戦略をとるという約束を確認してください

ここでもし、ふがふがと「自由貿易は大事だから」と言うようなら、そんな奴に投票することは止めて下さい。必ず日和ます。 

日本はこれらTPP加盟諸国の中でも群を抜いて貿易自由化度が高く、5品目などは残された最後の砦にすぎないからです。

それにしても菅氏はかつて、日本のことを「貿易鎖国だ」と言っていましたね。この最悪の馬鹿がTPPを呼び込んだのです。

事ここに至っては、党がどうのというより議員ひとりひとりの意志の問題です。状況次第では、今回選出の議員が、国会承認の票を投じることになるからです

まだ私たち国民は一票という強力なカードを持っています。それを有効に使われんことを。

 

■写真 アサザです。一日しか咲かない湖の宝石。

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■資料1 TPP交渉 日本が初めて参加へ
NHK7月15日

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の18回目の交渉会合が、15日から25日までの日程でマレーシアで開かれます。日本は終盤の23日午後から初めて交渉に参加できる見通しで、関税の撤廃や知的財産のルール作りなどを巡って主張を説明するとともに、交渉全体の把握を急ぐことにしています。 

18回目となるTPPの交渉会合は、アメリカやオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなど11か国が参加して、マレーシアのコタキナバルで15日から始まります。 

今回の会合は25日まで開かれる予定で、日本は、アメリカの国内手続きが終了する23日午後から初めて交渉に参加できる見通しです。 

交渉は21の分野で行われていて、参加国の発表などによりますと、これまでに「電気通信」など一部の協議はおおむね終了し、食品の安全基準などを定める「衛生植物検疫」などの分野も話し合いはすでに大幅に進展しているということです。一方で、「関税の撤廃」や「知的財産」、「環境」といった分野は、各国の利害が対立し協議が難航しているということです。 

参加国は、年内の合意を目指して交渉を加速させるとしており、今回の会合に終盤から参加することになる日本は、関税の撤廃や知的財産のルール作りなどを巡って主張を説明するとともに、交渉全体の把握を急ぐことにしています。 

TPP交渉の焦点

 交渉に参加しているオーストラリアなど農畜産物の輸出国からは、コメや牛肉などについて、関税を撤廃するよう求められることが予想され、日本として対応を迫られることになります。
一方で、日本は、自動車など工業製品の関税撤廃で輸出の拡大を目指していますが、アメリカなどからは反発が予想されています。
 

また、TPPでは幅広いルール作りも議論されていて、知的財産や投資などについて日本は透明性の高いルールをまとめ、企業の海外進出につなげたい考えです。 

3年前に始まった交渉はこれまで17回行われ、21分野のうち、一部の分野の交渉はおおむね終了しているとみられます。参加国は年内の合意を目指して交渉を進めていて、遅れて参加する日本にとっては、今後、みずからの主張をいかに展開していくか、高い交渉力が求められることになります。 

■資料2 日本、関税撤廃協議に間に合わず TPPマレーシア会合
共同通信 7月11日
 

マレーシアで15~25日に開かれる環太平洋連携協定(TPP)交渉会合で、日本の合流が、工業品や農産品の関税撤廃を扱う「市場アクセス」分野の協議に間に合わないことが11日、政府関係者への取材で分かった。合流する見通しの23日午後の段階で「市場アクセス」の協議日程が終わっているためだ。 

 日本は初めて臨む交渉会合で、最大の焦点である関税撤廃の議論に加わることができない。参加の出遅れが実際の交渉に大きく響く形となった。 

 交渉会合は「市場アクセス」「投資」「知的財産」など分野別に日程を振り分けて議論を進める。「市場アクセス」は15日から5日間程度議論されるという。

■資料3 TPP、年内妥結にこだわらず NHK番組で林農相
共同通信 3月31日
 

林芳正農相は31日のNHK番組で、環太平洋連携協定(TPP)交渉で米国などが年内の合意を目指していることに関して「スケジュールに合わせなければいけないという意識が強すぎる。国益が満たされない場合、もう少し議論しようと主張していい」と述べ、日本としては年内妥結にこだわらず交渉に取り組む考えを示した。 

 交渉で日本の主張が受け入れられない場合「その場で席を立って帰ることだって視野に入れてやればいい」と述べ、自民党が「聖域」とする重要品目が守れない場合、交渉脱退も辞さない姿勢を強調した。

■資料4 TPP交渉参加に関する決議
              平成25年2月27日
             自由民主党政務調査会
             外交・経済連携調査会 

          TPPに関する自民調査会決議・全文

自民党外交・経済連携調査会が27日採択した「TPP交渉参加に関する決議」の全文は次の通り。
 1、先の日米首脳会談を受けて、依然としてTPP交渉参加に対して慎重な意見が党内に多く上がっている。
 2、政府は、交渉参加をするかどうか判断するに当たり、自民党における議論をしっかり受け止めるべきである。
 3、その際、守り抜くべき国益を認知し、その上で仮に交渉参加の判断を行う場合は、それらの国益をどう守っていくのか、明確な方針を示すべきである。
 4、守り抜くべき国益は別紙(TPPに関して守り抜きべき国益)の通り確認する。

 ◇TPPに関して守り抜くべき国益
 ▼政権公約に記された6項目関連
 (1)農林水産品における関税=コメ、麦、牛肉、乳製品、砂糖等の農林水産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象となること
 

 (2)自動車等の安全基準、環境基準、数値目標等=自動車における排ガス規制、安全基準認証、税制、軽自動車優遇等のわが国固有の安全基準、環境基準等を損なわないこと、および自由貿易の理念に反する工業製品の数値目標は受け入れないこと 

 (3)国民皆保険、公的薬価制度=公的な医療給付範囲を維持すること。医療機関経営への営利企業参入、混合診療の全面解禁を許さないこと。公的薬価算定の仕組みを改悪しないこと 

 (4)食の安全安心の基準=残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品の表示義務、輸入原材料の原産地表示、BSE(牛海綿状脳症)基準等において、食の安全安心が損なわれないこと 

 (5)ISD(投資者・国家訴訟制度)条項=国の主権を損なうISD条項は合意しないこと 

 (6)政府調達・金融サービス業=政府調達および、かんぽ、郵貯、共済等の金融サービス等の在り方についてはわが国の特性を踏まえること 

 ▼医薬品の特許権、著作権等=薬事政策の阻害につながる医薬品の特許権の保護強化や国際収支の悪化につながる著作権の保護強化等については合意しないこと 

 ▼事務所開設規制、資格相互承認等=弁護士の事務所開設規制、医師・看護師・介護福祉士・エンジニア・建築家・公認会計士・税理士等の資格制度についてわが国の特性を踏まえること 

 ▼漁業補助金等=漁業補助金等における国の政策決定権を維持すること 

 ▼メディア=放送事業における外資規制、新聞・雑誌・書籍の再販制度や宅配についてはわが国の特性を踏まえること 

 ▼公営企業等と民間企業との競争条件=公営企業等と民間企業との競争条件については、JT・NTT・NHK・JRをはじめ、わが国の特性を踏まえること 

2013年7月15日 (月)

日本人になった祖先たち 

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もう真正熱波ですね。脳が煮え煮えです。今日は気分をちょっと変えて、ご先祖さんのお話、やります。

私たちの世代は昔から「日本人は先住民族である縄文人と、朝鮮半島から渡ってきた弥生人が混血を繰り返して今の日本人が出来たんだよ」というような話を学校で習ってきました。 

まぁ、定説はざっとこんなところです。 

「今から2300年前ころ、朝鮮半島や中国から人々が渡来し、水田耕作の技術を日本にもたらした。つまり弥生時代になって、渡来人がやってきて、水田耕作が行われるようになった」(「イネ 知られざる1万年の旅』あかね書房)

弥生時代のはじめに、つぎつぎと日本列島にやってきた渡来人、かれらはすすんだ水田稲作の技術を手に、日本列島の各地にひろがり、巨大な集落をきずいていきます
(NHK「はるかな旅」)
 

どうもこの稲作開始の定説は、近年の考古学的な発見によりもっと以前の縄文期からあったことがわかったりして揺らいでいるようですが、ならば日本列島先住民とでもいうべき縄文人はどこからやって来たのでしょうか

この「日本人はどこからやって来たのか」という問いに応える研究に、 国立科学博物館人類第1研究室・篠田謙一室長の研究があります。 

篠田氏は、氷河期後に渡来した縄文人の頭蓋骨に残された歯から遺伝子DNAを抽出して、国立遺伝学研究所のDNAデータバンクの保存データと比較研究をしました。 

篠田氏の著書の著書日本人になった祖先たち──DNAから解明するその多元的構造』(NHKブックス)によると、茨城県の中妻遺跡から発掘された縄文人骨のmtDNA(ミトコンドリアDNA)からM10遺伝子が検出されました。

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   図 DNAから導きだされる日本人の起源

篠田氏の著書によれば、氷河期後に渡来した縄文人のDNAには、以下のような特徴があるそうです。 

①同一の遺伝子を、バイカル地域に住んでいる現存のブリアート人が持っている。 

②1986年春、アメリカのフロリダで発見されたミイラ化したヒト(北米先住民)の脳細胞からえたミトコンドリアDNAを解析したところ、日本人5人と共通するタイプの配列だった。 

③埼玉県浦和で発掘された縄文人と推察される頭骨からミトコンドリアDNAを解析したところマレー人とインドネシア人と一致した。 

縄文人がバイカル湖から移住し、なおかつ、マレーシア・フィリピンから移住してきたと云う説は成り立たない 

⑤mtDNA(ミトコンドリアDNA)は、母系のみで遺伝することから、日本人と、いずれも、同じ母系であることを示す。

⑥採取に成功した29体のデータと国立遺伝学研究所の保存データを照合したところ、韓国、台湾、タイのDNAと合致するものが一体ずつあった。 

⑦残り17体がブリヤート人と合致している。このことは縄文人のルーツが北方のシベリアにあることを示している 

日本人のルーツは、大きく分けて以下の9グループからなり、日本人の95%が、そのいずれかに属するそうです。 

分類 誕生地     日本人に占める割合
【D】バイカル湖西      34%
【M7】中国中部        15%
【B】中国南部         15%
【G】シベリア東部       7・5%
【A】バイカル湖付近      6%
【F】東南アジア         5%
【M9】ヒマラヤ・チベット    3・4%
【CZ】北東アジア(満州北部) 3・2%
【N9】中国南部         7%
 その他              3・9%
 

圧倒的に北方系ブリヤート系が多いのがわかります。 

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              (写真 ブリヤート人Wikipedia)

ブリヤート人はWikipediaによれば
「モンゴル族の一部であり、モンゴル先祖はバイカル湖から形成し始めてから草原地代へ進行する、モンゴル秘史に記載する蒼き狼と白い鹿がバイカル海を横断して草原へ移動されモンゴル民族が発足する。バイカル湖周辺が人類文明の一原点であり、アルタイ諸民族の発祥地だとされる。ブリヤート人は古代トルコ人とモンゴル高原に住む高地モンゴル人との混血というのが定説となっている。」
 

この種族が地球の寒冷期に暖かい土地を求めてバイカル湖周辺から東漸して、その一部が、まだサハリンと沿海州が地続きだった頃、北日本にやってきたのではないかというものです。 

従って、縄文人のルーツが東南アジアだとされてきた学説は、科学的なデータによって覆されたことになります。 

※参考文献 「DNAから導きだされる日本人の起源

■写真 アマガエルがちょこんと。

2013年7月13日 (土)

週末写真館 夏の湖畔

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杭に乗って辺りを見渡すアオサギ。大きな野鳥で、独特のシックなグレイな羽根をまとっています。

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カワウの豪快な離水。もっとも羽根に脂分がすくないので、終わったあとは羽根を拡げて干しています。左で「ああ、またやってんな」という顔しているのがカルガモです。

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これがカワウの日光浴。肩をいからせて、初めは何をしているのかと思いました。

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青々とした田んぼから首だけ出すコサギ。湖の近くの田んぼはサギ一族の絶好の餌場です。ちょこんと首を出してはまた床土を漁っています。

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コブハクチョウ。実に優雅で湖の女王なのですが、実はかなり前に日本の飼育施設から逃げたのが先祖だとか。

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左がチュウサギ(ダイサギかも?)。右がコサギです。オオサギ、チュウサギ、コサギ、ゴイサギまで入り乱れて、真っ青な田んぼにひときわ映えています。

昨日、茨城県全域で巨大ため息が発生しました。
稀勢の里の綱取りは2敗で絶望的、嗚呼。
今日は勝って欲しい。めざせ、綱!
あきらめるのはまだ早い。

2013年7月12日 (金)

ほんとうは怖い電力改革 その8 我が国の電源を「改革」せねばならないわけがわからない

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もう暑くて死にそうでしゅ(口がまわりましぇん)。関東もすさまじい猛暑で、ドラキュラなんか、出た瞬間に即死です。

ところがこの季節、農繁期で村では死人がでるぞと天を恨んでます。 

別なテーマに移りたいのですが、もはや背後霊のように電力自由化問題がくっついて離してくれません。あともう少しです(たぶん)。

さて気を取り直して、別な資料で各国の電力構造を比較してみましょう。

日本の電気料金は国際的に見て突出して高いわけではありませんが、決して安い部類には入っていません。

ただし、一部の脱原発派が言っているような「世界一高い電気料金」という言い方は正しくはないのが分ると思います。
電気料金の各国比較について - 資源エネルギー庁(2010年)

2009年の資料によれば、産業用に関しては、米国の倍の価格であり、英国、ドイツとほぼ同水準です。

住宅用としては、米国のこれも倍で、英国と同水準。ドイツ、イタリアは脱原発政策の影響により高騰しているのがわかります。

米国の新自由主義による電力自由化は、ケーススタディとして参考になるので、別稿で触れたいと思いますが、要するにレーガノミックスによる発送電分離による電力需給バランスの崩壊が、大規模停電を頻発させました。
(ただし米国の電力事情は複雑で、いくつもの供給形態があります。)

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一方、電力の評価基準で重要な事故率(停電率)はどうでしょうか。
※同上 (2010年)
 

停電率が悪いものから並べます。
・米国  ・・・292分/年
・英国   ・・・75.7
・フランス ・・・61.6
・イタリア ・・・58.0
・ドイツ ・・・・19。3
・日本  ・・・16。0
 

1軒当たりの年間事故停電時間
・米カルフォルニア州・・・・約417分(2000~01年の間に大停電あり)
・英国・・・約76分
・ドイツ・・・約17分
・日本・・・約14分

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次は各国の電源の内訳です。(下図参照2007年) 

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●米国
・石炭  ・・・49%
・石油   ・・・21
・天然ガス・・・19
・原子力 ・・・19
・水力   ・・・6
・再生可能・・・2
 

●日本
・石炭   ・・・28
・石油   ・・・14
・天然ガス・・・26
・原子力 ・・・23
・水力   ・・・7
・再生可能・・・3
 

●ドイツ
・石炭   ・・・49
・石油   ・・・12
・天然ガス・・・12
・原子力 ・・・22
・水力    ・・・3
・再生可能・・・12
 

震災前の我が国の電源構造は、原子力にも石炭、石油にも傾かず、あえていうならベストミックスに近い形をしていました。

今は、このうち当然のこととして原子力がゼロに等しく、石油、天然ガスが増大する歪な形になっています。

否定するのは自由ですが、これが我が国の強みでした。それは先進国として安定した電力供給構造とバランスの取れた電源構造を持っていること、それが産業や社会生活の基盤を下支えしていたことです。 

ですから、私にはこれを急進的に電力自由化したいという理由がよくわかりません。一体、なにが問題なのでしょうか? なにを「改革」したいのです?

このような問いをすると、必ず「東電の回し者」とか、「総括原価方式はどうなのだ」などという糾弾の声が上がってきたものです。 

脱原発ならば、原子力が栄えた時間と同じだけかけて、フィンランドのように最終処分処分場まで定めてからフェードさせていけばいいのであって、今直ちにというのは実現不可能です。 

なるほど確かに東電という巨大会社は伏魔殿のようなものでしたが、経営のあり方と電力自由化はまったく別次元の問題のはずです。東電の失敗に便乗して、電力自由化をするというのはお門違いです。 

総括原価方式も、長大な送電網の保守点検まで含めた電力の安定供給義務への見返りがあってのことです。 

郵政民営化は、終わった後にやらねばよかったと国民はほぞを噛みました。道路公団民営化もそうです。そしてこの電力自由化もまた、「しなくてもよい改革」であるようです。 

 

■写真 コサギも子育ての真っ最中です。ふわっと飛んで、また場所を替えてお食事。

2013年7月11日 (木)

吉田前福島第1原発所長死す

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吉田昌郎前所長がお亡くなりになりました。食道ガンでした。享年58歳、早すぎる逝去でした。 

ガンがこの原子力事故と関連があるのかどうかはわかりません。その因果関係が明らかになるのはもう少し後のことでしょう。 

私は吉田昌郎というひとりの男が日本を、地獄の奈落へと滑り落ちて行こうとするわが祖国を救ったと思っています。 

彼が注水停止を官邸の言うがままに実行していれば、今私はここにいないはずです。東日本全体は深刻な長期間続く放射能汚染の地になったことは間違いありません。 

吉田は、事故が起きた時に関連会社の作業員の退去を命じます。それは、この福島第1原発に「残る」ということが、すなわち死を意味することを原子力の専門家として熟知していたからです。 

福島第2原発所長は、扉を閉めて退去させないようにと命じたそうです。それも正しい判断でした。 

原子力事故とは、米国NRCのャールズ・カストーも言うように長丁場になり、延べ数千人が交替で行うものだからです。 

しかしこの時、吉田を動かしていたのは「論理」ではなかったはずです。いわば「魂」でした。 

言い換えれば、原子力技術者としての合理性ではなく、このような事故を起こしてしまったことに対する原発所長としての慙愧の念でした。

だから、彼は責任を取るのは自分とわずかの死を覚悟したメンバーでいいと考えたはずです。かなうことなら、ほんとうは彼一人で立ち向かいたかったのではないでしょうか。 

彼はホワイトボードに残ることを選んだメンバーの名を書いていくように言いました。それは上司としての命令ではなかったはずです。 

彼が語るようにまさに墓標でした。墓標に共に自らの名を刻む仲間に語りかけたのです。 

「最後まで残って戦ったのはこんな人間だぞ」、と。 

吉田が病を得て、現場を去るに当たって残した言葉残っています。その言葉は、最後涙声に変わって途切れがちでした。 

「皆さんここに2週間かなり夜も廊下で寝るというような劣悪な状況の中で、またこの場所の(放射)線量も高いというような中でご辛抱いただいております。本当に申し訳ございません」  

「皆さんにこれを言うと非常に申し訳ないんだけれども、私は肉体的にもかなりガタがきているという状態になってます。一度、東京に帰らせていただく。非常に忸怩(じくじ)たる思いですけれども、本日、東京に帰ってリセットする。またここに戻ってきて、皆さんと一緒に仕事をしたいと思います。申し訳ないんだけど。本当に申し訳ないんだけど…」 

そして彼は簡単な診察を受けると、わずか4日後に現場に復帰します。
「大丈夫だったか」と残していった所員に明るい声をかけてまわる吉田の姿がありました。
 

「どうも、すいません。皆さん、しばらくの間、ご迷惑掛けました。今から復帰しますのでよろしくお願いします」

しかし、その明るくふるまう彼の身体には既にガン細胞が増殖していました。

吉田が戻ったのは単なる「現場」ではなく、放射能を封じ込めるために戦う戦場でした。

吉田から私たちは「責任」と「献身」、そして「自己犠牲」を教えてもらいました。 吉田の死は、原子力との戦いのさなかにおける「戦死」だと思います。

そして吉田が封じ込めようとして半ば失敗し、半ば押さえ込んだ原子力との戦いは、私たちが継続します。

吉田さん、あなたは私にとって真の英雄でした。
ありがとうございました。

心からご冥福をお祈り申し上げます。
あなたの霊前に一輪の野菊をたむけさせて頂きます。
安らかにお眠りください。

 

.※本稿は6月13日記事に加筆したものです。

               。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。..。.:**:.。.

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東電 吉田昌郎元所長が死去
NHK
7月9日

東京電力福島第一原子力発電所の事故で現場で指揮を執った吉田昌郎元所長が、9日午前、東京都内の病院で食道がんのため亡くなりました。
58歳でした。
 

吉田元所長は、3年前の6月に福島第一原子力発電所の所長に就任し、おととし3月11日の事故発生から現場のトップとして事故対応の指揮を執りました。
すべての電源が失われる中で、吉田元所長は、福島第一原発の複数の原子炉で同時に起きた事故の対応に当たりましたが、結果として1号機から3号機でメルトダウンが起きて被害を防ぐことはできませんでした。
 

吉田元所長は、その後、病気療養のため交代するおととしの11月末までおよそ9か月間にわたって福島第一原発の所長を務め、事故の収束作業にも当たりました。
おととし12月に食道がんと診断されて所長を退任しその後、去年7月には脳出血の緊急手術を受け療養生活を続けていました。
 

吉田元所長は、所長在任中のおととし11月、福島第一原発の事故現場が報道関係者に初めて公開された際にインタビューに応じ、「事故直後の1週間は死ぬだろうと思ったことが数度あった。1号機や3号機が水素爆発したときや2号機に注水ができないときは終わりかなと思った」と当時の思いを語っていました。 

また、去年8月に長野県の出版社が福島市で開いたシンポジウムで公開されたインタビュー映像では福島第一原発の今後について「日本だけでなく、世界の知見を集めてより安定化させることがいちばん求められていると思う。それが地元の人たちにとって改善したと実感してもらえることだ。私自身も体力が戻ったら現場で力を出したい」と述べ、復帰への意欲をのぞかせていました。 

東京電力によりますと、事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ70ミリシーベルトで、東京電力はこれまで、「被ばくが原因で食道がんを発症するまでには少なくとも5年かかるので、事故による被ばくが影響した可能性は極めて低い」と説明しています。
吉田元所長は、9日午前11時32分に東京都内の病院で食道がんのため亡くなりました。
東京電力の廣瀬社長は「吉田さんは再び私どもと一緒に福島の復興に尽くしたいとの強い
気持ちを聞いておりました。持ち前の明るい大きな声で陣頭指揮を執る姿に出会えることを心待ちにしておりましたが、東京電力の再生に向け共に働くことができず無念でなりません」というコメントを発表しました。 

双葉町長「町民を代表して感謝」 

東京電力福島第一原子力発電所の事故で現場で指揮を執った吉田昌郎元所長が亡くなったことについて、福島第一原発が立地する福島県双葉町の伊澤史朗町長は「原発事故からの収束に命懸けで取り組んでこられたことに町民を代表して感謝するとともに、ご冥福をお祈りします」とコメントしています。
また、同じく福島第一原発が立地する福島県大熊町の渡辺利綱町長は「体調が回復してもう一度現場に戻ってきてくれると思っていただけに、本当に残念です。事故のあと直接会ってはいませんが、事故の直後には電話で『事故が起きてしまって申し訳ない』と話していて、責任感の強い人でした」と話していました。
 

強いリーダーシップで対応 

東京電力福島第一原子力発電所の所長を平成9年から3年間務め、吉田元所長の大学院の先輩でもある二見常夫さんは、「東京電力や日本全体を試すように、次から次へと起こった問題を強い統率力とリーダーシップで対応してくれた。現場のスタッフに命の危険をおかして対応してもらった彼のリーダーシップは感謝してあまりある。『彼がいなかったらどうなっていたんだろう』、『東京電力の中で最適な人間がそこにいたんだ』とつくづく思う。『本当によくやってくれた、ありがとう』ということに尽きる」と話していました。 

そのうえで、「事故のあと、直接、ことばを交わすことはなかったが、2、3度メールをやり取りした。その中で、吉田元所長が、『自分の体験したことを後世に残したい』という強い意志を記していて、私もぜひ書いてくれと伝えた。その直後に、食道がんだと公表され、結果的にその記録が完成しなかったのは非常に残念だ」と話していました。

2013年7月10日 (水)

ほんとうは怖い電力改革 その7 各国の電力構造を比較してみる

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「電力改革」を考える前提として我が国の電力構造を国際比較見てみましょう。迂遠なようですが、原発事故に便乗してムード的に「電力自由化」を叫ぶ人が多すぎます。 

我が国だけの電力問題を、諸外国のそれと比較することで本当に「電力自由化」を必ずやらねばならないものなのかどうか、わかることが沢山あるはずです。 

各国の電力事情の性格をみた経済産業省の資料をみると、なるほど各国いろいろあるのだとわかります。
※「
資料 電気料金の内外比較に関する定量分析 -」 経済産業省 (欄外にURL)

各国の複数の諸指標には、火力燃料費、電気料金、CO2排出原単位、停電率などがありますが、これを総合的にビジュアル化したのが「包絡分析法DEA)です。 

これは公共機関や民間企業の効率や、性格の特性を判断するときの材料に使われる手法だそうです。 

このスパイダーグラフの線が外周に近づくほどスコアが高くなり、逆に内側に行くほど良くないということになりますので、この面積が大きいほど安定している優れた電源構造を持っているということになります。 

なお、我が国は赤線で記してありますので比較してください。(クリックすると大きくなって見やすくなります)

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フランス
①原子力中心の発電により、近年の火力燃料費高騰の影響を受けず、安価な電気料金を実現
②CO2排出が世界で最も顕著に低い
・DEA総合評価・世界最高水準
※世界に冠たる原発大国
※電力自由化は株式公開と小売りの一部を除きしていない
 

ドイツ
①電気料金が高い
②CO2排出は平均的
③停電率は日本と同程度
・DEA評価・日本と同程度の中位グループ
※脱原発政策・電力改革実施
した結果、合併・買収によりかかって寡占化が進行

イタリア
①電気料金が高い
②CO2排出量は日本と同程度
③停電率が高い
・DEA評価・先進国としては下位
※脱原発政策
・発送電分離

韓国
①電気料金が政府の財閥企業優先政策により低く抑えられている
②CO2、停電などは我が国と同程度
・DEA評価・中位
※電力自由化はIMF改革により株式公開し自由化するも失敗に終わり、現在は市場型公開企業になる

Dsc_5184

米国
①電気料金が突出して安価
②停電率が高い
③CO2排出量が高い
・DEA評価・中位
※電力改革で世界の先陣を切ったが大停電に見舞われる
 

英国
①電気料金は我が国と同じ
②停電率が高い
③CO2排出量は我が国と同程度
・DEA評価・先進国としては下位
※電力改革済み
 

この欧米のDEA評価を見ると、世界の電力自由化が決してうまくいっていないのがわかります。 

電力自由化先進国の米国では図のように電気料金は確かに安くなった代わりに、停電時間数が激増してしまいました

発送電分離のために、発電と送電がうまくマッチしなかったり、送電網インフラの老朽化がひどく、民間企業となった送電会社はそのメンテにあまり熱心ではなかったからです。

ドイツなどは、電力を輸出していた優秀国から脱原発と電力自由化の相乗作用で悪い方に滑り落ちてしまいました

再生エネルギーの FIT(全量固定買入制度)と、脱原発、電力自由化の3点セットを同時にやれば破綻してあたりまえです。

ドイツ経済はEUで最も多く恩恵を受けて好調だったにもかかわらず、エネルギー構造が宿痾になってしまいました。

いうまでもなく我が国が、民主党政権時にとろうとしたのがこのドイツ型電力政策です。

イタリアなどは、外国から大量に電力を輸入する構造が完全に定着してしまい、貿易赤字に拍車がかかって財政を圧迫しています。今やすっかり下位に定着です。 

英国も結局のところ停電率の増加のために電力自由化失敗国といってよいでしょう。(ただし、英国の電力卸市場制度などはなかなかよくできていますが。)

一方同じヨーロッパでもEU委員会の命令で自由化が進められたにもかかわらず、スウェーデンやノルウェイのような水力発電といったしっかりとした基盤電源を国内に持っている国だけはうまくいきました。

国際的に見るなら、「電力自由化」は決して成功とはいえず、ユニバーサル・サービスを自由化することによるリスクのほうが目だつ結果になりました。

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■速報 

吉田昌郎前所長が亡くなられました。享年58歳でした。
あなたから私たちは「責任」と「献身」、そして「自己犠牲」を教えて頂きました。
 

あなたの死は、原子力との戦いのさなかにおける「戦死」だと思います。
あなたが封じ込めようとした原子力との戦いは、私たちが継続します。
心からご冥福をお祈り申し上げます。
安らかにお眠りください。

※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-ff14.html

 

 <福島第1原発>吉田元所長が死去 事故時に現場対応
毎日新聞 7月9日
 

東京電力福島第1原発の吉田昌郎(よしだ・まさお)元所長(58)が9日午前、死去したことが分かった。東電関係者が取材に明らかにした。

 在任中の2011年3月に東日本大震災と原発事故が起こり、現場対応に当たった。同年12月に退任。12年7月に脳出血で緊急手術を行った。

※「資料 電気料金の内外比較に関する定量分析 -」 経済産業省 

http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/seido_kankyou/004_04_00.pdf#search='%E8%B3%87%E6%96%99+%E9%9B%BB%E6%B0%97%E6%96%99%E9%87%91%E3%81%AE%E5%86%85%E5%A4%96%E6%AF%94%E8%BC%83%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%9A%E9%87%8F%E5%88%86%E6%9E%90+%E3%80%8D+%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%9C%81'

2013年7月 9日 (火)

ほんとうは怖い電力改革 その6 電力自由化でも電力カラーリングは無理

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たぶん電力自由化になってもっとも活況を呈するのは、太陽光を除けば、小売市場だと思われます。

その理由は簡単で、参入するのは易く、撤退や事業譲渡もたやすいからです。電力自由化先進国のドイツには電気料金の乗り換えのための専門サイトまで登場しました。

電力の自由化と共に、いままでひとつだった電力料金はバラエティに富んだものになり、化石燃料や原子力を電源とする会社は料金が低く、再生可能エネルギーを取り入れる会社は高いという価格差が生じました。

その電源の内訳は開示が義務づけられており、電力料金票をみると使用電力量と料金以外ズラズラとさまざまな情報開示されています。

情報開示はこんな具合です。
電力がどの電源から作られているのかの内訳
・1キロワット時に要したCO2排出量
・同じく核廃棄物の排出量

018_4

とうとう乗り換えガイドのサイトまで登場する始末です。ベリボックスというそのサイトは、自分の郵便番号と年間電気消費量を入力するだけで電気料金の比較が即できてしまうそうです。

各社の電源の内訳が明らかになっていますから、今月はプリオシュトロームにしようか、それとももっと安いイエローにするかなどと悩むことができます。

今ドイツには、1000社超あるといわれる電力販売会社は文字通り「販売」だけで、発電所はおろか送電網すら持っておらず、大手電力会社から電気を卸してもらって小売りしている会社ばかりです。

ドイツでは、電力自由化により、発電部門と送電部門の寡占化が進む一方で、小売りは徹底して小売のみで、送電網を所有することはありませんでした。

これらの店は全国展開しているわけではなく、地域売電専門会社だそうです。ちなみに発電会社も州ごと、送電会社も電力販売会社すら州ごとという場合が多いそうです。

我が国も全国的な小売網になることはないでしょう。

仮に周波数の壁が解消されていたとしても(電力改革第1段階)、既存の電力会社系小売りがたとえば「関西電力販売」みたいな形で大手となり、それに群小の小売りがひしめくという構造になると思われるからです。

逆に言えば、ドイツと同様に狭い消費市場に電力販売会社がひしめきあっているということになり、こりゃあ過当競争になって当然です。

とうぜん、安い電気への乗り換えも頻繁に行われているようで、連邦ネットワーク庁(BNA)によれば、電力を乗り換えた市民の比率は電力の自由化がはじまってから2年目の2000年には5%だったものが、2010年には3倍弱の14%に増えてました。

電力会社は替えていないものの、同じ会社の安い料金体系に乗り換えた人は41%と半数近くに登りました。 日本で電力自由化をした場合も、ドイツのように安さを売り物にする販売会社と、付加価値電源=脱原発エネルギーを看板にする会社に二分化されていくことも予想されます。

しかし、やや白けることを言いますが、ドイツのこのような電力の素性を確かめることは日本ではかなり困難かもしれません。

この電気の素性を明示するということは、「電力カラーリング」という技術を使います。

消費者からみると素性のわからない無色の電気を、電源はどこから来ているのかがトレサビリティできるような「顔がみえる電気」のことです。産直野菜の電気版だと思えばいいでしょう。

これはデジタルグリッドという方法で理論的には可能なようですが、現実化にはまだしばらくかかりそうです。

というのは、我が国では地域ごとの「電力プールに電力をいったん入れてから各地へ送電するので、太陽光だろうと、火力だろうとわからなくなるからです。

これは、電力が蓄電が効かない生もので、需給を常にマッチングさせねばならないために、いったん電力フールに「貯水」して、そこから取り出すしくみをとっているからです。

Photo          

                   パワープールのイメージ
電力改革研究会「電力カラーリングへの期待と誤解(上)— 誰が発電したか知る方法」より

「日本には9つの電力会社があり、それぞれが合計9つのパワープールを運用している(沖縄電力および離島をのぞく)。これらのパワープールは相互に直流や交流によって接続されている。」(図と同じ) 

ですから単純に、「この電力プールからもらっているから、電源比率はこのくらいだ」くらいは言えますが、それが本来小売りがやりたいような商品付加価値としての「電力カラーリング」までは現状不可能だと思われます。ちょっとがっかりですね。

「風力発電所の電気(緑色)も火力発電所の電気(黄色)も、一旦プールに注ぎ込まれると、プール内を光の速さで伝搬するから、瞬時に混ざり合ってプールから取り出す時にはどこで取り出しても同じ黄緑色になってしまう。一旦プールに入れるとどこから来た電気かもはや区別できないのだ。」(同)

また、電力カラーリングもさることながら、肝心要のユニバーサル・サービスを担う新小売り会社が、責任をもって供給義務を一瞬たりとも途切らせないことができるかです。

現代のオフィスや工場はコンピュータ管理ですから、コンマ数秒の瞬間停電すら許されません。

発電事業者からの言い値で買うことになる上に、小売業者間の激しい競争に生きる電力小売り部門が、いかにこの重い責任を果たしていくのか、それを定めた新電事法が必要になるのは言うまでもありません。

この今までは「言うまでもない」ことを改めて徹底して法律で縛らねばならないということが、「電力自由化」ということなのです。

2013年7月 8日 (月)

ほんとうは怖い電力改革 その5 少しずつ変えていくことに耐えられないないならば、原子力に負けるしかない

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新基準の原発再稼働申請が始まり、参院選が花盛りです。

私は、かねがね今の脱原発派の論理の立て方では政府の思うつぼにはまっている、と思うことしきりです。

あらためて確認すれば、脱原発派の皆さんの論理はこんな骨格です。
①[原発再稼働阻止]・[再処理阻止]→
②[再生可能エネルギー拡大]・「FIT推進]→
③電力自由化[電力会社解体]・[発送電分離]

しかもこれを段階を経て実現するという斬新的改革ではなく、一挙にやってしまえという急進的路線です。

確かに原発の息の根は止まりますが、一緒に日本の息の根も止まってしまいます。病気を治そうとして、患者ごと殺してしまうようなものです。大変に無責任な理想主義です。

脱原発市民団体、日本共産党、朝日新聞、東京新聞、毎日新聞などの論調がこれです。

実はこのオリジナルモデルがドイツにあるのですが、原発の再稼働を認めずに、ドイツと同じように①、②、③の「改革」を同時実行すると、100%の確率で電気料金の大幅値上げと電力不足の加速を引き起こします

電気料金の高止まりは、中小国内製造業を確実に疲弊させていきます。

また、原油高騰による輸入増大による国富の流出はすでに4兆円規模にまで達しています。将来、これに瞬間停電、あるいは広域停電が加わる可能性が高まっています。

このような国内事情をまったく省みることなく、朝日新聞の論調は社説も記事も原発再稼働反対一色に染まっていて、公示日7月4日の社説ではこの調子です。 一般紙ではなく、まるで「しんぶん赤旗」のようです。

「半年間の安倍政権で目につくのが、自民党の『先祖返り』ともいえる動きだ。(中略)原発政策も同様だ。(安倍政権は)停止中の原発の再稼働や原発輸出への前のめりの姿勢ばかりが目立つ。こうした動きを後押しするのか、待ったをかけるのか。有権者の選択にかかっている」。

どうやら朝日は、去年の衆院選の時と一緒の「脱原発選挙」のモードに持ち込んで白黒をつけたいようです。

しかし、朝日の「自民党の先祖返り」という指摘は正確ではありません。実は菅内閣の原発事故対応の大失敗を受けた民主党野田政権時から、「先祖返り」は始まっていると見るべきです。

野田前首相が、大飯原発再稼働を訴えた時にこう言ったことを思い出して下さい。彼はこう言ったはずです。

「(現時点では)原発が無くては国民の生活と産業のためのエネルギーを賄うことができない」。

つまり野田首相は、前任者だった菅氏のとおりに脱原発を訴えて原発電力の代替は自然エネルギー電力だとした場合、電気料金の値上がりは避けられず、大規模停電すらありえますよ、と警告したのです。

しかし、再生可能エネルギーの限界をたぶんよく知りながら、野田政権と安倍政権は菅内閣が作った再生可能エネルギーのFIT(全量固定買い入れ制度)を継続しました。

電力料金の自由化移行の値上がりにより、上図のグラフの発電・発送電の実費コスト(紺色部分)が1998年と変わらないのに、2012年では家庭用では45%、産業用では39%値上がりしています。

この原因は、ドイツでは電気料金の半額弱までが再生可能エネルギーの賦課金負担という異常な構造となってしまっているからです。

電力の自由化を脱原発政策と一体に同時実行したドイツでは、国民は情報開示と電源選択の自由というささやかなプラスを得て、それと引き換えに年々増え続ける賦課金負担と電力料金の値上げという重い荷を背負い込むはめになりました。

2011年ドイツでは年間で7.5ギガワットの太陽光発電が設置され、その補助金総額は20年間累積で合計180億ユーロ(当時のレートで1兆8500億円)でした。

我が国は既に初年度だけの認定設備が12.2ギガワット(2月末現在)ですから、ドイツの1.62倍です。そして買い取り額はその2倍ですから、20年間累積で約7兆円前後と推定されます。

1年間にするとざっと3500億円といったところでしょうか。これが薄く広く電気料金に上乗せされるわけですが、思い出して頂きたいのはFITという制度は「20年間固定買い入れ」なのです。

つまり初年度42円(太陽光)の価格のまま20年間、そしてこの制度を止めない限り毎年買い込む高額買電料は積み重なっていくのです。

しかも最初は1年間分ですが、次年度は2年間分、3年目は3年間分と積み重なっていきます。なんか年齢スライド型ローン地獄のようてすね。

ドイツでは、初期は我が国と同じくらいの3000億円前後でしたからあまり負担は見えなかったのですが、積もり積もって13年現在では、年間200億ユーロ(2兆4000億円)にも達するようになってしまいました。

するとさすが国民の負担も人口8000万人のドイツだと、一人当たり3万円という途方もない額になり、電力貧困層という電気代が払えない貧困層まで誕生するようになってしまいました。

これは税負担と電気料金上乗せの二重の形で消費者・国民が背負います。しかもこのFITで儲かるのは、太陽光発電装置を付けられる富裕階層だけという金持ちに優しい制度です。

ですから遠からず、FITは買い入れ額を大幅に落とすか、買い取り量に制限をつけるか、はたまた買い入れ額を再生可能エネルギーで一本化するなどして競争原理を導入せざるを得ないでしょう。

というか、そんなことをするくらいだったら、FITなど初めから止めりゃよかったのです。

要するに、昨日書いた第1段階の広域系統運用が出来上がる2016年ごろまでには、FITには大鉈が振るわれる可能性が高いと思われます。

そしてFITが後退、ないしは廃止されるということは、今までの脱原発派が唱えていた「脱原発=再生可能エネルギー=電力自由化」という三点セット戦略が崩壊する時でもあるのです。

野田、安倍政権は、意図したかどうかわかりませんが、脱原発派の脱原発=再生可能エネルギー=発送電分離(電力会社解体)というシナリオを、あえてFITを続けることで国民に脱原発派のシナリオの実現不可能性を実証して見せた、ということになります。

脱原発は必要です。しかし、それはこのような急進的な政策によってやった場合、その被害のほうが大きいのです。

しかも今のように原油高の時期に、電力自由化とセットで叫ぶなどは正気の沙汰ではありません。

再稼働に関しては、規制委員会の新規制基準による客観的判断によればいいのであって、規制委員会がしっかりと機能している今、再稼働反対と一般的に叫んでもまったく無意味です。

政府が、規制委員会に対して不当な政治的圧力を政府が加えることがあるなら、国民がきちんと抗議すればいいのであって、今ではありません。

ムード的急進路線をとれば、すべてか破綻します。少しずつ確実に変えていくことに耐えられなくなったならば、原子力に負けるしかないのです。

■写真 上野動物園に行ってきました。めちゃくちゃおもしろかったですが、暑さで半死半生に(笑)。

2013年7月 6日 (土)

週末写真館 植物園は飽きません

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とうとう好きがこうじて植物園の年間パスを買ってしまいました。
本当に飽きません。
折々の特別展示も素敵ですが、地味な花も美しい。
今回はアップしませんでしたが、熱帯温室やサボテン温室などはたまらないゼイタクさです。

生まれかわるなら、水族館か植物園で働くのもいいなと思ったりして。

2013年7月 5日 (金)

ほんとうは怖い電力自由化 その4 政府の「電力システム改革」では発送電分離は最後に

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今年の4月2日に、安倍内閣の「電力システム改革」を進める方針が閣議決定され、政府は、この「電力システム改革」を3段階で進めるとしています。 

第1段階・・・ 2015年をめどにして、広域系統運用機関の創設し、地域を超えて電力を融通できるようにする。(※1) 

第2段階・・・2016年をめどにして、電力の小売りの全面自由化。家庭や企業に自然エネルギーを売れるようにする。 

第3段階・・・2018~20年をめどにして、発送電分離。電力会社の送配電部門を別会社にする。(※2) 

これを多くのマスメディアは「骨抜き」(※3)にしたと批判しているようです。というのは、この「電力メカニズム改革」では、当面中心となるのが「広域系統運用」だからです。 

脱原発派やマスメディアは、飯田哲也氏命名によれば「幕藩体制」のような電力会社の地域独占を解体する第3段階がメーンになると考えていました。 

彼らの描いた「電力会社解体」シナリオでは、第3段階の発送電分離を初めにすることで、第1段階の電力供給の地域独占体制の廃止と、第2段階の電力の自由化が実施できるとしていたようです。 

しかし、今回の安倍内閣の「電力システム改革」では、順番が逆になり、発送電分離は最後の2018年から20年にまで繰り下げられてしまいました。 

これが彼らが「骨抜き」と呼ぶ理由です。ひょっとして発送電分離まで行き着かずにフェードしてしまうことを危惧しています。 

欄外の朝日新聞記事などを読むと、「(改革案が)骨抜きにされる」と表現し、さらに「背景には電力業界の抵抗があり、自民党政権になって改革が巻き戻されつつある」と、まるでこの電力改革に反対する奴は悪者扱いです。  

あいにくですが、朝日と違って私は「骨抜き」にされてよかったと思っています。 

現在、福島事故から3度目の夏を目の前にして、電力業界は電源比率の大きな部分をになっていた原発が停止している上に、その改修費だけで莫大な損失を被っている状況です。 

おまけに泣き面に蜂なことには、代替である火力の原油相場が高止まりしている上に、円高まで重なっている始末です。  

このような中で、善し悪しは別にして電気料金を低く抑えていた原発の稼働停止により、電気料金の上昇が現実のものとなるでしょう。  

たぶん第1段階の広域系統運用だけで、電力融通がむずかしい我が国の周波数特性からしてそうとうに難問なはずです。 

原発に代わって火力の主力は天然ガス火力ヘ移行していますが、現状では国際情勢の不安定と、それを狙ったヘッジファンドにより価格の乱高下が繰り返されています。 

この現状で「電力シテスム改革」第3段階の発送電分離を強行した場合、電力の不安定といった事態はより深刻化します。 

なぜなら、喉から手がでるほど電気が欲しい小売りや送電業者にとって、発電側が圧倒的に強い売り手市場になってしまうからです。 

そもそも、発電業者には、再生可能エネルギーのFIT制度か導入された時点で、太陽光の馬鹿げた高値で火力に対するインセンティブを失いかかっています。 

その上に燃料高ですから、現状のような電事法による電力の供給義務がはずれた場合、電力価格をできるだけ安くしていこうとする技術革新に対するインセンティブは薄れていくでしょう。 

また、発電部門の中心である火力発電は、出来合いの部品をポンポンとプラモデルのように組めば素人でも出来てしまうメガソーラーなどと違って、予定から完成まで10年近いスパンがかかる技術的にも高度な重厚長大産業です。 

このような部門には一画千金を狙う銀バエのようなホット資金は流入しません。ですから、今は太陽光のみが盛況ですが、発電部門主力の火力には参入は限りなくゼロに近いはずです。 

というわけで、残念ながら電力自由化派の目論見とは逆に、電力市場での競争は小売り以外にはおこらず電気料金の値下げどころか、今の燃料高と再エネ法による法外価格の設定により、電力小売り価格の上昇が始まります 

その上、この電力融通もできていない現状で、発電部門と送電部門を切り離すと、大規模停電の可能性が高まるでしょう。 

ところで、我が国の電力供給は地域バラバラで(※下図参照)、全国をつなぐ送電網はありません。

日本の電力網は、新潟県の糸魚川を境に東は50ヘルツ、西は60ヘルツに分かれていて(糸魚川ライン)、このラインをまたいで融通できる電力は、100万キロワット程度しかないのが現状です。

この欠陥が東日本大震災の時にもろに出たのは、私のような東日本に住む人間にはは骨身にしみています。

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                        (図 電力改革研究会)
また、日本は、地理学的にも日本列島は東から西に長く伸びており、時差が約1時間あります。つまり九州で夜に突入しているのに、東日本以北ではまだ明るいのです。

この時差を利用して電力ピークの電力融通ができないかという考えもあります。

私はこの電事法改正にはおおむね反対ですが、この第1段階のみは大いに必要だと考えています。

我が国のような原発停止、エネルギー国際市場の不安定という難しさがなかったドイツや英国の電力自由化ですら失敗していることを、「改革派」はもう少し真面目に総括されたほうがいいと思います。 

結局、「電力改革」の本音はたぶんこんなところではないでしょうか。 

「電力会社は今までさんざん国に守られてぬくぬくと甘い汁を吸ってきやがった。それなのに原発事故なんか起こしやがって、社会の敵だ。原発もろとも解体してしまえ!」 

しかし、一国のエネルギー構想は、こんなざまぁみろ、という復讐的感情だけで語るにはあまりに重い現実です。 

私はこのような電力事情の中で、「電力自由化」を急ぐ理由は全くないと思います。 

 

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※1 緊急時に電力融通命令も 司令塔となる「広域系統運用機関」
産経新聞3月8日
 

政府が進める電力システム改革の一環として、全国規模で電力需給調整を行うことを目的に新設する「広域系統運用の概要が分かった。形態は電力会社などが出資する民間主体の組織だが、日銀などと同じく設立に大臣の認可が必要な認可法人にし、国が監督する。震災などの緊急時に電力会社に最適な需給調整をさせる権限を持たせ、「電力供給の司令塔」(経済産業省)に位置付けたのが特徴だ。  

 新機関は、電力会社を中心に、需給調整の専門家で構成する。大手電力会社だけでなく、新規参入の電力会社も含め、幅広い企業から出資や社員を受け入れる方針。 

 役員の選任、解任は経済産業相が認可し、運営に問題があると判断した場合には、業務改善命令を発動できる仕組みの導入なども検討する。  

 各電力会社間をつなぐ「連系線」の整備計画のとりまとめや、震災など緊急時に電力会社に需給調整を命令することができる。  

 現在は、電力会社の電力供給が需要に対して不足する「需給逼迫(ひっぱく)」が予想されるときには、電力会社が自ら、他の電力会社に電力融通を依頼しているが、新機関は融通を命令する権限を持つ。  

 特に、大手電力会社の発電部門と送配電部門を分ける「発送電分離」の実施後には、各地域の送配電事業会社の保守・管理に伴う設備の停止計画などを調整し、電力供給に支障が出ないようにする。 

※2 経産省専門委 発送電分離は5~7年後 3段階で電力自由化案を了承
産経新聞2月8日
 

経済産業省は8日、電力制度改革を議論する有識者会議「電力システム改革専門委員会」(委員長・伊藤元重東大大学院教授)を開き、報告書案を了承した。

懸案だった大手電力会社の発電部門と送配電部門を分ける「発送電分離」は、5~7年後の平成30~32年に実施する。家庭が電力会社を自由に選べるようにする「電力小売りの全面自由化」は3年後の28年に自由化すると工程表に明記した。大手電力会社の地域独占だった電力業界の競争を促し、電気料金の値下げなどにつなげるのが狙いだ。 

 専門委は、来週にも報告書を最終決定し、経産省はこれらの内容を盛り込んだ電気事業法改正案を今国会に提出することを目指す。 

 報告書案によると、第1段階として全国規模の需給調整などを行う「広域系統運用機関」を27年をめどに設立。同機関が、地域を超えた需給計画や送配電網の整備計画を策定する。 

 次に、大手電力会社が独占している家庭向けで、新規参入を解禁する小売り全面自由化に移行。消費者が電気を購入する電力会社を選べるほか、新規事業者から電気を買えるようになる。当面は国による料金認可制を維持し、競争が活発化した時点で撤廃する。 

 電力会社の発電部門と送配電部門を別会社とする発送電分離では、十分な移行期間に配慮し、当初案の「4~6年後」から1年遅らせた。大手電力会社が保有する送配電網を新規事業者にも利用しやすくし、競争を活発化させる。 

※3 発送電分離案、自民部会で骨抜き 提出時期は努力目標に
朝日新聞
 

 電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」などの電力改革が、骨抜きになるおそれが出てきた。経済産業省が「(改革を進める法案を)2015年の国会に提出する」という改革案を示したところ、自民党の部会が19日、「提出を目指す」という努力目標に後退させて了承した。背景には電力業界の抵抗があり、自民党政権になって改革が巻き戻されつつある。
(後略)
 

2013年7月 4日 (木)

ほんとうは怖い電力自由化 その3  再生可能エネルギーとFITによって歪められた電力需給メカニズム

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もう少し「容量市場」という聞きなれない言葉をご説明します。 

この容量市場は米国ニュージャージー州で実験的に開始され、英仏でも2016~17年に導入が予定されています。これはもっぱら供給予備力の確保という地味めの目的からでした。

我が国でももっぱら供給予備力の観点から経産省が既に検討しています。
※経済産業省PDFttp://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/010_03_04_02.pdf#search='%E5%AE%B9%E9%87%8F%E5%B8%82%E5%A0%B4'

さて、この容量市場ががぜん脚光を浴びたのは、ドイツの脱原発政策による再生可能エネルギーの増加に対応した新たな電力市場調整機能という側面が出てきてからのことです。 

耳にタコかもしれませんが、再生可能エネルギーの導入が増加すると、電力供給は宿命的に不安定になっていきます。その理由はもういいですね。 

いや、太陽光は夜間でも発電するんだ、風力は風がなくても大丈夫さぁ、という人はどうぞそのまま信じていて下さい。(笑) 

下図は、太陽光が増加したスペインの需給運用のグラフです。(資源エネルギー庁作成)

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    (図 「容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える」電力改革研究会より)

この図は、実際に再生可能エネルギーが拡大した場合、他の電源がどのような関係でそれをフォローするために増減をするのかがわかる貴重なものです。

現実に太陽光や風力が増えた場合、いかに瞬間、瞬間の電力需給をマッチングさせて停電させないために苦労しているのかが偲ばれます。 

図左の赤い楕円部分に注目ください。夜間の電力需要が少ない時間帯に、こともあろうに強風が吹いたのか風力(薄緑)が突然発電し始めたとみえて、火力(黄色)がただ1基のみまでに停止しているのがお分かりでしょうか。

逆に、一番電気が欲しい夜6時から9時(図右端)には風がやんでしまったと見えて火力がフル稼働の27基全開で出力しています。

みんなの党が公約(アジェンダだったっけか。わかんない言葉を使わないでね)で、再生可能エネルギーを「50年までに8割」などと無責任なことを言っていますが、電力構造的に絶対に無理です。

本気でそんなことをしたら、真夏の6時から8時に頻繁に停電が繰り返されることになります。 

理由は言うまでもてなく、火力による出力調整機能がなければ、再生可能エネルギーを大量導入した場合の需給バランスが維持出来なくなってしまうからです。

また、逆に再生可能エネルギーの尻拭いを強制させられている火力発電の設備稼働率は、再生可能エネルギーを受け入れた分だけ低くならざるを得ません

何度も言いますが、再生可能エネルギーが光る条件は、送電距離が短くて済む一定の狭い地域の中で、しかも火力などの補助が得られるという環境が整っていることです。

たとえば大型の製鉄所などの基幹工場があって、PPS(新電力)が確保されていれば、それに風力やメガソーラーを組み合わさることは可能でしょう。ただし電力需要を調整する地域限定ミニ・スマートグリッドは必要ですが。

それはさておき、FIT(全量固定価格買取制度)を導入しているドイツでは、再生可能エネルギーの電力は、電力卸市場(EEX)に全量売ることが定められています。(下図参照)

Photo   図 再生可能エネルギー大量導入時の火力発電所の運用
(経済産業省総合資源エネルギー調査会基本問題委員会第23回資料 「再生可能エネルギーを巡る事実関係」2012年5月)

ここで問題となるのは、再生可能エネルギーがFITという「全量買い取り制度」という無茶な制度で守られていることです。

卸売市場に参加している送電業者(送電系統電力運用者)は、泣いても笑っても再生可能エネルギーを全量買い込まねばならず、売り損も相当でています

笑える例では、風が吹く好天の休日にガンガン再生エネルギーが発電してしまい、火力を全部止めても間に合わず、丸損承知で買わざるを得なかった電力を小売りに叩き売るなどということが現実に起きているわけです。

いかに再生可能エネルギーが、FITという鎧で守られている限りわがまま放題の乱入者かお分かりいただけたかと思います。卸市場業者の心中お察し申し上げます。

ドイツの電力事情の混乱は、急進的な脱派原発政策の肝にFITと電力自由化という最悪の組み合わせを選んでしまったために、本来電力需給と原料需給という市場メカニスムで運用されるべき電力市場が大きく歪められているという実態です。

このようなことにひとこともふれず、参院選で票目当てに「脱原発」と再生可能エネルギーをムード的に叫ぶ政党は信じるに値しません。

※参考文献「容量市場は果たして機能するか?~米国PJMの経験から考える」
電力改革研究会

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■自民以外「原発ゼロ」…与野党9党幹事長討論会
読売新聞 6月29日

与野党9党の幹事長らによる討論会(関西プレスクラブ主催)が29日、大阪市内で行われ、参院選(7月4日公示、21日投開票)の主要な争点となる憲法改正、原子力政策、経済・景気対策などを巡り、論戦が交わされた。(略)

原発ゼロ」を目指すことの是非では、自民党は反対したが、それ以外の8党は賛成した。民主党は昨年の衆院選公約に続き、参院選公約でも「2030年代の原発稼働ゼロ」を記しており、同党の細野氏は、安倍首相が原発の輸出に前向きに取り組んでいることについて、「福島(第一原発)の問題を抱えている中で、首相を筆頭に、積極的に推進することには違和感がある」と疑問を呈した。

 唯一、「原発ゼロ」に反対した石破氏は「原発依存度は下げるが、単に減らすだけでは経済の活力が出ない。(原発の)ウエートを落とすために、どう経済に力を持たせるかを説明しないと無責任だ」と反論し、経済成長を下支えするためにも原発は必要との考えを示した。

2013年7月 3日 (水)

ほんとうは怖い電力自由化 その2 問題児・再生可能エネルギーを支えるためにかえっておかしくなった電力の世界

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私が奇妙なことに思えるのは、新自由主義政党である維新の会とみんなの党が、こぞって「脱原発」を唱えていることです。

私も脱原発は基本的に支持していますから悪いとはいいませんが、その方法論がまったく通俗的脱原発論の域を抜けていないのはどうしたことでしょうか。

セットメニューよろしく、必ず「脱原発」の添え物には再生可能エネルギーと電力自由化がくっつくことです。

なんなんでしょうね、この常識のように語られている脱原発=再生可能エネルギー=電力自由化という三点セットの図式は・・・。

飯田氏によれば、送電まで電力会社が占有しているから、再生可能エネルギーなどのPPSが不当に差別されて高い託送料を吹っ掛けられてケシランので、ならば発電と送電を分離してしまえ、そうすれば再生可能エネルギーも拡大して、電気料金が安くなる、という論理です

発送電分離して電力会社を解体すれば脱原発だぁ、参ったかぁということのようです。

困った人たちだ。東電に復讐したい気分と、エネルギー問題をごっちゃにしています。

この三つにはなんの関連もありません論理の前提になっている脱原発の代替エネルギーが再生可能エネルギーだという迷信からいいかげん醒めたほうがいいし、電力自由化はかえって脱原発の首を締めるだけものです。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-8f2d.html

再生可能エネルギーは、はまる所を得れば素晴らしいエネルギーですが、それはたとえば風力の強い北海道で出来た電力を短い送電網で消費出来るならば、という条件があってのことです。

それを津軽海峡を越えて大消費地の関東まで運ぼうなどと思うと、海峡を渡る送電ケーブルの大増強をしたり、長大な距離の送電網を延ばさねばならなかったりしてバカバカしい限りです。

私には発送電分離した場合、再生可能エネルギーの電気のためだけに、そんな送電網を敷いてくれる奇特な送電業者が現れるとは思えません

ですから、FIT(全量固定価格買い取り制度)の甘い言葉に釣られて再生可能エネルギーに参入した発電業者は、泣く泣く送電網コストを一部負担したり、計画全体の見直しを迫られている始末です

あのFITの生みの親のひとりである孫さんのSBエナジーも、北海道にメガソーラーをつくったのはいいですが、引っ張れなくて苦境のようです。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-1170.html

そして、仮に厖大な建設コストを使って送電網が敷いたとしても、これだけで問題は終わったわけではありません。

再生可能エネルギーを、自由競争という新自由主義者が大好きな市場原理で運用すれば問題は少ないのですが、FITという世にも稀なる馬鹿げた制度を作ってしまったために、問題が複雑化してしまいました。

FITとは、要するに、「電力需給や原料需給とはまったく関係なく、市場価格より高く買うことを義務づける」というおおよそ自由主義経済の国とは思えない制度です。

初年度は42円という驚天動地の世界最高値がついたので(※)、砂糖にむらがる蟻のように海外からさえメガソーラーに集まってきました。 ※現在のドイツFIT買い入れ価格22円

さすがに25年度は見直して37.8円にまで落とすようですが、それでもなんと風力の2倍です。

これで一気に再生可能エネルギーを普及させようということのようですが、先行事例のドイツでは大変な社会問題を引き起してしまいました。

ひとつには、再生可能エネルギー発電所のバックアップが足りなくなってしまったのです。

中学生にも気がつくことを、ドイツ人は忘れていたのです。太陽光は夜には発電しないし、曇りや雨となればただの箱です。風力は風がなければただの巨大ウチワにすぎません。

そうなると、発電しなくなっている時は、一体だれが発電しているのでしょうか?はい、そのとおり。火力や水力、原子力などの既成の電源です。

たとえば、午前中は風がなくてゼンゼン発電してかったものが、午後晴れたらブンブン発電するようになるとすると、今度は電気が余ってしまいますね。

しかし気をつけよう、風車は急に止まらないのです。再生可能エネルギーは発電を抑制できないために、送電会社は全量買電することを義務づけられています

となると、いままで一生懸命止まっていた風力発電の穴を埋めていた既成発電所は、その瞬間にお役御免になってしまいます。

そしてまた止まると、発電しろと指令がきます。一日何回もの稼働開始、停止を繰り返すのは日常的なことのようです。やってられませんね。

この調子で自然条件で発電したり、停止したりする掟破りの電源に合わせて、買い取り価格が半値以下の既成発電所は動いたり、止まったりしているのですから切ないもんです。

というわけで、ドイツの電力業界では再生可能エネルギーは鼻つまみ者になりました。というか、ならばもう火力なんかは止めてもっと条件のいい再生可能エネルギーに乗り換えようという動きが始まってしまったのです。

まして今のような円安、原油高の相場で火力なんかを動かしているのがバカバカしくならないほうがおかしいですよね。

今は電気事業法で電力会社は需要を満たす発電を義務づけられているので(その代償として、総括原価方式や地域独占があるわけですが)発電義務を果たしていますが、電力自由化となれば話は別です。

となると、火力発電に対する投資インセンティブ(※)は、一気に冷え込んでいきます。皮肉にもその結果、再生可能エネルギーはバックアップ電源が不安定化するということになってしまいました。

そこでドイツではバックアップ電源専用の「容量市場」という新規の電力市場を作って割高な価格で買い取って火力離れをくい止めるということになってしまいました。

なんかヘンな話ですよね。今まで安定していた電力供給を、再生可能エネルギーを大量に導入しようとした瞬間からガタガタになり始め、それを修正しようとしてバックアップ電源専用市場まで作って二重に修正をかけるなんて、まさにバカ丸出しです。

屋上のプレハブ小屋の上にもうひとつプレハブ小屋がちょこんと乗っているという世にも不思議な光景が、現在のドイツ電力業界なのです。

賢いはずのドイツ人が、21世紀の理想として打ち出したはずの脱原発は、かくしてわけのわからないケイオス状態に頭から突っ込んでしまったのです。

こんなものを「理想」としてまねする国があったのは驚きです。

※インセンティブ・ やる気を起こさせるような刺激

2013年7月 2日 (火)

北京でまたもや最悪レベルの巨大スモッグ出現 

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あまり日本のメディアでは報道されていないようですが、先週、北京がまたスモッグの厚い雲の下に潜ってしまったようです。

当局が外出自粛令を出す「重汚染」レベル6ですからハンパではありません。
(下写真 同程度のスモッグ状況であった今年1月の衛星写真NASA。中央に白字でBeijingとある)

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「2013年6月28日、北京市で再び深刻な大気汚染が発生した。大気の状況は北京市が定めた基準のうちの最悪レベル「6級(極めて深刻な汚染)」を記録し、医師や専門家は市民に外出を控えるよう呼び掛けている。29日付で北京晨報が伝えた。」
(レコードチャイナ6月29日 欄外参照)
 

[下図 米国の北京大使館が公表しているリアルタイム大気質指標(28日18時現在)]Photo

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この金星のような「濃霧」の正体は、硫酸塩エアロゾルですが、主成分の酸化硫黄は、硫黄を含む質の悪い石炭自動車の排気ガスなどの燃焼によって発生します。 

気体の二酸化硫黄は、眼と気道と肺に障害を与え、重度の場合は肺ガンの原因にもなります。特に抵抗力の弱い乳児や子供には強烈な刺激で呼吸器系を蝕みます。 

この発生源は、中国のエネルギー源が石炭に81%も依存していることによります。しかもこの石炭は、国内産の硫黄分を多く含んだ低品位炭です。 

中国は世界最大の石炭生産国(2011年度)であり、同年の石炭 生産量は35億トンを越えました。これは世界総生産量の46%あたり、輸入量も世界一ですから世界総消費量のほぼ半分は中国が消費していることになります。 

また中国の工場や火力発電所は、甘い環境基準の上に排ガス対策装置が不十分です。我が国ならば稼働すら許可されない施設ばかりだと言われています。

その上、仮についていても経済効率優先で、浄化装置を止めて操業するケースが多く共産党機関紙・人民日報ですらこう書かざるを得ないようです。

「不純物を多く含む石炭を燃やしている。この時に煙を浄化する装置の稼働率が低い。この煙には毒性がある」。 

中国では、障害児の出生率が2001年以来40%も上昇しています。明らかに開放改革路線による無計画な工業化が背景にあるのは明らかです。

車の燃料は建前上は硫黄分が50ppm以下の「国4ガソリン」になったはずです。 

ならばなぜ、今になってこんな「壮大な人体実験」(日本大使館医師)のような状況になるのでしょうか

理由はこの「国4ガソリン」が、実は北京や上海などの一部大都市部でしか使用されていないからです。

つまり9割の地域ではあいもかわらず旧来の硫黄分たっぷりのガソリンを使っているのはいい方で、ひどい場合は殺虫剤原料のホルマールや、炭酸ジメチルなど安い原料を使ったニセガソリンが跋扈している始末だったからです。 

そのホンモノのガソリンの硫黄分でさえ日本のガソリンのなんと15倍

その上、大気汚染の大きな原因であるディーゼル排気ガスについては、まったく改善がされた様子がありません。

大都市だけで排ガス規制しても、車は勝手に外部と出入りするのが習性です。というか、その為に作られたわけで、北京という大消費地には大量のトラックが入ってきます。

ではなぜ、こんなハンパな規制をしたのでしょうか。それは国のエネルギー政策で石油価格を非常に安くしているからです。 

中国は改革開放経済を軌道に乗せるために、石油価格を抑制する政策を取りました。

このあたりはやはり輸出依存国の韓国もウォン安とエネルギー安という似た国家方針 を持っています。

それが出来るのも、石油企業が国営企業集団だったからです。石油精製製品は、わずか2つの企業集団によって握られている超寡占体制下に置かれています。 

中国天然ガス集団(CNPC)と、中国石油化工集団(シノペック)のふたつです。 

この巨大国営企業集団は、実は政府そのものでもあります。常に、中国政府には「石油閥」と呼ばれるこの2つの国営企業出身の政治家がいます。 

昨年秋には党中央政治局常務委員というトップに、シノペック出身の張高麗氏が送り込まれています。共産党常務委員序列は第7位です。

ですから、硫黄分の少ない「国4ガソリン」なんてバカ高いコストがつくものを全国販売してたまるか、という一企業の営利が通ってしまうわけです。

「大気汚染の深刻化に伴い、北京市内各病院の呼吸器科を訪れた患者は20~30%増加。小児病院で内科を受診した患者の50~60%が呼吸器系の疾患によるものだった。」(同上)

おいおい、国民の健康はどうでもいいのか、と私たちは思いますが、たぶんどうでもいいのでしょうね。

京市長代行は2020年までに解決すると言っていますが、この巨大独裁国家が構造的に抱え込んだ汚染構造は、政体が変わらない限り解決することは不可能でしょう。

というわけで、構造的な巨大スモッグ問題は解決が不可能に近く、いっそう中国大陸は人類が生息するには不適な地域になっているようです。

なぜか中国当局は遠隔のフィンランドと組んで大気浄化をするそうですが、燐国の我が国が世界最高の浄化技術をもっているのですが、まぁいいか、乳幼児の健康より尖閣が大事なんでしょうから。

ちなみに、我が国への拡散の影響は今年1月ほどではありませんが出ています。
(図 気象庁HP)

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やはり九州地方が影響を受けていますね。これが黄砂がひどい春でなくて不幸中の幸いでした。

 

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■深刻な大気汚染が再び発生!市民に外出を控えるよう呼び掛け―北京市
Record China 6月29日

2013年6月28日、北京市で再び深刻な大気汚染が発生した。大気の状況は北京市が定めた基準のうちの最悪レベル「6級(極めて深刻な汚染)」を記録し、医師や専門家は市民に外出を控えるよう呼び掛けている。29日付で北京晨報が伝えた。
28日早朝から発生した大気汚染の影響で、北京市内ではフォグランプを点灯しながら走行する車両が目立った。

北京市環境保護監測センターのデータによると、28日午前9時から市内の大部分で最も深刻な大気汚染レベル「6級」を記録。大気中のPM2.5(微小粒子状物質)の濃度も高止まりしたままだった。

大気の状況は、夕方になってから降った雨の影響で多少改善されてきており、29日は中度から軽度の大気汚染になりそうだとの予想が出されている。

大気汚染の深刻化に伴い、北京市内各病院の呼吸器科を訪れた患者は20~30%増加。小児病院で内科を受診した患者の50~60%が呼吸器系の疾患によるものだった。

医師は「市民、特に慢性疾患を抱える患者はできる限り外出を控えるように」と注意を促している。

 

※「ほんとうは怖い電力自由化」は明日再開いたします。

2013年7月 1日 (月)

ほんとうは怖い電力自由化 その1 新自由主義政党が潰してしまった電事法改正案

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参院の0増5減法案とやらにからんで、安倍首相が問責決議を食らってしまったようです。 

二院のうちの半分から不信任をもらったわけですから、ただちに首相は総辞職して衆参同時選挙で民意を問うべきでしょう。 

理屈の上ではそうなると思うんですが、そんなことをやられたらいちばん困るのは民主党さんでしょうがね。(苦笑) 

どのみち政局にすらならないのを見越しての卒業記念写真の一枚でしたが、この問責決議によって吹っ飛んだ重要法案のひとつに、あの電力自由化に向けてまっっしぐらの電事法改正案かあったことはまことに祝着でした。 

私は福島事故直後には電力自由化はするべきだと思った時期がありましたが、その後に実際にそれをやってしまったドイツの脱原発の失敗の軌跡をみると、むしろやるべきではないと思うようになりました。

その意味で、民主党さん、みんなの党さん、維新の会さん、ありがとう!特に新自由主義政党のおふたつが共同で電力自由化法案を潰すなんて、まさにグッドジョブ!

さてドイツの脱原発政策の肝はふたつありました。ひとつは再生可能エネルギーと、もうひとつは電力自由化です。 

ドイツでは戦前の地域ごとに別れて多数あった電力会社が、ナチス政権による1939年の「エネルギー経済法」によって地域独占に統合されました。

そしてこれは日本も似たようなものですが、第2次大戦前夜に総力戦に備えて軍需工業をフル生産させるために電力会社の統合が行われました。  

この統合体制が、平和になった戦後もそのまま巨大電力会社10社による地域独占体制が続いてしまったことです。 

西ドイツは1957年に電力会社の地域独占とカルテルを守るために「競争制限禁止法」という法律を作って、以後39年間も護持し続けてきました。 

我が国の電気事業法のようなものです。性格もよく似ています。 

このドイツの地域独占が壊れたのが、1996年12月のヨーロッパ連合(EU)からのEU指令96/92号「電力単一市場に関する共通規則」でした。  

このEU指令でドイツはそれまでの巨大電力会社10社による地域独占体制を廃止せざるをえなくなりました。  

これは価格カルテルや電力会社の地域独占を排除するという電力自由化政策で、ヨーロッパの場合、我が国と違って国境を越えて乗り合うところまで進みます。

さて、2年後の1998年には、ライプチヒで電力自由市場が生まれています。これにより電力取引は自由化されるはず・・・、でしたが、そうは問屋が卸しませんでした。 

というのは、大手電力会社9社は、それまでの地域独占を取り消されたことを逆手に取って買収と合併に走ったからです。最大の理由は、外国からの安い電力の流入です。 

ドイツは電力市場解禁をしたとたん、外国の電気会社との競争にさらされることになり、バッテンフォール・ヨーロッパのように北欧の電力大国スウェーデンの電力会社に買収されるドイツの電力会社まで現れたりして、電力戦国時代の様相を呈してしまい、10電力会社体制が4社体制に整理統合されてしまいました。  

整理統合、はっきり言えばEUの趣旨とは違って電力独占体が強化されてしまったのですから、なんのこっちゃです。 

結局、2011年段階で国内発電量の83%がこの4社の寡占というていたらくで、これでは電力自由化だか電力の独占強化だか分からないということになってしまいました。

EU委員会からは名指しで批判されていますが、電力自由化が統合強化を招くこともありえるのだというのがドイツの教訓です。

我が国の場合も電力自由化をした場合、小売り市場は乱立するでしょう。ドイツでは一時小売りだけで数百社できたことすらあったほどです。 

小売りはそれぞれ安さとか、脱原発エネルギーや、生協関連の電力の共同購入なども盛んになるでしょう。 

電力小売りは設備投資が少なくて済む上に、撤退も簡単ですからね。問題は発電と送電部門がどうなるかです。

日本で考えられるのは、ドイツ型の寡占強化が進んで9社体制がより整理された上で、群小の再生可能エネルギー発電所と並立することです。

現状での主力である火力発電所は作るのに10年間程度かかる大型設備投資なので、新規の発電者が参入することはまず考えられません。

また、かつて飯田哲也氏が過剰に期待していた工場の余剰電力に頼るPPS(新電力)は伸び白かあまりありません。PPSの内実を見てみましょう。

・既存電力会社保有の発電設備・・・水力3610万kW
・                   ・・・火力1億2830万kW
・                   ・・・原子力4350万kW
・                   ・・・その他46万kW
・合計                ・・・2億850万kW

 これに対し
・PPS・37社の新電力の発電設備・・・212万kW
 

このように残念ながら、PPSは既存電力会社設備の1%程度が実態です。「いや、こんなもんじゃない自家発電設備は全体で5620万kWもあるゾ」、という人もいますが、それは「売り物」ではないのです。 

いずれにせよ、東西の電力融通は強化せねばならないわけですし、北海道、沖縄、東電を除く整理統合は進むでしょう。

皮肉な話ですが、電力自由化によって、電力会社は統合強化されてしまう可能性が高いのです。

昨年末の衆院選の時に飯田哲也氏は、「原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム」というプランを発表しました。 

このプランは、10年以内に原発ゼロとするための初めの3年間を、「原発と電力システムの大混乱期」として大改革を断行する時期としています。 

私も電力自由化をしたならば、現状の原子力が止まって、原油高値が続く限り、飯田氏とは別の意味で、「電力大混乱期」が到来すると予測します。

そしてこれは望ましい未来に向けた胎動ではなく、復興の足を引っ張り国民生活と経済に計り知れないダメージを与える性格のものなのです。

長くなりましたので、次回に続けます。

 

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■電事法廃案:電力改革秋に持ち越し 発送電分離後退懸念も
毎日新聞 2013年06月26日 21時40分(最終更新 06月26日 

 電力システム改革のための電気事業法改正案が26日、参院選を控えた与野党の国会駆け引きのあおりで廃案となった。電力改革を成長戦略の柱の一つとする安倍政権は秋の臨時国会に改正案を再提出する方針。しかし、改正案の成立先送りで、電力業界や与党の改革慎重派には巻き返しの余地が生まれた。参院選後の政治動向次第で、電力会社から送配電部門を分離する「発送電分離」など目玉の改革策が後退する懸念も指摘される。 

 「国会で審議を尽くし与野党で成立に合意しながら、最終盤で廃案になったのは極めて残念。秋の臨時国会で必ず成立させる」。茂木敏充経済産業相は26日、改正案成立に改めて意欲を示した。 

 改正案は大手電力会社による地域独占体制を崩す戦後最大の電力改革の入り口に当たる法案。改革方針はもともと2011年の東京電力福島第1原発事故などを受けて民主党政権が検討。昨年末の自民党への政権交代後、安倍政権が改革方針を引き継ぎ、電事法改正案を仕上げて、4月に国会に提出した。 

 改正案は15年をめどに全国規模で電力を融通する「広域系統運用機関」の創設が柱だが、付則には16年の電力小売りの全面自由化や、20年までの発送電分離の実現など改革全体の工程表が盛り込まれている。家庭向けも含む電力小売りの全面自由化は電力会社間の競争を促すことでサービスの選択肢を広げ、電力料金抑制につなげる狙いがある。また、発送電分離は大手電力の地域独占体制を崩すための“本丸”の改革策で、経産省は今国会で改正案を成立させ、改革の道筋を付けたい考えだった。 

 安倍政権は省エネビジネスなど新規産業創出も期待できる電力改革をアベノミクスの成長戦略の柱に位置づけており、参院選後の秋の臨時国会で改正案を成立させる方針だ。経産省は「今秋に成立すれば、15年の系統機関設立も可能で、電力改革のスケジュールに致命的な遅れは出ない」(幹部)としている。 

ただ「発送電分離」については、電力業界が反対姿勢を崩していない。さらに、自民党内でも「電力安定供給には発電と送配電を一体的に行う方が望ましい」(ベテラン議員)との慎重論が根強い。参院選後の改正案の国会再提出をめぐっては、改革を骨抜きにしようとする動きが出てくることも予想される。

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