ほんとうは怖い電力改革 その9 「国民の利益」が忘れられた電力自由化議論
やや涼しくなりました。といっても29度です(笑)。お見舞いありがとうございます。
なんとか首の周りに頂き物のコールドネッカチーフなど巻き、塩飴など舐めながらがんばっております(←なんか悲壮ですな)。
さて、脱原発が選挙争点のひとつになっているようです。原発ゼロという公約は自民党以外すべての党が言っていますが、大声で叫んでいるわりには内容空疎というか、かえって再稼働を堂々と主張する自民党のほうが新鮮なほどです(笑)。
問題は、「どうやって脱原発をするか」という政策方法論が欠落していて、「新党大地」以外その具体性がみえません。
新党大地は、ロシアからの天然ガス輸入といういかにもロシア大好きのムネオさんらしい方針で、微笑ましいですね。
確かにサハリン3が軌道に乗って、日本までパイプラインが敷設されれば、エネルギー事情は一変するのはたしかです。
価格的にも、今ロシアの天然ガスは米国のシェールガス革命の影響で、生産過剰になっていますからいいチャンスてす。つい先だっても、ドイツから足元を見られて供給単価を値切られました。
ただし、まだ貧弱な全国的パイプライン網の建設も必要ですし、ロシア領サハリンとせっかく近距離にあるのですから、海底パイプラインを通さないと不経済です。
そしてロシアにエネルギー源を強依存すること自体、政治的に大いに不安というネックがあります。
というのは、ロシアはヨーロッパ各国へパイプライン供給しているのですが、自分の気に食わない政策をしたウクライナなどには、懲罰的に2005年にパイプラインのコックを締めたりする暴挙を平気でする国です。(ただし価格が折り合わなかったことも原因にはあります。)
このためにウクライナを経由して供給されていた諸国までがとばっちりを受けて、大混乱しました。
それ以来、ロシアは政治的道具として天然ガスを使用することを辞さない国というレッテルを貼られたままです。
このようなロシアと地政学的にも歴史的にも緊張関係があった日本が、主要エネルギー源を依存するのは・・・、ちょっとお止めになったほうがいいかも。
それはさておき、他の政党はだいたい最大公約数で、[FITで再生可能エネルギー拡大→発送電分離・電力自由化→おめでとう、原発ゼロ社会到来!]というシナリオですから、私から見ればあまりにナイーブに過ぎます。
この議論のキモはたぶん「発送電分離」(アンバンドリング)なんじゃないでしょうか。発送電分離、いいかえれば電力自由化がダメな政策であったとすると、この脱原発三段論法が成り立たなくなるからです。
この電力自由化は、ちょっとTPPに似ているところがあって、「なんでやるの?」という問いに対して明確な回答がありません。
電力自由化を審議している電力システム改革専門委員会の伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)委員長などはこう述べています。
「コメを例として考えてみればよい。関西電力という農家が作ったコメを関西電力という流通チャネルを通じて購入するようなものだ。これだけの地域独占と垂直統合が残っている分野は、電力以外にはあまり残っていない。
それでも世界の電力システムが同様のものであれば、電力独特の技術的な事情があると考えることもできよう。しかし、事実はそうではない。欧州でも米国でも、発送電分離を前面に出した改革が次々に進められてきた。公共的な色彩の強い送配電分野は公共利益に合致するように規制し、発電については自由な競争と参入を促してきたのだ。」
(「電力システムを創造的に破壊する3ツの理由」http://diamond.jp/articles/-/34615
伊藤先生、失礼ですがこんな程度のことは、電力自由化を考えている者には初歩的なことで、だからなんだというのです。
伊藤委員長は、「垂直統合だから、地域独占だからいかんのだ。世界の趨勢は自由化だ」と言っているだけで、「なぜ今この電力需給が逼迫している日本でやるのだ」という問いにまったく答えていません。
ただ「外国がやっているから」では、かんじんの電力自由化・発送電分離をした「結果」、どのような利益を国民が享受できるのかがまったくわかりません。
先生と同じ構造改革派(新自由主義)の竹中平蔵氏が、「TPPは自由貿易だからやるのだ」というわけの分からないことを言っていたことをイヤでも思い出してしまいました。
これではまるで、「A=Aだ。他の先進諸国はBだ。だからうちもBにするのだ」と言っているにすきません。このような論法を同義反復とか拝外主義とかいいます。
伊藤委員長の議論には、「公共的利益」は登場しますが私のような一国民から見ればはなはだ悪い意味で学者的で、「国民の利益」という肝心の部分が欠落しているように見えます。
この「国民の利益」という観点がない制度改革論議は、そもそも無意味なんじゃないでしょうか。
このような「制度の破壊的創造」がお好きなお二人には、「構造改革」という名のイデオロギーがこびりついているのです。
イデオロギーとは「(政治的に)固定化された思想、観念で、ひとびとの社会的行動や思考を縛るもの」と定義されています。
まさに今や新自由主義や市場原理主義は、合理的思考であるより単なる「イデオロギー」と解釈したほうがいいようです。
さて、電力自由化をした諸国は数ありますが、果たして消費者、企業といった需要サイドの利益はどうだったのでしょうか。この需要サイドの利益は大きく二つで測定可能です。
ひとつは電気料金価格、そして停電率です。
まず電気料金ですが、電力自由化した諸国は、改革前の建て前だった「競争による価格低下」どころか、電力料金の値上がりをもたらしています。電力料金の値上がりについては下図をご覧ください。
(図GEARより引用)
図の中で日本は一番下のブルーの線ですが、日本の1996年の電気料金を90とした場合諸外国の電気料金は以下のようになります。
特に脱原発政策と同時期に電力自由化をやってしまったドイツがほぼ2倍にまで電気料金が値上がりしています。
・日本 ・・・ 90
・ドイツ ・・・193
・英国 ・・・181
・スペイン・・166
・米国 ・・・144
・イタリア・・・122
つまり、電力自由化をやった結果、需要者に待ち構えていたのは「競争による電気料金の値下がり」ではなく正反対の料金値上げだったのです。
かんじんの電気料金が値上がりしてしまったら、発送電分離する意味がそもそもないのではないでしょうか。
伊藤先生のように、他国の自由化の結果をろくに総括もしないで、我が国の電力インフラを「創造的破壊」することなど止めてほしいものです。
ならば、それを発送電分離を手段として脱原発を図るという諸政党の公約も、真面目に考えて言っているようにはみえません。
原発から自由になるという考え自体は間違っていないのですから、もう少し真面目に考えてほしいものです。
発送電ではなく、脱原発と電力自由化の発想を分離したほうがよくはありませんか。
■写真 真っ青な水田に白鷺がたたずんでいます。一見知らんぷりですが、実は鳥類の眼はこちらを見ているかも。
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まあ、なんということでしょう~。
テレビの討論などでさんざんモデルにされてきたドイツが、一番酷いことになってますね…。
しかも日本の場合は需給が逼迫しても「おいフランス、ちょっと分けてくれ。原発のでいいから」ってわけにもいきませんからねえ。
投稿: 山形 | 2013年7月17日 (水) 05時25分
>「なんでやるの?」という問いに対して明確な回答がありません。
市場主義が共産主義より優れているからです。これでは不足ですか??
競争を否定する社会より、個人や企業が自由に儲けるべきなのだ。
既得権を排除し、特権階級を撲滅して自由な市場を開放することで、資本主義国は経済発展してきたのです。これに例外はない。
そもそも、「新自由主義」という単語自体が既得権益者・官僚社会主義者・特権階級によるレッテル貼りなんです。
僕も含めて「自由化・規制緩和派」が言ってるのは、普通の資本主義・市場経済なのです。
いままでが共産主義だったから、市場主義にするんです。これは原理主義ではなく、穏健な資本主義改革。そもそも、競争するのは当たり前なんです。
あなたがた既得権益派(反市場・反自由・反TPP)は、「規制緩和して競争社会にするのは、新自由主義だ!!」とほざいていますが、じゃあ小売業は新自由主義だ。いや飲食業も新自由主義だ。受験も競争だから新自由主義だ!ってアホな話になりますね
いいですか、いままでが「競争のない共産主義」だったから、ぶっ潰して市場原理を導入するんですよ。自由主義経済では当たり前です。
既得権益者は、「競争で貧しくなる」とホラ吹いて回ってますが、歴史は逆です。「悪平等・専制主義・独裁主義・統制経済のほうが、貧しくなる」のです。
発送電分離反対者の知能はソ連時代で成長が止まってるんですよ! いいかげん、官僚主義経済の失敗を認めなさい!!
投稿: 革命烈士 | 2013年10月29日 (火) 09時07分
>新自由主義や市場原理主義は、合理的思考であるより単なる「イデオロギー」と
競争を導入するのが新自由主義で市場原理主義なんですか?
じゃあ先進国は全て新自由主義で市場原理主義ですね
>この「国民の利益」という観点がない制度改革論議は、そもそも無意味なんじゃないでしょうか。
「国民の利益」は自由と財産の擁護、および正常な資本主義社会に於ける公正な競争とそれによる経済発展です。
そしてこの「国民の利益」は官僚一人の主導的計画経済や、まして共産主義体制では実現しえないものです。
投稿: 革命烈士 | 2013年10月29日 (火) 09時14分
革命列士さん。
すこしおちついて下さい。
自由主義に共産主義(ソ連のことですよね)にやぶれたては20年以上前の話ですよね。
隣国の中華人民共和国や、北朝鮮、ベトナムなどは、西側の影響を吸収しながら、北朝鮮以外は急速な発展を遂げていますよ。
ようはバランスです。
かつてアメリカの忠実な犬とよばれても、平和を守ったのが我が国であり、
逆にソ連崩壊までソ連の忠実な犬と呼ばれていたのが、あの東ドイツです。
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 09時30分
まちがって、送信ボタンおしちゃったので、続きで失礼!
国策独占廃止で自由化なんて、島国で資源の乏しい日本だからこそ最大限活かされてきたことを、そこまで貶めることではないでしょう。
官僚の天下りや電力会社の高給待遇など、様々な問題はありますが、事は国の基幹エネルギーですよ。
自由化なんかしたら、それこそ貧富の差が拡大することぐらいは自明でしょう。
で、その自由化って、当然原子力の電気を選べる前提なんですよね。まさか違うんですか?
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 09時43分
>山形
>貧富の差が拡大
何が悪いのでしょうか? 悪平等なら誰も努力しません
>原子力の電気を選べる前提なんですよね
原子力は自己責任でやるならいいですよ。
今のように国家が税金で保障するなら、他の産業と比べて原子力発電を不当に優遇しているので競争原理に反します
投稿: 革命烈士 | 2013年10月29日 (火) 11時28分
革命烈士さんに同意ですね。
独占企業を解体することが、市場原理主義なら、農業や工業は全部、市場原理主義ですかw
結局、著者は国民の血税を「使う」ほうの視点しかないから、どうやって稼ぐか競争に勝つかって視点が皆無で、公共事業だの郵便局だの、血税や独占で食う連中だけが得して、税金の原資を作ってる市場経済をつぶして、国が経営できると思ってるのかよ(怒(怒
投稿: 一専務 | 2013年10月29日 (火) 13時02分
革命烈士さん。
こちらのブログでも散々指摘されてますが、ドイツのごとき無用な電気料高騰は「悪平等」以外の何物でもありません。
私など、一介の市民ですから1割やそこらの値上げなら受け入れますが、日本の屋台骨を支える中小の企業にはたまったもをじゃないでしょう。
あなたは、よほどのお金持ちですか?
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 15時34分
ドイツやスウェーデンのように電気プランを選べるなら、一握りの金持ちの自宅は自然エネルギーで、ってなりますね。
単純には。
しかし、残念ながらその人の経営する会社は少しでも安くて安定した電源を!
となるのは必然です。
競争社会ならなおのことです。
それが実際にドイツで起きている現実です。
ちゃんと前を見て話して下さい。
誰も「自家用原子炉」なんて言ってませんから。ドラえモンじゃあるまいし。
今あるインフラリソースをどう生かすか?レベルの話ですよ。
ただ「原発は即時停止」で片付くような話ではないでしょう。
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 15時49分
一専務さん。
あなたがどういうわけで、国や公務員を嫌悪しているのかは存じませんが、あなたや家族もその公共サービスを享受している立場にあります。
私の住むような田舎ほど役人天国という問題はありますが、それはまた別の問題。
郵政解体など、悪しき前例でしたが…。(小泉さんの項を読んでください)
ブログ主も私も、原発を無くすことには賛成なんですよ。それをどうやるかの話であって、自然エネルギー活用や発送電分離とは別問題だと言っているだけです。
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 16時04分
>山形
なぜ電気の値上げだけにカッカして怒る必要があるんですか
トイレットペーパーだって石油だって値上げするときは値上げされるんです。資本主義ですから。
いちいち、価格統制してたら、インセンティブが無くなって経済崩壊しますよ。
それと僕は原発自体には無関心派です。税金使わず自己責任でやるならいいんじゃないですか。税金使わないとできないなら、『原発は非効率で高額な発電』と自白しているようなもんです。市場主義者として反対です。
ぜひとも、 納 税 者 に 迷 惑 掛 け ず に 原子力発電していただいて、市場に貢献してもらいたいですね。応援してます(棒
また、資本主義社会で金持ちが儲けて何が悪いのか理解できませんね。正当な努力や才能への嫉妬はやめていただきたい!
投稿: 革命烈士 | 2013年10月29日 (火) 18時03分
革命烈士さんとやら。
原子力発電を推進しろとは私は言ってませんが、誰に対して強調して言っているんですかね棒)
金持ちへの嫉妬?どこか?
私は少々の皮肉を込めて訊ねてみただけですが。
トイレットペーパー云々。
私は10%程度の電気代の値上がりは、家庭でも我慢できると言っていますが…。
あなたは誰に何を言っているのか、自分でも分からない不自由な方のようですね。
お相手できかねます。
それから、ここは2ちゃんのような自由掲示板ではありません。他人様のブログです。
せめて、見ず知らずの相手には、さんくらい付けて呼びなさい。社会常識です。
では、さようなら。
投稿: 山形 | 2013年10月29日 (火) 19時01分
東電工作員は論破されて逃げたようですねwww
それと、著者さま、減反補助金廃止おめでとうございます。
投稿: 一専務 | 2013年10月30日 (水) 16時05分
一専務サン。ありがとうございます。
私は一貫して減反には反対しておりますし、補助金にも反対しておりました。
今回の農水省の減反廃止路線は元の石破農政の基本線に戻っただけです。その辺知って書き込まれましたか。
ただし、フランスの農地集積事業は実に40数年かけています。そのくらいの時間尺でやれとは言いたいですね。
投稿: 管理人 | 2013年10月30日 (水) 16時48分
給与が減り不安定な状況の下、公務員への風当りが強いようですが、競争社会を歓迎する方々は自らの身を競争社会に投じて勝負する気概がお有りなのでしょうか?
政府や財界の進める規制改革や制度改革は、金銭的・経済的強者にとって都合のいいルールづくりです。公務員の給与や安定性を羨んでいるようでは既に負けています。
公務員が現在持っているのかもしれない特権がなくなった後に、自動的にあなたに配分されるのでしょうか?特権や利権は競争に勝った勝者が吸い取るだけです。
公務員を羨む前に、自分の能力を活かし、公務員以上の所得を自ら生み出すようなエネルギーがなければ、規制緩和後も競争社会の餌食になるだけでしょう。
投稿: 南の島 | 2013年10月30日 (水) 21時28分
後れ馳せながら、
一専務さん。
逃亡した「革命烈士」さんとやらは東電の犬だったんですかぁ。面白いですね。(もちろん皮肉だという位はご理解くださいな)
私はHM通り山形県在住ですので、東電とは全く関係ありませんし、完全に被害者側ですが。
あなたのような冷やかしばかりで無知な方が、被災地に迷惑を振り撒いてばかりいることくらい理解出来ないかなあ。
返信なんかしなくていいですよ。それこそ迷惑ですから。
どうぞ「新自由主義」という原始的資本主義にのっとって、頑張って下さいね。
くれぐれも納税義務は忘れずに。
投稿: 山形 | 2013年11月 1日 (金) 08時57分